多分次回から話が本当に進みます。
『……てめえが流に色々吹き込んでるやつか!』
ソロモンと名乗った男がカッコつけてポーズを取った時、奏は初手からトップスピードで地面を蹴り、ソロモンに槍を突き立てようとする。
『人の話を聞きなさいって御両親に言われなかったのかい?』
『援護する、ダブル抜剣!』
ダインダインスレイヴ
ソロモンが錬金術に似ているが、キャロルが解析出来ない陣を目の前に展開して、それで槍を防いだ。ソロモンは先程から
長い時間、奏と共にトラウマを刺激されるような場所を回ったおかげで、流の事を抜きにすればクリスは奏と仲良くなった。吊り橋効果に似たものと奏の性格ゆえにであろう。その奏がソロモンが流に何かを吹き込んでいると言っていた。
クリスは援護すべくイグナイトの第二解放まで行い、ガトリングを、小型ミサイルを、大型ミサイルを速攻で拡げて、一気にソロモンに向けて撃ち放つ。
そのままでは奏にも当たってしまうが、全ての攻撃が奏を遠回りするようにソロモンへ向かっていく。撃ち出す時にクリスの頭部のデバイザがスナイプモードに変形していた。制御に手間取るが、今のクリスは本当に全ての攻撃を誘導できる。
『早とちりは乙女の特権ではあるけど、自己紹介をした相手をいきなり責め立てるのは』
ソロモンの視界は巨大なミサイルで塞がっていて、背後から回り込んできた小型ミサイルや、ガトリング弾はそのまま直撃して爆発した。
『奏がいきなりあんな事を言うから乗ったけどさ、どういう事なんだ?』
『あいつは流が知らなくてもいい事を吹き込んでる(はずの)奴なんだよ。しかも流の精神世界の奥にいるなんてあからさまに怪しい』
『さっきまで無かった扉を出したのも、ソロモンって奴がやった事だろうしな』
クリスの元へ帰ってきた奏にクリスは問いかける。奏も確信を得てはいないが、此れ見よがしなタイミングで出てきたので速攻をかけておいた。
『……ゲホ、ゲホっ。酷いじゃないか、流だって敵対されていなければここまでいきなり攻撃はしない』
クリスの総攻撃を受けて上がっていた煙が晴れると、トーガのような服とアクセサリーが消し飛んで、全裸になったソロモンが立っていた。その体には傷が全くなく、流や弦十郎に比べたら鍛えられていない。
「ななな、なんで裸なの!?」
雑誌のグラビアを見るだけで顔を赤くする響は、ソロモンの裸が映ると、目線をずらして驚いている。その響の前に未来は立ち、画面の奥を睨んでいる。
戦いの場であればここまで取り乱さないだろうが、精神的に追い込まれていた時にこれだったので、めちゃくちゃ驚いている。
「……おかしくないデスか。響さんは流の裸を見ても叫んだりしないデスよね?」
「先輩は一緒に鍛錬する時によく見るからね。動くだけで破けたりするから、多分慣れとかじゃないかな」
なお、流と弦十郎が上裸であっても響は平然としている。もう今更感が凄いからだ。ただし了子が全裸白衣だと流石にやめさせようとはする。
『酷いな。雪音クリスの攻撃で吹き飛んでしまっただけだというのに』
ソロモンはテレパスを応用した通信によって、外部から聞こえる声にも答える。すぐにソロモンは服をどこかから取り出してそれを着た。
『それで満足してくれたかい? この空間ではどれだけ私に攻撃をしても通らないよ。まあ、服は吹き飛ぶんだけどね』
ソロモンは敵対するつもりはなく、また攻撃をしないことを示すためか両手を上げている。ソロモンは別に戦いたい訳では無いからだ。
「クリスと奏ちゃんは攻撃しないで」
『……了子に従う』
『同じく』
二人もこの男を倒すことは出来ないし、相手が何かしらを話す気のようなので、了子の指示に従ってすぐに戦意がない事を示すべくシンフォギアを解除した。
『それでいい。じゃあ、
吹き飛んだアクセサリーも復活させて、ソロモンが指を鳴らすと王座が出現した。ソロモンは常に上から目線で、過去に巫女をやっていたフィーネ、了子に質問を促す。
「……少しだけ時間を貰えるかしら」
了子はこの存在は流の様々な秘密を知っているだろう事がわかる。先ほどこの男が使っていた術式は、カストディアンの巫女の時に近しいものに見えた。
あの方が使う奇跡と似たようなモノだと了子は感じていたのだ。なればこそ、ここで情報を手に入れる。
『よい。私は流に比べて寛容だからな。不遜を働いた貴様らにも配慮してやろう』
『なあ、ソロモン』
奏はソロモンを睨んで、了子は必死に頭を回している中、クリスが普通に話しかけた。
『……なんだ雪音クリス』
『あん、あなたは流の敵なのか? それとも味方なのか?』
『私は櫻井了子に質問する権利を与えたのであって、貴様に与えた訳では無い』
『ソロモンって昔の王様だよな? もしかして雑談もできねえの?』
クリスはこう言っても大丈夫という謎の確信があった。流関係の勘の鋭さは装者随一であり、目の前のソロモンの聞いてはいけないギリギリのラインも何故かわかる。
だが他の人は、特に了子は驚いている。今までわからなかったことを知るチャンスなのに、それが不意になりそうなのだから。
『繋がり故か……
ソロモンは話し始める前に一言ボソリと呟いていたが、それは誰にも聞こえなかった。
「ソロモン王様は先輩のご先祖さまとかですか?」
『言えぬ』
「さっきの異端技術はなんですか?」
『私の時代にはあった、今の時代でいう錬金術のようなものだ』
「なんで流の中にいるのデスか?」
『役目だからだ』
「流のことは好き?」
『哀れだ』
響、未来、切歌、調の質問にソロモンは答えていく。響の問は答えなかったし、調の質問の時は目線を逸らしたりしていた。
『情報を引き出したいのはわかったが、質問をし続ける事を雑談とは言うまい。櫻井了子、質問せよ』
ソロモンという存在にパヴァリアの目的などを聞けば、きっと解決できる情報が手に入る気がする。だが、今知るべきは流の事。
流が元々がどんな存在なのかはどうでもいい。一番流を傷つけているであろうことは、一つしかない。
「流の呪いの解除方法を教えて欲しいわ」
流は知っているのに答えることが出来ず、力がなかったため奏を見捨てた。その後から流は戦う強さを、今までよりも強く望むようになった。
話せていないことの一つに、流の元に奏がいるという事も含まれているだろう。今回の精神世界への干渉で奏が現れたことで了子は確証にまで至った。
そしてそれも長い間翼やほかの人に隠し続けている。流は装者の子達には秘密をあまり作りたがらないので、きっとそれも重荷になっているだろう。
『解除方法は教えることは出来ない』
「解除すること自体は可能なのですか?」
『解除出来るかできないかで言えば出来る。今の貴様でもやろうと思えば出来る』
「わかりました。ありがとうございます」
音声越しではあるが、了子はその場で頭を下げた。今まではカストディアンのバラルの呪詛のようなものだと思っていたが、今の了子でも解除できるのであれば研究をまた再開させよう。
『流を今の状態で放置し続けると死ぬぞ。もうこの場から離脱した方が良いだろうな。あと貴様らに忠告だ。今回見たもの、聞いたもの、それら全てを流に伝えるな。あやつが壊れて欲しくないのであればな』
ソロモンが扉を出現させて、クリスはお礼を言って扉を潜った。観測者であるクリスが扉を潜る前に、ソロモンは本気の顔で忠告しておいた。
『……なあ、ソロモン。流の精神世界はあれ以外にはないのか?』
『他にもある。だが、今の流では耐えられん。だから、貴様らが開くことが出来ぬよう隠しておいた。この部屋も本来ならば入れぬのだが、天羽奏は指輪を持っていたからこそ、この部屋へ入ることが出来た』
ずっと黙って睨んでいた奏が扉の前で立ち止まり、ソロモンに問いかけた。すると先程までとは違い、柔らかい表情で奏の問にしっかりと返した。
軽く頭を下げて奏はその場をあとにした。
その後すぐにクリスは奏にお礼を言おうとしたら、その奏は既にその場から消えていて、響や他の人も残念がっていた。
奏は流の体から憑依を解除する感覚で、あの空間から出てきた。行くのは一人ではできないが、出るだけならば、欠片の中の部屋と同じような感覚なので容易い。
『さて、情報は収集できたかい?
『はい、多分これで大丈夫だと思います。ありがとうございます。では、私もこれで』
『話し相手になってくれてもいいんだよ?』
『流さんが待っていますので』
『そうか』
クリスと奏がいた空間にいきなり現れたセレナは、ソロモンに頭を下げて、その場をあとにした。
**********
流がウェルの作ったWELLの実験体になって数日が経った。この日はマリアと翼が日本に帰ってくる日だ。昼には流もやることがあるので、朝一で市場へ行って、鮮度の良い食材をたくさん買ってきた。
『カレイにアジにタイ、色々買えたな。翼もマリアも数日は日本食食べてないし、和食中心にするか』
『精進料理みたいなのはやめろよ? それを食べて喜ぶのは翼と調だけだから』
『分かってるって……それでセレナはまだ篭ってるの?』
『ああ。生理だとか嘘をついて、あたしも入れてくれないな』
市場の帰り道、いつもは騒がしくして奏に怒られるセレナが居ない。何だか寂しさを覚え、何度目にもなる問いを奏にしてしまう。
流が実験体になった日、寝れない流は夜を過ごす為にセレナと一緒にいた。体は奏に憑依してもらい寝てもらっていた。その時は元気だったのだが、次の日からセレナは欠片の中の部屋から出てこなくなった。しかも、その内の一室に篭もり何かをやっている。
『いると割とうるさいけど、居ないとやっぱり寂しいな』
『セレナは盛り上げるために馬鹿やったりするからな、って危ない!』
流は奏を見ながら歩いていたが、気配を読んで歩いていたため人に当たることはまずない。目の前から人が来ていることはわかっていたがその人が交差する時、流の方へ倒れてきたので受け止めて支える。
「いや〜、すまないね。少しふらついてしまって」
「大丈夫ですよ」
『はぁぁぁあああ!?』
流がその男性を支えると、白い帽子に隠れていた顔を流と奏は見た。そしてその顔を見た奏は絶叫した。
『どうした!?』
『あい……いや、人違いだったわ』
奏は出そうになる言葉を口の中で留めた。ソロモンにあの時のことは言わない方がいいと口止めされている。それは流のためになるから、言われた通り黙っていることにした。
何故奏が叫んだか? 何故なら、目の前にソロモンと同じ容姿の男が立っているのだから。
腰まである長髪に、白い服を着て、白い帽子を被ったイケメン顔。声は若干違うが、前髪のピン留めが反対なのと服以外は全く同じ見た目だった。
一も二もなく流に伝えたかったが、流の精神が崩壊する可能性もあるので、絶対に口にすることが出来ない。
「助かったよ、本当に。どうだい? お礼代わりに、カフェで一杯」
「すみません。生魚を持っていて急いで帰りたいので」
流の手にはエコバッグがいくつもぶら下がっている。宝物庫に入れれば持たなくてもいいのだが、それでは買い物っぽくないので、そのまま手で持っていた。
それを抜きにしても流はこの男とは一緒に居たくない。何となく嫌いなのだ。漠然とせず勘などの類にはなるが、この男を流は苦手としている。そんな気がする。
「それは残念だ。だけどどうしてもお礼がしたいんだよね、僕は……缶コーヒーでいいかな?」
「いや、だからいいですって」
「まあまあ。大人の好意は受け取っておくものだよ」
その男は流の言葉を無視して、すぐ側にあった自動販売機の元へと向かった。二つ飲み物を買うと、その男は戻ってきて流に缶コーヒーを渡した。
「……はあ、少しだけですよ? 頂きます」
奏は流の後ろで最大級の警戒をして、目の前の男が攻撃などをしてきたら、流に憑依して避けられるように構えている。
流はため息をついてから、コーヒーをひとくち飲む。
「すまないね、無理やり飲ませたみたいになってしまって」
「べつにいいですよ」
「せっかく出会ったのだし、友人に一番始めにする質問をしてもいいかい?」
「その前にあんたの名前は? 俺は流」
「自己紹介が先だったね。僕はアダムだよ。君はどう思っている、神について」
「は?」
流は間抜けな声が出てしまった。無駄に怪しい存在だったので警戒していたが、どうやら胡散臭い宗教家だったようだ。
この世界にはカストディアンという力を持った神のごとき存在が確かにいた。だが、この世界にもキリスト教もあるし、他の宗教もある。流はその宗教家に捕まってしまったと思った。
「神だよ神。もし考えたことがないなら、パッと考えた感覚でもいいんだ」
「なんとも思ってないな。もし神が何かを明確に邪魔してくるなら、神様だって俺は殺す」
「…………なるほど、なかなかに過激だね。すまない、宗教家としてはちょっと気分が悪くなってしまったよ。帰らせてもらう」
アダムは白い帽子を軽くあげてから、その場を歩いて離れていった。
「何だったんだ?」
『本当にな』
直感で嫌いになるのはあまり無いので、流は胡散臭い美形な宗教家に対して頭を傾げた。
奏は異端技術を行使するソロモンと同じ見た目の存在が、神について聞いてきた事に嫌な予感を感じざるを得なかった。
**********
「アダム! どこに行ってたの?」
「ちょっと野暮用にね。成果は上がらなかったけど」
アダムは流と会った後、しっかり離れたのを確認してからテレポートでティキと二人で住んでいるジャグジーがあるビルの一室に帰ってきた。
「ふーん。アダムも読む?」
「なんだいそれは?」
「快傑☆うたずきん! っていう漫画」
「……一緒に読もうか」
「やったー! アダムと共同作業〜!」
ティキの頭を撫でながら、極めてハズレ臭い人間の記憶を頭から弾き出した。
**********
「お肌焼けちゃうわ」
「物凄く暇なワケダ」
「戦いの前に飲み物でも飲んでおく?」
「そうするワケダ」
カリオストロとプレラーティは日本の国際空港に来ていた。空港の上で錬金術によって認識阻害の結界を作り、その中でテーブルとイスを呼び出して飲み物を飲んで待っている。
先日、風鳴翼とマリア・カデンツァヴナ・イヴがバルベルデドキュメント、パヴァリアの計画達成には邪魔な研究データをバルベルデから持ち出した。そして今日、この時間に翼とマリアは飛行機に乗って日本へ帰ってくることになっている。
二人は飛び立ったのを確認してから、日本へテレポートできた。
「天羽々斬は名前を何度も変えて、様々な神殺しの逸話を打ち立てている。だから、壊さないといけないってのは分かるんだけど、哲学兵装じゃない天羽々斬でヨナルデパズトーリを倒せるのかしらね」
サンジェルマンが天羽々斬とイガリマの存在を許せないのは、前者は産まれたばかりの神を人が殺した逸話がいくつも残っているからだ。イガリマは魂を殺せるらしいので、付与した概念を魂と見立てて壊される可能性がある。
特に天羽々斬は須佐之男が八岐大蛇を殺したことで有名だが、神と呼ばれる存在が使っていた時は、生まれてすぐのカグツチも殺してもいる。
「私達もイガリマの絶唱を喰らったら、一撃で死ぬワケダ。破壊するのは当然なワケダな」
イガリマには概念を壊されるかもしれないし、単純に自分達がファウストローブを完成させても、イガリマは防御を無視して魂を破壊するらしいので、壊さなければ危険だ。
「私いまいち分かってないんだけど、なんでガングニールは壊さなくていいわけ? あれってオーディンが使った必中の槍よね? 神とか殺しまくってないかしら?」
「人間が人間を殺すのには特別な力は要らないワケダ。それは神も同じなワケダ。イガリマは特性故に、天羽々斬は人間が神を下した逸話があるからこそ、サンジェルマンは警戒しているワケダ」
いつも飲み物や小ささでおちょくられるが、プレラーティはカリオストロに比べて、結構長い時間をサンジェルマンと過ごした。だからこそ、大体サンジェルマンが考えることがわかる。
「なるほどね。今回は天羽々斬に神殺しの力があるかの確認と、あれば壊しちゃうために待ち伏せしてるのよね」
「空間閉鎖型の特化アルカノイズが三つあるから、ユニゾンすら使わせないワケダ」
プレラーティはポッケから特化ノイズが収められているケースを取り出す。前回使って残り二つだったはずだが、サンジェルマンが補充したようで三つともある。
「ファウストローブがなくても、ヨナルデパストーリと私達二人なら、万が一も無いものね」
「完璧なワケダ」
プレラーティはそうやってフラグを建てた。
時を同じくして流の家に、翼とマリアは
「ただいま帰った」
「戻ったわ」
二人の帰りを皆はリビングで待っていて、調や切歌はマリアに飛びかかっていた。
「遅くない?」
「もう夕方なワケダ」
「……あっ!! なんで気が付かなかったのかしら!」
「なにか分かったワケダ」
「キャロルがいるんだから、テレポートで帰ったんじゃないの?」
「……帰るワケダ」
二人は計画がうまくいかず、何時間も待ちぼうけにされたので、その夜、ファウストローブの調整をしていたサンジェルマンを巻き込んで酒盛りをした。