戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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組み合わせはXDのオープニングでなんとなく決めた。


#59『それぞれの選択』

「……()()()これで終わりとする。流は後日メニューを渡すから、それをやっておくように」

 

 ()()()()体を動かして、弦十郎の頭がスッキリした。流れに任せて参加させたが、昔から鍛えていた翼ならまだしも、他の装者は無理をさせ過ぎた事にやっと気がついた。

 弦十郎と同じような戦い方をする流は、無茶や無理をしているが、出撃できる事が羨ましくて、ノリで装者達を()()だけ虐めすぎたことを反省した。

 もちろん流はもっと身体を虐めるべきだという考えは変わらない。そして了子が完走したので、弦十郎も腹を括ることにした。これからが大変なのだが。

 

「……うっ、わかった」

 

 聖遺物が完全停止するのが、これほどまで辛いとは流は思わなかった。だが、これは克服しないといけない事だ。数回やった程度では慣れる気がしないが。

 

「椅子を広げておきましたので、皆さん……自力では椅子まで来れませんよね。パパ……流さんお願いします」

 

「オーケー、あとパパでもいいよ」

 

「僕が良くないです!」

 

 エルフナインは頬をふくらませて、車の中に入っていった。リクライニングチェアの準備が終わったから、次は飲み物を持ってきているようだ。

 流はエルフナインに言われた通り、緒川と了子以外の死んでいるような人達を運んだ。了子は途中で戻ってきた弦十郎が運んでいた。了子はそれだけで幸せそうな顔をしている。

 

「緒川父さん」

 

「どうしました?」

 

 先程まで膝をついていたのに、今は平然と流の真横に緒川は現れた。緒川も流も弦十郎もそうだが、どういう鍛え方をすれば、あんな人間になるのかとキャロルは頭の中で考えて、取っかかりすら掴めなかった。

 

「弦十郎父さんとママが結婚するのって、そんなに面倒くさいの?」

 

「その事ですか。現在本筋の風鳴は翼さん、弦十郎さん、八紘さん、訃堂さんの四人がいます」

 

「本筋ってそれしか居ないのか」

 

「流くんは風鳴ですけど、あまり他の方とは交流がありませんからね。訃堂さんが認めた風鳴でなければ、分家扱いになりますから。それで八紘さんは……流くんも分かっていますよね?」

 

 風鳴八紘は翼の義理の父親だが、翼を本当の娘のように溺愛している。翼は訃堂が風鳴の血を濃くするために、八紘の奥さんを孕ませた子だ。やはり色々複雑なのだろう。

 

「わかってる」

 

「ならいいです。八紘さんは一応既婚者。そして翼さんの婚約者は既に決まっています。その人が翼さんに手を出す気がなくても、彼以上の条件の方は現れないでしょう」

 

「は?」

 

「大丈夫ですよ。弦十郎さんも了子さんも翼さんも知りませんから。流くんが何故か鎌倉によく行っていたので、尾行して勝手に知っただけですし」

 

「あっ、そうですよね」

 

 いくら流がある程度人を撒いてから、鎌倉に行っていたとしても、忍術の本家である緒川慎次を撒けるわけがない。緒川にも流は未だに、忍術だけだと勝てない。

 

「ですので、翼さんも枠が空いていません。訃堂さんの身辺情報は詳しく知りませんが、奥さんがいるはずです。内縁の妻もいると思いますね」

 

「……あー、なるほど。政略をする駒として残しておきたいのね」

 

「そうでしょうね。弦十郎さんはまず強いですし、どんな方を付けたとしても、日本を裏切ることは無い人ですから、いくらフィーネでも……いけそうじゃないですか?」

 

 緒川は言葉を改めた。そう、相手は櫻井了子だが、その中身はフィーネなのだ。鎌倉はその事を知らないはずだが、気がついていてもおかしくない。

 もし結婚がうまく出来なくても、フィーネである事を利用すれば容易なはずだ。それだけフィーネという存在の価値は大きい。

 

「なんで父さんは大変とか困難なんて言ってんだろうね」

 

「多分ですけど、フィーネとしてではなく、了子さんとして結婚がしたいから、それを隠してやり抜く気なのでしょう」

 

「なるほどね」

 

 フィーネが了子として生きていくために魂を歪めた。なら、弦十郎もフィーネという名前を使わずに、何とか櫻井了子を妻にしたいのだろう。合理的ではないが、ここにいる人は皆そんな考えは好きだ。

 

「流……パパ。約束のモノの準備が出来たらしいから、一足先に帰ろう」

 

 流と緒川が話していると、最高の素体で身体能力はあるのに、装者達と同じくらいの体力しかなかったキャロルがこちらに歩いてきた。そして何故か拒絶していたパパ呼びをしている。

 装者達はまだ動けていないから、何だかんだキャロルは凄い体を使っているのだろう。ファラの助けもあったし。

 

「ここからは僕が引き継ぎますので、キャロルのお願いを聞いてあげてください」

 

「これは俺のお願いじゃない! パパがお願いしてきたことだ!」

 

「俺って言っちゃってるよ?」

 

「もういいだろ! 流、宝物庫に行くぞ!」

 

 エルフナインに手駒にされて、キャロルにキー! と怒り出すが、すぐに怒りを収めて、戦略的撤退を選ぶようだ。エルフナインが未来と仲良くしているところを多くの人が見ているので、これはキャロルが勝つ日は遠いなと皆が思っている。

 

 流は藤尭達や他の人に聞いても、キャロルについて行ってあげてと言われた。クリス達に一声かけてから、その場でバビロニアの宝物庫のゲートを開けて、流とキャロルとファラは中に入っていった。

 

 

 **********

 

 

 へばっていた最後の一人の調が起き上がったので、みんなは車の中に移動した。鍛錬が辛かったことや自然が凄かったこと、昼飯の熊肉が美味しかったことなどを話してながら入ると、大人組とエルフナインが真面目な顔をして座っていた。

 装者達は空気を読んで黙りこみ、空いている席に座った。

 

「疲れているところにごめんなさいね」

 

「なんか辛気臭ぇ雰囲気を出しているけど、なんかあったのか?」

 

「ある事が了子さんによって判明したのよ」

 

 友里がクリスの言葉に反応しながらエルフナインに手伝ってもらい、お茶を配り終わると了子は話を始めた。

 

「私はあなた達に上司として命令を下すわ。だけど、私がこんな事を言う資格はないことはわかっているの。クリスには酷い事をしたわ。翼ちゃんの片翼も奪った。F.I.S.の子達にも大変な事をしたし、響ちゃんも私がノイズを召喚しなければ、戦いを知らないで生活ができたはずよ。響ちゃんの安全のために、未来ちゃんが共に戦うこともしなくて済んだ。でも、あなた達にある事実とある命令を下すわ」

 

「一々こねくり回さねえで、率直に言ってくれねえか? あんまり寄り道をすると、あたし達はともかくそこの馬鹿とかは混乱しちまう」

 

 了子は言いづらいことなのか、確信につくことを言わないで謝り出す。みんなは疲れているので休みたいが、大人達が真剣なので聞いている。そこにクリスが催促をする……眠そうにしている響を矢面に立たせて。

 

「……え? もしかして今のって私?」

 

「それ以外に誰がいるんだよ」

 

「切歌ちゃんとか?」

 

「わ、私は響さんほど成績悪くないデスよ!」

 

「苦手科目ならどっちもどっち」

 

「調ぇ〜」

 

「あなた達、話が逸れているわよ。了子さん、クリスが言った通り率直にお願いします」

 

 マリアの言葉に了子は頷く。

 

「あなた達にはもっと強くなってもらうわ。流がこれ以上大切な物を失わないように」

 

 場を沈黙が支配する。了子の言葉に特に反応したのは翼とクリスだった。流の大切なモノといえば天羽奏だ。だが、奏の時のように装者も流が救おうとしたであろうキャロルも傷ついてはいない。

 クリスはとても嫌な予感がした。クリス自身も流の何かがなくなった気がしていたからだ。

 

「流の失くしたものって?」

 

「流は魂を喪失したわ。多分キャロルちゃんを助けるために」

 

「そんなこと有り得ないデスよ! だって、魂が無くなったらきっと、その人は死んでしまうデスよ!」

 

 調の言葉に答えるように了子が答えた。それに反射して反論したのが切歌だった。

 

「切歌ちゃんのイガリマの絶唱は、相手の魂を問答無用で消し去る効果があったわね。だから、そういう事を理屈抜きで理解しているのかしら」

 

 シンフォギアの戦闘能力を左右するのは、装者の体力や運動神経ではなく、精神性によるところが大きい。しかし装者達が日々訓練しているのは、()()を持ち精神を安定させるために行っている。

 響などは映画の動きを取り入れるなどの直感以外での動きを使っているので、ああいった響のような多彩な武術を使うには鍛錬が必要。

 逆にいうと、シンフォギアが纏えれば鎌を使ったことがなくても、銃を使ったことがなくてもある程度戦える。そして使えばシンフォギアについて何となく理解できるようになるので、切歌は魂がなければ人は死ぬという事を知っていた。

 

「そうデス! だから、有り得ないのデス!」

 

「ですが、流さんはキャロルを説得する時に、やってはいけない事を行いました。これを口にすると、流さんに悪影響を及ぼす可能性がありますので、控えさせてください」

 

「流は魂の代わりになる何かを持っているのか、それとも流の体が特殊なのか、流の精神が特殊なのかは分からないけど、母親としてあの子に負荷をかけたくないの」

 

 切歌の言葉に更にエルフナインが反論した。死者を憑依させて、その人の意思を生きている人に伝える。今の時代ではありえない事であり、だからこそキャロルを説得することが出来た。

 了子は母親として、今まで虐げてきた被害者達に頭をつけてお願いする。

 

「今回フロンティアを襲ってきた人達を倒す、もしくは説得する時に流は確実に何かを支払って、さらに強くなろうとするわ。だから、あなた達が彼がそんな事をしなくても、事件を解決できるくらいに強くなってほしいの」

 

「俺達は流の行為を止めることが出来ない。流の行いは何だかんだ良い方向へ導いているし、俺は俺のしがらみが邪魔をして、流を止めることが出来ないんだ」

 

 弦十郎はルナアタック後から、鎌倉より、流の行動を制限するなと言われている。訃堂からも流は遊撃こそが最も国防に適しているので、邪魔をするなと釘を刺されてしまっている。タダでさえ、元々二課は日本の組織なのに、国連に力を貸している状況だ。国連直轄になってしまった組織の長が、鎌倉所属という事になっている流を止めることが出来ない。

 八紘も二課がS.O.N.G.になる時に、流をS.O.N.G.付きにしようとしたが、訃堂自らが出てきてしまったため、S.O.N.G.所属に出来なかった。

 

「私達の中に強くなることを拒否する人はいないと思うわ。フィーネの行いを許すことは出来ないけど、今私たちの前にいるのは了子さんだから関係ない事ね」

 

「フィーネは流が倒したもの」

 

「あの悪逆非道のフィーネはもう表に出てくることは絶対にねえからな」

 

 マリアの強くなる宣言に皆が頷く。その後フィーネは絶対に許さない事を伝えながらも、フィーネと了子は別だとマリアは告げた。

 

「だが現実的に、シンフォギア装者が強くなるにも限界がある。日々の鍛錬は勿論だが、それで劇的に強くなることはないと思う。今日のような鍛錬を続けるのは又違うであろうし」

 

 翼が言う通り、シンフォギア装者の強さは精神性によるところが大きい。逆にいうと体を鍛えてもそれがあまり生かせないということだ。

 

「……私は自分の強くなる手段を考えてある」

 

「本当なの、調ちゃん?!」

 

「うん」

 

 そう言って調は弦十郎の斜め後ろに立っている、緒川のところまで向かった。

 

「緒川さん、私を忍者にしてください」

 

「駄目です」

 

「な、なんで!?」

 

「忍術を教えても良いと思いますけど、忍者になるのは駄目です」

 

「わかった。それでいい」

 

 皆を置いていくように調は緒川にプロポーズして、それを承諾された。

 調は今回の鍛錬でもビリだったし、回復にも一番時間を使った。基礎練をやらないもいけないが、それだけで強くはならない。調はどうやって強くなろうか考えた。

 

 流のように聖遺物を融合させる? あれはコンマ以下の確率での成功率のようだし、きっと流が悲しむからやらない。

 流や弦十郎のようにご飯を食べて、映画を見て、寝て、鍛錬をするか? あれは短時間では強くならない。朝だってローラースケートをやめて、翼やマリア、流と一緒に走っている。少しだけ体力がついたけど、時間が圧倒的に足りない。

 なら異端技術を習得するか? 調は学者達がやるような勉強を理解できるほど、頭がいいとは思っていないので却下。

 

 そんな時、流や翼が使う影縫いを思い出した。あれは元々緒川家の忍術から来るものであり、翼はあれの習得を数ヶ月でしたそうだ。その数ヶ月も学校やノイズとの戦い、アイドルなどをしながらだったらしい。

 調は空蝉の術も水蜘蛛の術も瞬間移動の術も使える気がしない。だけど、分身なら出来るのではないか? となんとなく思った。自らを分身させるのではなく、武器を分身させる。なんとなく出来そうな気がしたので、調は緒川に頭を下げた。

 

「……なら、私は翼さんにお願いするデス。一から刃物の使い方を教えて欲しいデスよ!」

 

「いや、私は刀ばかりで、鎌は流石に使ったことが無いのだが」

 

「でも確か、薙刀とかいう棒の先に刃が付いたものは、やっていると聞きましたよ?」

 

「…………わかった。やれるだけやってみよう」

 

 切歌は変身して鎌を使うことがあっても、生身で鎌を使ったことなどない。今までならそれでも良かったと思うが、更なる強さを求めるなら、生身でもシンフォギアでも関係なく、腕前をあげるべきではないか? と調の決意を見て決めた。あの調があまり親しくない緒川に行ったのだが、自分と頑張ろうと。

 今回の山篭りで翼は生身で刀を持ちながら、山道を駆け上がったりしていた。他の人とは違い、シンフォギアの得物を生身で訓練しているのなら、何かを得られるのではないか? と切歌は考えた。

 

「なら私は司令……弦十郎師匠、御指導御鞭撻(ごしどうごべんたつ)の程をよろしくお願いします」

 

「ああ、いいだろう。だが、俺は翼や緒川と違って、結構厳しいぞ?」

 

「…………えっと、今日みたいなのがずっと続くのかしら?」

 

「そんな事は無いですよ! この私、立花響が保証します!」

 

「なら、大丈夫ね」

 

 マリアは流を素直に信じきれていないが、強くならないといけないという思いは本当だ。マリアのスタイルは拳とナイフ。ナイフなら緒川がいいかもしれないが、それ以上に近接の立ち回りを弦十郎に習おうと考えた。

 調が独り立ちのようなモノをしているので、あえて選ばなかったというのもある。

 

「私も一緒にお願いします!」

 

「未来もやるの?」

 

「駄目?」

 

「だ、駄目じゃないよ……」

 

 未来は響がいるからなのと、神獣鏡の戦い方は特殊で忍者的な動きもできるけど、みんなとの連携を取るならば、流の動きで慣れてきた拳の方がいいと考えた。あと響がいるから。

 響は生身でなら未来に勝てるが、シンフォギアの戦いになると神獣鏡の未来に勝てない。元々神獣鏡がシンフォギアメタなシンフォギアなので、しょうがない面もあるが、未来が響の動きを予測しすぎな面もある。

 もちろん響は弦十郎に鍛錬をお願いした。

 

「クリスはどうするの? ガン=カタを訓練するなら弦十郎くんだし、サポート的な動きを増やすなら緒川よ?」

 

 クリスは一人だけで立ち上がらずに、むすっとしていた。そこに了子が近づいてきて、クリスは決心した顔をしてから了子の目の前に立つ。

 

「フィーネ、あたしを強くしてくれ」

 

「……え? 私を選ぶの?」

 

「あたしの基礎はフィーネの教えだし、フィーネならきっと誰よりも強くしてくれる気がするんだ」

 

「極端な異端技術も他の聖遺物も使わないわよ?」

 

「わかってる。流と同じ方法で強くなっても、いざ止めないといけない時があっても、説得力がなくなっちまうしな」

 

「……わかったわ。弦十郎くんとの惚気をいっぱい聞かせてあげる」

 

「あっ、間違ったかも」

 

 クリスは弦十郎でもなく、緒川でもなく、翼でもなく、了子を選んだ。フィーネの時、流が来るまでは心を折るために色々してきたが、あれも流と会うために必要だった儀式だと、クリスの頭の中では変換が終わっている。なので、既にフィーネへの怒りには折り合いがついていて、この中で一番自分を理解していそうな了子を選んだ。

 

「……今は6月前だな。学校の勉強は了子くんと流に圧縮して教えさせるとして、7月末まで、二ヶ月ほどは集中してもらう。学業が疎かになるのは頂けないが、本気で強くなりたいなら、それくらいの期間は必要だ! 皆の成果に期待している、では解散!」

 

「「「「「はい(デース)!」」」」」

 

 弦十郎は皆で分かれるような締め方をしたが、調以外は皆は同じバスで街まで帰るので、弦十郎はやってしまった感が酷かった。調は緒川が何かがあってもすぐに出られるように乗ってきた車で、早速分かれることになった。

 

「調、無理はしちゃダメデスよ? 知らない大人の人がいると思いますけど、出来る限り人見知りせずに頑張るデスよ? それから、もし寂しくなったら電話をして欲しいデス。あとは」

 

「切ちゃん。大丈夫だから。行ってきます。みんなも行ってきます」

 

 そう告げると、緒川の運転する黒塗りの車の助手席に乗って、調は一足先に集団から離脱した。

 

 S.O.N.G.に着くと、弦十郎がある準備をしたあと、マリアと響と未来を連れて、自分の家の屋敷に向かった。了子はフィーネをやっていた時の似た立地にある、自分の別荘へクリスと向かった。翼は訓練場所をS.O.N.G.の本部で行うので、いつもの流の家に切歌と帰った。

 

 

 **********

 

 

「レイアはコイン打ちをノイズに教えてるし、ガリィはノイズに航空力学を使った飛行の仕方を教えてるし、ミカは無駄に飛行型ノイズの乗り方が上手くなってるし、どうなっているんだ!」

 

「あれもマスターの潜在意識ですね」

 

「やっぱり俺なのか!」

 

 キャロルは本当に流とやる事があったのと、了子にお願いされたのもあって、流をあの場所から連れ出した。

 

「マスター、このブドウ型のノイズはなかなかに、コイン打ちを分かっています」

 

 ノイズには珍しく、自由に使える手を変形させたブドウ型ノイズは、レイアのコインを指で打っていた。

 

「そんなことはいいんだよ! お前達が山に来ない代わりに頼んでおいた仕事は終わっているんだろうな!」

 

「そこは私がやっておきました。それまでサボってしまうと、マスターに派手なお仕置きをされてしまいますので」

 

「当たり前だ!」

 

 普段はしないような(絶唱しないGXのような)テンションで叫びキャロルに流はついて行く。チフォージュ・シャトーはサンジェルマン達を警戒して、座標や空間を変えるためにバビロニアの宝物庫の中に入れている。

 キャロルが若干怒っているのは、王座の間にゲートを開いた時キャロルに、コイン打ちを指導していたレイアのコインが当たってしまったのだ。おでこにべシーン! と。

 

 レイアがノイズに一言言ったあと、キャロルと流を案内する。シャトーの重要品製造ラインの一角に、ある錬金術を使った装置があった。

 

「これがホムンクルス製造装置だ。私が使っていた予備個体のような、完璧さを求めなければ、数ヶ月で完成するはずだ」

 

 キャロルが用意していた予備個体は、キャロルがいくつものホムンクルスを失敗作の烙印を押して出来上がるものだ。タイミングや微妙な空気の誤差によって、完成度が変わるらしいが、そこまで拘らなければ、割とすぐにできるそうだ。

 

「これはもう使わないんだよね?」

 

「使わないけど、パパ……もういいや、パパに合う予備個体は五十年掛けても出来ないからね?」

 

「俺の個体が欲しいわけじゃないけど、そうなの?」

 

「パパの体は完璧過ぎるの。私やサンジェルマン達のように完璧。人類は女性体が最も完璧なはずなのに、それと同列で完璧な出来上がりになってる」

 

 キャロルはその後も、流の体がいかに頭のおかしいモノであるか、下手したら流の体を調べれば、色々な真理がわかるかもしれないとまで言った。

 

「……ってそんな話じゃない。パパは自分に使わないなら誰の個体を作るの? 装者達?」

 

「俺がやろうとしているのは、不完全な死者蘇生だよ」

 

 流が行おうとしているのは、奏やセレナが憑依する人形を作り、擬似的な蘇生を行なおうとしている。最終的には完璧に二人にあった体に戻すつもりだが、何年かかるか分からないので、とりあえずでこの蘇生方法を試すことにした。

 

「パパ、死者蘇生は出来ないんだよ」

 

「いいや出来る。イザークの時と同じような手法を使う。何かがわかってもこれ以上は言えないから反応しないぞ。言ったら俺が死ぬかもしれないし」

 

 流が次に呪いに対策なしで抗ったら、肉体を消滅させられるかもしれない。もう魂という名の糧はないのだ。

 

パパ(イザーク)の時? パパ()に憑依して……素体に記憶を保持した霊体を憑依させる!?」

 

「……」

 

 流は首すら振らず、キャロルを見ない。反応しないためだ。

 

「……装者の子達には、死者蘇生を知られたくないって言ってたけど、私には何でも相談してね? 私はパパ(イザーク)パパ()を託されたんだから!」

 

「ありがとう。この機械はフロンティアに移すから。キャロルも工房は向こうで作り直した方がいいよ。フロンティアはエネルギーが半永久だからね」

 

「うん、その準備は進めてるよ。オートスコアラーのエネルギー達のリソースを想い出から、フロンティアのネフィリムエネルギーに変更する機構ももう少しで出来上がるから、その時にやるね」

 

 キャロルが流の下についてから一番初めに考えたのは、オートスコアラー達のエネルギー事情だった。流石に今後も一般人を襲うことは躊躇われるので流に相談した。すると、フロンティアのエネルギーを拝借すればいいという結論に至った。

 想い出に比べれば効率は悪くなるが、それでもフロンティアのネフィリムの心臓は半永久的にエネルギーを生産するので、キャロルは変換機構を研究している。

 

「わかった。その時は手伝うよ」

 

「ありがとう……あ、あと。そのホムンクルスを作るのに絶対必要なものがあるんだけど」

 

「なに?」

 

「培養する存在のDNAデータ。あるよね?」

 

 キャロルが思い出したかのように、流に問いかけてきた。

 

「…………ない!」

 

 流の声が城に悲しく響いた。


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