戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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若干ギャグが入ってます。メタ的な。


#57『サボりの露見』

 キャロル達に会いに行く際に、乗ってきた車に皆を乗せた時、キャロルは目が覚めた。道中に、日本の裏の権力図を説明していると、潜水艦までついた。

 

 流がS.O.N.G.の本部として使われている潜水艦に戻ってくると、クリスや調や切歌が出迎えてくれた。流がエルフナインをお姫様抱っこしている姿に、一瞬固まるがいつもの事なのでスルーしようとしたが。

 

「なんでキャロルと……流は説得しに行ったんだったか」

 

 キャロルとオートスコアラーが居たため、三人の装者はシンフォギアにいつでも変身できるように身構えた。しかしクリスの一言で動きが止まった。意図を理解したのと、了子に改良をお願いしているため変身できない、二つの意味でクリスは動きが止まった。

 クリスは流がキャロルを連れてきたのは、マリア達と同じことをしたのだとわかる。そして流の動きが少しだけおかしいにも気がついた。

 

「その前にただいま。これである程度体を休められるよ」

 

「おかえり」

 

「おかえりなさいデース! まさかキャロルの説得は成功したのデスか?」

 

「ああ。もうキャロルは敵じゃないし……そうだな、俺の娘だ」

 

「はぁ!?」

 

「……近親そ」

 

「なんデスと!? って調はストップデスよ!」

 

 調と切歌は驚きの余りペンダントを落としそうになるが、互いに空中でキャッチしていた。そのあと三人に続くように、他の装者や弦十郎が潜水艦から出てきた。

 弦十郎についてきた翼にマリア、響と未来はシンフォギアを纏っている。

 

「な! 俺は別にお前の、って危な!」

 

「俺じゃなくて?」

 

 流はキャロルの口調を直すために、キャロルの目の前で手刀を振り落としていた。その行為と弦十郎の到着が同時だったため、弦十郎がキレていることに気が付かなかった。

 

 

 弦十郎は流がヤントラ・サルヴァスパを盗み出し、流がキャロル戦で妨害し、流が聖遺物を暴走させて国防の要であるシンフォギアを攻撃し、流がノイズのような位相差を操っている事に対する隠蔽や謝罪、その他様々な事でここ最近は動き続けていた。

 

 弦十郎はスーツをきっちり着て、お上方に頭を下げる仕事をずっとしていたせいでストレスが溜まっている。了子はそれをあえて放置して、自分にストレス発散してくれないかな、など考えているが当然なかった。

 同棲まで漕ぎ着けて、同じベッドで寝ているのに、最後の最後で了子はチキンと化していた。いや、乙女に戻ってしまったと表記したほうがいいだろう。

 

「わ、私は別にパパに……じゃなくて! 流に父親になって欲しいわけじゃない!」

 

「でも俺をパパっていうよね」

 

「それは流がパパだったからで……ああ、もう!」

 

「やっぱり俺がパパじゃないか」

 

 そんなやり取りを近くでしていれば、抱き抱えられているエルフナインも目が覚める。キャロルが殺意マシマシで殺しに来ていたので、流は少しだけキャロルを虐めていた。

 

「……おはよう、ございます。パパ」

 

「おはようエルフナイン」

 

エルフナインは起き抜けだったため、流にイザークを見てしまい、そのままパパ呼びしてしまった。

 

「馬鹿野郎! こいつは流だから、お前()パパって呼ぶな!」

 

「……え? あ! なんで僕はこんな風に持たれているんですか! 離してください!」

 

 一人前の羞恥心を得たエルフナインには、人前でお姫様抱っこなど恥ずかしいこと以外の何ものでもない。無理やり暴れて流から飛び降りた。

 そして装者達は弦十郎も含めて唖然としていた。それもしょうがないだろう。

 

「俺が世界を壊すと言っている!」

 

(なり)を理由に本気を出せなかったなどと、言い訳をさせる訳にはいかないな」

 

「これくらいあれば不足はなかろう」

 

「たまを隠しているなら見せてみろ。俺はお前らの全ての希望をぶち砕いてやる!」

 

 皆が知っているキャロルはこんな事を言う人であり、流をパパと言う人ではなかった。

 

「……興が冷めた。今回は俺にも利があったから協力してやったが、次はお前ら、奇跡を殺す!」

 

 一番最近会ったときだって、次回こそは殺すと豪語していた。それなのにあんな残念な感じである。しかも、オートスコアラー達は皆キャロルの事を暖かい目で見ている。

 

 

 そんな中、マリアもクリスと同様理解した。

 

(あっ、この流れは知っているわ)

 

 自分と同じようにぶん殴られて、問題の解決もしくは問題自体を無くされた。そして何やかんやして絆されたのだろうとわかった。

 

 弦十郎もマリアと同じようにだいたい察した。了子の時も、マリアの時も、今回のキャロルの問題も全て解決してしまったのだろうと理解する。

 

 

 弦十郎と流以外の人は忘れていると思うが、流の弦十郎による鍛錬は地獄と表現できるほど厳しいものだ。その鍛錬には、弦十郎による強襲をどうやって凌ぐのかという鍛錬もある。

 

 今の弦十郎はストレスと、それを与えた元凶が分からなかった問題を全解決してしまった事への混乱で、色んな事がどうでも良くなっていた。

 

(そうだ、久しぶりに息子とスパーリングをしよう)

 

 日々の了子からのアクションに()()()()()()、息子の暴挙に対する償いをし、色々疲れてしまっていた弦十郎は体を動かすことにした。

 

「イナズマを喰らえ!」

 

『おっさんガチだ!』

 

 弦十郎の前にいた装者達やキャロルとエルフナインを綺麗に避けて、弦十郎は高速で流の前まで移動した。移動経路の地面がめくれているが、今の弦十郎はそんな事を気にしない。

 

 流は弦十郎の声と顔を見て、奏の声でやっと理解した。やばい、今回はやり過ぎたと。

 最近よく利用している位相操作で避けようとしたが、弦十郎ならば多少の位相差ならば関係なく殴ってくる気がして、右腕で防御することにした。デュランダルな右腕ならば防御できるだろうと考え、左腕で反撃しようと試みる。

 

「ふんっ!」

 

 だが、流は忘れていた。

 弦十郎の拳によってネフシュタンの鎧がどうなったのかを。デュランダルの方が硬度はあるが、弦十郎にそのような事が関係ないことを。

 

 バキっ

 

 右腕から嫌な音がしたが、それを無視して弦十郎を左拳で打ち抜く。それは弦十郎の片腕で弾かれるが、その衝撃を使って、デュランダルに変わった左足で弦十郎の頭を蹴り飛ばした。

 

 弦十郎はその蹴りの勢いに身を任せ、弦十郎もまた流の頭に蹴りを放ち、流は大きく吹き飛ばされた。

 

「頭、痛ぇぇえええええ!」

 

「デュランダルに変化した腕や足はなかなかに硬かったが、その程度なら何とかなる!」

 

 デュランダルな足で蹴られたのに、弦十郎は頭をさする程度で立ち上がった。逆に弦十郎に右腕を打ち抜かれ、頭を蹴られた流は、地面で頭を抑えて蹲っていた。

 

「……ふーむ、流は弱くなったな」

 

『『「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」』』

 

「父さんは強くなり過ぎ! 仕事の合間にどんな鍛え方したんだよ!」

 

 ここにいる弦十郎と流、奏とセレナ以外の人、それにS.O.N.G.内でやり過ぎないか監視していた人達が同じ反応をした。奏やセレナは流が基礎鍛錬をサボっていたことを知っている。

 

 驚いた人たちの中でも、特にオートスコアラーとキャロルは若干涙目になっていた。自分の作った至高のオートスコアラーとその本人達は、流にボコボコにされたのに、その流を一瞬の内に叩き潰した男が目の前にいるのだ。怖くて堪らないだろう。

 しかも自分達はS.O.N.G.に攻撃をした。弦十郎はいきなり流をぶちのめしたので、自分達を殺すために弦十郎が動き出したのではないか? と思った。

 

 そしてキャロルはアルカノイズがいたからこそ、この赤髪の男が出てこなかったことも理解した。過去の自分がアルカノイズを開発した事に本当に感謝した。そして殺される覚悟もした。

 

「デュランダルの硬度と威力は確かに脅威だ。だが、右腕と左腕の重量比が変わり、足も同じように重さが変わって、体幹が少しブレているな」

 

「……た、確かにまだブレに武術の動きを適応させてないし、体幹を鍛え直してない。骨もデュランダルになったっぽいから、上手くいってない」

 

「体の比率が変わればそれだけで俺達は強くも弱くもなる。響くんのように俺達はシンフォギアを纏って、無理やりその差をなくせるわけではない!」

 

 弦十郎はシンフォギアを纏っている響を指さして、流に説教を続ける。シンフォギアは装者に合わせて様々な変化をしてくれる。だからこそ、多少の体の変化があってもシンフォギア装者ならいつも通り戦える。

 だが、流は聖遺物と融合しているが、自分の体で戦う人だ。基礎鍛錬を疎かにした結果、弦十郎に簡単に負けてしまった。弦十郎は力押しできるなら、装者達でも勝てることになってしまう。

 

「はい」

 

「お前が無理をして、それでも救いたかったからこそ、その姿になった事はわかる。だが、それで弱くなってどうする! それを生かして更に強くならねば意味が無いだろう! これで戦いが終わりな訳では無いぞ!」

 

「はい!」

 

「キャロルくん達と来たということは、お前は彼女達の問題を解決させたのか?」

 

 キャロルは自分の名前が呼ばれたことにより、処刑の時間が来たと勘違いするが、そういうことでは無かったようだ。

 オートスコアラーもこの赤髪の男とは戦いたくないと思っていたので、内心ホッとしていた。ミカの圧縮カーボンロッドをぶち抜ける流の右腕が、弦十郎の拳で()()()()()()()()()()()()()。そんな相手の拳を受けたら、至高のオートスコアラーでも壊れてしまう。

 

「した」

 

「ならば良し! 最近のお前の暴挙に対する補填は無駄ではなかったということだな……よし、明日から数日、俺と()()()()()()をするぞ! 覚悟しておけ!」

 

 弦十郎は仕事が忙しいが、風鳴に言いつけられている風鳴流の育成も仕事に含まれているので、流関係ならうまく休みを取ることも出来る。

 

「……マジ?」

 

「聖遺物の力で腑抜けたその根性、俺がもう一度叩き直してやる! 了子くんはどこかで見ているのだろう!」

 

『はい、は〜い。やっぱり流は弦十郎くんにまだ勝てないのね』

 

 了子は弦十郎がキレている事を知っていたので、一応自分の研究室から監視していた。

 

「了子くんも家族なのだから、明日からの山篭りは付いてくるよな?」

 

『……マジ?』

 

「家族なら山にキャンプに行くくらい普通だろう?」

 

『あの、弦十郎くんや流の動きにはついていけないんですけど。あとあれは一般家庭で考えるならただの虐待よ?』

 

 了子は冷や汗が止まらなかった。家族扱いしてくれるのは凄く嬉しいのだが、それだけは勘弁にして欲しい。

 

 弦十郎の本気の山篭りというのは、映画に数多ある山篭りの修行のきつい所を凝縮し、効率的に体を鍛えるために作り上げられたものだ。流がキツすぎて、その記憶を抹消させる程度にはぶっ壊れなカリキュラムであり、()()()()()()()()()()()()()()()()()である了子には数時間すら耐えられないものになっている。

 流の目が死んでいるのがいい証拠だろう。

 

「気合があれば何とかなる……そうだな、もし最後まで付いてこれたら、了子の願いを叶えてやろう」

 

『行きます!』

 

 弦十郎は何だかんだ了子を受け入れる気でいた。キャロルの問題が終わり、丁度いいだろうと思ったが、もちろん了子が気合を入れないで途中でリタイアしたらこの話は無しだ。

 弦十郎が了子と結ばれるには障害が多すぎるので、それを考えればこのくらいついてきて貰わなければ困る。

 

「あとは……キャロルくんは流の娘だったかな? 君も来るかい?」

 

「俺じゃなくて、私の妹のエルフナインは体があまり丈夫ではないから行けない。その妹を一人にするのは可哀想だから、私は今回は遠慮させてもらう!」

 

「そうか。なら仕方ないな」

 

「……僕は皆さんがいるので大丈夫だから、キャロルお姉ちゃんは行ってもいいんだよ? 僕は友里さん達と居ますから」

 

 キャロルは流が山篭りが確定してから目が死んだことに気がついていた。これはやばい事だと理解し、何とか拒否できたが、まさかのエルフナインの裏切りにあった。

 

 エルフナインは意識的に仕返しをしようとした訳では無い。ただ、エルフナインの性格はキャロルの幼き日の記憶から作り上げられている。そのキャロルの潜在意識の中には、ガリィのような要素もあり、それが少しだけ表に出てしまった……無意識の仕返しだった。

 

「ふむ、ならばキャロルくんも来れるな」

 

「エルフナイン!!」

 

 キャロルが悲しみのあまり叫んだが、エルフナインは既に潜水艦の中に逃げていた。

 

「マスター、私はしばし休みを貰いたく。今回は派手に動きすぎたので、休息が必要です」

 

「ガリィちゃんはミカとのバトルに勝たないといけないので、その場所にはいけませんのであしからず」

 

「なんか分からないけど、ガリィとレースの続きをするから行けないゾ!」

 

「待て! レイアもガリィもミカも逃げることは許さん!」

 

 キャロルが三人を止めようとしたが、その三人はテレポートジェムを砕いた。新しく設定したバビロニアの宝物庫の中にある、チフォージュ・シャトーの中にテレポートで逃げた。

 

「ファ、ファラは一緒に行ってくれるよな? 《#53『プロジェクトD』》でどんな結末でも一緒に居てくれると言ったよな?」

 

「マスター、電波(メタ)をキャッチしないでください。だ、大丈夫です。私が……その、付いていますから」

 

「ファラ!」

 

 エルフナインにオートスコアラー3体に見捨てられ、少女に戻ってしまっているが故に、泣きそうなキャロルはファラにすがり付く。

 ファラも他と同じように逃げようとしたが、キャロルが若干壊れかけているため、そんな選択が取れず、ついていくことを決意した。

 

 

「おっさん、それは家族じゃないと行っちゃ行けないのか?」

 

 山篭りというバイオハザードの話が終わろうとしていたのに、クリスがそれをひっくり返した。

 

「クリスくんも行きたいってことでいいか?」

 

「ああ! 流の強さの秘訣が分かるんだろ? あたしは弱いからもっと強くならねえと」

 

「なら私も強くなりたい」

 

「私だって負けてられないデース!」

 

「シンフォギア装者で修行といえば私! クリスちゃん達が行くなら私も!」

 

「待て、お前達! 考え直した方がいい」

 

 装者達もこぞって手を挙げ出すが翼は遠慮したい。自分よりも重い重りを付けて、呼吸を制限し、視界を制限。その状態で映画の修行をさせられるのだ。翼は幼い頃強くなるために一度だけ行って本当に後悔した。それ以上のやばいことをやるかも知らない。

 

「……よしそんなに希望者がいるから、装者一同もみんなで行こう!」

 

 修行好きやユニゾンペアやヤンデレ少女は喜び勇んでいるが、防人少女は手を地面についてしまった。そんな彼女に『たやマ(ただのやさしいマリア)』は質問した。

 

「ああああ……」

 

「そんなに大変なの?」

 

「初めて流がこの山篭りをやった時は、泣きながら許しを請い、心を閉ざして動いていたそうだ。その時の記憶は流にはない。奏が癒していなければ、きっと性格が凄く歪んでいただろう」

 

「……今も歪んでないかしら?」

 

 シンフォギア装者達のキャロルとの初の共同作業は、弦十郎考案の山篭りに決定した。S.O.N.G.の奏の死亡事件以前からいた二課メンバーは、巻き込まれないために指令室から出ていった。


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