国連のエージェントだとバレてしまうような物は、全て宝物庫に入れてバルベルデの隣国に到着した。
そこで移動式仮設拠点の車を錬金術で出現させ、隣国の軍隊が秘密裏に作った密入路で、バルベルデに潜入する。侵入するまでに一日掛かったが、隣国も色々混乱していて、情報交換に時間が掛かったのだ。
その間に全員で人間が戦車と戦う映画や、軍事兵器と戦う映像を視聴し、その動きを習得した人たちは頭の中でシュミレーションをしながら動いている。弦十郎や流は既に習得済みだったので、軽く手合わせをして動きを確かめあった。
既にバルベルデは反乱が広がっていて、数日前までは内部で隠蔽されていたアルカノイズも、よく見られるようになったらしい。
侵入してまず初めにやらなければいけない事は、流達が侵入した隣国に一番近い軍事拠点の制圧だ。ここを落とさない限り、密入路しか使えず、S.O.N.G.はともかく国連が人を大型ヘリで送ることが出来ない。
戦闘力だけならシンフォギアでも十分だが、一般人の救助から食料配布、医療やその他の施設などが必要になるので、ここは今すぐにでも奪取しなければならない。
弦十郎と了子が作戦を立て、機動力のある翼と調が敵の前まで一気に突貫してかき乱し、後詰で他装者が突入という作戦になった。
「……は?」
そこには流が含まれておらず、流は若干厳つい顔をしだす。
「流は駄目よ。あなたは一応日本が貸し出している扱いなの。この作戦はS.O.N.G.が成功させないといけないから、流の力を使うのは駄目なのよ」
流はS.O.N.G.と行動しているが、所属自体は日本、そして鎌倉という事になっている。今回のバルベルデ制圧作戦は国連が議会を開き、可決されたものなので、国連の力でやらなければいけない。この始めの一回だけは絶対に国連は譲れないようだ。
この
だが、流は装者達をノイズや、百歩譲ってフィーネや装者や錬金術士などの異端技術行使者なら許せるが、ただの軍人と戦わせることには反対だ。
シンフォギアの鎧は体を覆っていない顔なども、ある程度は保護してくれるが、もし万が一遠距離スナイプを目や口の中に防御をせずに受ければ傷つく。
「まあ、流はゆっくり温かいものでも用意して待ってな。あたし達が軽く倒してくるからさ」
「そうですよ! 私達だって戦えますからね!」
クリスと響の言葉に曖昧に頷いて、流は友里や藤尭の仕事を八つ当たりをするように、めちゃくちゃ進めた。
『自分でクリスに言ってただろ。戦いたいなら戦えってさ。あの子達がそれを選んで、しかも流は戦っちゃいけないんだから我慢しろ』
『そうですよ。お姫様抱っこして、ほぼ口説き文句を言った時に、奏さんを頑張って止めてたのは私なんですよ?……褒めてください』
クリスを元気づける時に全く出てこなかった奏とセレナが姿を現した。どうやらあの時セレナが止めていてくれたようだ。
流はセレナの頭を優しく撫でながら、セレナへの感謝の気持ちを耳元で囁く。こうした方がいいとクリスが読んでいるアダルティーな少女雑誌に書いてあった。
前に響がどんな内容かわからずに読んで、未来の元へ逃げていった時に放置されていたので、少しだけ開いている所を読んでいた。
『は? キレてねえよ! ただ生きてる奴に好意をそのまま口にしてるのは、初めてでびっくりしただけだ!』
『……え? そんな事言った?』
『あれはどちらかと言うと、元気なクリスさんの方が好きと言っただけですよね?』
『そうだが、流はそういう言い方でも好意を口にしないからな。あたしが生きてた時だって、言われたことねえし』
『はは、まさか』
流だって好意の一つや二つ口にしているはずだ。いつもの片翼ジョークかと思ったが、どうやら奏の表情からして違うようだ。
『今後は善処します』
そのあと相手基地に向けて宝物庫のゲートを開いて、内部情報などを全て筒抜けにし、シンフォギアの推定防御力を計算する。敵の兵装から、攻撃に使えるものまで全てを丸裸にして現在の7人なら傷つかないことを、流とエルフナインと了子が確認した。この間僅か数分である。
「じゃあ、みんな行ってらっしゃい」
「お昼ご飯は日本食がいいデス!」
「わかった、用意しておくよ」
「……食材なんて持ってきていたかしら?」
装者達は二手に別れて、隣国に一番近い、対空設備のある軍事基地へと向かった。
**********
「……刻んだ大根とネギ取って。切歌はこの前えびの味噌を入れた味噌汁で騒いでたし、それは作った。鮭にご飯に味噌汁と、後は適当に品目数を多くして……あー、マリアが結構好きなフルーツトマトも添えるか」
「ねえ、パパって戦争をしに行ったんだよね?」
「ただアホどもを懲らしめに行っただけ」
「なら、なんで
流は今、装者達の戦闘を
流の視線の先には、バビロニアの宝物庫へと繋がるゲートが複数開いていて、各視点から戦闘を見守っている。
厳重な監視体制ではあるが、この戦闘が始まった瞬間、流はそこまで心配しなくて済んだ。流は聞いていなかったのだが、弦十郎は出ては駄目だが、NINJA緒川は止められていないので普通に出撃している。アルカノイズがいるのに、瞬間移動で兵士の背後を取り、首へ手刀で気絶を繰り返している。アルカノイズという、人類を殺戮する為だけに作られた兵器を改造して作られた存在なのに、それにすら緒川は気配を掴ませず、装者が手を出しづらい相手を気絶させ続ける。
「そりゃないと不便だからな。俺はまだ状態を保存したまま、錬金術の陣に物を入れる錬金術は習ってないし」
「だから、なんで王座の間なの!? シャトーにはたくさん部屋はあるよね? パパにもいくつか部屋をあげたよね? なんでここなの!」
「俺ってあんまり趣味ないんだよ」
流はいきなり語り出した。
「え? そうだね。家事をして鍛錬して家事をしてる感じだもん」
「翼とかマリアの追っかけをしてるけど、この前は特装版とかの一式を翼に貰ったから並ばなくて済んでるし。それでもう一つの趣味と言えるものは」
「鍛錬?」
「違うから!」
どうやらキャロルにとって流は、体を虐め抜く事に快楽を得ている変態だと思われていたようだ。思いっきりキャロルをくすぐってお仕置きをした。
「俺の趣味は料理なんだよ。で、家ってキッチンは広いけど、料理の機械って色々あるじゃん?」
「……げホッ、そうだね。窯とかあるもんね」
キャロルの視界の先には、レンガが積み上げられているのが見える。レンガが置いてある場所には、丸いレンガ釜を設置する為の設計図が書かれている。
「そういったのを並べるにはここが最適だったのよ。ガリィとファラとレイアとミカには許可を得たよ?」
「パパと私の部下が私に無断で城を改造する! どういうことだ! レイア!」
キャロルは無理やりオートスコアラーに仕掛けている術の一つである、強制帰還を発動させてレイアをこの場に呼び出した。
「今は弟子を育成中です。いきなり呼び出されては……何でしょうマスター」
最近オートスコアラーは自由意志を多く持ち、それ故に自分の時間を侵害されたため、レイアは少しだけ文句を言っていたが、キャロルが涙目になっているのに気が付き、膝をついて頭を垂れる。
流をパパと言い、私をいう一人称を使う少女のキャロル・マールス・ディーンハイムと、錬金術師としての残酷さや考えを残している錬金術師キャロル。その二つをキャロルは切り替えている。それ故に少女の方は割とチョロ化しているため、涙目になってしまった。
「なんでパパにこの場所を使う許可を出した!」
「マスターは流にシャトーの所有権を譲渡しましたよね? ですから、宜しいのかと思いまして」
「……あっ!」
このシャトーを動かすにはヤントラ・サルヴァスパが必要だ。そのヤントラの持ち主は流であるし、別に追い出されるわけでもないので、流が欲しいと言ったから渡していたのだ。
あとヤントラ・サルヴァスパは流の物ではなく、竜宮に保存されているはずの国連及び日本の所有物だ。そのどちらも解析ができず放置しているので、偽物と本物の見分けがつかず、そのまま流は借り受けている。多分死ぬまで借りるだろう。
「はい、解決……レイアは料理出来たっけ?」
「私に地味は似合わない」
「カッコつけても出来ないだけだからね?」
「……オートスコアラーは皆出来ないはず」
「ミカは出来るよ?」
「…………」
レイアはポーズを崩して、頭を抱えこんでからどこかへ飛んで行った。ミカは戦闘のためのオートスコアラーであった時に手がなくて出来なかったことに挑戦している。
流に料理を学んで、そこらの主婦には負けないレベルにまで腕を上げた未来が、今はミカに料理を教えている。ミカは理論だとかはあまり得意ではないようだが、感覚的なことはオートスコアラーの中では一番長けているので、軽い料理ならもう出来るし、手伝いだけなら言われた通りに出来る。
「私ももう少し頑張ろう。ミカ以下は嫌だ!」
キャロルの新たな目標ができた瞬間だった。
**********
装者達の戦いは特に問題なく終わった。問題があったとすれば、敵の司令官がパヴァリア光明結社に渡されたのか、航空戦艦を召喚して装者と戦おうとした。
唯一通常状態でも空を飛べる未来が、航空戦艦の上空へ翼を運び、天羽々斬を大剣化してぶった斬った。その斬れた合間へクリスのミサイルを使って切歌が飛び、内部にいた司令官を鎖で拘束して離脱。クリスの【MEGA DETH INFINITY】によって、欠片すら残さず完璧に航空戦艦は粉砕された。
昼飯は皆に好評だったことは言うまでもない。ただキャロルが混ぜたスーパーの青臭いトマトを、たまさかマリアが食べてしまい、涙目になっていた。
現在は昼を過ぎ夜になっている。緒川達の調査班が目星をつけた場所を流が片っ端から宝物庫のゲートを開いて現地を視認し、危険物を取り扱っているか、アルカノイズを使っているかなどの確認をしていった。
そして今夜中にひとまず戦いを終わらせるために、響と翼とクリス、マリアと調と切歌と未来、流の三チームに分かれることになった。
未来が響と一緒ではないのは、航空戦力が足りないからだ。クリスは対空が完璧でミサイルに乗れば飛べる。だけど、二チーム目はそんなことは出来ないので、未来が渋々そちらに付くことになった。
「待って、分かれてない」
「そうね。それでは二チームと一人になってしまうわ」
「いや、これでいいんだよ。俺は装者と共に戦ってもほのんど支障はないけど、位相差操作を今回は使って、無理やりアルカノイズを操る杖を奪う気だから、調律があると不慮の事故があるかもしれない。だから、単独の方がいい」
「それなら仕方ない。皆は準備をするように」
流の言葉に翼が少しだけ食い気味に反応して、ブリーフィングが終わった。クリスは響に連れられて無理やり部屋から出ていった。
「嘘つきねぇ」
「何がさ」
「ノイズを使う気でしょ? 炭素化を一切せずに、ノイズを軍隊的に利用するつもりでしょ」
まだ残っているOTONAを代表して、了子が流のやろうとしていることを暴露した。
「なんでわかったの?」
「流はノイズを大切にしているみたいだけど、軍隊行動も教え込んでいたわよね? キャロルが言ってたわ。隊列を組ませたりしてるって」
どうやらバレた原因は自分の娘であることが判明した。口止めをしていなかったが、もししていても、言われていたかもしれない。ノイズの軍隊的利用なんていう結構大事なことだから。
「俺はもうそろそろ、国連にも特異災害認定されるかも知れないから、俺を災害ではなく、人として扱った方が有用ですよ? ってのをここで示しておこうかなって。フロンティア事変以降、一切ただのノイズが出現しないのは俺が抑えているから。もし殺したら大変だよ? ってね」
流がソロモンの杖を融合させて、バビロニアの宝物庫を掌握していることを知っているのは日本だけだ。日本及び鎌倉はそれを隠そうとしている。だが、鎌倉の中には流という、いきなり現れた小僧が訃堂の娘を無理やり奪い、地位を確立しようとしている事を妬み、殺そうとしている陣営が動き出そうとしている。
そいつらに一番やられると困るのが、流が危険な存在であり、国連によって特異災害認定されることだ。
流だけなら構わないが、周りにも迷惑がかかるし、皆と軽々と会えなくなる。だからこそ、ここで力を示そうと考えている。
「S.O.N.G.の司令官としては、そんなことして欲しくはないが、確かに流を排除しようとしている奴らはいるな」
「……フィーネのように自由に何でも出来るってわけじゃないから大変よね。もし流が力を示したいなら、不殺で完全制圧しなさい。それくらいすれば馬鹿どもでも分かるだろうしね」
弦十郎はため息をついて愚痴をこぼすが、しっかり止めることはしない。弦十郎も鎌倉の現状を理解しているからだ。その弦十郎は流が翼の婚約者であったり、鎌倉で死合をしている事、訃堂と繋がりがあることは知らないが。
緒川は同じ意見だが、事情を知っているのであえて黙っている。
了子は知っているのか知らないのかは不明だが、流に条件を与えた。殺すだけならミサイルを何発も打ち込めばいいのだ。
「わかった。じゃあ、行ってくるね」
三人の親に、流は遊びに行くような気軽さで手を振って、バビロニアの宝物庫に入っていった。
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『君たちには今から戦ってもらう。だが、ノイズの強みである炭素変換は使用を禁じているし、人を殺すことも禁じている。だが、君たちならそれをやり遂げられると思っている。君たちは俺の願い通り、隊列を組み、仲間と連携する術を手にいれた』
『……流に有用なのはわかるけどさ、すげえ複雑だわ』
『凄いですよね。ノイズが綺麗に整列してますよ』
流はバビロニアの宝物庫の中でも、一際大きい足場の上に立ち、目の前でノイズ達が種類毎に整列している場所を眺めながら、統一言語で話している。
『今回はシンフォギアが相手では無い。ただの物理攻撃しか持たない相手と、君たちを襲うことは無いアルカノイズが相手だ。今回は人間を少し吹き飛ばす程度、それに武器を壊す程度ならやってもいいが、殺したり重症を負わすのは禁止とする』
バビロニアの宝物庫の中にいる小型と中型が一同に頷く光景は、ノイズにトラウマがある人間が見たらショック死してしまうかもしれない。
そしてノイズはノイズ同士では戦わない。ここにいるノイズはボードゲームをミカとしたりして争ったりするが、普通のただ命令されているだけのノイズは、同族であるノイズを殺そうとしない。
それがアルカノイズとノイズであっても、アルカノイズはノイズが元であり、機能を変更しただけなので変わらない。
『どうか俺と一緒に戦ってくれ!』
流はその言葉を告げたあと、武器工場施設でアルカノイズを行使している場所へとゲートを開いた。
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それは酷い戦いだった。
『飛行隊の1から5は東へ! 6から10は西へ! その他は隙間を開けずに隊列を組んで、施設へと近づけ! 敵が撃ってくるから、位相差はしっかりと付けておけよ!』
空を飛行型ノイズが覆っている。それだけで兵士達は心が折れかかる。
『歩兵隊は四グループに分けて、既に施設の四方に召喚した。前進しつつ、敵兵士の武器のみを破壊し、炭素化しちゃうぞ! と言った感じに脅して降伏させろ!』
アルカノイズとは違って、完全に統率された歩行型のノイズが徐々に迫る。しかもノイズのはずなのに、トンファーを使ったり、剣を使ったりしている個体もいた。
「今すぐ降伏しろ! 降伏しなければ、ノイズに炭素化されて消し飛ぶぞ! 戦車なんか使ってんじゃねえ!!」
右腕と左足、髪の一部が金色と水色の金属のような見た目をした人間が、同じく金色と水色の光る目を輝かせながら、拳を一発振るうだけで戦車がひしゃげ、地面を踏み込めば辺りは衝撃で吹き飛ぶ。
施設を守っていた兵士たちは余りにも異常な光景を見てしまい、精神が磨り減り、武器を捨てて降伏するものが多数だった。
こうして、流は勝手にドジを踏んで、重傷になったものを除いて、流達自身では重傷者すら出さずに施設を完璧に掌握した。
流に集まる召喚されたノイズは全て宝物庫に放り込まれていたが、その場面を記憶している人間はそこにはいなかった。