戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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あるイベントを発生させないで3.5章に進もうとしていた。とても危なかった。
あと今回は少しだけ下品に思われるかもしれない話があります。伝承通りにした結果ですので。


#60『絶対に押すなよ』

 流はキャロルにホムンクルスを製造する設備一式を貰い受けたあと、linkerを使ってデュランダルを起動した。設備を巻き込むようにして、バビロニアの宝物庫から出るためのゲートを出現させた。

 出口はフロンティアの内部、ネフィリムに作らせたテレポート以外では入ることの出来ない部屋に、設備を無理やり移動した。

 

 フロンティアは飛行船としての部分と、島としての部分が存在する。その島の地下にこの部屋を作らせた。もちろん換気のための空気穴などはあるが、人が通れるほどの大きさではない。この部屋にあるのは、空間とフロンティアのエネルギー輸送を行っている、結晶がいくつか飛び出しているだけだ。

 皆にバレたくない事を実験するために、用意させたその場所は、割とすぐに使用する事になった。

 

 キャロルは出来るだけ早く、オートスコアラーのエネルギー変換機構を作らないといけないので、あの後すぐに研究室へと向かった。

 現状オートスコアラーには流がデュランダルで生成したエネルギーを流し込んでいる。キャロルがいうには、効率は良くないらしい。

 

「どうしよう。奏の髪とか保存しておく趣味なんてなかったし。しかもセレナなんて生前に会ってすらねえ」

 

 キャロル曰く、体を作るだけなら少しの遺伝子データが少しあればいいらしい。髪でも血でも何でもいいとか。そこからホムンクルスを動かすには、記憶の転送複写などが必要になるが、そこら辺は詳しく聞いていない。

 

『私は流さんの考える、完全な死者蘇生の時に生き返らせてもらうまで、流さんの隣にいたいのでべつにいいですよ……でも、たまには体を貸してくれれば』

 

 セレナは今回は変なことをせず単純に甘えてきたので、流は頭を撫でてあやす。そしてもう一人の精神生命体と化している天羽奏は、少し離れたところで葛藤していた。物凄く唸っている。

 

「どうした? 腹でも減った?」

 

『減ったちゃ減ったけどさ、違うんだよ……ああああああああ! もういいか。あたしのDNA情報なら流は結構持ってるはずだぞ』

 

 ホムンクルスを作る上で、一番の問題点である奏の体の一部は既に持っているとの事だった。

 流は考えてみたが、やはり奏の体の一部など持ってはいない。ガングニールの欠片は持ち歩いているが、これはノイズに攻撃されて砕けたガングニールの槍なので、奏の何かが付着している訳では無い。

 

「あるなら早く言えよ……さっきから悩んでたけど、やばいモノでも渡してたの?」

 

『いや、あたしが流に渡していた御守りあるだろ? あれの中に髪を入れて置いたんだよ』

 

 流が奏と会って仲良くなったあと、山篭りに行ったり無人島へ鍛錬に行く時、毎回奏は御守りを渡してくれていた。確か、中身は絶対に開けるなと言われていたが、奏の髪の毛が入っていたようだ。

 

『……すみません。少しだけ奏さんもやばいなって思いました』

 

「……あれだろ? どっかのおまじないみたいな奴だろ」

 

 セレナは流の後ろに隠れて、結構ドン引きしている。だが、流は日本のどこかであったおまじないである事を記憶している。欧米ではどちらかというと、藁人形などの呪いに髪を使ったりするので、セレナには拒絶感があったのだろう。

 

『翼に聞いたんだけどさ。九州を守護していた防人達が、()()()()()の『髪の毛』()()を肌身離さずにお守りとして持たせていたらしい。毛自体にも霊力があるとか言われているらしくて、愛する人に守護されているとか、離れていても一緒にいるみたいな精神的な繋がりによる守護らしいんだよ。だから、入れたのであって、決してやばくはないからな!』

 

 いつもはそういう迷信に近いモノを奏が翼に教えるが、今回のこれに関しては翼が奏に教えたようだ。しかも防人関係なので、翼は真面目に助言したのだろう。

 流は奏に好かれていた事は知っていたし、そんな感じのおまじないがあることを知っていたので、何故奏が言い淀んでいたのか分からなかった。

 

『……あー、なるほど! 本来なら恋人とか奥さん(親しい人)がやるおまじない、違いますね、(まじな)いなんですね!』

 

『だから言いたくなかったんだよ! あの時のあたしはマセてたって言うか、強さを求める焦りと恋愛の焦りでパニクってたしさ』

 

 奏が頭を掻きながら、セレナの言葉に反応しているが、流はその奏の反応がおかしい事に気がついている。奏は今、話を逸らそうとしている。本当にやってしまったと思ってはいるが、別のことを気にしている時の顔だ。

 奏が流の機微に聡いのと同じように、流も奏の変化にはすぐに気がつける。

 

「他になにか気が付かない? 俺はわからないんだけど」

 

 だが、流にはその何かが分からないので、同じ乙女であり、変態チックな考えを数多持つセレナに投げかけた。

 

『ちょ!』

 

『まだあるんですか? そうですね……』

 

『別にもう隠している事は』

 

『……陰毛ですね』

 

『イヤアアアアアアアアア!!』

 

 奏はセレナの一言を聞くと、目にも留まらぬ速さで欠片の中に逃げていった。

 

「陰毛って下の毛だよな?」

 

『はい。その人の毛をその人に見立てて、常に見守っていること、守護する呪いなんですよね? しかも、妻や恋人がする事です。髪の毛よりも陰毛の方が親しい人じゃないとあげられないと思うんです』

 

「確かにそうだな。で、あの反応からしたら」

 

『入れていたんでしょうね。だから、御守りを知らせるのを迷っていたんだと思います』

 

 この後セレナは流にこの事で話を盛り返すわけではなく、逆にフォローし続けた。乙女は暴走しやすいことや、迷信でも信じてしまうことなど、いつものセレナとは思えないほど、奏を心配していた。流石のセレナもデリケートな話で弄ることはしないようだ。流のデリケートな話では弄ってくるが。

 

 セレナのフォローを聞きながら、機械とフロンティアのエネルギー導管である結晶を繋げて、家に戻って机の中に仕舞ってある御守りを開いた。

 サラサラの毛が出てきたので安心し、他の御守りは机の奥深くに仕舞うことにした。()()()()()()()()()()()()

 

 

 流はキャロルに装置の弄り方を教えて貰ってないが、なんとなく分かる。イザークの教本にキャロルが作っているであろう機械の役割解説があったからだ。

 

『イザークさんも死者蘇生を行おうとした時期があったんですよね』

 

「特殊な力があって、その可能性が見えるならやるだろうな。俺も目指してるし」

 

 フィーネの使っていた紫シールドを、イザークが書き残していた錬金術の魔法陣を刻みながら発生させる。紫のシールドを了子は打ち出したりしていたので、やってみたら流も形状変化ができた。

 やはりこれは錬金術の元になった技術のようだ。だからこそ、了子は初めに教えるのを渋っていたのだろう。

 

 培養層の中に必要な錬金術陣を転写して、装置を起動させる。材料の中に流はオリジナルで一手間加えていたが、それが幸をそうすのかはまだ分からない。

 

「これであとは数ヶ月待てばいいのか」

 

『不思議ですよね。霊体が記憶を保持していること自体が稀だと思いますけど、これだけで擬似的に蘇生が出来るんですもんね』

 

「不完全でも完全でもセレナもちゃんと蘇生させるからな」

 

『何度も言わなくても大丈夫ですよ。ちゃんと分かってますから』

 

 セレナは聖女のような優しい笑みを浮かべた。

 

 

 

「…………なんかいつもとキャラが違いすぎない?」

 

『たまにはハッチャケないで、マリア姉さんが知っているセレナをやってただけです! なんで一々指摘するんですか!』

 

「どっちのセレナも()()だから、俺はどっちでもいいけどね」

 

 実は最近一番頭を撫でられているセレナの頭を流は優しく撫でた。

 

(生きている人には好きなどの好意的な言葉を使わないのに、なんで奏さんはともかく、私にも使うんでしょうか?)

 

 セレナの些細な疑問は口に出さずに消えた。

 

 

 **********

 

 

「マリアの妹なセレナなら、男が着替えをしている時は見ないと思うんだけど」

 

『流さんはそんな気遣いしない方が嬉しいですよね?』

 

「変に気を使われるよりはいいけど、乙女としてどうなのよ」

 

『乙女は頭がお花畑なので問題ないです』

 

「頭がお花畑はお前だけだろ」

 

(多分マリア姉さんもじゃないかな?)

 

 奏の肉体の培養が放置できる状態になったので、家まで戻ってきた。キャロルも一度一緒に帰り、流の家にテレポートジェムで移動できるように座標の登録していた。その後シャトーにとんぼ返り。

 

 流は()()()()()()()()を、何にしようか考えている時にキャロルがいたので聞いたところ、フランス料理が食べたいと言ってきたので、その食材を買うために家に帰ってきたのだ。

 流の今の格好で買い物に行ったら補導されてしまう。服を着てなくて全裸とかではなく、目が金色と水色で光のようなものが動いている。右腕と左足は見た目金属(デュランダル)なので、しっかりとした服を着ないと通報されてしまう。

 

 了子に作ってもらった特性の黒カラーコンタクトを嵌め、夏前なのにキッチリとした長袖はあまり良くないのでスーツを着る。手は特殊メイクで何とかしようとしたが、セレナが白い手袋に燕尾服がいいと言ってきたのでそちらに着替えた。

 そのセレナは白いドレスに着替えているので、気分はお嬢様なのだろう。育った環境故に仕方がないが、作法が全くなっていない。装者でドレスコードが必要な場所での作法がわかる人なんて、翼くらいのものだが。

 

「まあ、移動はバイクなんだけどな。黒塗りの車はあの家には置いてないし。あるのは大人数で乗れる車ばっかり」

 

『執事っぽい見た目でバイクってどうなんですか?』

 

「戦う執事みたいな?」

 

 その執事の胸元にあるのはナイフではなく、クナイなのが微妙に合っていない。

 

『クリスさんが読む少女漫画にありますよね。エロ方面に過激なやつ』

 

「……一々暴露するな」

 

 買い物をしたあと、セレナがすぐに帰らず寄り道をしようと言ってきたので、周辺を回った。人がいない所でお嬢様として扱ったのが良かったのか、セレナが暴走しないで、アニメの性格のままでいてくれた。

 もちろん執事的な動きができるのは、忍者緒川に仕込まれたからだ。

 

 バイクで買い物に行ったがサイドカーがあったので、大量に食材を買い足せた。材料を下処理しながら料理別に分けていく。

 手袋を外したさっきの格好で可愛らしいエプロンをつけて調理をしている。いつも使っているエプロンがなかったので、新しく増えていた可愛いエプロンを使うことになった。燕尾服にピンクのエプロンなので、セレナが爆笑していた。真面目なセレナは終わったようだ。

 

「今日はバケットにベーコンのキッシュ、ポトフ、白身魚のグリルにステーキ、サラダと野菜のファルシ……トマトとかピーマンにほかの具材を詰めたものね。あとはショコラにリンゴのタルト。こんくらい作っても食べ切れるだろ。キャロルにエルフナインも増えた事だし」

 

『ポトフなのに具材が色々ありますね』

 

「何入れても煮込めばポトフだし」

 

『言葉の意味が煮込みでしたっけ。それにしても多くないですか?』

 

「オートスコアラーが食うかもしれないしな。食わなくても切歌とか響が食ってくれる。響がいれば多く作りすぎてもとりあえず余らない」

 

『だから皆、常にダイエットしているんですよ?』

 

 装者達は常に鍛えているが、あれはシンフォギアの自信に繋がるからでもあるが、運動をしないと体型が維持出来なくなってしまうからでもある。流と調が自重せず毎回作り、美味しいから食べてしまうせいで皆が苦労している。

 

「体を動かして美味いもの食った方がいいでしょ。弦十郎父さんとか俺の強さの秘訣の一つだし。動いて食う」

 

『食べて鍛錬して、映画を見て寝るをして、あそこまでの強さになるのはおかしいですからね?』

 

 口を動かしながら高速移動を使い、どんどん調理していく。先ほどセレナに奏を見に行ってもらったが、まだ復帰しきれていなかったようで、ご飯になったら行くとセレナに伝えたそうだ。

 

「……最近は調がサポートしててくれたから、一手間時間かかるな」

 

『調ちゃんの腕も上がったみたいですから、料理を食べるのが楽しみですね』

 

「だな。フライパンを使いたくてうずうずしてたけど、今日は俺が全て作らせてもらうわ」

 

 流は裏で装者達がどう動いているかを知らず、みんなに食べてもらうために調理を続けた。

 

 

 調理があらかた終わり、了子に渡されたシンフォギアの改造計画の詳細を読んでいると、家の外の廊下を歩くいくつかの音が聞こえた。

 歩法もきっちり学んでいる剣士の足音と軽くて楽しげな足音、それにフラフラした危なげな足音()()聞こえない。

 

「なんで翼と切歌とエルフナインしかいないんだ?」

 

『何かやることでもあるんですかね? でも、この時間に帰ってこないと冷めちゃうのは分かっているはずですし』

 

 翼がこの家に加わってから、夕食の時間が早くなった。普通は一人に合わせるのはあまりいい顔しないが、早く食べた方が体型に影響づらいという理由なので、皆が賛成した。大抵は同じ時間に料理が出来上がるので、遅くなるなら連絡が来るはずだ。

 

 マリアとかは夜が遅くても食べるので、よくこの時間くらいに連絡が来る。一番朝の運動に気合を入れているのもマリアだったりする。既に二度流は付き合いダイエットを体験した。

 

「ただ今帰った」

 

「ただいまデース!」

 

「ただいまです」

 

 聞こえてきた声もやはり三人だけのようだ。流は玄関に迎えにいく。

 

「おかえり。みんなは?」

 

「……あれ? もしかして誰も連絡いれてないのデスか?」

 

「誰かが伝えると思って、入れ損ねてしまったようだな」

 

「流さん、当分はここにいる人だけしか帰ってきませんよ。あとはキャロルくらいですかね」

 

 エルフナインが状況を一言で説明した。流はそんな報告など一切聞いていない。

 

「どういう事?」

 

「皆、修行の熱が灯ったのだ。月詠は緒川さん、マリアと立花と小日向は弦十郎叔父さん、クリスは櫻井女子で、暁は私に師事をすることになった。大体2ヶ月程だな」

 

「マジ?」

 

「このような事で私が嘘をつくとでも?」

 

「つかないね。調が好きな大きな肉を入れたポトフとか、餡子のデニッシュとか作っておいたのに、完全にやり過ぎた」

 

 話をしている流達を追い抜いて、切歌はリビングに向かった。

 

「およおおお!! 凄く沢山の料理があるデスよ! でも、これって皆の分デスよね? 残っちゃわないデスか?」

 

 リビングで出来上がった料理に驚いたあと、切歌はこちらに走ってきて聞いてきた。

 

「無理だけど、残ったらS.O.N.G.に持っていけばみんな食うでしょ」

 

「流さんの料理は初めてです。皆さんが美味しいと言っていたので、気になっていたんですよね」

 

 エルフナインは切歌に連れていかれて、リビングに走っていった。流は逆にポトフの増産の仕込みをしに行った。S.O.N.G.に残っている人たちが食べられるだけの量は無理だが、出来るだけ多くの人が食べられる位には増やそう。

 

「では、頂きます」

 

『『「「「「頂きます(デス)」」」」』』

 

 帰ってきたキャロルや正常なモードに戻った奏も一緒に料理を食べ始めた。

 食べ終わった後、S.O.N.G.にお裾分けをしに行った時、明日は朝早く来るように言われたので、了承して家に戻った。

 

 

 **********

 

 

「……やり残したことはないか?」

 

 流は最近あまり思い出そうとはしてなかったアニメの知識を思い出していた。流が潰したイベントがあれば、それは流自身が起こさないといけない。今回の山篭りは図らずもアニメの海回のように皆が仲良くなるきっかけになってくれた。

 シンフォギアの強さは精神性に依存するので、装者同士の仲の良さは思いのほか重要だ。

 

 そして大切な出来事を思い出した。だが、それは流が直接関わってはいけないものだ。

 

 流は自分の部屋の机の上を軽くゴチャゴチャにして、パソコンをつけて、ある音声データをトップに置いて再生ができる状態にしておく。

 

「おーい切歌」

 

「なんデスか?」

 

 流は切歌の部屋の前まで行き、ノックをしてから要件を告げる。

 

「ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど」

 

「いま手が離せないのでイヤデース!」

 

「手伝ってくれればお小遣いがあります」

 

「なんデスか!」

 

 部屋の中で大きな足音がしたあと、扉が一気に開いた。チラリと見える部屋は物が多いが、そこまでゴチャゴチャしていない。みんなと撮った写真が沢山飾られている。クリスなんかはぬいぐるみで部屋が飾り付けられていて、ベッドの上はぬいぐるみだらけになっている。

 

「俺の机の上の片付けをお願いしたい」

 

「……それ流がやった方が早いデスよね?」

 

「まあそうなんだけど、あとあれね。机の上にあるパソコンは絶対に触らないでね。特に表示されている音声は絶対に聞いちゃダメだから!」

 

「ホエ?」

 

「いいか、絶対に駄目だぞ。あの音声は絶対に聞いちゃ駄目だからな!」

 

「分かったデスよ! 私が片付けてあげるデス!!」

 

 流は音声の部分で声を大きくして、切歌にお願いする。切歌も初めは意味を理解していなかったが、何度となく押したので、切歌は悪巧みするような顔になって、流の部屋に飛んでいった。

 

『押すな押すな!』

 

『さっきからあたしを押しているのはセレナだろ! 押すな!』

 

 奏が戻ってきて調子の戻ったセレナは、いつものように奏にお仕置きされている。今日は少しだけ優しく見えるのはきっと気の所為ではない。

 

 流が自分の部屋の前まで行き、中を見ると、切歌は期待通りパソコンの表示されている音声を弄ろうとしている。

 

「あれは俗にいうフリという奴デスよね? スタートデース!」

 

『翼にひどい事を言ってしまったああああ! 絶対に嫌われたよな、弦十郎! どうしよう、あああああ! 翼に嫌われたあああああ!!……』

 

「耳があああああ! 逝かれちゃうところだったデスよ、流!」

 

 大音量で流が録音しておいた、八紘の酔った時の声が再生された。あまりの大きさに切歌は耳を抑えて、ベッドで蹲っている。今の音量なら、この家中に届くだろう。

 翼を八紘が大切に思っている事は、流は言わないと八紘と契約している。その代わり色々な便宜を図ってもらっていたのだが、()()が勝手に流してしまったのだから、仕方の無いことだろう。

 

 バン!

 

「何故御父様の声が!?」

 

 切歌の時以上の速さで翼が部屋から飛び出してきた。そして流を見て、また何かを企んでいるのだろうと翼は感じ取ったが、未だ八紘の声が響く場所へと向かった。

 

 翼は音声を下げて、続きを少しの間聞いたあと、流の下へ歩み寄ってきた。

 

「これはどういう事か説明して貰おうか!」

 

 聞いたことのない翼自身を心配する父親の声を聞き、翼は初めは驚いたが、親ばかな言葉を聞き続けたからか、顔を真っ赤にして流に詰め寄ってきた。

 

「顔真っ赤だな」

 

「う、うるさい!」


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