「何だったんだ? こいつら」
流は今しがた襲ってきた、普通の戦闘員をボッシュートしながら、頭をかしげる。
流はノイズを使った鎮圧行動を行ったあと、引き続き拠点制圧をしていった。シンフォギア装者のうち、翼とマリア以外は既に日本へ帰っていて、残りは流がやるように話を進めた。大人は緒川以外が帰っている。
「学生が学生の本分を全う出来ないのは間違ってる!」
「響達はこの夏休みに板場達、クリスはクラスメイトの綾野さん達と一度も出かけてないんだよ? 俺と違って同年代の同性の友達がいるのに!」
「まず響はこのままここにいると、夏休みの宿題が終わらないぞ!」
こんな感じに流が無理やり帰した。翼とマリアは秘密文書を日本に持ち帰る仕事があるそうで、テコでも天羽々斬でも動きそうになかった。
そのあと国連がアルカノイズが使用されている施設を発見し、流が制圧したあとにいきなり襲われた。
最近気を抜くと、いつの間にか横にいる調の隠密よりも、何倍も認識しやすい気配の隠し方をした奴らがずっと付いてきていたのは知っていた。
大方流が本気で暴れたから、戦力偵察にでも来たのではないか? と思っていたら撃たれた。
バルベルデの兵よりも最新の現代兵器に身を包み、良い連携で流を撃ってきたが、位相差操作をしていたので効かず、一人一人殴ったあと、バビロニアの宝物庫に放り込んでやった。 もちろん只人が宝物庫に入れられると全身血だらけの絶唱顔になるがそんなこと流はしらない。
「こいつらをどうすればいいんだろ」
『勝手にヤっちゃ駄目ですよ? 色々問題になりますから』
奏とセレナも流の死合やその他を何度も見ているせいで、世間一般の感覚とはズレ始めている。だが、この二人に指摘できる人は流しかおらず、流はもっとズレているので指摘されることは無い。
「俺って別にそこまで残虐じゃないからね?」
『アメリカエージェント』
奏がボソリと指摘する。普段の流は残虐ではないが、やる時はとことんやるので、そのことを表情に出さないようにするために、素っ気ない言い方になった。
「それはママが撃たれかけたからね。同情の余地なし」
『ですけど、実行犯はもういないんですよね? それでも凄く嫌ってますし』
「セレナを実質的に殺したヤツらだからな」
『……え? 流さんのアメリカ嫌いはそれが理由なんですか!?』
「他にもあるけど、それがメインだね」
『えっと、もう大丈夫ですよ?』
「全ての精算が終わってから考え直すよ」
既にアメリカの国威は相当落ち込んでいる。そしてフロンティアで地球を救って以降、暗殺を目論むエージェントを送ってきたことは無い。
しかしセレナの
流はエージェントの処理の指示を仰ぐために、
自分が指示を仰げる中で、最も過激な方法を承認してくれるであろう、一応の上司に端末で連絡することにした。
『何用だ』
訃堂の部屋にある端末に連絡すると、ワンコール中に通話に出た。周りには部下がいなかったのだろう。
「バルベルデの戦闘員とは違う、他国のエージェントに襲われた。無傷で捕らえたけど、こいつらどうすればいい? あんたに連絡したんだから、父さんみたいな優しい方法はやめてくれよ?」
『……装者が狙われるのを避けたいが故に、我に殺しを指示させたいと初めから言え』
訃堂は流の意図をすぐに察したようだ。流が訃堂に連絡をするなんて、その権力を行使してもらう時くらいなので、考えなくてもわかるのだろう。
「あんただって俺が他国に攫われたり、装者が誘拐されるのは避けたいだろ? 国防的に」
『攫われぬ者が何を言っている。通話後送るポイントにそやつらを運べ。こちらで処置をしておく』
「情報を抜き取るのね。俺がいないからって、翼にちょっかい掛けるなよ?」
『お前が我と結んだ契約を違えなければ、こちらから干渉することはない』
「ならいい。じゃあよろしく」
弦十郎や八紘や翼が見て聞けば、卒倒するくらい酷い態度で連絡を切った。流は
「すぐに来たな。それじゃあ行こうか」
『大の大人を何人も一人で運んでいると、やっぱり変に目立ちそうですね』
『流が無駄に目立つのは昔からだけどな』
流は数人の大人を布で巻いて、担ぎ上げて指定されたポイントまで持って行った。
**********
「どうしたの?」
「なんでも無いわ」
「……本当に?」
「本当よ!」
『セレナの姉がさっきからガン見してくるんだけど。見られるのは構わないけど、ずっと見られていると着替えずらい』
『青春期なんですよ、きっと』
『なるほど』
捕まえた何処かのエージェントを運んだ後、流達が拠点にしている移動式拠点に戻ってきた。
そこに帰ると、翼とマリアが迎えてくれ、制圧にも参加しようとしていた。しかし流がノイズを使っている事を言うと、詳細を確認されてから、自ら辞退してくれる。調律のできるシンフォギアでは、足を引っ張ることになるからだ。
大半のS.O.N.G.のメンバーが帰った後から、マリアが何故かクリスのように流に引っ付いてくるようになった。クリスのように物理的にくっつく訳では無いが、常に流の行くところに一緒に来る。流的には問題ないのだが、その目が探るような目なので、少しだけ気になっている。
「なんだ、また流を見ていたのか」
「だから違うわよ!」
流が着替えているところに翼が軽食を持ってきた。もちろん翼が作った訳では無い。緒川さんが作ったサンドイッチにスープだ。
「ならば何故流に張り付いている? また何かやったのか?」
「俺何もやってなくね?」
「流、私達は世間知らずである事を認識すべきだ。どこかズレていると友里に前にも言われただろう。きっとマリアからしたら、気になるところがあったのではないか?」
流は着替えの途中だが、翼との話に入った。翼も特に気にしないので、着替えの途中であることを彼は忘れている。フィーネによって着ない派に変わっているので、着ていない方が違和感がないのだろう。
「本当に何でもないのよ。少し気になったことがあったから、見ていただけで」
「それならよかった。なんかしたのかと思ったわ」
無自覚に傷つけたりしていない事に流は安堵していると、翼が次いでとばかりに報告をした。
「話は変わるが、先ほどの鎮圧でS.O.N.G.の役目は終わりのようだ。これで日本に帰れるとのこと」
「そう。皆が心配しているでしょうし、早く帰れるに越したことはないわ。データの方はどうなの?」
「それはあと数日かかるようだ。流は先に帰ってこい、とウェル博士からの伝言だ」
「ウェルが?」
ウェルは用事がある時しか流を呼び出さず、その呼び出しの時はパシリと大切なことの半々だ。翼に軽食を持ってきてくれたお礼を行ってから、宝物庫テレポートでS.O.N.G.の潜水艦のある港へと戻った。
飛行機を使って来たのに、テレポートで戻ったせいで、藤尭の仕事がまたひとつ増えたのだった。
**********
『ティキに施されていた封印の解除及び、アンティキティラの歯車の調整が終わりました。これよりティキを目覚めさせたいと思います』
『これでまた一歩計画が進むね。行こうかな、僕も。ティキの目覚めの立ち会いに』
『……来るのですか?』
『なんだい? ダメかい?』
『いいえ。お待ちしております』
サンジェルマン達が最近拠点にしているホテルのベッドの上には、バルベルデのディー・シュピネの結界の中にあったオートスコアラー、通称ティキが横たわっていた。結界の中の建物にあったティキは結晶に囲まれていたが、今ではすっかりその封印結晶もなくなっている。
「局長も来るそうだ」
「いらないワケダ」
「ま、今度こそはって、あのアダムも思っているのかしらね」
付与する術式の調整という、一人でしか出来ない仕事をサンジェルマンはしていた。それなのに何故かカリオストロとプレラーティは一緒に部屋にいてくれて、集中を邪魔しない程度のお喋りに混ぜてきていた。
「……いつもなら仕事がない時は、外に出ていると思うのだけれど、何故ここに?」
「さあ? カリオストロに居てと言われたから、ここで白いワインを飲んでいたワケダな」
「ちょっと気になることがあったからここに居たのよね。まあ、当たりだったわけだけど。気にしなくていいわよ? 必要があれば話すから」
カリオストロは何もないとばかりに手を振って、またワインに口をつけようとした。
「ダメじゃないかな? 仕事中にアルコールなんて」
カリオストロが取ろうとしたグラスは、横にテレポートしてきたアダムに取られ、勝手に飲まれてしまった。
「そっくりそのまま返すわよ。仕事をしないで、風呂に入ってたり、所在を明かさないトップよりかはマシだと思うわよ?」
「いやー、痛いところをつくね。さて、サンジェルマン。ティキを呼び覚まそう」
カリオストロは言いながら、アダムの口をつけたグラスをその場で割って、ガラクタとなった破片は錬金術で消し去った。
アダムはそんな事を気にせず、アダムの横に立ち、サンジェルマンに命令する。
「はい」
サンジェルマンは歯車の封印も解き、そこに付与させる力を与え、ティキの胸元が開くと、その中に歯車が入っていった。
すると、ティキの額から光が溢れ、星図が空中に描かれた。今の時間を合わせるように、星図と共に描かれている時計が周り、調整が終わったのか、ティキは顔を隠している機械を外して起き上がった。
「アッ……ウゥ……ふぅ」
「ひさ「久しぶりだね、ティキ」」
サンジェルマンが声を掛けようとしたら、それに被せるようにアダムが声を掛けた。何故かアダムがいつもに比べて積極的に見える。
「……え? アダム!? 何百年振りに目覚めてみれば、アダムの顔が目の前に!! もしかしてお目覚めのキスで起きちゃった!?」
ティキはその場から飛び上がり、アダムの腕に抱きしめる。そんなティキをアダムは、愛おしげに撫でているように見える。
「お目覚めのキスは出来なかったけど、ティキの寝顔はしっかりと見させてもらったよ」
「きゃあああ! アダムに寝顔を見られちゃったああああ! ねえねえアダム。久しぶりに起きたのに、こんな辛気臭い場所には居たくないわ……あと三級錬金術師達もいるし」
「そうだね。なら、二人きりでデートに行こうか」
「デート! 行く!!」
アダムの言葉に気を良くしたティキは、アダムの腕を引っ張って、部屋から出ようとした。それにアダムは待ったをかける。
「サンジェルマン達に仕事をさせるから少しだけ待って欲しい。数分ならば出来るよね?」
「……なら、この建物の下で待ってる! デートの待ち合わせは女の子が先に来て待っているものだって!」
どこで知ったのか、ティキはそう言うと部屋から出ていった。
「局長! ティキから目を離すなど」
「いいんだよ、これくらいなら。さて、サンジェルマン達には仕事を与えよう。バルベルデで我々の計画の邪魔をするデータを手にいれた組織がある」
「S.O.N.G.ですか」
「そう、それだ。あれがあると、サンジェルマンが叶えようとしている、差別なき世界での恒久的な平和は訪れないよ? ちょうど数日後に、シンフォギア装者が日本に持ち帰るそうじゃないか。もう分かるね?」
「……我々の力でそのデータを破壊しましょう。局長にはティキをお願いしても?」
「ああ、いいとも。無能な僕だけど、ティキの面倒くらいなら見れるだろうしね」
アダムは何も言うことが無いとばかりに、白い帽子を被って部屋から出て行った。
「ねえ、なんでアダムはあんな事知ってたのかしらね。いつもならそういう情報収集も私達の役目じゃない?」
「とても気になるワケダ」
無能で知られているアダムが無駄に正確な情報を収集していて、自分達を導こうとしている。確実になにか裏があるのだろうと二人は思っている。
「局長も計画遂行に対して、真面目に動く気になった……のかもしれないわね。魔力によるゴリ押しで、見ていたらたまたま発見したとかそこら辺じゃないかしら」
「それならいいのだけど……シンフォギアと戦うのよね。相手は誰だろう。天羽々斬とイガリマなら、今出来る本気で戦うのよね?」
「ええ。ラピスの完成がまもなくだが、私達自身がシンフォギアと戦って見るのもいいかもしれない」
「腕がなるワケダ」
サンジェルマンはティキのお世話という仕事が無くなったので、錬金術の秘法ラピスの完成を急ぐために、研究室へ篭もりに行った。
**********
流はS.O.N.G.に帰ってくると、メディカルルームに呼ばれた。そこに行くと、皆が揃っていて、流も見たことのない機械が置いてあった。一部見覚えのある機械がつながっているが、大きさが段違いだ。そしてクリスがその機械に繋がれている。
「みんな集まってどうしたの? あとテレポートで帰ってきたから、俺の帰国処理お願い」
「ええ、またですか!」
流が藤尭に頭を下げる。それに対して藤尭は嫌な顔をするが、軽くボヤいてからすぐにここから出ていった。友里がサポートに付くようで、一緒に部屋から出て行った。
「それで何それ?」
「よくぞ聞いてくれた! これこそがキャロルに記憶の転写保存の概念を解説させて、ほぼ独力で僕が作り上げたシステムの改良版。電界顕微観測鏡WELLだ!」
電界顕微観測鏡
装置から電気信号を被験者の脳に送り、反射してきた反応から、仮想した脳領域を装置内に構成。
もう一方から仮想脳領域内に、電気信号化した観測者の意識を送り、仮想現実のように作られた『世界』を
そして観測者は仮想脳領域内の世界で死ねば、下手したら死ぬのだが、外部から見えていて、尚且つ緊急離脱のシステムを組まれているから、ほぼ安全らしい。ノイズとの戦闘よりは安全とのこと。
既存の観測データでは、薬害を抑えつつ更なる装者への負荷軽減をし、高出量のフォニックゲインにも耐えられる新しいlinkerの開発は不可能だと分かった。
そこでウェルが目につけたのは完全聖遺物と融合している流だった。
元々流は色々な実験に参加していたが、ほぼ装者達のlinkerと変わらないlinker model Nを使って、流はデュランダルを起動状態にする。
聖遺物であり、人間でもある流の脳領域を解明すれば、きっと今よりも発展させられるとして、ウェルがキャロルと了子から知識を学び、本当にほぼ独力で組み上げたのだ。
その説明を流は受けた。
「……え? 俺の頭の中を覗くの?」
「駄目かい?」
『だ……何するんですか!』
『ちょっとこっちに来い』
『え? 待って、止めないと!』
流も自分が色々忘れたことや、その他色々なことがわかるかもしれないので、了承しようとした。そしたらセレナが何かを言おうとして、奏にどこかへ連れていかれた。
「観測者はなんでクリスなの? 駄目って訳じゃないけど、調が不貞腐れてるし」
観測者が寝るベッドには、クリスがダイレクトフィードバックシステムに使うヘッドギアをつけて寝ている。そのすぐ横では、調が頬をふくらませて不貞腐れているのが見える。
「面白そうだったデスから、皆がやってみたいと言ったデスよ」
「それでジャンケンになったんだけど、クリスちゃんが勝っちゃって、調ちゃんがあんな感じで」
どうやら他人の脳領域への旅行は思わぬ倍率があったようだ。安全ならとりあえずやってみたいと手を挙げた他の人は比較的楽しげだ。
流は調の頭を撫でて、後で調も出来るように約束してから、流はベッドに寝っ転がり、ヘッドギアを付けた。
「それじゃあ、スタート」
実験ができて機嫌がいいのか、ウェルは弾んだ声で機会を起動させると、駆動音が割とうるさい。
少しすると、流は意識を失っていないのに、自分を認識出来なくなった。
メディカルルームに設置されている大きな画面には、狭い白い部屋が映し出され、そこにはおっぱいを下から抑える服を着ているクリスが映っている。
『あー、聞こえるか?』
「問題ないようだ。やはり僕は天才!」
「えーとそこはスタート地点だから、目の前にある扉を開けば流の脳内世界へ行けるわよ。強制離脱をした時は、そこに無理やり戻されることになっているわ」
了子は自分の才覚に感動しているウェルを蹴り飛ばして、クリスへと指示を出す。
『これを開ければいいんだな?』
クリスは流が本当に思っている事が確認できると、ウキウキしながら、目の前にある流の世界へ繋がる扉を開けた。
そこは大きな、本当に大きな空間で、至る所に扉があり、そして。
『人の脳内に勝手に入ってくるってどういう事よ』
既に死んでいるはずの天羽奏がそこにはいた。
ウェルのイベントが唐突すぎる気がするけど、ウェルも裏では研究してるしこんなもんかな?
活動報告を書いていましたが、少々発狂して見苦しいことを書いていたので削除しました。