戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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あまり描写されていないけど、実際はバグっている人が判明します。


#67『大概な剣と心の壁』

「おかしいデスよ! なんで修行に来たのに勉強をしているのデスか!」

 

「強くなるためにも、勉学は必要なことだからだ」

 

「でも、こんな風に教科書と睨めっこをしている間に、一回でも多くイガリマを振った方が強くなると思うのデスが」

 

「……八月の夏休みが全て勉強に追われてもいいのなら、席を立つことを許す」

 

「勉強するデース!」

 

 

 夜飯を食べ終わり、切歌はゆっくりしている時に、翼がリディアンから出された課題を持って現れた。

 

 

 切歌の修行自体はクリスや調のように、特殊な強さを手に入れた訳では無いが、鎌の振り方の基礎から学び、どう戦えばより隙が少なく、それでいて有効打が与えられるか。各武器に相対した時、どう動けばより良いかなどを感覚で学んでいった。

 基礎はひたすら基礎練習を、武器毎の対策は各武器の使い手が相手になり実戦形式で戦い続けた。

 

 ひたすら反復練習だったが、切歌はその事については一切文句を言わずに黙々とこなしていった。切歌の人懐っこさによって、各武器を使う武人の方々は、皆が切歌の事を自分の娘のように可愛がるようになった。各武人は色んな経験をしていて、休憩時間に聞くその話は非常に興味深く、面白いものだった事も大きいだろう。

 

 翼も同じように武人の方々と戦いながら、公務を出来るだけ早く終わらせて帰ってくる八紘とともに、剣の道を極めんと更なる鍛錬を積んだ。

 

 父親というたった一人の為だけに、翼は歌女としての成長を披露するために歌ったこともあった。八紘が涙で顔が濡れていく度に、翼も嗚咽が漏れ、歌に涙が染み込んだ。

 それでも八紘が「とても美しく、皆の為に歌う翼を私は心から誇りに思う」という言葉で、また年甲斐も無く翼は泣いてしまったが、その後から翼は今までと比べて強くなった気がした。心の重しが取れ、夢に羽ばたく一人の翼として、これからはどこまでも飛んで行けると思った。

 

 

「しかし、修行で唯一の心残りがある」

 

「それは私もデス!」

 

「ファラに一度も()()()勝てなかった」

 

「私はシンフォギアを纏っても勝てなかったデスよ」

 

 斬撃武器使いが集まって、修行をしているとマスターから聞いたファラは、流に折られてやっと修復したソードブレイカーやその他武装を持って、この風鳴八紘の家にやってきた。

 

「頼もう……でしたっけ」

 

 いきなり家に入ってきて、オートスコアラーが武器を掲げてそんな事を言ってきたので、一時はパニックになった。しかし命を賭けない、訓練のために剣での勝負を望んでいるだけだとわかり、翼達の鍛錬に加わった。

 ファラは単純に素のスペックが高いのもあるが、剣の腕前もなかなかなもので、ソードブレイカーを使わなかったファラにも、()()()()では勝つことが出来なかった。

 

 それが普通なのだが、オートスコアラーに生身()で圧倒した人がいたせいで、剣の技術でなら勝てるのではないか? と翼は思ったが勝てなかった。

 天羽々斬を使えば五分五分といった所だった。そのあと八紘が生身で立ち会い、一度勝利してしまったので翼はとても悔しかった。

 

「剣ちゃんのその高速移動は確かに脅威よ。でもね、それを持っていると分かれば、統計を取って分析されてしまうものよ。移動可能距離は三メートルほど、連続発動可能回数は二回、剣ちゃんは素早く動き回って翻弄するタイプだから、それを使う時の一瞬の力みで分かってしまうわ。慣れれば力まずにできそうよね。頑張りなさい」

 

 数日前まで敵であり、同じ剣を使う者にあしらわれ、的確なアドバイスを貰ってしまったものだから、翼は結構そのことを気にしていた。

 何度も書くが、キャロルが作った至高のオートスコアラーに生身で挑んで戦えている時点で、だいぶこの()もおかしいのだが、流と弦十郎と緒川に囲まれて育ったせいで、感覚が完全におかしくなっている。

 

 切歌はシンフォギアを纏っても勝てなかった。技無し、イグナイトなし、ユニゾンなしなので、最近基礎から学び始めた切歌にとって辛いものがあるが、翼がシンフォギアを纏えば勝てたので悔しさを残した。

 

「今後は打倒ファラを掲げるデス!」

 

「そうだな。生身でファラに勝つ!」

 

「そ、それはどうなんデスか?」

 

 翼は新たな目標を立て、切歌は控えめにシンフォギアを纏って、技無しイグナイトなしユニゾンなしで勝てるように目標を立てた。

 まずオートスコアラーはイグナイトのシンフォギアで戦うものであって、制限を付けて戦う奴らではないのだが、切歌もOTONAや流、翼の影響を受け始めていた。

 

 

 **********

 

 

「あと少し!」

 

 トレーニングウェアに身を包んだ調は、踏み固められた土の道をローラースケートで駆け抜けていた。左右や正面から、先が保護されている木製の武器が飛んでくるので、それをギリギリで交わし続けて前に進む。

 ゴール目の前で左右からいくつもの攻撃が放たれ、ゴールにいる緒川も木製クナイを投げてきた。

 

 調はここで全速力を出して、左右の攻撃が来る前に通り過ぎる。回避行動も取らない全速前進のおかげで左右からの攻撃は避けれたが、前方からのクナイは避けられない。

 調は今まで成功したことのない、ある術の準備をして、そのまままっすぐ走ってクナイに当たった。

 

 ポンっ

 

 その音と煙が出た時には、トレーニングウェアの上着を脱いだ、上半身が下着姿の調はゴールしていた。クナイが当たった場所を見ると、トレーニングウェアが落ちていた。木材なんてものは本当のNINJAではないのでない。

 

「緒川さん出来た! でも、最後のあれは聞いていない」

 

「調さんは【川蝉の術】のやり方は会得していましたけど、最後の最後でうまく発動ができていませんでした。ですので、ギリギリまで追い込んでからの不意打ちで、その最後の一歩を踏み出してもらったんですね」

 

 緒川は説明をしながら、調が川蝉の術に使ったトレーニングウェアを拾い、彼女の肩にかけてあげる。

 ゴールにいる緒川は何もしないと言っていたのに攻撃をされて、調は少しだけ怒るが、それも自分のためだったので、それ以上言うのをやめた。

 

「……少しは強くなれたかな?」

 

「そうですね。基礎体力はもちろん、反射神経や状況判断能力は確実に向上してますね。ですけど、まだ頭に血が上ると、攻撃に意識がいってしまうのは直っていません」

 

「それは自覚してる」

 

 今は7月終盤に入ったあたりだが、まだまだ他の人達は修行を続けるだろう。しかしこの山で修行をしていた調はここを離れて、最近暮らしている流の家に戻ることになっている。緒川は弦十郎以上にやる事が多く、今までは部下に任せてきたが、自分がやらなくてはならず、すぐには帰って来れない仕事が入ったので、一足先に終わることになった。

 

 調はクールダウンをしながら、ここ二ヶ月で手に入れた力を思い浮かべる。二ヶ月みっちりやった結果、生身で使えるのが分身の術に川蝉の術、それに緒川のような瞬間移動は出来ないけど、相当素早く動けるようになった。シンフォギアを纏えば、そこに水蜘蛛の術も追加される。

 

 前に比べて圧倒的に強くはなったけど、OTONAや流、クリスにはまだ勝てる気がしない。前者の人達はともかく、想いとシンフォギアの絶唱で空間を割って流を助けた、クリスのような事が出来るようになる気がしない。

 調は切歌が居なくてもある程度の力を手に入れたからこそ、周りの人達の異常な強さも理解できるようになってしまった。

 

 そんな考えが頭をよぎっている事を悟られないように調は表情を固めるが、あのNINJA緒川に見破れないわけがなく、大体の事情は理解した。

 

 

 **********

 

 

 二ヶ月暮らした平屋の家に二人は戻ると、緒川は昼食の準備に取り掛かり、調はお世話になったこの家の最後の掃除を始めた。

 料理が出来上がる頃には掃除も終わり、調は手洗いをして台所が隣接している板間に向かった。

 

 頂きますの言葉で二人は食べ始め、調が食べ終わってからしっかり時間をおいて、緒川は話を始めた。

 

「調さんはここ二ヶ月で凄く強くなりました」

 

「緒川さんのおかげ」

 

「調さんが努力をしなかったら、私がいてもここまでは強くなりませんでしたよ。そして強くなったからこそ、私や司令、流くんなどの異常な力を持っている人と差を感じていませんか?」

 

 調はお茶を飲む動作が止まり、数秒後動きだした。

 

「ズズっ……感じてる。緒川さんみたいな綺麗な瞬間移動は出来るようにならない。司令みたいに拳でシンフォギアとは戦えない。流みたいに敵として戦った人と簡単に仲良くなったり出来ない」

 

「私は生まれた時からこうなるように育てられましたからね。司令は……いまいち分かりません。調さんが言っているのは了子さん、あの時はフィーネでしたね。それとF.I.S.の皆さん、キャロルさん達とすぐに仲良くなっている事を言っているんですよね?」

 

 調は頷いてその事であることを伝える。緒川は調の成長にも繋がるかもしれないので、そこら辺の話をすることにした。

 

「彼はなんと言いますか、人間として未熟なまま大きくなってしまったんですよ」

 

「未熟? 流が?」

 

「はい、流くんの中では多分ですけど、区別が極端なんです。好きか無関心か嫌い。この三つに分けているんだと思います。少し嫌いなら嫌いに、多少好きなら好き、凄く好きだとしても好きに分類されているのだと思います。例外は奏さんとクリスさんが例外に入るか入らないかくらいですね」

 

 調は緒川がそれをあえて言った意味がわからなかった。人の評価は色々あるけど、大体その三つに分かれると思う。

 

「いまいち分からないといった顔ですね。例えば調さんでいえば、切歌さんの事は好きですか? 好きか嫌いか無関心かで答えてください」

 

「好き」

 

「クリスさんは?」

 

「好き」

 

「流くんは?」

 

「……好き。切ちゃんともクリス先輩とも違うけど、多分そう」

 

 調もイマイチ分かっていないので、最後の答えは微妙な回答になった。

 

「そうです。人によって好きの意味が違います。好きという感情の大きさも違います。でも、流くんには多分それがありません」

 

「え?」

 

 今度も緒川が言っている意味がわからなかった。いや、言っている意味はわかる。感情の起伏がないと言ったのはわかる。だけど、それがない人間なんているはずが無い。

 

「これは彼も気がついているか分からないんですけどね。流くんの好きという想い。特に人に対するそれはどれも始めから好きだと決まっていると言いますか、好きな事が既定路線なのかもしれません」

 

「……会ってもないのに、これから初めて会う人の事を好きという事? 事前情報とかもなしに」

 

「多分ですけどね。確認できたのもたった六人だけでしたから」

 

 流が緒川と了子、翼と奏、友里と藤尭の六人と()()()会うとき、緒川もそこにいた。緒川と了子が初めてあった時、奏と翼と会わせた時、友里と藤尭が二課に来た時。その六人とは始めて会ったはずなのに、初対面の人とあった時の反応ではなかった。緒川はその変な反応を自分が受けたからこそ、それを理解することが出来た。

 テレビ越しに見た有名人を目の前で見た人の反応に酷似していた。6歳の子が緒川や了子を知っているわけがないし、まだアイドル活動を行っていなかった翼を知っているはずがない。

 

 緒川の言葉を受けて、調は流の行動を思い浮かべた。すると、一番始めに疑問に思ったことを思い出した。その後勢いと空腹を満たしたことで忘れてしまっていた。

 

「……流は始めから、私がおさんどんを担当している事を知ってた」

 

「始めからというのは、調さんと始めて会った時の事ですよね?」

 

「そう。私のシュルシャガナも切ちゃんのイガリマも、作戦の要のネフィリムも神獣鏡も取られたあと、()()()()がお腹を鳴らして、脅迫しているのに夜ご飯を食べることを提案してきた。その時流は私がおさんどん役だってことを知ってた。事前に色々調べてたみたいだけど、こんな事は調べてもわからない」

 

 流がナスターシャと調と切歌を脅していた時に、お腹を鳴らせたのは切歌ではない(調な)のだが、その事実は闇に消された。遠くでデースという叫び声が聞こえたかもしれない。

 

「そんな感じで流くんは何故か知るはずもないことを知っていたりします。そしてこの知識に関して、流くんは絶対に知られたくないと思ってもいます。彼は好きに分類した人に嫌われるのを極度に恐れているみたいです。なので、調さんはこの事を疑問に思っていることを流には言わないでください」

 

「わかった」

 

「流くんは知らせる事の出来ない沢山の知識があるみたいです。ですが、それを他人に言うことが出来ない」

 

「『言えない』って言っている事について?」

 

「はい」

 

 緒川は話の流れで()()()()を話しそうになるが、それに気がついたので口を閉ざす。だが、それを流以外の人が知って、それすらも受け入れられた方が彼は色々と安定する気がする。緒川だって流の父親の一人のようなものだ。これ以上息子が人間として()()()のは見過ごしたくない。

 最近流の周りで監視しているS.O.N.G.以外のエージェントが増えていると報告が上がった。きっと流がまた何かをやっているのだろうけど、その数はあまりにも多すぎる。まるで凶悪犯罪者を泳がせているかのような数だった。

 

「本来ならこれは翼さんに話すべきなのですが、それと同時に翼さんには絶対に伝えてはいけないことです」

 

「はい?」

 

「流くんがこの事実を知られれば、皆に嫌われてしまうと思って、誰にも教えていない秘密を知りたいですか?」

 

「……なんで私にその話をしようと思ったんですか?」

 

 知るだけで流が嫌いになるかもしれない事なんて、それこそクリスや長年共に過ごしてきたらしい翼に言えばいい。その翼には言えないようだが。

 

「クリスさんは依存していますから、それを知っても判断しません。翼さんには言えない事情があり、了子さんが知れば多分本気で怒ってしまいます。司令も同じですね。私も結構怒っていますけど、流くんの考えは分かるので介入をしません。何故調さんなのかと言うと、流くんと同じように心の壁がくっきりとあるからです」

 

「心の壁?」

 

「調さんは切歌さんとは特に仲が良いですよね。マリアさんとも仲がいいですが、それでも『愛のユニゾン』を発動させる事が出来ませんでした」

 

「出来ない。切ちゃん以外とはうまくいってない……切ちゃんとも聖遺物の繋がりがなかったら、本当にできるか分からない」

 

 山篭りの時、始めに決めたペア以外とも何度か組まされた。その時に響と未来が発動させた『愛のユニゾン』が出来るか調べていた。響や切歌などの特に人懐っこい人は調を除く全ての人と出来た。切歌の場合は『愛のユニゾン』ではないので除外。

 翼や未来などの色々硬そうな人も、全員ではなかったがユニゾンができた。だが、調だけは誰とも出来なかった。マリアとクリスが惜しいところまでいっていたが、それでもユニゾンの共鳴まではいかなかった。

 

「この考えはある宮司さんより頂いたものですけど『心の壁』というのはどんな人にもあります。トラウマや心の闇なんかがそれになるらしいです。調さんは切歌さん以外とは一歩引いてますよね? 流くんは除くとして」

 

 流はそんな壁を無理やりすり抜けてくる人なので、除外しないと話が進まない。

 本来の調ならここで口を閉ざすだろう。しかしここ二ヶ月で築き上げた緒川の信頼によって、調は固く閉ざしていた口を開いた。

 

「F.I.S.の皆を助けるために、マリアの妹のセレナさんは命を落とした。その後マリアと仲良くなったけど、私達はマリアの妹さんに助けられた命」

 

「引け目、ですね」

 

 調は小さく頷く。

 

「二課の人達もそう。流が強引に私達の計画を壊してくれなかったら、きっと戦っていたと思う。酷いことも言ったと思う。私達の行動は正しかったはず、でも沢山の人が死んだだろうし、世界的には間違っている。例えフロンティアを起動出来て、月の軌道を戻せても、私達は犯罪者だった。流がマリアを説得する時に言ってたけど、実際にネフィリムを育てる聖遺物も足りなかったし、お金も全然なかった。もし流がいなくて私達が世界を救っても、犯罪者として最終的には捕まってた」

 

「そんな引け目があるからこそ、調さんは皆さんに一歩が踏み出せないという事ですね」

 

「踏み出すのが怖い。切ちゃんもいつか愛想を尽かしちゃうかもしれない。私は人と合わせるのが苦手だし、狭い範囲でした物事を考えられない」

 

 考えれば考えるほど、調はドツボにはまっていきそうになる。

 

「でも、その壁があるからこそ、流くんが調さんと仲良くしようとしていると言われても、気分を落としますか?」

 

「……え? 他人を拒絶する壁があるから、流が仲良くしたい?」

 

「そうです。私もこれは教えるべきではなかったと思っているのですが、流にキャラの切り替えを教えたのは私です。ですけど、それがあんな風に作用するとは思いませんでした。流は自分の中の壁には絶対に触れられたくないんです。中を覗かれたら嫌われると思っていますから」

 

 緒川は眼鏡を外して、修行をつけた忍者緒川として、自らのやってしまったことを悔やむ。

 

「一定距離を私が取っていたから、流はどんどん近づいてきてくれたってこと?」

 

「私が見た限りはですけどね」

 

 流は物理的にも精神的にも、どんどん人のプライベートスペースに踏み込んでくる人……だと思っていた。だけど、緒川はそうは思っていないようだ。

 流があの家に住んでいる人に触らせないのはフライパンだった。でも調はその許可を貰った。あれが心の壁に関係しているのかも……そこでもう一つフライパンの贈り主の天羽奏が関わっていて、絶対に触れることを許していない物があったことを思い出す。一度だけ預けられたことがあるが、それ以降触らせてもらったことがない。

 

「ガングニールの欠片?」

 

「それは少しだけ別ですね。ですが、奏さんが死んで以降、流は少しずつ壊れていっているのは確かです。流は人間がしてはいけない禁忌を目指しているようですので」

 

 調は翼の言っていたことを思い浮かべる。天羽奏と流はとても仲が良かったらしい。出会った時に奏が死んでしまうかもしれない事を言ったが、そこからすぐに仲良くなったと聞いた。助けられるだけではなく、天羽奏は流を助けることを何度もしていたようで、調は羨ましく思った。

 調はその秘密の事実を知れば、きっと流の助けになれると思った。話を聞く覚悟は完了した。

 

「……その秘密を教えて欲しい」

 

「本当にいいんですか? 調さんの中の優しい流が揺らいでしまいますが」

 

「いい。流は流。私だって人に隠している部分はある。それは流にもあって当然」

 

「わかりました。なら、これを見てください。グロテスクな映像が流れますから、我慢出来なかったら目を離してくださいね」

 

 緒川は再度確認をして、調の心が決まったようなので、タブレットを取り出して、緒川が加工したある映像を流す。

 

 そこはF.I.S.の研究所のように思える白い部屋に流が立っていた。でも、その流を調は見たことが無かった。いつも笑っている流は無表情で、目の光がほとんど点っていない。目付きも鋭く、見ているだけで不安になる。

 

 そこに様々な武器を持った男性が列をなして部屋に入ってきて、列の先頭の男が頭を下げた。

 

『いいから来い』

 

 聞いただけで底冷えするほどの冷たい声を出した流も構え、先頭の男が流に本気で斬りかかった。だが、その刀を流はデュランダルな右腕で掴んで砕き、左手でその男性の顔面を()()()()()()

 肉が弾け、眼球が飛び出て、血がとめどなく溢れ、頭蓋が割れてしまった。もちろんその男は即死だった。顔に拳が当たる少し前から強めのモザイクが掛かったが、音声やモザイクの先の色で調は何が起こったのかわかった。

 

「ぅぶ…っが…ごほっげほっ」

 

 その奥に何が起こったのかを想像してしまい、調は昼飯を吐いた。一時停止した映像に映る流は表情を一切変えていなかった。

 

 

 **********

 

 

 そのあと少し落ち着いてから、一時停止されたタブレットを緒川は回収しようとして、調によって止められた。

 

「だ、大丈夫。ちゃんと見る」

 

 緒川が以前潜入して、流が翼の婚約者である事を知った。その事実は八紘のエージェントに教えることになったが、その時に手に入れたこの映像だけは誰にも見せていなかった。

 映像の流は道端のアリを踏み潰すくらいの軽い動きで、ひたすら人を殺し続けていた。表情が変わらず、処刑マシーンのように、淡々と殺し続けていた。

 

 それを見たあともう一度鎌倉に全力で潜入し、死合と呼ばれているこの殺し合いが始まった第一回目の映像から全て手に入れた。流の本性はこれなのかと思い、もしそうなら()()()()()()()()()()。流に忍術を教えた時誓わせたものの一つに、闇に堕ちたら殺すという誓いがあったのだ。

 

 だがそれは杞憂だった。第一回目の流はまだ幼く、奏と翼に会った時くらいの大きさだった。そんな子供が泣きながら、自分が会得させた忍術や武術を使って、人を殺していた。

 緒川は気がつくのが遅すぎたことを理解した。それもしょうがない事だろう。流が大きくなるまでは、鎌倉が緒川や弦十郎、了子達の行動を完璧に把握して、流を連れ出していたから、気がつけるはずがなかった。

 

 

 調はその映像を全て見終えた。

 

「……これが、流の心の壁?」

 

「流は人を殺している事実は誰にも言っていません。これだけは知られない為に、流は本気で隠密をして、それが行われている場所に行っていたんです。皆さんは死というものに強いトラウマを持っているようですので、それを振りかざしている事を知られれば、嫌われると思っているようです。それで、どうですか?」

 

「正直怖い。流は頭を撫でてくれるけど、その手が握り潰しに変われば私は死んじゃう……でも、流がこんな顔を一番見せたくない私たちの前でしないで済むように、私はもっと強くなりたい!」

 

(息子)を受け入れてくれて、ありがとうございます。もしこれがバレてしまった時はお願いします」

 

「わかった」

 

 少しやつれた顔で調は緒川の言葉に頷いた。鎌倉が流に強行手段を取るようになることがあれば、この映像はあえて流出させてくるだろう。その時に一人でもすぐに抱きしめて止められる人がいれば、きっとなんとかなる。




人外な主人公を一時期は殺そうとしていたので、そいつを殺すために弛まぬ努力をした結果、ここの翼は生身でも結構強いです。

弦十郎は意思と拳で物事が解決できる。了子は天才過ぎる。そんな中、緒川さんは様々な視点で物事が見れるはずなので、流の事は彼以上に理解しています。
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