キャロルが空から降ってくる少し前、彼女はシャトーの研究室で、
気前よく流にホムンクルス製造機を渡したのは、流の悲願だと思ったためであるが、別に製造機は一つだけという訳でもないからだ。
今まで数多の自分の転写体を作ってきたのだ。完璧な体を製造するのに一体数ヶ月も掛かってしまうし、失敗も多いため、下手したら完璧な体を作り終える前に死んでしまう。沢山ある製造機の内、最も成果を上げていた製造機で、エルフナインの女性としての体を作っていた。
「本来なら俺の完璧な転写体を使わせてやるはずだったのに……エルフナインの奴、あんな文句を言いやがって」
文句を言いながらも、キャロルは比較的楽しそうに製造機の調整を行っていく。
イザークの願いによって、エルフナインは性別を持つように言われた。エルフナインは女の姓を選んだので、キャロルの最後の転写体でも問題ないと思ったのだが、エルフナインが文句を言った。
「僕には右目の下にホクロなんてありません!」
これはエルフナインが初めてキャロルに言った我儘なので、キャロルはエルフナインの願い通り、一から作る事にした。
「完全な女性体にする必要は無いから、偶発的なミスが起きないのは楽ではあるがな」
エルフナインが廃棄個体となったのは、黒子がない、女性器がない、声帯が違うなどの理由で転写体にされなかった。それは錬金術を行使するのに、最も最適な完全な体を作る時に起こるバグのようなものなので、少し錬金術が出来るくらいの体でいいのであれば、注文通りの格好が作れるし、女性として文句のない体に出来る。体型は変わらないし、
最近はオートスコアラーが独自行動をしているため、一人で研究をしていた時、テレパスが飛んできた。
『キャロル助けて! 藤尭さんと友里さんが!』
エルフナインがキャロルに泣きついてきた。
エルフナインはすぐに状況を告げて、誰も助けに行ける人がいないこと。巨大な蛇のようなものに追われていることを説明された。
『俺は日本から出れない事は知っているだろ? 最悪弦十郎を出せばいい』
『アルカノイズが出てきたらどうするんですか!』
エルフナインの否定でキャロルは思い出した。ああ、弦十郎はノイズに触れない人間だったなと。流とよく一緒に居たり、オートスコアラーがノイズと触れて遊んでいるので忘れていた。
『これでもし日本を出て、そっちに助けに行ったとする。そしたらパパのお仕置きがあるんだからな? 政府への言い訳は藤尭と友里という有能なエージェントを守るためでなんとかなると思うが、あの
『……あれ? あのお仕置きって気持ちいいのでは?』
『雪音クリスと一緒にするな! 私は痛みで快楽を得るような人種でもないし、痛いのに構ってもらえて嬉しいシュルシャガナでもない!』
キャロルの本気の叫び声を聞いたあと、すぐにエルフナインは謝った。キャロルは本当に来てくれそうにない。ならば、エルフナインは自分の身を切ることにした。
『分かりました。僕がお仕置きを代わりに受けます! なので!』
『……ああ、もう分かったよ! 行ってやるよ! 妹のお願いを聞くのも姉の役目だしな』
こうしてキャロルはエルフナインの涙混じりの声に促され、二人の救助に行ったのだった。ジェムによる登録なしのテレポートは危険なので、エルフナインが今いるポイントをテレポートジェムに記録し、一度流の家へ別のジェムで飛んで合流したあと、再度バルベルデへ飛んだ。友里と藤尭がいる場所へのテレポートは了子が行うことによって、空間や物に挟まるリスクを軽減させた。
その時装者や流には、自分が助けに行ったことを言わないと約束をさせていた。エルフナインはキャロルは悪ぶってるのに助けに行ったら恥ずかしいと思っていると推察した。
なお、友達である藤尭と親しい知り合いの友里を救助する為に禁を破ったが、そんな事で流が怒るわけがなかった。
だがエルフナインが罰を求めたので、エルフナインと共に姉であるキャロルも罰を執行される事になった。その時エルフナインがクリスと同じ趣向である事が分かり、あの素体に転写しなくてよかったとキャロルは本気で思ったのだった。
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「ちょっと邪魔しないでもらえる?」
パヴァリア側はまだ流も利用する考えを変えていないが、計画の根底を為すティキを記録されたのは不味い。この二人を殺す、もしくは最低でも端末を壊す気でいた。だが、とても面倒なやつが現れた。
「俺の妹の願いだからな。この二人は回収させてもらう」
呑気にサンジェルマン達のデータを確保しようとしている藤尭と友里にテレポートジェムを投げた。
「させない」
サンジェルマンがいつの間にか取り出していた、黄金銃でジェムを撃ち抜いて破壊した。
「チッ、そんなに甘くはないか。ガリィは二人の護衛を」
「了解ですマスター……久しぶりの戦闘は他に譲ってあげるわ。その代わりにファラの煎餠をいくつか貰うから」
「おふざけが過ぎますよ? マスターの命令なのですから対価なしで従いなさい」
地面を凍らせて、藤尭達の方へガリィは向かおうとしたが、ファラがソードブレイカーを差し向けてきたので止まった。
「そのマスターの命令を邪魔してるのはどっちかしらねぇ?」
「漫画ばかり読み漁っている貴女には過ぎたる物です。私は八紘に頼まれて、西洋剣術の指南をしています。あれはその報酬なのですよ。ニートとは違って」
「事後承諾で無理やり外出許可を取った癖に調子乗ってんじゃねえぞゴラあああ!!」
ガリィの言う通り、二ヶ月前八紘邸に道場破りのように行った時、ファラは許可を取らず勝手にその場に行っていた。逆にガリィは了子とクリスの要請で行っていたのだが、結果的にファラは仕事を得て帰ってきた。
そしてニート呼ばわりした事にキレる。
「早く終わらせて欲しいゾ。焦げちゃうんだゾ!」
「ミカは何か作っているのか?」
「クッキーを作っているんだゾ。レイアの為に派手なクッキーも作ったから待ってて欲しいんだゾ。ファラは剣の形で、ガリィは氷の結晶の形、マスターはカッコイイ形で焼いているんだゾ」
「それはいい事を聞いた。速攻は地味で似合わないが、クッキーのために始末しよう」
ガリィとファラとは対称的に、レイアとミカはいがみ合わずに話している。ちなみにミカの考えるカッコイイとは、キャロルの潜在意識がカッコイイと思ったモノである。キャロルのカッコイイはミカの待機ポーズも含むので、きっと一般人からしたら変な形になっているだろう。
「……お前ら、最近自由過ぎるだろ! 相手は雑魚じゃないんだから、もう少し気を引き締めろ! なんでマスターの俺を無視して勝手に談笑してるんだよ! 最低でも俺を混ぜろ!」
本当に最近はオートスコアラーが勝手に動き回り、流やエルフナインがいないと一人っきりが多くなってきた。前はそれでも苦にはならなかったが、今住んでいる家の騒がしさを経験してしまうと寂しさを覚えてしまう。
「踊るキャロルが物凄い変貌しているワケダ」
「変貌っていうより、昔の自分に戻ったって感じじゃないかしら? 一人で背負ってたものを下ろせたから、気持ちが軽いのよ」
「自らの積年の大望を捨てたお前などもはや不要! 諸共に革命の礎となるがいい!!」
プレラーティとカリオストロはキャロルの変貌に驚く程度だったが、サンジェルマンは違った。
目的は違えど、親の無念を晴らすために動いていたキャロルに協力者以上の気持ちを持っていた。だが、理由は知らないが、あと少しといったところでキャロルは長い年月を掛けてきた世界解剖をやめてしまった。
まるで母親の無念を晴らし、あんな思いをする人を無くそうとしている自分の行動が間違っている。そんな風に示されているようだった。
キャロル達がこちらに集中していないがサンジェルマンは関係なく巨大な蛇、人間をエネルギーへと変え、荒御魂の概念を与えた、『ヨナルデパズトーリ』の像にそれを付与する事によって生まれた絶対たる力を向ける。
サンジェルマンの命令にヨナルデパズトーリは従って動き始めると、オートスコアラーは切り替えてすぐに動き出した。
「レイアは初めから本気でお願いしますわ」
「了承した……初めから、派手に行く!」
「あたしも行くゾ!」
ヨナルデパズトーリはその巨体を活かして突進してくる。それに対してレイアはコインをばら撒き、そのコインを錬金し、二枚の大きなコインに変形された。ヨナルデの進行方向を塞ぐようにコインを配置し、突撃を受け止める。
「少し派手過ぎるのでは?」
コインが少しずつ削られながら押し込まれていく。
レイアは更に操る巨大コインの枚数を増やして、無理やり質量によってヨナルデを止めた。
「ハアアア!」
「増し増しだゾ!」
「これで終いだ」
レイアはソードブレイカーに風を纏わせて、切り上げの時にその風を解放して竜巻を生成した。ミカは大きな圧縮カーボンロッドを連続射出して攻撃をする。
そしてキャロルは金色の錬成陣を展開し、金の風、エーテルによる暴風によってトドメを指した。
直撃すればシンフォギアですら大ダメージを受ける攻撃の嵐にヨナルデパズトーリは晒され、ズタボロになってその場で停止した。
だが、停止したヨナルデパズトーリが光り輝き、左右にいくつもの黄色の鏡面を展開する。それがまたヨナルデパズトーリの中に戻っていくと、今まで与えたはずのダメージの痕跡なく、まるでダメージを消し去ったのかのようにその場に佇んでいた。
後ろでそれを見ていた藤尭と友里は驚いているが、キャロルは現象を解析しているのか無言で考え込んでいる。
「残念、ダメージは無かったことになったわ」
「実験は成功したワケダ」
「ええ。遂に錬金術は人類の到達点『神の力』を完成させたわ」
これは不可逆である摂理を無理やりねじ曲げ、別の平行世界のヨナルデパズトーリにダメージを分散し、この世界のヨナルデへのダメージをなかった事にしたのだ。
「……お前らは馬鹿か? 何故それを俺がいる場で言う。パパが見ている映画ではな、敵が自分の功績を誇るのは負けフラグというらしいぞ?」
「これは余裕があるため為せるものだ。この力は決して覆ることの無い摂理。故に多少知られようと、どうでも良い事だ」
「その割に藤尭達の狩りは入念なのは何故だ?」
「裏切り者に教えるとでも?」
「私とお前達はただの協力者だっただけだ。それ以上でもそれ以下でもない!」
キャロルの言葉に少しだけサンジェルマンが悲しい顔をしたが、それに気がついたのは長い付き合いのカリオストロとプレラーティだけだった。
「そんな事は分かってたことよね。それより私疑問なんだけど、さっきからまるで貴女のパパが生きている様な言い方してたわよね? イザークは死んだでしょ?」
「先程から言っているパパは風鳴流の事だ」
「……え? もしかして流って、娘にしか欲情できない男だったの? だから、あんなにスキンシップしても、全く反応しなかったのね。初めは反応してたはずなのに、途中から無関心に変わってたし。なるほどね〜」
キャロルは話を引き伸ばしつつ思考にふける。引き伸ばしの為に出した情報で、流が酷い風評被害に遭っているのだが、それに流が気がつくのは当分先だ。
その時ちょうど流からある少年の治療を頼まれたが、四肢損傷程度なら問題なく治せる。必要なものを告げて、すぐにテレパスを切った。
「マスター、あれはソードブレイカーと同じ概念による物です。しかも相当な強さを秘めています」
「わかっている」
キャロルとその側に戻ってきたファラが話している通り、ファラが扱うソードブレイカーと同じような、概念に干渉する物だ。
だが、今のキャロルにはあれを突破する手段がない。更にいうと、オートスコアラーはとてつもなく強いが、元々は想い出という高リソースを燃やして動かすように作った体だ。それを無理やりネフィリムが生み出すエネルギーを適用させているので、あまり長時間戦わせると、ガス欠を起こして動けない人形になってしまう。
更にさらに、キャロルのファウストローブのリソースは、想い出の焼却だという事は敵には知られている。
「……あっ、藤尭! あんたは「やったか!」とか「これで休める」なんて言葉を敵が強力な攻撃を受けたあととか、事件が起きそうな時に言うらしいわね。それもフラグになるらしいからやめろ」
「なんでこのタイミングで!?」
「心の中で思っただろ? 言ってみ、ん?」
「……はい、思いました」
藤尭と友里を守るガリィは、最近漫画やその映画で学んだお約束やフラグと言ったものを学んだ。普通ならそんなもの現実で注意するほどのことではないが、映画でバグレベルで強くなった人類がいるので、思い出した今注意した。
「あの、このタイミングでテレポートは出来ないんですか?」
「さっきサンジェルマンが撃ち出した弾はあえて速度を抑えているように見えたのよ。テレポートで飛ぼうとした時に妨害されると、空間に挟まる危険性があるってのは聞いたわね?」
その言葉に友里は理解する。
「テレポート中に攻撃を挟まれたら、避けようがないということですね」
「そゆこと。まあ、守るだけならガリィちゃんの後ろに居ればやってやるから、下手に動こうとするんじゃないわよ」
「ありがとうございます」
「フンっ! マスターの頼みだからよ!」
何だかんだ丁寧にガリィは友里の質問に答えながら、テレポートの出来る隙が生まれるのを待っている。
「でも、ヨナルデパズトーリの耐久力があっても、キャロル達を倒すことは出来ないわよ? どうするのよサンジェルマン」
「キャロル達はヨナルデパズトーリよりも圧倒的に継続戦闘能力が低い。あの甘い
「……ファラちょうどいい。新しい兵装をあの蛇に試してみよう」
「宜しいのですか?」
「どうせパパは派手にあのノイズで暴れている。じきに分かるだろうし。それなら死なない蛇で試してみた方がいいはずだ」
キャロルの指示にファラは、変顔以外ではあまり動かない顔を動かして喜ぶ。まるで買ってもらったおもちゃが使える子供のようだ。
ファラは錬金術の陣を手の横に展開して、そこに手を突っ込んで、ソードブレイカーとは違うある剣を取り出した。
「何故それを貴様が持っているワケダ!」
「……キャロル、これはどういう事ですか? 何故貴女のオートスコアラーが
「これは私の新たなる剣。マスターを守るために拝受されました
本来のデュランダルよりも少しだけ細身であり、デュランダル特有の持ち手と刃を繋ぐ結晶部分が無くなり、ソードブレイカーのような形になっている。
ファラがエネルギーを込めると、流でよく見る金色と水色の光を漏らす剣になった。
「何故ファラがこれを持っているかなんて言うわけがないだろ。その綻びで負けたらどうする」
キャロルは当然口にするわけがなかった。情報アドバンテージを与えるのは良くないことであるし、まずこの情報を言い事によって、流自身にどう影響が出るか分からないからだ。
流が奏や未来の事、パヴァリアの事を他人に話すとペナルティーが掛かるし、まず話すことが出来ない。だが、キャロルはその範囲外にいる。それなら流の事を話してしまえば良いではないか? と思うだろう。
しかし、イザークを憑依させた結果、流の魂は無くなったのだ。何を言って大丈夫なのか分からないので、おいそれと口に出来るわけがない。
その代わりパヴァリア光明結社の事はばっちり情報を流した。シンフォギア達が苦戦しそうな人材はサンジェルマン、カリオストロ、プレラーティくらいしかいなく、あとは各地の根となり草となっている。局長のアダムはイマイチわからない存在であり、サンジェルマン達の目的だろうファウストローブ作成である事も口にしている。
「大方流が貸し与えてるとかそんな事でしょうね」
「融合させた聖遺物を分離したままにしておけるなんてとても便利なワケダ」
実際は流はデュランダルを起動させた状態であれば、『不朽不屈』の力で、右腕や左足は再生する。デュランダルは決して欠損しない武器なので、それが色濃く出ている二箇所がもし欠損しても、事実を無かったことにするように即再生される。キャロル曰く、これもソードブレイカーと同じく、概念兵装のようになっているらしい。
その特性を使って、自ら欠損させて聖遺物デュランダル製金属を無理やり増産していた。もちろん腕や足を切り落とすのは生半可な痛みではない。
しかしこれをすることによって、結果的に戦闘力があがり、装者達を守れる力を更に増すことが出来る。ならば、流は奏やセレナに止められても決して止まらない。もう奏の時のような選択をしないために。
流のノイズの大半が飲み込んでいるデュランダルの欠片もそうやって出来ている。
プロトデュランダルは流が暴走した時の意識が切り落とした腕をガングニールの槍に変えていたので、同じように剣に変形させようとしたら簡単に出来た。
その時、流の腕がデュランダルのような金属なのに、スムーズに動く理由がわかった。毎回槍に変形した時のように腕の形をヌルヌル変形させていたのだった。
ちなみに前に煎餅を賭けてガリィと戦った時、これを初めて披露して、ガリィをファラは一方的にボコった。
「さて、プロトデュランダルの試し斬りに付き合って下さいませ。まさかこの剣が怖くて、神の力とやらを仕向けられないなど言うことはありませんよね?」
ファラは復元したヨナルデパズトーリとサンジェルマンに挑発する。それに対してサンジェルマンは無言で、ヨナルデパズトーリにファラを喰うように指示する。
「ダンス・マカブル。死の舞踏をお見せしましょう」
ファラは闘牛士が赤いマントを牛にたなびかせるように、自らの体を餌にして食わせようとする。
ヨナルデパズトーリはそれに喰らいつこうと、ファラを巨大な口で一呑みしようとする。ファラはダンスを踊るようにそれを避けて、通り過ぎるヨナルデパズトーリにプロトデュランダルを一閃した。
「これでまた一つ、命を奪わせて頂きました」
先程までのソードブレイカーではまともに刃が通らず、風の錬金術で後押しをした。しかし今回はただ軽く振るっただけで、プロトデュランダルは巨大な蛇の体を切り裂いた。
ヨナルデパズトーリは復元する時の鏡面をサンジェルマン達のところまで伸ばし、その場所で体を復元させた。
「デュランダル……『決して折れない剣』と言われるようになったエピソードは、『ローランの歌』のローランの死の直後のはず。だが、デュランダルはそれ以上に『切れ味の鋭さデュランダルに如くもの無し』という、切れ味を誇る話の方が有名だったわね。聖遺物を概念によって哲学兵装にしたとでも言うのか!」
サンジェルマンはたった一当てでプロトデュランダルの性質を見抜いた。デュランダルは相当な有名な話であり、その時代も生きていたサンジェルマンには簡単な問題だったようだ。
「答えぬと言ったが、そこまでたどり着けばいいだろう。そうだ、デュランダルの特性を哲学の牙とした!」
「ヨナルデパズトーリの無敵性をも切り裂こうとしたのですが、やはりそれは無理でしたね」
「ああ。だが、あいつらの言う神の力の具現化された存在は、ファラの持つ剣で殺し続ければ、いつかは殺し尽くせる事もわかった。あらかたどこかにダメージを分散させているのだろうが、この世に終わりがないものなどない!」
「もう、剣なんて使っちゃってほんと無粋ね。あ〜、怖い怖い」
キャロル達は殺し尽くせないので勝ち目がないが、時間さえ稼いでいれば、流が勝手に援軍に来るだろう。いくら口止めをしても、キャロルがピンチになれば、弦十郎やエルフナインは真っ先に援軍として駆けつけられる、流を呼ぶに違いない。
サンジェルマン達もそれがわかっているが、それでも強力なオートスコアラーを一体でも多く壊しておきたかった。しかし、ヨナルデパズトーリを簡単に切り裂ける哲学兵装。キャロルのように、絶対の防御概念である【トリスメギストス】は使えないので、ヨナルデパズトーリを足止めされて、自分たちの元へ来られたら危険だ。
「……この戦いはお前達に預けよう。だが、そちらが概念で戦うのであれば、こちらもそれ相応の準備をして、貴様らとシンフォギアを討ち滅ぼしてみせよう」
「ばいちゃ〜」
「錬金術師なのに歌女に寄り添うなどいけ好かないワケダ」
サンジェルマンはヨナルデパズトーリを解除して回収する。三人が一言残してから、どこかへテレポートして帰っていった。
「ガリィ……さん、これは言っても大丈夫ですよね?」
「流石にあの後に戻ってくることはないわよ」
藤尭はガリィに許可を得てから一言。
「やったあああ! 生き延びたあああああああ!!」
「……マスターすみません。エネルギーの充填にいかないと不味そうです。運んでもらえないでしょうか?」
後方で喜んでいる声を聴きながら、ファラは一番エネルギー消費の少ない、待機ポーズでキャロルに話しかける。
「やはりまだプロトデュランダルは負荷が掛かるか?」
「はい。デュランダルの頑強さとエネルギー生産を捨てて、作りだしたプロトデュランダルですが、やはり斬れぬものなしの使用可能時間は一分も無さそうです」
「そこら辺はパパとよく相談しておく。今回は良くやった。運んでやるから休んでいろ」
「はい、よろしくお願いしますわ」
デュランダルを切り離して、流がやろうとしたことは無限機関の作成だった。ネフィリムで半無限にエネルギーを手に入れられるが、フロンティア以外にもあれば便利だと思って作った。だが、流から切り離されたデュランダルはエネルギーを送っても、エネルギー生産を行ってくれなかった。ただし、ノイズの内部に入れると、何故か生産されるので、何かしらあるのだろう。
そして頑強さよりも鋭さの方がファラにとっては重要なので、それに特化させた哲学兵装を作ってもらったのだが、概念を起動させておくには物凄いエネルギーが必要だった。
流が普段戦うときは、デュランダルが無尽蔵にエネルギーを生産するので、それで起動をし続けてもプラス収支なのだが、オートスコアラーにとっても割と辛いエネルギー量のようだ。その代わり威力は了子の折り紙付き。
「神の力を具現化……サンジェルマン達は神の力を手に入れようとしているのか? だが、それを手に入れて何をする?」
キャロルはサンジェルマン達の目的を何となく察したが、流石にこれだけでは何も分からなかった。帰ったら流と了子に相談しようと思いながら、藤尭と友里を回収して、S.O.N.G.の仮説本部に戻った。
「待て! エルフナインが受けるだけでしょ? 連帯責任? お姉ちゃんの定め? なんでエルフナインも頷いているんだ! やめろ! やめて、いやああああ!」
エルフナインだけがお仕置きを受けたのにも関わらず、連帯責任が発生し、それはエルフナインの裏切りによってであることが分かるのは、これから少し経ってからだった。
サンジェルマン達が。
折るのが大変なデュランダルをどうやって何度も折っているのか。その答えは根性と気合い。