戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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会話を書いてたら文字数がいつの間にか迫っていたので分割。いわゆるフラグを乱立させる回になったので、次回は一気に進められるはず。


#81『tron』

「奏さん!?」

 

「……」

 

「奏って翼のパートナーだった?」

 

「そうです。ツヴァイウイングの片翼で、私の事を助けてくれた、あの奏さんです!」

 

 アニメの電界顕微観測鏡よりも魔改造されているため、観測者の観測を通して、外部の人間も内部で起こっていることを見ることが出来る。

 

 流の潜在意識の世界に入ったと思ったら、クリスの目の前には天羽奏がいた。クリスは内心イラッときた。何故流の潜在意識に居座っているのかと。

 そして外部にいる響が叫び声を上げ、調の問に響は即答える。そんな中、了子だけは無言のまま奏を見続けていた。

 

 何故流の脳内彼女ではなかった、幽霊の奏が精神世界にいるのか。それはこんな事があったからだ。

 

 

 **********

 

 

『奏さんなんで引っ張るんですか! 流さんを止めないと!』

 

『焦んな! セレナが焦ってるのは、前に流の家の地下で見た物が原因なんだよな?』

 

 奏は実験に協力しようとしていた流の事を、急に焦りだして止めようとしたセレナを連れて、欠片の中の部屋まで戻って来た。

 

『そうです。下手したら、流さんの知ってはいけない事まで見られてしまうんですよ? 早く止めないと!』

 

『ここであたし達が止めたら流はやめてくれるだろうな。でも、ここでいきなりやめたら不自然だ。それに幽霊が生者に能動的に関わりすぎると、呪いが発動するってのは分かってるよな?』

 

 イザークがキャロルに、奏が翼に。どちらも生者から死者が関わった時に、流の記憶は消えている。

 

『はい。だからこそ』

 

『多分だけど、流もその生者に入ってるんだよ』

 

『……はい?』

 

『流にお仕置きをしたり、セクハラを()()()するのは大丈夫なはずだ。だけど、あたし達が流自身の行動決定を歪めようとすると、流にペナルティが掛かっている気がするんだよな』

 

 奏は流にまだ妄想の産物と呼ばれている時のことを思い出す。流と翼の近くで死んで目が覚めると、何故か流の真横でフワフワと浮いていた。

 それから流は嫌がりながらも、その奏と話していたが、奏が始めて鎌倉の死合を知った時、そんなことはやめるように頼み込んだ。タダでさえノイズがいるのに、人間同士で殺し合うのは間違っていると。

 

『それでどうなったんですか?』

 

『聞いてくれたよ。だけど、数時間後には死合の相手を皆殺しにしてた』

 

『え?』

 

 流は奏とセレナのお願いを聞いた場合、セレナの知る限り反故にしようとはしない。解釈を曲げたり、都合よく解釈することがあっても、基本的には受け入れたらそれを真っ向から否定することはしないと認識している。

 

『鎌倉の研究員、流の死合を監視している奴らは言ってたんだ、流が完成したって』

 

『完成ですか?』

 

『今までは敵を殺す時は辛そうな顔をしていたらしいんだけど、その時から無表情で淡々と、作業のように戦うようになったんだと。多分敵に対する慈悲とかそこら辺が消えちまったんだろうな』

 

 セレナはその言葉に異議を唱える。少なくとも数回は流は敵に慈悲をかけている。

 

『異議あり! 流さんはマリア姉さんと戦っても、あの無表情にはなりませんでしたよね? パヴァリアの三人と戦った時もそうですし、最近の鎮圧行動の時も』

 

『マリアは始めから仲間にする気だった。パヴァリアはカリオストロと食事を取る仲になっていたから、襲われても敵認定されていなかった。それに鎮圧のあれは流にとって取るに足らない物だったはずだから、まず敵無関心身内の三つの判定にすら入ってない』

 

 セレナは他にもあるはずだと、絶対に流のそれを認めてはいけない。流の考えがスイッチを切り換わるように変えれてしまうなら、もう()()()の可能性まであるから。

 

『長年一緒にいたあたしが間違えるわけないだろ? だから、あからさまな行動をねじ曲げる行動は慎め。だけど、セレナの言っていることもわかる』

 

『わかるって言いながら、選択肢を潰さないでください!』

 

 奏も知らない理由でセレナは焦り続けるが、そんなセレナを奏は強く抱きしめて落ち着かせる。胸に顔が埋まって、呻き出したあたりで解放した。

 

『まだあるじゃないか。あの機械は錬金術で流の精神世界に投射して、そこに錬金術と科学と生化学で観測者を送り込むんだよな? それで観測者から錬金術と科学を使って、映像を可視化させる。セレナは力を乗っ取ったり出来るだろ』

 

『……乗っ取るのではなくて、制御して再配置してるだけです!』

 

 セレナ的には乗っ取りは野蛮な感じがして嫌なので、そこだけはハッキリとさせたかった。奏は頷いて、自分の提案をする。

 

『それであたしを送ってくれ。クリスを流の精神世界に精神を飛ばすなら、精神体のあたし達だって行けるはずだろ? セレナが錬金術に干渉できるわけだし、あたし達は流に憑依できるから行けるはずだ』

 

 奏は暗に、危なくなったら自分が飛べるからセレナが錬金術を操れと言っているのだろう。セレナも流が錬金術を勉強する時に、一緒に勉強していたし、アガートラームを性質をまだ持っているので、流よりも上手い可能性がある。

 

『絶対にヤバくなったら、止めてくださいね?』

 

『分かってるよ。流が廃人になるのは嫌だからな』

 

 こうしてセレナの助けを得て、霊体の奏も流の中に入っていった。

 

 

 **********

 

 

『……てめえがあの天羽奏か』

 

『そうだ。そしてお前が雪音クリスだろ?』

 

 始めから敵意むき出しのクリスと、それに合わせて敵っぽい感じに語りかける奏。

 

「奏さん! 聞こえてますか! 奏さん!」

 

「響さん駄目。クリス先輩を揺らしちゃ!」

 

「デスデス」

 

「でも奏さんが!」

 

「……響ちゃん落ち着きなさい。流の中にいる奏ちゃん、あなたは何者?」

 

 騒ぎ始めてクリスを揺らそうとしたり、翼に連絡しようとするのをみんなが止めて、最後は了子が自分の胸に押し付けて窒息させている。奇しくも先ほどセレナが奏に食らったのと同じものを受けている。

 

『あんたは了子か。あたしは何だろな?……』

 

 奏はとりあえずクリスに勝手に流の中を暴かれないために入ってきたが、自分が何者と説明すればいいのか考えていなかった。幽霊や精神体で流に憑いてると言えば、確実に流はペナルティを食らうはずだ。もし喰らわなくても、目の前にいるクリスがキレるだろう。

 

『……あー、なるほど。多分あたしは流の妄想だわ。イマジナリーフレンドみたいな感じだと思うぞ』

 

 結果、流がセレナと会うまでそうだと思い込んでいた存在であることにした。

 

「ならなんでクリスを知っているのかしら?」

 

『そりゃ知らねえよ。流が勝手に作り出している存在な訳で、流が知っているから知ってるんじゃないか?』

 

「……そう、()()()()()

 

 了子はそれだけいうと、クリスのバイタルデータを確認する作業に戻っていった。奏は了子なら何となく察して問い詰めないと思っていたが、やはり流に不利になると感じたことは自重してくれるらしい。

 

『……チッ』

 

 クリスは流にしっかり好意を伝えている人物の一人だ。生きている中で、好意を表立って向けている人は他にはいない。調はその感情がどんな意味合いを持っているのか掴みかねているし、翼なんかは姉兄みたいなものだと思っている。

 だというのに、流は数年前に死んだ奏を常に頭の隅で作り出していた。クリスだって馬鹿じゃない。流が時たま……割と多い頻度で独り言を言っていたのは覚えている。それがこの作り出された奏であった事は自明の理である。二人きりの時もたまにこの奏と話している時があった。クリスからしたら負けた感じがして、気持ちが荒む。

 

『おいおい、そんなに敵意を向けないでくれよ。別にあたしはあんたを食ってやろうとかじゃないんだぜ?』

 

 奏は喋り方はガサツだが、しっかり女の子はしていたのでクリスが流に向けている感情を分かっている。既に死んでいる自分が文句をいうのはお門違いだが、やはり気に食わない。しかし無駄に敵対する意味もないので穏便に済まそうとしている。

 

『だったらなんで出てきた』

 

『そう、それだ。流は色々言えないことがあるだろ? だから、頭の中を覗いてそれに触れたら大変なことになっちまう。流の中から出てほしい。もしこのまま内部に入っていくなら、Croitzal ronzell gungnir t()r()o()n()

 

 ここは流の精神世界。元々奏は精神体として色々してきた。そのうちの一つが服を変えることだ。

 奏もセレナもただの霊体であるため、死ぬ間際の格好で幽霊として目が覚めた。もちろん幽霊なので服を着替えることなんて出来ないのだが、乙女としてそれは嫌なので何とかしたら出来た。精神体故に中身が変わらなければ、多少見た目が変わる程度なら問題ないようで、服を取っ換え引っ換えしていた。

 

 この事は流には言っていない。流は分かっているのに気がついていないが、ソロモンの指輪の力は精神体の支配、隷属させる事なのだ。奏とセレナは流に使役されている状態で顕現しているのだが、流に命令されれば多分見た目を元に戻されてしまう。逆に中身が変わらなければいいので、全裸にもされてしまうので、どうしてもこの事は言えていない。

 

 そして奏の霊体としての最も適した姿はガングニールを纏った姿だ。死んだ瞬間がそれであったので、デフォルトがその姿になっている。流は奏が戦うのをよく思っていなかったので、奏の戦う姿の象徴であるガングニールの姿を一度も見せていないが。

 聖詠もシンフォギアの姿に戻るには要らないが、雰囲気というものは大事だ。奏は口ずさんだ歌が変化している事には気がついていないが。

 

「……TRON?」

 

 もちろん了子はそのことに気がついた。装者達は聖詠の単語の意味を特段考えていないので、気がつくことは出来ない。

 

『食う気はねえって言ってる割に、始めからシンフォギアとかやる気のマンマンじゃねえか。でもあたしもそっちの方が手っ取り早い! Killiter……』

 

 クリスもイチイバルを取り出し、シンフォギアを纏った。精神世界だから変身出来ないなんてことは無く、纏うことは出来た。

 

「随分と白いな」

 

 弦十郎は奏を見て呟いた。

 奏のガングニールは黒が多めのオレンジといった見た目だった。それに露出も少なかったし、黒い部分が多かった。

 だが今の奏はクリスと変わらないくらい……いいや、もっと白い部分が多く、オレンジが黄色に変わっている。

 

『で、どうするよ? 戦うか?』

 

『……なあ、天羽奏は流のことが好きか?』

 

「「「ブフッ!!」」」

 

 友里が置いていった温かいものを口にしていた人のいくつかが、クリスのいきなりの言葉に飲み物を吹きこぼした。

 

『あはははは、直球だな。アピールだけでチキっちゃうクリスとは思えねえ』

 

『うるせえ。で、どうなんだよ?』

 

『好きじゃなきゃ命なんて張らねえよ』

 

 奏はクリスに向けていた槍を下に向けて、胸を張っていい切る。

 

「おお!」

 

「言い切ったデスよ」

 

「私も響が」

 

「それはちゃんと知ってるよ!」

 

「響!」

 

 外部では好きの意味が若干ズレたアンジャッシュをしているが、それの意味合いに気がついているのは大人組くらいだろう。その大人組は理解があるので、特に指摘するわけでもなく黙っている。

 

『きっと流も好きなんだろうな。でも流が本当にあんたの事が好きなのかはわからない』

 

『は?』

 

 クリスは精神世界に慣れていそうな奏と戦う選択肢は取らず、言葉を矛にする気のようだ。

 

『流は好意を向ければ、その分だけ好意を返してくれる。特別視はあんまりしねえ。そうだろ?』

 

『そうだけど……』

 

 

『奏さん! なんか言い含められる雰囲気になってますけど、負けないでくださいよ! 私は奏さんを繋ぎ止めているので精一杯なんですからね!』

 

 ずっと黙っているセレナは奏に向けて声をかける。奏は体がある訳では無いので、戻るべき場所がない。なので、セレナが常に力を把握して、流の中で迷子になって戻れなくならないように気を張り続けている。

 

『下手したら好意を返しているだけで、内心では好きじゃないかもしれない。敵でも味方でも、全員を好きになろうとしてるだろ?』

 

『一部否定するけど、確かにそうだな』

 

『あと天羽は言えないことって言ったよな? 言ってはいけないことじゃなくて、言えない事と言った。流の意思ではどうにもならない事なんだよな? なら、あたし達がそれに触れそうになったら、何らかの制限が入るんじゃないか? ここは流の精神なんだしさ』

 

 クリスが調を味方に引き入れたのと同じように、奏も同じように巻き込む気のようだ。実際クリスが言っている事は自分がずっと思っている事だ。

 流は優し過ぎるので、時々不安になることがある。流から求めた事は、バビロニアの宝物庫に閉じ込められた時の一度しかない。

 もしかしたら自分のワガママに付き合っているだけではないのか? と自問したことは一度ではない。それをした後は大抵流の元へ甘えに行くのだが。

 

『確かに流は秘密を言えない。言わないじゃなくて言えないよな』

 

 いつの間にか奏達には、転生者であることはその記憶を共有できるようになっていたが、それまでは奏もわからないことが多かった。

 そして奏は死後ずっと流と居るのに、流の情報の出処が全くわからない事がある。

 

 それは流が自分の生まれた時の星図を記録し、それをペンタクルとして使おうとしていた。流の家の地下に行く前から、それをやろうとしていた。

 あの時点では星の配列が大事であることは知らなかったはずなのに、それを流は知っていた。

 

 原作知識でもない。流は奏が死ぬ前にそんな異端技術を習得しているわけがない。

 奏は流にもう一人誰かが憑いているのではないか? と思っている。奏の目を盗んで、流に情報を与えることなんてそれ以外にはなかなかに難しい。

 流は神の器になるために作られたと地下で知った。なら、精神面から流を監視する機構がいてもおかしくない。

 

『……乗ってやるよ。あたしも気になるしな』

 

 流を見ていて、奏達と同じように憑いてる事はないと思う。ならば、流の精神世界に住み着いている可能性もあるかもしれない。もしそんな存在がいるならば、奏はある事を問いかけないといけない。

 

『あんたとはあんまり戦いたくねえ。流石に銃と槍じゃ』

 

『あたしは全然良かったけどな。クリスよりも絶対に強いし』

 

『……流に作られた亡霊はこれだから困る。実力があんたの方が上だったとしても、シンフォギアも日夜進歩してるんだ。実力だけじゃどうにもならないことだってあるんだぞ?』

 

 クリスは少しだけまた怒りが戻ってきた。流や弦十郎や了子ほど強くないが、それでもその人達に追い付こうとクリスは鍛錬を続けている。それなのに絶対なんて言葉を使われたのだ。

 

『イグナイトだろ? 呪いの旋律を奏でないと戦えないんじゃダメだろ』

 

『呪いの旋律?』

 

『……あー、何でもない』

 

 流の精神世界は興味があるが、女の醜い戦いには興味のなかったキャロルは、この場でずっと自分の研究をしていた。だが、画面に付属するスピーカーから聞こえた『呪いの旋律』という言葉で、動かしていた手が止まった。

 

 この世界ではまだキャロルは呪いの旋律という言葉を口には出していないのだ。

 流の頭が作り出した者なので、知っている可能性はあるが、やはり知られていないはずの情報をいきなり提示されると驚いてしまう。

 

『一々考えなくていいから。それじゃあ、一番手前にある扉を開くぞ?』

 

『え? ああ』

 

 クリスは呪いの旋律という言葉に気を取られていると、奏が無理やり話を終わらせるために、クリスの手を引っ張って、巨大な扉しかない空間の、一番手前にある扉の前まできた。

 

『なんで流の精神世界のはずなのに、扉ばっかりなんだろうな』

 

『さあ? あたしも分からん』

 

 奏はクリスの疑問に応えながら、扉を開けた。

 

 そこに広がっていたのは、奏が死んだ、ツヴァイウイングの荒れ果てたライブ会場がただ広がっているだけだった。


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