9月25日20時55分。訃堂とのやり取りを大幅に改定しました。
気絶している流を担いで部屋の入り口にいるクリス達に、マリアはアガートラームのナイフを向けている。
調と切歌は前のフィーネを名乗って、抱え込んでいるマリアのように見えた。翼は自室で精神統一の最中であり、どうせ流がセクハラしてマリアを変身させたと思っている。キャロルとエルフナインはシャトーで研究している。
そしてクリスはマリアと戦うべく、シンフォギアの聖詠を唱えようとした。
「変身したら、
クリスはその言葉だけで、胸に浮かぶ聖詠を口ずさめなくなった。マリアも刺す気はないが、クリスにはブラフでも有効であることは、普段の生活でわかっている。
「マリア! これはどういう事デスか!」
「ちゃんと説明して」
クリスを含め、マリアが理由なくこんな事をするわけがなく、正義という言葉を発していたのなら何かしらあるのだろうと思った。だが、今のマリアをクリスが許すかどうかは別だ。
「説明はできない。でも、最終的には流のためになることよ。私はもう行くけど……調と切歌はどうする?」
マリアはここで説明することは出来ない。だが、特に親しい二人には出来れば来て欲しいと思いながらも、巻き込みたくもないという気持ちもある。そんな相反する思いを抱いているのはやはりマリアなのだろう。
「私は行かない。流がいなくなって私まで行ったら、おさんどん係がいなくなっちゃう。私はこの家の台所を任せられてる」
調はマリアと目を合わせると、すぐに自分の思いを告げた。何だかんだ台所役が好きだし、その役目に責任感を持っている。装者は体を動かす仕事故に、食事はとても大切だ。そして理由を言わずに恩人であるはずの流を拘束するなんて許されることではない。
あとこのままだとクリスが家に残ることになり、キッチンを破壊される可能性がある。絶対にそれだけは阻止しないといけない。特にあのフライパンだけは絶対に。
「……私は行くデス」
「切ちゃん!?」
「調はもう大丈夫デスよ。このままマリアを行かせたら、一人ぼっちのマリアになっちゃいますからね」
切歌はマリアが
切歌は調と軽く一度手を繋いでから、クリスに頭を下げてマリアの横に移動した。
「お前達も流に救われたんだろ? こんな方法で流が喜ぶとでも思ってるのか?」
「クリスが言う事は最もね。でも、流は私達に助けられること自体をあまり好いていない。手荒だけど、私が取れる手段はこれくらいしかないのよ。司令や他の人によろしくと言っておいてちょうだい」
マリアは流と切歌を抱え込み、部屋のベランダから飛んだ。クリスはすぐにそれを追うようにベランダに出る。
「Killter……」
クリスはシンフォギアを纏い、スナイプモードにアームドギアを変形させる。
「待って、家が壊れちゃう! みんなの帰る場所が!!」
「んな事はわかってる! このまま黙って逃がさねえ! マーキングをするだけだ!」
クリスは実弾ではなくイチイバルのヘッドから下りてくるスコープレンズで見れる、位置情報がわかるマーキング弾をマリアが乗り込んでいる車に撃ち込もうとした。
「あれ、車が消えた?」
「小日向もなのか! だけど、見えなくたってそこにいる!!」
クリスは構わずその辺に弾を撃ち込んだ。さっきまで車があった位置にはいなかったので、弾を車が向かおうとしていた方へ操作して飛ばす。クリスは以前の特訓で全ての打ち出した攻撃を操作できるようになっている。
「ハアァァァァッ!」
「この声は!」
「あの馬鹿もかよ!」
響の叫び声が何も無いところから聞こえ、マーキング弾をガングニールの拳であろうモノに粉砕されてしまった。
「何だって、お前までそっちにいるんだよ!!」
「どうした雪……月詠何があった」
「今から説明する」
翼はやっといつものおふざけではない事を感づき、流の部屋に来た。クリスがシンフォギアを纏い、腕を壁に叩きつけたのか壊れていて、調は開いたベランダの向こうを見ていた。
翼が何があったのか説明を受けている時、エルフナインとキャロルが家に帰ってきて、もう一度説明することになった。
「お前達、今からS.O.N.G.に行くぞ。俺は弦十郎と話す事が出来た」
キャロルが錬金術のローブを着込み、いつもに比べて覇気のないメンバーに指示を出した。
**********
マリアがこのような行動を取るようになったきっかけは、ちょうど今年に入ってすぐの事だった。
アニメと違い、捕えられたわけでも偶像でもなく、マリアは自分の意思でアイドル活動を続けていた。自分の歌が皆を幸せにする事に楽しみを見出していたからだ。あと
そんな時、秘密裏にある組織がマリアに接触してきた。
それは風鳴宗家及び鎌倉にある風鳴機関と呼ばれている人達だった。
マリアは翼が正月にある風鳴宗家の集まりを抜け出してきたこと、翼が風鳴の後継者であること、翼の生まれの秘密についても知っていた。だが、知っているのはそこまでだった。そのあと育ての親である八紘と絶縁状態であることも知ったが、それは今は関係ない。
マリアには色々と語った翼は宗家について一言だけ残していた。
「風鳴宗家はこの国で最も伏魔殿という言葉が似合う場所だ」
そんな場所からの秘密裏の呼び出しなので警戒していくと、無駄に高待遇をされて、その場に風鳴訃堂が現れた。翼の父親である八紘から嫁を寝取って翼を孕ませた畜生。その人がマリアの前に現れた。
「マリア・カデンツァヴナ・イヴ。貴様には時間があまりない故、単刀直入に言う。貴様は風鳴流の監視者になれ」
風鳴宗家と流は関わっていないと翼に聞いていたのに、そのトップから出たのは流の話だった。今回は特に依頼されることは無かったが、ただ流がこの国に対して確実に不利益になる事を行おうとした場合、それを止める役になる様に命じられた。
もちろんマリアは恩人を監視など嫌だったので拒否したが、ならば次は切歌に話が行くと聞き、マリアが引き受けることになった。そんなマリアは既に大人の事情に巻きまこれて色々あった身である。自分だけでは事の判断はできないので、条件としてはナスターシャを監修につける事で話を纏めた。
ほぼ無理やり任命されたが、何かを報告するわけでも、手伝うわけでもなく、数ヶ月連絡すら来なかった。
次に連絡が来たのは、ちょうど流が欧米へ飛び、マリア達はオートスコアラーのファラによる襲撃を受け、日本に戻ってきた時だった。
その時も周りには勘づかれないよう遠回りをして、鎌倉へと連れていかれた。
「流の裏切り行為が判明した」
訃堂の部下によって告げられたあと、証拠となる写真や映像を見せられた。
まずはじめに見せられたのは、私立リディアン音楽院の文化祭の日、流がある女性と街角でぶつかりかけた。映像はその女性がぶつかる前から映し出されていて、街角に急に現れて、急いでいた流にぶつかりかけた。突然現れる時に錬金術師が使う、錬金術陣が展開されているのがわかった。
「その転移法は何の異端技術か調べていた。そしてキャロルと呼ばれる錬金術師が使っていたテレポートジェムというものと酷似している」
そのあとその女と流がカフェでお茶をして、流は慌ててその店から出ていった。
マリアはその後何があるか覚えている。その時間帯はクリスが歌を歌う少し前だったはずだ。そのあと立て続けに切歌と調、マリア、翼と規模が大きくなって、時間が来る前に中止になった事は印象的だった。
流は緒川の忍術を学び、弦十郎によって勘も鍛えられているので、並大抵の尾行ではバレてしまう。なので、宗家と機関は気配のない隠し監視カメラの量を増やして、流の行動を把握することにしたと言っていた。
流はハッキング技術もフィーネ直伝なのでめっぽう強いが、流石に監視カメラが向けられている事には気がつくことは出来ない。機械には気配がないからだ。オートスコアラーなどの例外もある。
だが、マリアは当然この程度では流が裏切ったとは思えない。
「流の反応から見て、初対面ですよね? 彼は困った人は基本的に助ける人です。ですので、これで疑えというのは無理があります」
ナスターシャは何も言わず、マリアが思った通りに行動させ、大人の思惑にハマりすぎないように監視する役目に徹することにした。
そう答えたマリアを待っていたのか、次の映像が映し出された。その映像は流が渡欧した時の映像で、ロンドンの空港内の映像だった。
流がゲートを潜るとすぐに、男性と女性が流に近付いてきた。男には見覚えがなかったが、女の方が問題で、リディアンの文化祭の日に遭遇した水色髪のおっぱい女、先ほど街角でぶつかった奴だった。
合流してすぐ流の腕を取り、空港前においてある車に
そして流とその女はロンドンでも割と有名なホテルに二人で入っていった。ホテルに、男女二人で、入っていった。
これらも全て機械による映像だ。
「我が国を侵略しようとしている、キャロルと同じ異端技術を行使する異国の者に、流は会いに行ったのだ。これでもまだ裏切り行為ではないと?」
この時は流の特異性ゆえに滅多なことがない限り、国外に出る許可を得れなかった。この時、流は国を出る理由として『この国を厄災を持ち込む敵に対して、積極的防衛をする』と言って、国を出たのだ。なのに、映像では女とホテルに入っていったようにしか見えない。
何故かマリアは少しだけイラッとした。自分たちにあんなにもセクハラをするくせに、手を出すのは全く違う国の人間。まるでお前らには手を出す価値がないと言われているように感じた。ようは女のプライドが傷ついた。
別に手に出してほしいとかそういう訳では無い。
だが、マリアはこれでも流の裏切りを認めなかった。
「流がたまたま知り合った錬金術師が……キャロル達に対する何かしらを知っているかもしれないわ。流はキャロル達が攻めてくるのを分かってて、錬金術師とコンタクトを取ったのでしょうね」
このタイミングでそれは無理があるが、確かに可能性としてはある。何故女で、しかもカフェやレストランではなくホテルなのかが気になるが、無理やりそれで話を終わらせた。
そしてとうとうマリアが流を軟禁するように覚悟を決めたのは、夏休み前の二ヶ月鍛錬の最中だった。
その時点であの女がカリオストロという名前である事、そのカリオストロは
マリアはそれを聞いたあと人知れず泣いた。
流を信じているが、彼女達がF.I.S.で武装蜂起するように後押しをしたのはパヴァリア光明結社だ。
そしてその武装蜂起をしようとしたまさに直前に、その計画を無理やりぶち壊したのは流。
もし文化祭前からやり取りをしていたら、あまりにも茶番がすぎる。
「此度の証拠で決断をもう一度してもらう」
もう見たくないと思っていたマリアに見せられたのは、この街でも有名なスカイタワーの下にあるレストラン。そこにまた二人で入っていったのだ。
そして二人は楽しそうに雑談をしている映像をまざまざと見せつけられ、最後にはカリオストロは流にキスをしていた。
実際は流の耳元で話しただけなのだが、カメラの角度的にそう見えてしまった。訃堂やその周りもそこまでは計算していなかったので、結構マジで焦っていた。
流は力を持ちすぎているから、本当に日本の敵になったら、弦十郎やシンフォギア装者の内何人かの犠牲は出ると計算が出ているのだ。
それを見せつけられたあと、マリアは一度その部屋から離れ、付いてきてくれたナスターシャと話し合った。
「もう無理よマム。状況証拠が揃いすぎている!」
「そうですね。ですが、それでもマリアは流を信じたいと思っていますね」
「当たり前じゃない! お正月や誕生日パーティー、海に行ったり山に。昔じゃ考えられない事を沢山したわ。それが全部嘘だったなんて……」
「ならば信じなさい。例え、証拠としてあがっていても、貴女が信じるのであれば私はその考えに賛同します」
マリアは心の限り、思っている事をナスターシャにぶつけた。そんなマリアをナスターシャは優しく抱きしめ、『だとしても』の精神を教える。
「ですがこの現状で流を放置しておくと、私達以外の干渉に会うかもしれません。なら、あえて流を捕まえてしまうのはどうでしょう?」
「あえて捕まえる?」
そのあとナスターシャとマリアは話し合い、訃堂の元へ行った。
「状況は流が敵であると示しているわ。だとしても、私は流を信じる!」
マリアはナスターシャとの考えを反芻しながら、拒否をした。
「……そうか。貴様が流を止めないというのであれば仕方がない」
「待ちなさい! 私は流を信じることは辞めないけど、あなた達の考えもわかる。なら、あなた達にも妥協をしてもらうわ!」
マリアがナスターシャと考えて訃堂に提案したのは、流をパヴァリア光明結社との諍いが終わるまで軟禁して、捕まえたあと事実確認をすることだった。
流はパヴァリアとの戦いに出すと、情報を流す危険性があるので軟禁する。そしてその戦いはシンフォギア装者達で解決する。そのあとその功績と事実確認をして、もし何かしらの関与があったなら装者達が立てた功績で減刑をするという契約だった。
マリアは訃堂が畜生の鬼畜であることを知っている。だが、何故か流を国防面以上に気にしているように感じる。
そして本来ならマリア達の手で軟禁状態の流を監視したいが、流石にそこまでは許してもらえないだろうから、譲るしかないとナスターシャにも言われた。
「……それがマリア・カデンツァヴナ・イヴの譲れるギリギリという訳か」
訃堂の取り巻きはマリアのあまりにも厚かましい提案に怒号の声をあげるが、訃堂が一言黙るように指示する。
「よかろう。ならば、それでやってみせよ。しかしもし流が完全なる国防の敵になれば容赦なく殺す」
こうしてマリアはギリギリの所で流を守り、これからの戦いに思いを強めるのだった。
だが、色々と問題があった。
流を軟禁したらS.O.N.G.の調査力や科学力、そして了子やキャロル達の力が借りられなくなることだ。それはlinkerを使って変身するマリアには致命的だった。
ナスターシャがいるので、ある程度は用立てしてもらえるだろうが、それでもそれ以外のバックアップは辛いものがある。機関のバックアップはS.O.N.G.に比べて異端技術に脆すぎる。特にlinker問題がある。
しかしその問題はナスターシャが解決させた。
本来ならlinkerやアンチリンカーはウェルと了子にしか作れない。しかし、たくさんの天才的な博士がいるのに、知識の独占をし、S.O.N.G.のバックアップに遅延を起こすのは良くないと、了子、ウェル、ナスターシャ、キャロル、エルフナインの間では色々な情報のやり取りがあった。
その中に山篭りで使われた流用のアンチリンカーのレシピや概念説明がされているものがあったので、流を昏倒させたのにはそれが使われた。linkerも同じようにナスターシャが製造方法を身につけていた。
風鳴機関は本来ならウェルに開発をさせる気だったが、ウェルが拒否したのでナスターシャの参入を歓迎された。
そしてどうしてもマリアは仲間に引き入れたい人がいた。もし流が完全な敵なら、彼をどうにかして足止めするための切り札になる存在だ。
「いいですよ」
「……え?」
「ですから、いいですよ。お手伝いします」
「わかっているの? これは裏切り行為に近いことなのよ? それにあなたは流を料理の師としているじゃない」
未来は話を聞くと、すぐに了承した。
未来は流の事は信用しているし、信頼もしている。だが、一つだけ絶対に知っていてはいけない事を流は知っていたので信頼も信用もしているが疑っていた。
それは未来が響の事を好きだという事だ。この好きは友達としての好きではなく、響や周りには知られる事は絶対に避けなければいけない、
それを流は響がシンフォギアを纏い始めた時点で知っていた。
何故流がその事を知っていることを知れたのか。それは響がシンフォギアで戦っているのを隠していた時色々と喧嘩をした。その時に流がいきなり電話をしてきて、的確にアドバイスをしたのだ。的確過ぎるそれは逆に未来が疑うことになってしまった。
響は未来に特に聞かされないまま、未来に懇願されて逃亡する車に乗ることになっていた。
未来の神獣鏡で隠蔽をしつつ、訃堂との合流ポイントについた。
「良くやった。流は手厚い対応をする。君たちには家を用意しておいた。そこで休んでくれたまえ。私達とはあえて居住区を離しているがそちらの方がよかろう」
「ええ。パヴァリアが出てきたらすぐに言ってください。私達が真実を暴きますので」
利用されていることはわかっている。だが、流を
マリアは楽しい日常を取り戻すために、その場をあとにした。
**********
「……ここは?」
流は目が覚めると、岩作りの
何故か全裸で、腕も足も拘束されていて、体が全く言うことを聞いてくれない。
そう、全裸なのだ。流の体にはアクセサリー一つ着いていない。
「ない、ないないないないッ!……ガングニールのペンダントを返せええええええ!!」
流は動かない体で鎖を引きちぎろうとするが、鎖の音が虚しく鳴り響くだけだった。
今まで怪しい行動を続けてきたツケを払うことになりました。
大幅改定したおかげでマリアさんっぽくなった気がする。