戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

7 / 155
#7『ふらわー』

 了子(フィーネ)の手早い救援活動により二課の大事なスタッフの命は救われた。それでも全体から見て一割いかないくらいの人が死亡したが、それでも完全聖遺物の暴走に巻き込まれてこのくらいなら安い方だと了子は言っていた。了子の中身を知っている人なら、選別を行っただろうことは容易に想像できる。

 

 弦十郎は事件の次の日には怪我も治っていて、奏の死やネフシュタンの鎧が消えた事などを正式に国へ報告することになった。

 

 イチイバルの時のように責任を取らせられるのか? と生き残ったスタッフ一同が思ったが、弦十郎ほど戦力があり尚且つ権力がある人物はいないのでそのまま続投となった。お上方の人々も色々手を尽くしてくれたらしい。

 

 更に私立リディアン音楽院の地下の整備及び人材補給もしていて、藤尭朔也や友里あおい、高速フラグメイカーと温かいものどうぞの人なども加わっていた。

 

 翼は奏の死んだことによるショックで、アイドルの一時休止を発表した。それに伴い、緒川はスケジュールや各社への謝罪と賠償を主に動いていた。

 

 

 

 奏の葬式は人気アイドルには似合わない、小規模なもので執り行われた。流は翼と会わないように時間をずらして行った。

 

 

 

 流は葬式の時以外は、睡眠すら取らず動き続けていた。奏のシンフォギア、ガングニールの欠片を首に下げて奔走している。

 

 まず始めに行ったことはハッキング。

 

 アニメでは響がたった一人の生き残りみたいな公表をされ、世間にとても酷い仕打ちを受けた。今回は奏が絶唱を歌うのが早かったのか、別の要因があったのかは定かではないが響のように特異災害補助金が出る生存者は数名いた。

 

 アニメと同じくマスコミはただ一人だけの生存者みたいに奇跡の数人などの煽り文句でバッシング炎上をしようとしていた。

 流は了子に頭を下げて、共にマスコミのデータベースにハッキングしデータを削除して回り、政府からもこんな通達が各マスコミへ秘密裏に出た。

 

『まさか特異災害の被害者について書きませんよね?

あなた方の住む街で特異災害が起きても、こちらは簡単に動けなくなってしまいますが……』

 

 なんていう圧力が掛けられ、マスコミは詳細を全く記載しなかった。

 言論の自由などを叫び、個人ブログで詳細をアップしようとした記者が意識不明で発見された事により、マスコミの中ではアンタッチャブルな案件とされた。

 その事件の次の日、流は天井で正座をさせられていたようだが、記者襲撃の犯人は特定されていない。

 

 

 

 報道規制を掛けたとしても、被害者の周りの人達は何となくわかってしまう。案の定、立花響は周りに虐められ、他の生存者の一部も同じようなものを受けていた。

 流と二課のスタッフ数名は、虐めをしている人物をリストアップし、その御家族の家に訪問した。

 

「ご家庭のお子さんが特異災害に関する情報をご存知のようですが……それは箝口令が敷かれ、口にするだけで罪となるものです。存じ上げておりますよね?」

 

 などと脅しをかけ、一切口にしない事を契約した。

 これも同じように、契約したのにも関わらず、虐めたお子さんのいるご家庭には遠方へ行ってもらった。

 きっと栄転なのだろうと流は思うことにした。

 

 

 そんな感じに響や未来(みく)の生活圏内で活動をしていた流はまともな食事を取らず働き詰めだった。そんな時、移動経路として使った商店街の一角からとてつもなくいい匂いがして立ち止まる。

 その匂いがする方にフラフラ向かうと、お好み焼き屋があった。

 

 お好み焼き『ふらわー』。

 アニメでは響に元気がなかったり、なんやかんや理由をつけて通っていた、とても美味しいお好み焼きを出してくれる店らしい。

 

「……行っていいと思う?」

 

『腹が減っては戦は出来ぬって言うだろ? なんであたしに一々聞くのかね』

 

 流は首に下げているガングニールの欠片に話しかける。すると彼の言葉に答えるように流の視界では隣に奏が見え、その奏が答えた。

 アニメでは風鳴翼が発症していた、奏が近くにいると思い込み、妄想を作り出すのと同じような現象が風鳴流にも発症していた。

 

「なら行くか」

 

 流は奏が死んでから始めて、自ら食を求めて行動した。

 

 

 **********

 

 

「今やってます?」

 

「やってるよ。好きな所に座ってちょうだい」

 

 昼を少し過ぎた辺りだったので、やっているか心配したが、問題なく食にありつけるようだ。ふらわーはおばちゃん一人で切り盛りしている。その人の前に座り、お好み焼きの具材を何にしようかメニューを見てみる。

 

『絶対肉! 肉だ肉! 海鮮よりも肉!』

 

「……明太k」

 

『肉ぅぅ!!』

 

 頭の中に響き渡る声に屈して、流は豚肉のお好み焼きを頼んだ。目の前で焼いている間、おばちゃんと世間話に花を咲かせた。話上手で聞き上手なようで最近ただの会話という、何気ない事が壊滅していた流にはなかなか楽しい時間だった。

 

「はいよ、熱いから気をつけてね」

 

 鉄板の上を滑らせてきたお好み焼きを食べる。

 

「美味い」

 

「はは、その言葉は何度言われても嬉しいね」

 

 それだけ言うと、おばちゃんは反対を向いて仕込みを始めた。彼が静かに食べたいという思いを察したのだろう。

 

『お好み焼きはやっぱりうめえな!』

 

「……疲れてるせいかな」

 

 流が食べたよりも多くお好み焼きが削られていて、奏の口には青のりがついている。

 風鳴翼と同じ妄想の産物が食べ物を食べるわけがないので、無意識にかっ込んだのだろうと考えを放棄した。

 

 その後も妄想に妨害されながらお好み焼きを完食し、二度ほどおかわりをしてから店を出た。

 

「久しぶりに腹一杯になった気がする。そういえば栄養剤しか飲んでなかったな」

 

 店に入る前の流の顔は、焦燥していてげっそりだった。しかし、店から出た後は顔にしっかり血が通い、満足気な顔に戻っていた。

 

『腹が減ってると嫌なことばかり考えちまうもんだしな。流は一人で悩み過ぎ。翼の事だってそうだ、あたしに力がなかっただけなのにお前ら二人が喧嘩することはないだろ』

 

「わかってて見捨て……」

 

「……どこかで会いました?」

 

「な!?」

 

 ふらわーの入口前で奏と話している最中、家族とふらわーに入ろうとしている少女に話しかけられた。

 その少女はライブの被害者、立花響だった。

 

 流が驚いて動きを止めてしまっているのは響の他に母親とお婆ちゃんらしき人、それに父親がその場にいたからだ。

 響の父親、立花(あきら)。アニメでは唯一の生き残りとして騒がれ、様々なバッシングを受けた響が一番厳しい時期に逃げ出した男。アニメ三期にてOTONAな浄化をした……のだが、納得していない人も多かったと流は記憶している。

 

 響が事件で怪我をして、リハビリを終えた後には既に父親は蒸発していたはずだ。なのに目の前にいる。

 流は自分が介入して、マスコミによる炎上と周囲からのバッシングを早期に止めた結果、父親が蒸発しなかったのだろうか? と予測を立てた。

 父親が蒸発しなかった場合のデメリットも考え始める。

 

 まず二期の辛い思いは自分にもあると響が独白する所は流やスタッフが止めはしたが、数週間は周りから辛いいじめを受けていただろうから問題ないはず。

 父親の蒸発は響の闇であり、三期のイグナイトに影響が出るだろうが、あれは自分の闇、暴走要因をしっかり受け入れることが大切なのであって、闇の大きさはさほど関係ないと思うので、問題ない……はず?

 

 流は響の父親が蒸発しないと不味い理由を考えたが思い至らず、響の闇が減るだけだと結論づけた。

 

 更に、立花響がふらわーに初めて行ったのはリディアンのアニメちゃん達が誘った時だったはず。それなのに、まだ幼い響がふらわーに入ろうとしている。色々変わり始めたことを感じる。

 

「……の、あのー!」

 

「す、すまない。考え事をしていた。俺には小学生くらいの女の子の知り合いはいないかな」

 

 流は考え事をしていたせいで響の声を無視してしまっていた。すぐに答えようとしたが、保護者三人の強烈な視線に冷や汗をかき、用意していた言葉をそのまま言った。

 

「そうですか……んー?……ああ!!」

 

 保護者方も安心した側から、響は流の胸元を指さして大声をあげた。

 

「こら響! お店の前なんだから大声をあげるのはやめなさい」

 

「ごめんなさいお父さん。でも、その首に掛けてるのは、ツヴァイウィングの奏さんが付けてたオレンジ!……あの時の人!?」

 

 響に今認識されるのは非常にまずい気がした流は、胸元のガングニールの欠片を握り、響に向かって微笑んだ。

 

「……さようなら!」

 

 流は地面を壊さない程度に強く、それでいて忍術の瞬間移動も併用して、ふらわーの入っているビルの屋上へと飛び、そのまま走って逃げた。

 

『無茶苦茶不審者してたけど大丈夫なのか?』

 

「まだ装者でも無い人を巻き込むのは嫌だ」

 

 手前のビルで姿を消したと思ったら次のビルで姿を現す。瞬間移動を繰り返す流の横を追走するように奏は付いてくる。

 

『あの子の事を結構気にしてるよな? 他の被害者はおまけみたいなもんだろ。ガングニールの欠片があるからか。しかもまだ装者じゃないって』

 

「さてな」

 

『……言いたくないなら言わなくていいけど、手遅れになる前にみんなに言うんだぞ?』

 

「うん」

 

 その日、人が空を飛んでいるという通報があり、二課の壁に座って土下座をさせられ続けていた男がいた。

 

 

 **********

 

 

 流は直近でやらないといけない事をここ数ヶ月、ほぼ休みなく行ってきた。もちろん鍛錬は忘れない。

 

 時間の余裕ができたので、家のソファーに深く座り、奏が流を気絶させた後に書いたらしい、流宛の手紙、遺書のようなものを読む。

 

『おい、それを読むのはやめろ!』

 

 妄想が騒いでいるが、それを無視して手紙を一通り読み、何度も読んだせいでボロボロになっている封筒に入れた。

 

 奏の手紙には大まかに分けると三つのことが書いてあった。

 

 まず『翼を守ってくれ』ということ。翼は強いようで脆い。防人として育てられはしたが、それでもまだ女の子だから男が守れと。現状は一番嫌われてる自信のある流はどうにかしようとはしているが、会うことすら出来ていないのでお手上げ状況になっている。

 

 次に無理はしない程度に奏と同じ存在、『見捨てる存在を作らないこと』。しょうがないものは仕方が無いけど、奏のように敢えて見捨てる事はもうするなと書いてある。流もそう考えている。一般人も含めて、極力は助けたいと思っている。

 

 そして最後に『生きるのを諦めず、自分の体を大事にすること』と書いてあった。

 

 犠牲を最小限にして、尚且つ翼が傷つかないようにし、それでいて自分の命をおざなりにしない。

 

 流はそんな方法はないと思っている。もし犠牲にするとしても知らない一般人達だろうなと、初っ端から奏の遺書から考えがずれ出す。

 

『そんなもん書くんじゃなかった。翼や他の人に書いたのは正解だったけど、こいつには書くんじゃなかった』

 

 妄想の奏が騒いでいるのを眺めているとあることを思いついた。今まで何故思いつかなかったのかと疑問が浮かぶが、普通は無理なことだから、無意識に選別していたのかもしれない。

 

 流は外に出る準備をする。

 

『どこかに行くのか?』

 

「フィ、了子のところ」

 

『なんで怪しさ丸出しの黒ローブにオペラ仮面なんて持ってんだ?』

 

 流は準備の一環に、動きを邪魔しにくいローブと銀メッキの顔全体を隠せる仮面を持ち物に加えていた。

 

「多分使うから」

 

『変質者になるのだけはやめてくれよ』

 

「ならんわ!」

 

『……変なことはやめろよ? 少し寝る』

 

 奏はそういうと、流の視界からも奏は消えた。

 

「俺の妄想力は翼以上だな……行ってきます」

 

 流はボソリと呟いた後、気配を消しながら高速移動と瞬間移動を駆使して、目的の場所へ走る。

 

 

 **********

 

 

 流は自分を尾行しているエージェントを速度で撒き、都心から離れ、開発されなくなった大きな湖の辺に向かう。

 流は二つ目の貴重な特異災害対策なので安全と亡命阻止のためにエージェントが秘密裏についている。だが、緒川レベルではないと今の流を追うことは不可能なので、毎回巻かれてしまっている。

 

 迷いなく真っ直ぐある場所に向かうと、大きな建物があり、トラップやカメラを回避しつつ建物の中に入る。

 

 ここはフィーネの研究所兼自宅。了子としての家は都心部にあるが、今日はフィーネとしてこちらに向かう事を知っているので流は部屋にある椅子に座り、隠れたりせずに待つ。

 

 了子は明日から数日、外部の研究機関へ出向く予定になっている。了子のスケジュールはキツキツなので、そういうタイミングで了子はフィーネになり、アメリカやその他との仕事を終わらせているはずだ。

 ここの場所を特定した時も外部機関へ出向く時にここへ帰ってきていた。当然了子もエージェントは綺麗に撒いていた。現在了子が尾行されているのは、安全のためであるが彼女からしたら相当邪魔だろう。

 

 

 

 少し待つと、少女の声と小さい足音、それにヒールの足音が入口から聞こえてくる。

 

「どうしたんだフィーネ?」

 

「あなたはここで待っていなさい」

 

 この屋敷の中央一番大きな部屋に入る前に、二人は立ち止まった。しばらくするとフィーネのみが部屋に入ってきた。

 クリスは邪魔だから部屋の前に待機させたのかな? と考えながら、今から話す内容をもう一度確認する。

 

「あら、侵入者の癖に堂々と座っているなんて見上げた根性ね」

 

「まあね」

 

「え? あなたは!」

 

 流は現在体を覆うローブに仮面を付けているため、体格すらわからないが、その彼の声を聞いてフィーネは侵入者が誰なのかを理解した。

 

「はじめましてフィーネ。俺は……そうだな。オーディンとでも名乗っておくよ。この格好ではその名前で呼んでほしいな」

 

「……はぁ、あなたにはバレていたのね。ということは、弦十郎君達にも?」

 

「……まだ気がついてないよ。流石に判断材料が少なすぎるし」

 

 流はガングニールから取ってオーディンと名乗ったのに、反応してもらえず少し落ち込んだ。フィーネは何故かフィーネっぽい喋り方をせず、了子のような喋り方で会話を続ける。

 

「そう。やっぱりオーディンは小さい頃に殺しておくべきだったわね。もしあなたが私を殺す気なら、私は寝ずに警戒し続けないといけなくなるもの」

 

 長いテーブルの対局にある椅子を引いて、座りながら頭を抱えるフィーネ。フィーネは流が出会った頃に放置した結果、弦十郎や緒川の技術を取得し、洗脳も全く効いていない様子で頭痛を覚えた。

 

「俺はフィーネを殺したくない。実質新しい親は弦十郎父さん、それに緒川父さんに了子母さんみたいなものだからね」

 

「そう、それなら仲良くしておいた甲斐があったわね」

 

 二人は正体を隠しながら会話しているのに、時々どちらの存在も混ぜて話している。流からしたらこの格好だってする意味が無いと思っているが、クリスとの生の接触を減らすための変装だから必要だと考えた。

 

「クリスも入れてよ。可哀想だよ」

 

「……そういえば流はクリスの捜索をさせていたわね。私のところに来ることも分かっていたのかしら?」

 

「もちろん」

 

 フィーネはタイツで包まれた足をテーブル上で組み、少々考え事を始める。少しして、オーディンに重要な質問をした。

 

「オーディンは神、もしくはそれに連なるものによってこの世界に遣わされた存在なのかしら?」

 

「いいや、ただの人間だよ。飯食って映画見て鍛錬して寝てるだけのただの人間」

 

「弦十郎君とあなたは絶対に変よ。クリス、入ってきなさい」

 

 フィーネっぽさのない話し方を一度やめ、クリスを中に引き入れた。

 

「ん?……なんか凄い怪しい奴がいるぞ!? フィーネ、放っておいていいのかよ!」

 

「ええ、多分敵ではないわ」

 

 クリスは入ってすぐ黒ローブに仮面の変な奴を二度見する。その後フィーネの横に立って、いつでもシンフォギアに纏えるように構える。だが、フィーネはそんなクリスに席に座るように指示して、クリスはそれに素直に従った。

 

「フィーネはやる事がいっぱいだろうから話を進める。交渉と賭けをしないか?」

 

 先程のゆるい会話とは声の真面目さを変え、一世一代の大勝負に出た。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。