「ホントに……本当にパパなの?」
キャロルは先程まで使っていた力強い話し方から一転、少女の頃と同じ可愛らしい声で、流の姿をしたイザークの手を握りながら話しかける。
エルフナインも気になるが、まずイザークだと感じた流は服を着ておらず、色々見えてしまっていてその事にも気になっている。今ではエルフナインも初期のパンツにブーツにローブの格好は、
「そうだよ。といっても、僕自身は魂の状態で記憶を保持していて、流くんの体に憑かせてもらって話しているだけなんだけどね」
説明が難しいのか、イザークは困ったように頭を搔く。生前にもやっていた癖なので、キャロルはイザークに抱きつこうとするが、エルフナインが止める。
「何をする!」
イザークに話しかける時だけ、少女に戻れるのか、ラスボスキャロルの声でエルフナインを咎める。
「少しだけ待って。流さんは色々と知っているみたいですから、演じている可能性もあります」
「だが、お前だってあの人はパパだと思ったから近づいてきたんだろ!」
「うん。だからこそ、確認をしよう」
エルフナインに剥がされて、キャロルとエルフナインはイザークから少しだけ離れる。そこでやっとキャロルはイザークが憑いている体が全裸であることを認識した。だが、イザークであることに変わりはないので、特に気にしない。
「……まずは僕から質問します。キャロルがパパに出した命題の答えを聞かせてください」
キャロルはエルフナインが何を聞いているのかわかった。
昔、まだイザークが生きていた数百年前、母親が死んでしまってから少し経った時の事だ。イザークが昼食を作るといって張り切りながら、計りやビーカーなどを持ち出して、コンマグラム単位で料理をしたことがあった。
だが、調理途中で爆発をしてしまい、ほとんどの料理が美味しく出来なかった。ステーキなんて炭のようだったが、キャロルは父親が作った物だからと無理やり食べて、気持ち悪くなったのを思い出せる。
まだ焼却していないキャロルにとって、とても綺麗な想い出の一つ。
サンジェルマン達に聞いた目の前にいる風鳴流の体。ソロモンの杖を融合させ、デュランダルも融合させたキチガイの体を使って、出てきてくれたイザークは、昔に見た考えるポーズを取っている。
「ああ、そんなこともあったね。確かキャロルが口に入れた瞬間、ビクッとなって目が死んでから『苦いし臭いし美味しくないし、0点としか言いようがないし』と言った内緒にした料理のコツの事だね」
「そ……」
キャロルは肯定しそうになるが、エルフナインが手を握ったことによって、なんとか食いとどまる。これは確認のための作業なのだがら、答えてはいけない。
「あの後結構すぐに死んでしまったからな……流くんの記憶を参考にしてもいいかい?」
「出来るの?」
「ああ。彼は料理が得意なみたいだからね。その記憶と僕の料理の記憶を比較すれば答えが出せるはずだよ」
「パパ一人で考えただけじゃ多分分からないから、いいと思う。エルフナインはどうだ?」
「そうだね。参考になるものが無いと、新しい考えは浮かばないと思います」
二人が頷いたのを確認してから、意識を流の体の内側に持っていく。
『どうしよう! 全くわからないんだけど! 未だにレシピと分量通りにやったのに、何故ママみたいに作れないのかわかってないんだけど!』
イザークは研究家気質、それも錬金術にどっぷりハマっているため、何故あれで美味しくならないのか分からなかった。キャロルが作っていた料理は分量もレシピすらも毎回違っていて、たまに焦がしたりしていたのに、何だかんだ美味しかった。それがわからない。
『……えっと、……あれよ。……ゴホッ、俺が、おせちを作っている……記憶を思い出せ』
イザークに頼られた流は自分の中の何かが壊れたせいで、激痛に苛まれていて、それどころでは無かったが、なんとか言葉を絞り出した。見た目上は少し体調が悪そうにしている程度なので、イザークは察することが出来なかった。娘達の事で頭がいっぱいだったせいでもある。
『参考させてもらうよ…………ふむふむ、なるほど。流くんもレシピ通りには作っていないね。調くんは完璧に味を合わせようとしているのに、君が適当に入れた物で味が整っている……なんとなく分かったよ』
『いってら』
流はなんとかそれだけ言うと気を失った。
「わかったかな、多分だけど」
「答えをどうぞ」
「料理を作り続けて養われる勘や、味の違いを見分けて調整する舌も重要だけど、作る人に美味しく食べてほ しいという想い、相手を気遣う心、そういった部分が大切なのかな?……と思ったんだけど、どうかな?」
イザークは恐る恐るエルフナインと目を合わせる。キャロルは既に涙がぼろぼろ流れていて、正解かどうかはわかるが、この問を投げたのはエルフナインだ。
「パパは流さんのどんな記憶を見て、その命題を得たんですか?」
「日本には年の始まりに沢山の意味のある料理を食べる風習があるそうなんだよ。本当に沢山あって、流くんの周りには人が多いから準備をするのに何日も掛かっていた。とても大変そうだった。レシピもちらっと見るけど、分量も手順も全然違うんだ。そんな中ずっと思っていたのが、皆への想いだったんだよ」
イザークはバツの悪そうに頭をかいて続ける。
「僕はレシピ通り、分量通りに料理を進めようとして、食べる人への、キャロルに美味しく食べてほしいって思いを忘れちゃってたんだ。だから、駄目だったのかなって」
「……正解ですパパ。あの後からキャロルが作っていましたけど、常にパパに美味しく食べてほしいという想いでいっぱいでした」
エルフナインはイザークに飛びつきたいが、キャロルの問がまだ終わってないので、キャロルの手を強く握って耐える。
「次は私がパパに問うね。パパが、魔女狩りで火あぶりにされてしまった時、私に……ぐすっ、なんて思って、『世界を知れ』と言った、ひっぐ、の?」
キャロルは酷く震える体でイザークから、若干目線を逸らして問を投げかけた。今のキャロルは押せば倒れてしまうくらい弱々しく見える。
キャロルはイザークに対面して、エルフナインが問いを投げかけた時点で、その場を逃げ出しそうになっていた。エルフナインが手を握っていてくれるからこそ、その場から逃げずにいられた。
何故なら、あんなに優しくて皆のために頑張って、最後は火あぶりにされてしまったが、人の幸せを願っていたイザークが、世界の人を犠牲にして世界構造を解剖して知れなんて
あの時の怒りのまま何百年と費やして、世界解剖の儀を行うために準備をしてきた。怒りを忘れず、ひたすら世界の人々を憎み、パパが言ったからと常に心で言い聞かせてきた。
だが、キャロルはイザークに会えてしまい、自分のやっていることを否定されるだけならまだしも、嫌われて家族としての縁を切ると言われてしまったら、きっとキャロルは耐えられない。
イザークが嫌う争いを自ら生み、何百人以上もの人たちを犠牲にして、キャロルは今立っている。キャロルは恐怖で押しつぶされそうだった。
「そうだね。キャロルは僕がどう言ったと思ったんだい?」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
イザークはただ気軽に問いかけたつもりだったが、キャロルは耳に手を当てて、塞ぎ込んで謝り続け始めた。
「パパ!」
「いや、そんなつもりはなかったんだよ? 昔の要領で、キャロルはどう思う? と聞いてしまっただけで、攻める気なんてさらさらないよ!」
「なら、キャロルに謝ってください! まずパパがあの時、キャロルには教えてきたからあの言葉だけでわかると思って、短い言葉で伝えようとしたんですよね? 想いというのは、口にしないと分からないものなんですよ!」
エルフナインは家にいるほかの同居人たちのことを思い浮かべた。
「だって、聡明で可愛いキャロルならわかると思って」
「その結果がこれなんです! 言い訳はいいので、まずはキャロルに謝ってよパパ!」
「はい……」
もう一人の娘に、辞世の言葉を思いっきり否定された。確かに自分はもう少し言葉を伝えられたのに言わなかった。イザークも少しだけ泣きたくなるが、それよりもキャロルだ。
イザークは座って塞ぎ込んでしまったキャロルの下へ行き、キャロルを膝の上に抱き上げて頭を優しく撫でる。
「キャロル。僕は世界はもっと広い。僕は火あぶりにされてしまったけど、それ以上に優しさや楽しさに溢れているから、それを知って欲しいと思っていたんだ。僕に合わせて山奥で賢者のような生活を送らせてしまったからね」
「……でも、私は世界の仕打ちが許せなかった」
「そうだね。今思うとキャロルの立場に僕がいても、あの言葉で伝わらないと今では思うよ。ごめんね、キャロル。僕が伝わると思ったがばかりに、ずっと辛い思いをさせてしまった」
イザークは謝りながら強くキャロルを抱きしめる。そのおかげか、キャロルの体の震えは止まってくれた。
「パパは私の事が……嫌いになった? 私は何人もの人を、殺してしまった。世界を憎んで、人々を憎んで、人の為に必死に薬を作って治療したパパを、火あぶりにした人たちの子孫を根絶やしにもした」
「全面的に僕が悪いけど、それはとても悪いことだ。とりあえずお仕置きだね」
「あっ! 待って、それは!」
イザークはそう言いながら、キャロルの頭を軽くチョップした。流の記憶にはお仕置きとして、軽くチョップをセレナにしている記憶がよくあったからだ。
「んんんん!? いたいたいたいたいたい。頭があああああ!!」
抱きしめているキャロルが頭を抑えて暴れ回る。何事かと、暴れられないように強く抱きしめ直すと、イザークは
今はイザークの体ではなく、風鳴流の体であり、まだデュランダルの効果が切れていない。そのため両手はミカの圧縮カーボンロッドの強度に耐えられるほど硬い。そして流の体で軽くチョップする感覚と、イザークの元々の体でチョップする感覚では全然違う。
流の体で一般人にお仕置きチョップをするのなら、本当に力を抜ききってやらないと、ただの金属で頭をぶん殴るのと同じことになってしまう。
イザークは娘の頭を金属でぶん殴ったのと同じことをしてしまった。
「ああああ! やってしまった! キャロル大丈夫かい? えっとアルニム、アルニムがないじゃないか! 流くんは何をやっているんだ! 待て待て、あれが無くても僕は人体治療系の錬金術の達人。大丈夫。行ける」
「パパ。頭がガンガンするから叫ばないで。揺らさないで。あとパパは裸なんだから、あんまり強く抱きしめないで。あれが当たってるの」
頭がぶん殴られてジンジンするのに、耳元で叫ばれているせいで、さらにキャロルの感じる痛みを加速させる。
「……なんで流くん裸なんだい!? 感動の再会でキャロルとエルフナインに抱きしめるタイミングがあるだろうからって、あえて脱いでいたのか! なんと抜け目のない変態だ!」
もしこの場で流が元気なら、イザークをぶん殴っていただろう。
『お前が娘とゆっくり話せるように、オートスコアラーと戦った結果なのに舐めてんじゃねえ!』
なんて叫んだだろうが、意識を失っているのでそんな反応は返ってこない。
「パパ! 本当に痛そうだから騒がないで! キャロルが痛みで泣いてるから!」
「あああ、キャロル!!」
「だから、騒ぐなと言っているだろうが!」
キャロルがキレて、ボスキャロルとしての声でイザークに一喝した。そのあとイザークは痛み止めの錬金術を発動させ、エルフナインが持ってきた水タオルでキャロルは頭を冷やしている。
「ただ腫れているだけなら、錬金術は使わない方がいいからね」
「凄く痛い。パパに初めてあんな風に殴られた」
「待ってくれ! あれはお仕置きとして軽く叩いただけであって」
「布を巻いているだけなのを見ると、前の僕の一張羅を思い出してしまい、恥ずかしいですね」
イザークはエルフナインが水タオルを持ってきた時、ついでに大きめな布を持ってきたので、トーガのように巻いて着ている。
エルフナインはその姿が前の自分を思い出してしまい、顔を真っ赤にしている。
「ゴハッ!」
「「パパ!」」
ワイワイやっていると、イザークが憑依している流の体が吐血をした。それによって、イザークはなんとなくお別れの時間が近づいていることを理解する。自分が少しずつ消えかかっていて、それに引っ張られるように、流の体も天に帰ろうとしている。
「すまない。もっとキャロルやエルフナインと話したいけど、僕にはあまり時間が残されていないみたいなんだ」
「もしかしてオートスコアラーとの戦いで、傷ついたから!?」
「違うんだよキャロル。まずこの世界には霊媒師はもう居ない。霊と人間が会話をするには統一言語が必要なんだ。だけど、流くんと僕はその関係にある」
「……もしかしてバラルの呪詛?」
エルフナインは思い当たった呪いを口にするが、イザークは首を横に振る。
「この体、流くんは
奏もセレナもそれを直感しているからこそ、憑依して翼やマリアと話すことだけは絶対にしない。置き手紙なども禁止されているからしない。意思疎通哦駄目だからだ。
だが、イザークはその禁を破ってでも、娘の蛮行を止めるために動いた。
「きっと流くんにも何かしらのペナルティが掛かってしまったはずなんだ。そして僕にも」
「そのペナルティって何?」
キャロルは魂だけの存在が払える代償など、一つしかないとわかっているからこそ、イザークを強く抱きしめて、涙が流れる顔を見せないようにする。それはエルフナインも一緒だ。
「魂の消失だね。対話をしなければ僕はキャロルの行く末を見守っていけたかもしれない。でも、僕はキャロルが間違ってしまっているのを、なんとしてでも止めたかった」
「やっぱり私のせいで」
キャロルは自分のせいで、イザークが本当の消失をしなければならなくなったことを、責めようとしたが、イザークは叫んでそれを止める。
「それだけは違う! いいかい、親っていうのは、子供が間違った道に進んだら、殴ってでも止めて、諭して導いてあげなければいけない。本来なら、僕はその役目を果たせないはずだった。でも、一人の娘の道を正し、もう一人の娘を抱きしめてあげて、こうやって話せている。この対価が魂の消失だけで済むなら安いものだよ。錬金術とは等価交換だよね? これは正当な対価なんだ」
イザークは体に力が入らなくなってきたのを自覚する。早く消えなければ、この体も一緒に消されてしまう。
イザークが焦っている事に二人の娘も気が付き、涙を堪えてイザークを見る。
「僕の可愛い娘キャロル・マールス・ディーンハイム。もう一人の可愛い娘エルフナイン・マールス・ディーンハイム。君達二人にはこれから、辛いことや悲しいこと、嬉しいことや楽しいこと。沢山の事が訪れるだろう。もし辛いことや悲しいことがあったら、この体の持ち主に頼るといい。彼には返せないほどの恩を彼に与えるつもりだから、絶対に君たちを助けてくれる。キャロル、流くんの代わりに今一度聞くよ。世界の解剖はまだやりたいかい?」
「パパはこの世界が好き?」
キャロルは聞こうと思っていたことを聞く。その問にイザークは笑顔で答える。
「ああ、この世界もこの世界の人々もみんな大好きだ。いつか世界の人々と分かり合いたいと思っているくらいにね」
「……わかったよパパ。世界解剖はもう止める。パパが大好きな世界を壊したくないもの」
「いい子だ」
イザークは痛くならない程度に、強くキャロルの頭を撫でる。腫れているところはうまく避けている。キャロルは涙が零れながらも、精一杯の笑顔をイザークに向ける。
「エルフナイン。君の姉、キャロルを止めようとしてくれてありがとう。君のおかげで、君がいたからこそ、キャロルは無理をする前に止めることが出来た。生まれは少し特殊だけど、しっかり同じ姓を名乗ってほしいな」
「はい! 僕の名前はエルフナイン・マールス・ディーンハイムです!」
エルフナインにもイザークは想いを込めて頭を撫でる。エルフナインもボロボロと涙を流すが、今までで一番良い笑顔を向けた。
「後処理は全て流くんに任せていい……あっ! キャロル、錬金術に関することでお願いがあるんだけど」
「なに? 今ではパパよりも錬金術の腕前があるんだから、なんだって聞いてあげるわ!」
キャロルは小さい体で精一杯胸を張ってドヤ顔をする。涙で顔がぐちゃぐちゃだが、それでも自信ありげに笑う。
「エルフナインを……の前に、エルフナインは男の子と女の子どっちがいい?」
イザークはお別れの挨拶をする前に、確認のため流から得たアニメ知識を一通り見直した。そしたらエルフナインに性別がないことを思い出した。せっかく人として生きていくのに、それでは駄目だ。
「えっと……どういうことですか?」
「僕はママと結婚できてとても良かったと思っている。やっぱり人として生きていくなら、恋をしないとね。恋をして、好きな人ができて、その人の子供が欲しい、もしくは産ませたいと思っても性別がないと困ってしまうから……生々しい話だったね」
キャロルもエルフナインも顔を真っ赤にしているが、愛とは大事なものなので、イザークはエルフナインに選ばせる。
「エルフナインも性別はあった方がいい。キャロルなら、今のエルフナインの記憶のまま、性別のある体に出来るはずだから、やってもらった方がいい……これは死ぬ前の僕のお願いだ」
エルフナインはイザークを見たあと、キャロルと目を合わせる。エルフナインは頭の中で色々考えてた。
「僕はキャロルの妹になりたいです!」
「そうか! キャロル、お願いできるかい?」
「もちろんだよパパ! まだ最後のバックアップ個体がある。同じ素体だから、エルフナインでも馴染むはずだし、それを使おう。もう新しい体に転生する必要も無いからね」
イザークは流から貰った記憶とは違って、とても仲が良さそうな二人を見て、笑みを浮かべた。二人をもう一度だけ強く抱きしめて、頬にキスをしてから離れる。
「僕はもう逝く。このままではこの体も一緒に連れてかれてしまうからね。それは流石にダメだ……二人とも愛している、ありがとう。二人の幸せを天で祈っているよ」
今度こそ涙を流さないように気張る二人が、必死に笑顔を作っているのをみたあと、イザークは目を閉じて内側に入る。
そこには眠っている流がいたので揺り起こす。流はやっと痛みが引いたようで、起き上がることが出来た。何かを失った虚無感が拭えないが。
『……おはよう、話は終わったのか?』
『ああ。もうアニメのような結末にはならないよ。まさか死んだ後に娘が増えるとは思わなかった』
『それはよかったな』
『エルフナインは女の子になるようだからその手続きと、出来れば娘が手荒な真似をされないように頼む』
『ああ。あんたの娘達は
イザークが感じている流の異質さがまた表に出てきたので、それを指摘しておく。お詫びの一つ目だ。
『君のその絶対に守るという言葉は、本当に君の言葉なのかい?
『は? 俺の意思……じゃないのか?』
『しっかり考えておいてくれ。これがお礼の一つ目。二つ目は君の体で錬金術を使っておいたから、使用する感覚はもう分かるはずだ。奏くん達が暮らしている部屋に、僕が得意としている治癒系の錬金術に関する教本を作っておいたから、それを読めば錬金術とはなんかのかがわかると思うよ。死者蘇生を完成させるつもりなんだろう? 出来れば止めたいけど、僕もあまり強く言えないからね』
イザークの統一言語から、自分も昔は求めていたというような思いが伝わってきた。
『奥さんを蘇らせようと?』
『若気の至りだよ。そして最後に君を縛っている神様の呪いがどんなモノかを、君自身が体験してほしい。僕は君に掛けられた呪いによって消滅する。死者蘇生を行う時にこの呪いがあれば、きっと妨害されてしまうから、対策が立てられるように覚えておくといい』
『助かる』
流が今欲している、錬金術の知識、それも人体に関する知識。それに自分について。そして自分にかかっている呪いについて。知りたい全てをイザークは流に教え込むつもりだ。多大な恩になってしまうなと流は苦笑する。
イザークが消える前に、欠片から奏とセレナを呼んでくる。特に呪いとは力が関係することなので、セレナには特にいてもらいたい。呼んでしばらくすると二人はやってきた。
『おっさん……逝くのか』
『ああ。禁忌を犯してしまったからね。でも、娘を更正させて、抱きしめて、言葉を交わせたよ』
『そりゃよかったな』
イザークと奏は握手をする。どうやら欠片の中で話していた時に意気投合したようだ。流は少しだけ
『イザークさんが消える一瞬を物にして見せます』
『頼んだよセレナくん』
イザークはセレナに挨拶を交わした。奏とは違って、ほとんど会話をしていないので、簡素な挨拶になった。
『流くん、改めてありがとう。娘をよろしく頼む』
『ああ。また、いつか』
『……あはは、そうだね。また、いつか』
イザークは流の体から出て、自らを消そうとしている力への抵抗をやめた。すると、ゆっくりとイザークは分解されるように空中に解けていった。
セレナは確かに何かしらの力が、かかっていたのを認識できた。
**********
流は体に戻り、目を開く。エルフナインとキャロルが流に抱きついていた……イザークに抱きついていたのだろう。
「イザークは今、逝ったよ」
「パパは最後に笑ってた?」
「すげえ笑顔だった」
「そうですか。キャロル」
「ああ、歌おう」
二人はイザークの妻、二人の母親が死んだ時に捧げられた鎮魂歌を、二人で泣きながら天に向けて歌い続けた。それに合わせるように奏とセレナも一緒になって歌っていた。
これにて魔法少女事変は解決しましたが、同時並行でいくつかの事件が起きているので、まだGXは終われません。