戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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修行後編です。4組全て一つにまとめようとしましたが、もちろんまとまる訳がなく、二つに分けることにしました。この続きは書いてませんが。

あと20万UA突破しました。皆様が読んでくださったおかげです。本当にありがとうございます。


#66『風鳴弦十郎の敗北』

 流はここ二ヶ月、司令官として働き、鎌倉に一度だけ呼び出され死合をさせられ、キャロルのパーフェクト四大元素(アリストテレス)錬金術教室を受けたりして、自分の強さを磨きつつ、弦十郎の大変さを嫌という程理解した。

 

 あの家にキャロルとエルフナインすら帰ってこない日が何日も続いた時など、他人のお世話が全く出来なくて、流は干物のようにやる気がなくなった時があった。板場達が遊びに来てくれたおかげで、奉仕欲がいい感じに発散できたなんて出来事も存在した。

 

 宝物庫経由テレポートを覚えてからは無理なく、フロンティアや様々な場所に行けるようになったので、それをフル活用するようになった。そのせいでソロモンの杖の聖遺物反応はS.O.N.G.で切られることになった。流の使い方だと、聖遺物検知アラームが毎回鳴っていたようで、藤尭や友里、その他スタッフがキレた故である。

 そしてその宝物庫経由テレポートは未だ強靭な人間でなければ、生身だとダメージが多大なようだ。弦十郎は少し痛い程度で通れていたのでやはり化け物。

 

 色々書いたが、今回は流の物語ではなく、装者達のお話だ。今はちょうど7月後半で修行の仕上げを行っている人たちが大半である。

 

 

 **********

 

 

「二人とも、今のうちに!」

 

「はい!」

 

【HORIZON†CANNON】

 

【TORNADO†IMPACT】

 

 装者達が戦っている敵は一人だが、三人は本気で攻める。

 マリアのアガートラームによる砲撃を敵はモロに受けたが、どうせダメージなど無いことは確定的に明らかである。砲撃によって地面が爆ぜ、煙幕となっているので敵の視界だけは封じられ、尚且つ一瞬でも動きが怯めばいいな程度のために技を使った。

 マリアは撃った後すぐに煙幕の中にいる敵を確認せず、短剣を円状に展開し高速回転させ、竜巻を纏いながらその場所を穿つために飛んだ。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

「…………」

 

 響はマリアの声に反応し、叫び声をあげながら敵の右から接近している。右腕のギアを巨大化させ、ナックルガードを下げ、バーニアを噴かせて敵に向けて()()で殴り掛かっている。

 

 反対側からは未来が静かに滑空しながら近づいている。気配を()()隠し、敵に悟られぬように接近に試みる。

 

「……もし足止めのために撃ったのなら、俺に当てるのではなく、凝縮させて威力をあげるのでもなく、あえて緩めて周辺の地面を破壊するべきだ! 俺はシンフォギアと違って、地面がないと動けないからな!」

 

 煙の中で、赤い髪の男は茶色寄りの瞳のはずなその目を赤く煌めかせた。指導をしながら、ブーストさせて飛んできている響に向かって自分も飛んだ。場所は公道ではないので、遠慮せず本気で踏み込んだため、地面が爆ぜてしまったが、自分の家なので問題ないだろう。

 

「マリアくんはカノンを撃った後だから、ワンテンポ遅れる! もし同時攻撃をしたかったのであれば、響くんもあと数秒待ってから突貫すべきだ! 響くんの背で透明化しながら追走している未来くんが響くんを制御しろ!」

 

 赤髪の男、弦十郎が響へ踏み込む前、HORIZON†CANNONを地面を捲り上げて、それを蹴り飛ばし減衰させたあと、拳で吹き飛ばした。そのあともう一つの拳で握っていた石つぶてを、響とは逆から囮として向かってきていた未来の分身に投げていた。

 

 弦十郎が未来に指摘した時、ちょうど分身の未来の頭が爆ぜ、響の後ろで気配を消していた未来が気配を乱してしまった。分身に石つぶてが触れた瞬間、分身は破けるように消えたが、それでも高速で石が頭に当たる場面を想像してしまったようだ。

 

「それは私が調整する!」

 

 マリアは竜巻となって弦十郎に突撃している時、技中であるにも関わらず、ギアを一部エネルギーに変換して、それを使って突撃速度をあげ、響との連携を完成させる。

 ギアを解除してエネルギーにする事は、シンフォギア装者なら割と出来ることだ。だが、それ通常時であり、技中にやるようなことではない。

 マリアが使う聖遺物はアガートラームだ。その特性は力の制御であり、それとマリアの持ち前の器用さによって、技中のギアのエネルギー変換が可能になった。

 

 マリアが加速したことにより、響とマリアにちょうど挟まれることになった弦十郎。

 更に未来は指摘されてすぐ、響から離脱し、足のギアを展開させて放つ【流星】の準備を始めている。その準備をしながらも、【混沌】によるミラーデバイスから光線が発射され、弦十郎を()()する。

 

 敵が早くなったのなら、自分はもっと早くなればいい。弦十郎は更に地面を蹴る力をあげ、響とマリアの同時突撃を防ぐ。

 

「……見切った!」

 

「ちょ、えぇぇぇ!?」

 

「嘘でしょ!」

 

 弦十郎は響の動きを理解したのか、再び赤く目を光らせ叫び、巨大化した右腕のギアのナックルガードを()()、マリアの方に受け流した。

 弦十郎の背後で響とマリアの突撃音が響く中、未来は流星のチャージが終わったようで、射線上にマリアも響もいるのにも関わらず、光線を撃ち込んだ。

 

【流星】

 

 弦十郎は響を投げた手と逆の手でガードして、流星を受け切る構えで飲み込まれた。

 後ろで流されて激突した二人も流星にそのまま飲み込まれた。

 

 

 

「最後の最後で仕上げてきたわけか」

 

「はい! 少し大変でしたけど、何とか出来るようになりました」

 

「やったね未来」

 

「……シンフォギアの特性を自分の想いだけでねじ曲げるなんて、簡単に出来ることではないわ」

 

 未来以外の全員が流星に飲まれたことにより、演習は終了した。

 流星に生身で巻き込まれた弦十郎は身体中から湯気を出していて、服が弾け飛んでいる。肌が赤くなる程度で済んでいるのだが、それよりも気になるのが、弦十郎の体の大きさだ。

 

 弦十郎はS.O.N.G.の誰よりも体が恵まれているが、いつもの弦十郎よりもひと回り大きく感じられる。筋肉がパンプアップされていて、凄みが増しているのだ。これは装者達を鍛える間に、自分も鍛え直した結果であり、今なら流の擬似バーニアを使った全身デュランダルでの拳すら、迎撃できると弦十郎は自信を持って言えるほど、自らの体が仕上がっていた。

 

 響やマリアはムキムキにならない程度に、されどただスポーツをするために鍛えている人たちと比べて、圧倒的な肉体美に出来上がった。

 弦十郎は流の筋肉の詰まった最高効率の扱きと映画によって、どう鍛えれば装者の女性的な魅力を損なわず、それでいて美しい肉体美に仕上げるのかを考え続けた。この場所に到着した時とその次の日から数日は、男の息子と勝手が違かったので、了子に資料と資料(映画)を送ってもらい、それを弦十郎が習得するための期間だった。

 

 それのおかげで二人は生身での武術鍛錬でも、良い動きができるようになった。マリアは響よりも身長が高く、少し筋肉を多めにつけた。響はそれ以上付けようとしたが、未来が泣いて止めたので女性的柔らかさと筋肉がいい感じにマッチしている。

 その未来は上半身も鍛えたが、元々は陸上部で足を動かすことをしてきた。流の真似事で響と同じことをしていては、流の劣化になってしまう。なので、拳も忘れない程度に鍛えつつ、足技をたくさん会得し、神獣鏡のあのえげつない足のギアから、威力の高い蹴りを放つようになった。

 

 そして今回の鍛錬で、未来が仲間と戦っても問題なくなった。

 

 

 アニメでは「ガングニールの融合深度を抑制するため、大切な響を戦わせたくない」という想いを歪められた未来の心象により、 聖遺物由来の力を分解、あるべきカタチを映し出す『凶祓い』の力が強く顕現した。

 だが、この未来は響と一緒にシンフォギア装者としての訓練を受け、流に(そそのか)されたが、思いを歪められずに「ガングニールの融合深度を抑制したい。そのあと響の背を守り、一緒に戦いたい」という聖遺物を受け入れる考えも持っていた。

 

 その為この未来は『凶祓い』ではなく、『魔祓い』としての力を持っている。これは響や未来にとっての魔を祓い、響の優しい両手で守ろうとした存在を守る力。今までは初期の「ガングニールの融合深度を抑制」という想いによって、形成された力を振るっていたが、今回の修行によって、響の守りたいモノを守る力へとシフトさせることが出来た。

 

 そのおかげで響のガングニールもマリアのアガートラームも、流星を喰らったにも関わらず解除されることがなく、ほとんどダメージを食らっていなかった。弦十郎もエネルギーによって体が熱せられたが、流星本来の威力は発揮されず、ダメージがほとんど無かった。

 ちなみに流やネフィリムはまだその守る対象に入っておらず、未来は流を響に忍び寄る魔という認識からあまり変わっていない。料理を指南してくれている事は感謝しているが、それとこれは別のようだ。

 ネフィリムの事は何故か未来は嫌悪している。乙女の勘で許せないもの(腕パクリ)を感じ取ったのだろう。

 

「さて……いや、やめよう。7月ギリギリまで、ここで映画を見て技を覚え、基礎鍛錬を積み、演習を繰り返すとしよう」

 

「風鳴司令はそろそろS.O.N.G.に戻らなくてもいいのですか?」

 

 弦十郎が何かを言い淀み、期限いっぱいまで鍛錬を行うことにした。本来なら今日で終わりだったのだが、弦十郎は司令としての風鳴弦十郎に戻れば、また書類仕事に追われ、体を動かせない職場に行く事になる。

 それをマリアは察したのか、弦十郎に尋ねた。

 

「流は任された仕事は放り出さない。文句を言いながら、何だかんだ仕事をやったあと、やりたいことをやっているはずだ。事務仕事は俺よりも適性があるからな。だから、もう少し押し付ける。アイツには散々こき使われたしな」

 

 書類に上官への謝罪、国連で流の存在が完全に露見した場合に備えての工作。どれも弦十郎は好きではない事だが、やらなければ流が生きていけないことだ。これらにプラスして、流がノイズや聖遺物を使う度に色んな申請書類を出しているので、流にギリギリまで押し付けることにした。

 

「そうですよね、まだまだ鍛え足りません!」

 

「響は帰ったら、鍛錬の間の学校の勉強をやらないといけないから、帰りたくないんだよね?」

 

「ギクッ! そ、そんなことは無いよ? 了子さんや流先輩、マリアさんやクリスちゃんがいるから、きっと大丈夫なはずだし」

 

 始めの二人だけでも大丈夫なレベルまで持っていくことは容易だが、一学期の期末テストを公欠で休んだことになっていて、学校からは沢山の課題を設けられているので、実際はそこまで大丈夫ではない。きっと響は誰かに泣きつくことになるだろう。

 

「切歌は翼のところへ行った。調は緒川さん……クリスは大丈夫なのかしら? あまり了子とクリスは仲が良くないと記憶しているのだけれど」

 

「了子さんはもう了子さんですし、大丈夫ですよ」

 

「司令さんなら知っているんじゃないですか? 毎夜了子さんとお話してますよね?」

 

 マリアは自分の妹達のことを考えたが、付いていった人が普通? だから大丈夫。だが、クリスはフィーネに色々されたはずだし、日常的に突っかかっているので、大丈夫か不安になった。そんな横で未来は弦十郎が隠れて電話していた事実を暴露した。

 

「な、何故それを!?」

 

「司令さんは了子さんとの電話の時は警戒心が一気に下がりますからね。神獣鏡の隠密練習に使われてもらいました」

 

 始めは割と遠くでも、気配を察知されてしまっていたが、数日前なんて、三メートルの距離でも気が付かれなかった。洋画のような熱々なラブコールだったので、未来もあまり聞かなかったが、弦十郎は口説き文句も映画から学んでいることがわかった。

 

「……常に修行とは言ったが、俺が化かされるとは思わなかったな」

 

「ねえ、未来。司令はどんなことを言っていたの?」

 

 この生活でマリアは小日向さん呼びから、未来呼びに変わっていたりする。本来ならマリアはある程度の仲になれば、名前で呼ぶ人なのだが、歓迎会の時の未来による翼と流への説教で少しだけ苦手意識があった。でも、あれは流と翼が悪いことは初日でわかった。とてもいい子なのだ……響関係がなければ。

 

「こら、大人をからかうのはやめなさい」

 

 装者はまだまだ乙女だ。結婚まじかの恋人同士のラブコールは話の種としては最高だろう。マリアの言葉に響も顔を何度も振り、話をするように急かす。弦十郎が解散させようとしたが遅かった。

 

Stay right where(そこにいて。) you are and coming to you(君がどこに居ても、行くから。).」

 

「「きゃあああああ!」」

 

 あまり頭の良くない響も、映画で聞いたフレーズならば、その意味もだいたい覚えている。マリアも映画で電話口に言われたその言葉に、自分が言われた訳では無いのに顔が赤くなってしまった。

 

「……明日は死ぬ気で鍛錬をする! 死ぬ覚悟で今日は寝るといい!」

 

 流石の弦十郎も、ラブコールの映画セリフの引用でおちょくられるのは耐えられなかったようで、叫ぶだけ叫んでそのまま家に戻った。

 

 次の日は三人とも、その日の最後には乙女が見せてはいけない格好で、やってはいけない顔で地面に倒れていた。

 

 

 **********

 

 

 クリスの朝は早い。

 夜に干しておいた洗濯物を畳み、()()の準備をする。その後今住んでいる建物の外に出て、軽く体操をしたあと、家の周りをペースをあげて走る。それが終わると、家の横の湖の辺に()()()()()()()、オートスコアラーのガリィが現れた。

 

「……ホントあんたって人間じゃなくて、人形遣い荒いわね。ガリィちゃんはもっと優雅な朝を過ごしたいんだけど」

 

「おはよう。いつもごめんな」

 

「嫌味に反応しろし。えーと、面倒だから最高難易度でいくわよ」

 

「ああ、Killter……」

 

 ガリィが溜息をつきつつ、準備を始めている間に、クリスはシンフォギアを纏った。クリスが纏ったシンフォギアは、いつものメカメカしいギアの部分は展開されておらず、拳銃型のアームドギアだけをその手に持っている。

 

「50発連続で当てるまで終わらない、動きは人間の出来る挙動で、速度は立花響くらいでスタート」

 

 ガリィは湖に足を付けて錬金術を発動する。人間の頭くらいの大きさの水球をいくつか作り出し、指定された速度の範囲で、一定範囲を動き回り続ける。

 

「【ロックオン・オールスナイプ】まだ見ぬ本当の自分のことが……」

 

 クリスはイチイバルのシンフォギアを纏っているのに、彼女が歌い始めた歌は、彼女の歌の中でも優しい歌詞をしている、文化祭で歌った曲だった。一部今の想いに反応して、歌詞が変わったりしているが、優しい曲調から変化はない。

 クリスは優しい歌を歌いながらも、手に持つアームドギアで動き続ける水球を、()()()()()()()()()()撃ち抜き続ける。銃弾は正面に射出されているにも関わらず、上下左右に曲がり、正確に水球を通過している。

 

「銃ブッパしてんのに、なんでそんな曲を毎回歌うのかね」

 

「流は戦うあたしがあんまり好きじゃない。この歌の時が一番嬉しそうだったから、この歌をあたしは歌うことにしてる。敵と戦うならまだしも」

 

「あの壊れた狂人のどこがいいのやら」

 

「全部……水球の量を増やしてくれ。次はガトリングでやる」

 

 そのあとクリスはガトリングも命中率8割以上をキープして、動き続ける的に当て続けた。アームドギアを弓に変形させて、的当てを続けたが、こちらは命中率100%をキープした。ガトリング弾も弓による狙撃も全て水球に向かって軌道が変わった。

 ある程度スコアが出ると、クリスはギアを展開して、ガリィに向けて一発撃って、戦いの狼煙とする。

 

「ガリィちゃんで近接戦闘の練習とか、ホントやめて欲しいんだけど。やるならレイアとかミカにしなさいよ」

 

「剣も拳も出来るのはお前だけだろ?」

 

「はぁ〜、ガリィちゃんが万能過ぎるのが悪いんですけどね〜」

 

 ガリィは他のオートスコアラーに比べて、突出した戦闘技能はないが、汎用性に優れ、近接から遠距離まで何でも出来る。

 強力な水鉄砲を発射したり、氷で高速移動する事も出来る。氷の剣で剣戟を行うことも出来るし、鏡像の水人形を作ることも出来る。

 

 今はクリスが色んな映画で近接銃撃戦を見て、それをガリィに試している。クリスの感性的にガン=カタが最もあっているので、最近はそれで何とかガリィを倒そうとしている。

 

「はい、遅い」

 

「くそっ! また勝てなかった」

 

 クリスは以前に比べて、更に動きが良くなっているが、ガリィが出現させた氷の剣で、クリスのアームドギアを手から弾き、立ち会いが一度終わった。

 

「いやいや、まずシンフォギアはイグナイトを使わない限り、基本スペックは私達の方が上なの。しかもあんたは元々遠距離攻撃が担当なんだから、負けて当たり前。少し強くなったからって、調子こいてんじゃねえよ、ぎゃははははは」

 

 アームドギアを拾っているクリスの肩を叩いて、ガリィは大口を開けてゲラゲラ笑い始めた。

 

「だけど流は!」

 

「あんな化け物と同列と考えるのはやめな。あれは記憶の焼却を使って戦ってたマスターと同じような化け物なんだよ。少し歌って踊れる程度で張り合うものじゃないって何度も言ってあげてるだろ」

 

 ガリィは口悪く言っているが、キャロルや流や弦十郎などの人外と比べるのは、本当に意味の無いものだと思っているので、自分の自覚している欠片ほどしかない優しさで忠告してあげる。実際は結構優しいがガリィは決して認めない。

 

「……」

 

「あの男はたしかに強い。だけど、アルカノイズを街中に大量展開されたら、あんた達の方が効率的に殲滅できるのよ。強さの種類が違うんだって、人形の口が壊れるくらい何度も言ってやってるだろうが」

 

「……で」

 

 クリスが口を挟もうとしているが、ガリィの口の早さには勝てない。

 

「だがら、無理をして強くなろうとするのはやめろ。マスターはあの男がこれ以上壊れるのを良しとしない。あんたが無理をして壊れれば、あいつはそれ以上に壊れる。いい? あんたはイグナイトを使って、得意なレンジを使えば私達だって倒せるんだから、無駄なことを考えるのはやめときな」

 

「……わかった。ごめん」

 

「あんたの謝罪は聞き飽きたわよ。さあ、対価を払え」

 

 

 今回は了子の要請により、彼女のマスターであるキャロルに頼まれて、ガリィはクリスの特訓に付き合っている。

 クリスが銃弾を曲げるという想像の助けを作ったのがガリィである。水で銃弾を作り、力の作用の方法から、物理学やその他の錬金術以外も使って、理論的にクリスに教え込んだ。そのせいでクリスは少しだけ、属性水の錬金術を理論的に知ったが、それを術として行使するには、まだまだ時間がかかるだろう。

 

 もちろん了子も教師役を担ったが、ガリィは性根が腐っているが、世話焼きな面もある。今まで手の掛かっていたミカは改造によって、手を装着できるようになり、活動に必要だった想い出は別のリソースになったことで、拠点へ戻ればいくらでもエネルギーを補給できるようになった。

 今までお世話で手が掛かっていたのに、いきなりそれがなくなり、手持ち無沙汰になっていた。そんな時にこの教師役を任されたので、ガリィは無意識に楽しみながら任された仕事に励んでいた。本人は絶対にその事は認めないだろうが、他のオートスコアラーはその意見で一致している。

 

 クリスはガリィに頭を一度下げ、シャワーなどの身だしなみを整えたあと、朝飯の続きを作って、リビングのテーブルに並べた。

 

「……ふぁ〜、おはよう。クリスは朝から元気ね」

 

「おはよう了子。出来てるから早く座れ」

 

「はいは〜い。じゃあ、頂きます」

 

「頂きます」

 

「ふん」

 

 了子とガリィとクリス。最近よく見る不思議な組み合わせで朝食を食べ始めた。ある程度食べ進んだ時、了子は毎朝言っていることを口にする。

 

「……それにしても、クリスは行儀よく食べようと思えば、食べられるのね」

 

 クリスは物をこぼさず、お行儀よく朝食を食べている。今の姿を見れば、スパゲッティーを散乱させて食べる人間には見えない。

 

「だから、あたしのパパとママは世界的に有名なアーティストだっただろ? その娘が最低限のテーブルマナーが出来ないわけが無い」

 

「テーブルマナーを捕虜時代が長くて、忘れてた人には言われたくないわね」

 

「しょうがねえじゃねえか。クソッタレな環境で必死に生きていくうちに、日本での生活が希薄になっちまったんだから」

 

 クリスの両親は世界的に有名な音楽アーティストだ。その子供であるクリスがマナーを教えこまれていないはずがない。だが、現実にクリスは汚い食べ方しかしていなかった。

 これはバルベルデでゲリラの捕虜になった時、苦痛を長く覚えておかないように、クリスの防衛本能が記憶を希薄にするということを行っていた。あまりにも嫌な事や苦痛な事を覚えないようにしていたら、日本での細かい事柄まで一緒に忘れてしまった。そのうちの一つが食事のマナーや食器の使い方だった。

 

「それは聞き飽きたんだけど。それよりもあんたってあの家でキッチンの使用が禁じられるほど、料理が出来ないってマスターが言ってたんだけど」

 

 オートスコアラーだが、食べればエネルギーに多少は変換されるガリィは、おかずをガツガツ食べながら、最近キャロルが知って、ガリィに教えたことを聞く。

 

「あー、それか。それは流に美味しい物を食べさせようと力むと、何故か爆発して失敗するんだよ。不思議だよな」

 

「……また流なのね」

 

 クリスは流が起こしてくれるから朝は起きない。流が色々やってしまうから、クリスは物覚えの良さが発揮されず、やれば思い出して一定以上は出来るようになるのに、それができるようにならない。

 

 クリスは帰ったあと、流にこのことを説明して、料理をしようとしたがやはり爆発して、流にお仕置きの尻叩きをされるのだった。

 それを聞いた了子とガリィはわかった。きっと意識的、無意識的かは知らないけど、わざとやってるんだろうなと。




弦十郎の敗北(決めてラブコール)
クリスの生まれの良さに比べて、行儀が悪すぎるので、自己解釈を挟みました。
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