「シンフォギアが来さえすれば、どの程度『侵入者に死を与える』呪いに対抗出来るのか、情報収集が出来たというのに」
「「乾杯(なワケダ)」」
「……ふぅ、そう言ってもしょうがないわよ。シンフォギアが来るか流が来るかは分からなかったのだから」
「あの甘ちゃんが出てくる可能性の方が高かったワケダ……日本人は何故超高温熱殺菌をしてしまうのか。これのせいで
「何カッコつけてるのよ。
「虚飾と快楽を謳歌し完璧な肉体の私が、快楽の一つである飲酒が出来ないなんて事はないワケダ!!」
「痛っ、もうはいはいそうね。ごめんなさい。ただ好みなだけだものね〜」
「それでいいワケダ」
サンジェルマンは今回の『アレキサンドリア号事件』で得た情報を纏めていた。今回の豪華客船の特異災害はパヴァリア光明結社のサンジェルマンが起こした事で、了子が見たスフィンクスは黒いモヤな呪いの元凶ではなく、その奥にあったツタンカーメンによるものだった。
スフィンクスにも概念付与をされていて、元々持っている『王の偉大さを示す存在』と『怪物』という二つの印象を力として動き出していた。
ツタンカーメンという王を守るスフィンクスと、ツタンカーメンの墓に入り込んだものを殺す呪いという二つの力があの場にはあった。ツタンカーメンの言い伝えは、墓を荒らしたものに死を与えるものだが、ツタンカーメン自体の力で人が死んだ訳では無い。そういう考えが、伝承が、お話が広がってしまって、墓を荒らせばツタンカーメンの呪いで死ぬという属性を得たのだ。
了子がバルーンと言っていた存在は、ツタンカーメンの呪いに姿を与えたものだった。
今回の実験は神の構成実験の内の一つであり、満足のいく結果を得られた。もう少し欲を出すのなら、シンフォギアの力を測りたかったとサンジェルマンは思っている。
あれは必ず脅威になる……もちろん
一方カリオストロとプレラーティはサンジェルマンが仕事をしている横で、グラスに赤いワインと白い牛乳を互いに入れ飲んでいる。カリオストロがワインで、プレラーティが牛乳。
カリオストロがカエルの真似をしてゲコゲコ言ったせいで、カリオストロはけん玉で頭を叩かれていた。
「……少し術式の修正を手伝って欲しいのだけど」
「疲れてるからパス〜」
「シャトー建造のあとから全くやすめていないワケダが?」
「そうね。ごめんなさい」
サンジェルマンは少しだけ寂しい顔をしてから、また作業に戻ろうとします。
「……もうしょうがないわね。でもその前に」
「待ちなさい。な、なんで引っ張る!」
「大局で緊張しっぱなしは失敗するわよ? 詐欺でもそうだったしね」
「快楽に耽させる時も緊張していては痛いワケダな」
カリオストロとプレラーティはサンジェルマンの元へ行き、彼女の手を無理やり取って、今まで飲んでいたソファーまで連れてきた。
「いきなり何を言い出す!」
「いいからいいから。はい、私のとっておきをあげるわ」
「その次は私のとっておきが待っているワケダ」
新たに持ってきたグラスに、カリオストロが記念に取っておいたワインを開けた。その製造日はちょうどカリオストロがサンジェルマンに救われた年が書かれている。その事にサンジェルマンも気がつく。
「……いただくわ。これが終わったら手伝ってもらうわよ? 有耶無耶にしようとしているようだけど」
「わ、わかってるわよ? ささ」
「ワインはそういう時ズルいワケダ」
「何とかプレラーティが救われた時のワインも取ってあるのよ? 弱くてもいいから、この戦いが終わったら三人で飲みましょう」
「……しょうがないワケダ」
そのあと牛乳を飲まされたサンジェルマンは仕事に戻ろうとしたら、カリオストロにさらに注がれ、何度もそれが繰り返され、今ではソファーでぐったりしている。
「流石に飲ませすぎなワケダ」
「たまにはいいじゃない」
「ううっ……カリオストロ、プレラーティ、これだけは今伝えておくわ」
飲みすぎてソファーでぐでっとしているサンジェルマンは、二人の手を引き、近づけて話し始めた。
「なあに?」
「ソロモンをアダムへの切り札と考えるならば、シンフォギア装者を殺してはならない。カリオストロはそう言ったわね」
「ええ。彼は身内が傷つけられたら、多分こちらが何人か死ぬまで止まらないわ。あれは私達以上に狂ってるもの」
「ならば、殺さなくてもいい。でも、絶対に壊さないといけないものがある」
「それは?」
「風鳴翼の持つ
二人はサンジェルマンの顔を見て、しっかり頷いたのだった。
**********
「……連絡入れたのに、ファラは行かなくていいわけ?」
「はい。あそこにはフィーネが居ますから、私はいても居なくてもさほど変わりはないでしょうし」
「そう。でも暇よね。最近はマスターを煽っても受け入れちゃってるし、せっかく自由行動が認められてるのに街に出れないなんて、暇で死んじゃうってのよ」
「そうですか……」
今ファラとガリィはS.O.N.G.の潜水艦の中の一室にいる。ここはキャロルに与えられた研究室なのだが、ファラはテレビの前で正座をしていて、ガリィはソファーに寝っ転がって漫画を読んでいる。
オートスコアラーはキャロルが懐柔される前に暴れたので、まだ街に出る許可が下りていないのだ。
「……ファラ、私の話聞いてないでしょ?」
「すみません。映画を見ているもので」
「まーたSAMURAIとかNINJAが出てくるやつ? 飽きないわね」
「ここの司令はあの流よりも強く、流もその司令も映画を見ることによって強くなったと聞きます。映画を視聴して強くなる統計は一切ありませんが、風鳴弦十郎、立花響、風鳴流。それにあの剣ちゃんもそうだったらしいので、それに私もあやかろうかと」
ファラはテレビから適度に離れ、座布団の上で正座をしている。その横にはお茶と煎餅が置いてあり、時折それを口にしている。
翼の2ヶ月鍛錬に参加した時、八紘に錬金術師から見た国防上の欠点を質問された時に出された煎餅が、予想以上に美味しく、風鳴八紘に協力する代わりに定期的に送ってもらっている。お茶も一緒に送られてきている。
ちなみに今ファラが見ているものはNINJAの映像だ。『イヤーッ!』という忍者シャウトが聞こえている。
「剣ちゃん? ああ、風鳴翼のことか。まだその呼び名を変えてないのね」
「ええ。剣ちゃんが私に生身の状態で剣の実力で勝てれば名前呼びにする約束ですので」
「……は? いやいや、それは流石にゲームとして成り立ってなくない?」
ガリィの予想では、立ち会っただけでファラが翼の事をナマス切りに出来るのではないか? と頭に浮かんだ。
「そうでもないですよ? 剣ちゃんはあと数年すればその域まで達しますわ。環境がおかしいですからね」
「……ねえ、それって人間としてどうなのよ」
「異常ですわね。風鳴弦十郎も風鳴流も。緒川慎次はまだ忍術を使っていますから分かりますが、ソードブレイカーを素手で破壊するなど本来なら。更に風鳴翼の成長速度も人外の域ですかね」
「クリスもそんな感じだったわね。錬金術の考え方をすぐに理解して、理論的に自分の戦い方に組み込んでいたし」
二人はここの人達がおかしいことに気がついていたが、異端技術なんてものがある時点で、自分のおかしいは他人の常識の可能性がある。だが、ここの人達は変なことをしていないのに、異常な速度で強くなっている。何かがあるのかもしれないと思った。
「……それでガリィは何を読んでいるのですか?」
「快傑☆うたずきん! って作品」
「情報操作によって作り出されたプロパガンダを目的とした作品でしたね」
「そう。世間ではこれが流行ってるって、本屋で聞いたから買ってきたのよ」
「そうで…………ガリィ、あなたは宝物庫の中と流さんの家とフロンティアと潜水艦以外の場所にも行っていますね?」
そうでなければ本屋で聞いたなどと口から出るわけがない。
ファラがガリィをじーっと見始めると、ガリィはそっぽを向いて、ファラが隠している煎餅の箱を開けて食べ始めた。
「ガリィ、久しぶりに勝負しますか? それは私の報酬であり、貴女が勝手に食べてはいけないものです。名前も書いてあります」
「いいわよ? 私が勝ったらあんなが貰った全ての煎餅を貰おうじゃない!」
ガリィがゲスそうなニッコリ笑顔を浮かべてから、ソファーから立ち上がった。
「なら、ガリィが渡されている金銭の全てを頂きます」
「はぁ!? 掛け金が釣り合ってねえだろ!」
「いいえ。風鳴八紘に頂いているこの煎餅はそれだけ高価なものですよ?」
「マジ?」
「大マジです。さあ、ここでは不味いですので、フロンティアに行きましょう」
「いいわよ。乗ってやろうじゃないの!」
ファラとガリィはテレポートジェムを使って、フロンティアに行き、壊れない程度に戦ったのだった。
なお、勝負はファラの圧勝だった。ガリィ曰く、あんなの使うとか始めから言えよ! との事。
ちなみにここには居なかったミカはノイズ達と遊んでいる。今はボードゲームをやっているだろう。粘液を吐き出すノイズとタコノイズとアイロン手ノイズに混ざっている。
レイアはトンファーの動きをノイズに教えている。この前コイン打ちを覚えたノイズを弟子に見立て、自分の力を教え込んでいた。
**********
流が夜に呼び出された事は、翼も流も言わなかったがすぐに皆にバレた。
クリスは流があの場から消えた瞬間に違和感を覚えて起き上がってしまったり、調は気配が一つ消えたことに疑問を持ち、同じように起きた。
切歌も動き出した気配に少しだけ睡眠が浅くなり、目が覚めてしまっていた。
響と未来は仲良く寝ていたし、キャロルとエルフナインは疲れているので気が付かなかった。うつ伏せに寝ていて胸を触られたマリアも同じく、クリスが問い詰めるまで気がつくことは無かった……流が行ったあと、潰れている胸が気になって、ある青い音符のような髪型をいつもはしている少女も触り、自分との差に戦慄した。
「私はもう高校を卒業したのに
マリアの元へ移動した時、ほかの人の体に掛けているシーツの盛り上がりにも気がついてしまい、更に少しだけ、ほんの少しだけ落ち込んだ。最近の翼は少しだけ乙女だ。
流は勝手に戦いに行ったことのお仕置きを受けてた日から数日経った。明日にはこの無人島を去ることになるので、少しだけ流は自分の新しい力を披露することにした。
とりあえず一番手加減が効く拳を使う響に相手をさせる。響はシンフォギアを纏って、皆から少し離れたところにいる。
「いい? 絶対に本気では殴らないでね? 死んじゃうから」
「わかってますって! 修行で手加減の仕方も心得ていますから!」
「映画か」
「映画です!」
それなら大丈夫だと流は安心してから、バビロニアの宝物庫からグレープノイズを呼び出した。
ピコっピコっ
「……え? ノイズ一体ですか?」
「ああ、ノイズ
響が驚きの声をあげるのもしょうがない。流が割と強い仲間を呼んだと言っていたのだから。ワンコネフィリムよりは弱いが。
明るい紫とピンクの色をしたグレープ爆弾を投下出来るノイズは、響の前に行き
「なんでノイズがお辞儀なんてしてるデスか!?」
「教え込んだ」
「いやいや、教え込んだって、ノイズには意思もなんもないんじゃないのかよ!」
切歌が質問してクリスが言っていることは基本的には事実だ。まず流も何故ノイズに意識のようなものがあるのかが分からない。
ミカとよく遊ぶノイズはミカがシャトーに行くと、彼女の周りに集まる。いつもミカを乗せている飛行型ノイズはいつも同じ個体で、ミカが言うには勝利した報酬なのだとか。
流はただネフィリムのように、ノイズにも何回も話しかけていただけなのだが、原理の解明は出来ていない。
解明はしていないが、ノイズ達はミカを焚き付けてヤントラサルヴァスパを使って、宝物庫内をシャトーでドライブをするのはやめて欲しい。宝物庫に入ったらシャトーがなくてキャロルが泣きそうになっていた。
「それじゃあ、響はある程度手加減して戦ってね。攻撃力を抑えるだけでいいから」
「ほ、本当にいいんですか?」
「大丈夫だ」
流の言葉に合わせるようにグレープノイズが頷いた。ノイズがノイズらしくない行動をするたびに、ギャラリーがキャッキャッし始めたが、女子特有の意味も無く笑い合うあれなので、流は無視する……流の中ではマリアも少女だ!
「で、では、よろしくお願いします。行きます!」
響もノイズに頭を下げたあと、ノイズに近付いて、拳を軽く振るった。威力を抑えているが、形は綺麗で速度も悪くない。体から力を抜いているので、いつものような覇気はないが、手加減はできているようだ。
響が振りかぶるまでその場を動かなかったグレープノイズは、素早く頭のグレープに腕を伸ばして突っ込み、ある物を両手で構えて、響の腕を弾き、響に軽くそれを当てた。
「……え?」
「あれはトンファー?」
グレープノイズが両手で二本持っているのは、金色のトンファーだった。
響は目を見開いたあと、少しだけ目付きを鋭くして、拳をある程度の速度で連打し始める。
それをグレープノイズはトンファーで弾いていく。
「ははははあ……あれ? なんか少しずつ強くなっているような?」
ノイズは柔らかい身体を使って、通常では無理なトンファーの動きもして、響の拳に合わせている。
響は殴り始めた時よりも、弾き返される力が増えているように感じる。
響は自らの勘でどんどん威力を上げていくが、グレープノイズはそれに合わせて、出力と速度をあげていく。すると、何故ノイズがシンフォギアの出力に合わせていけるのかがわかった。
「流先輩、もしかしてこのノイズにデュランダルを!?」
ピンクの体に少しずつ、金色と水色のラインが現れはじめた。流石にこれには他の人も顔を引き攣らせ始める。既に響の拳の威力はノイズを一撃で吹き飛ばせる力にまでなっている。
「終わり!」
流の言葉にノイズと響は動きを止めて、響が頭を下げると、ノイズも同じように頭を下げた。
戦いに巻き込まれないように離れていたギャラリーも、すぐにこちらに近づいてきて、流を囲んでいる。未来は響のところに行って、タオルや飲み物を渡している。
「どういう事か説明してもらおう!」
彼女達の中では、流が稀にノイズに乗っていたりしていたが、制御されているだけの兵器だと思っていた。なのに、お辞儀をしたりデュランダルの力を使ったり、今は自分が怒られたのかと思って正座をしている。
「バビロニアの中にいるノイズはもう人間を襲わなくなったんだよ。これは命令したことだけど、なんか色々覚え始めちゃってさ」
クリスは気になったことがあるのか、グレープノイズに近付いて、トンファーを見せるようにいうと、ノイズはすぐに見せた。
「これってレイアが撃ってたコインに似てないか?」
「正解。レイアってコイン打ち以外にも、あのコインを錬金して色々形を変えて戦うんだけど、近接メインはトンファーなのね」
「オートスコアラーがノイズに教えたってこと?」
調の言葉に流は頷いてから話を続ける。
「ノイズって得手不得手があるみたいで、こいつ以外はレイアの教育についていけなかったんだよ。で、こいつはレイアのコイン打ちからトンファーも習得して、こんな感じになった」
周りは言っていることの意味は理解できるが、やはり理解しきれないのか頭をかしげている。
「それはいいわ。なんでデュランダルの紋様、流の腕とかと同じ模様が、ノイズに現れたの?」
「ノイズってとても弱いよな? 小型とかはみんなは一撃で倒せる。あれは保有エネルギーが少ないからなんだよ。だから、俺は斬られた腕を回収して、それを欠片にしてノイズに与えた。そうだね、
マリアも翼も、聖遺物には適性があるのに、どうやってノイズに適合させたのか。なんで腕が斬られているのか。まずノイズを無駄に強くすることへの忌避感などで色々複雑そうにしていた。
そんな中一人だけで笑顔になっている人がいた。
「超強化……かっこいいデース」
天羽々斬って神殺しまくってるよね? と思い書きました。あと魂を壊すイガリマは実際ヤバすぎ。フィーネのリインカーネーションを終わらせたわけだし。
Dノイズはヴァルキリーズサマーの欠片を取り込んでいたノイズからアイデアをリスペクトさせて頂きました。