戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

92 / 155
ここら辺でもう一度書いておきます。この作品、特にAXZはオリジナル展開……ではなくなっちゃいましたけど、オリジナル設定が結構多いです。
あと流が轟家の地下を自爆させましたが、施設が崩壊しただけで家部分は無事です。



#89『後悔とお調子者の後悔』

「この場所に一々来ないでくれるかな? 私は色々閉じ込めたりするのが大変なんだよ」

 

 流は眠りについた筈なのに声が聞こえたので目を開けてみれば、目の前にはソロモンがいた。

 だが、そのソロモンは疲れているのか、王座にぐったりと座っている。顔が未だに見えないが声も前に比べて覇気がない。そして今回は日本語で話しかけてきた。

 

「……来たくてここにいる訳じゃない」

「そう。で? 君はなんで生きるのを諦めているんだ?」

「別に」

「そんな訳がないだろ! 流は分かっているはずだ。今意識を手放せば君を制御しようとしているあの方の意思に体を乗っ取られるって!」

 

 先ほどの気だるげな気配を吹き飛ばし、流に喝を入れるためにソロモンは声を張る。

 

「そういえばここでは殺しの場面もあの声も聞こえないな」

「……はぁ、君は数万、いや異世界の言葉を借りると、70億の想いによって構成されているのに、その脆弱なモブのような魂の記憶に影響を受けて屑みたいな精神力しかないからそんなうだうだするんだろうね。流、少しだけ昔話を聞け」

「……」

 

 流はその場で体育座りをして装者達という異端技術の塊を殺せという意思も、装者達が人を殺す場面を見なくて済んでいるのでその場で黙ってソロモンのことを見る。流は何か言われた気がするが、今の流は体も心も死にかけているため正常に頭に情報として整理されなかった。

 

「昔昔、カストディアンがバラルの呪詛を撒き散らすよりも前、フィーネが生まれるよりも前の話だ。カストディアン……あの方は人類を作り出したらしい。そのあと何をしていたのかは知らないけど人類は世界の覇権を手に入れた。それから少しして、ある羊飼いの男が分不相応にも王になった」

 

 ソロモンが話そうとしていることを流は理解した。父ダビデから始まり、ソロモン自身の話をしようとしているのだろう。

 

「その男は寝取りをしてあの方を怒らせた。そしてその寝取った女の始めの子は死んだ。二番目の子は男だった。その男は天才と呼ばれる部類の者で、更に只人が認識出来ない悪魔や天使を見ることが出来た」

「……お前の事か」

「いいや、哀れな男の話だよ。その男は数いる後継者の中から王を継ぎ、様々なことがあり、ある晩にあの方と会って()()()()んだ。あの方はその男に何でも願いを叶えると仰った。そしてその男は全なる知恵を求めた」

 

 ソロモン王はその時代では突出した知識人であると歴史にはよく描かれている。それは神によって与えられたとも記述されたりしているが、実際に与えられる前から有能で与えられたことにより完全になったのだそうだ。

 

「そのあとその知恵を使って、国を発展させていったさ。その知恵を生かして、精神生命体である悪魔や天使を使役する指輪なんかを作ったりもした」

 

 流はソロモンの指を見ると、流と同じく左手親指に同じような指輪が嵌められていた。

 

「ひたすら父のような糞人間にならないように励んだよ。でもね、気がついたら愚王と呼ばれるようになっていた。国内に圧政を敷き、国外からは賢王と呼ばれる。私はいつの間にか、優秀だと思っていた人間を身内に引き入れて役職を与えた。私はいつの間にかある宗教()()()信仰するように仕向けていた」

 

 ソロモンは掴んでいる王座の手すりを殴りつけ、それでも流に自分の歴史を語る。

 

「私は死ぬ時悟ってしまった。ああ、あの知恵は私や国を昇華させるためのものではなく、不完全な人間が()()()()()()()のにも関わらず争い、偶像を作り上げ、あの方を信仰しない者達がいる動乱期を終わらせるための知恵だったのだとね」

「……もしかしてお前は」

「そうだよ。神は完全な眷属を作らずに、不完全な眷属、人間を作り出した。でも、その人間は愚かにも創造主から離れ、自分達の神を作り始めた。それを正してまとめるための道具として、私はあのダビデから生まれたという事にされて、神が都合よく人類の認識を自然にねじ曲げるための道具として生まれた!!」

 

 人類は不完全で愚かだが、成長できるように作られた。流の製造理由は成長しすぎてあの方の域に届こうとする技術の行使者を殺すため。

 それと同じようにソロモンは不完全で愚か故に、あの方と同じような奇跡の行使者()を作り上げ、反乱を起こした人々をまとめる為に作られた。

 

「しかも死んだ後は魂を無理やり指輪にねじ込まれて命じられたんだよ。あの方が降臨する体を作ることをね。もう嫌になるよ。ソロモンの杖はバラルの呪詛をかけられた後、神の域に届く行使者を殺すために私がその時代に現れて作った物だ。だから、君は杖との適正は完璧だったんだね。同じあの方が創り上げたモノだから」

「……どうでもいいわ」

「は?」

 

 今の流には他人の不幸話などどうでもいい。勝手に死ねば? 程度の思いしか湧かない。元々の流も身内以外、勝手に死ねくらいにしか思っていなかったが。

 ソロモンは青筋を浮かべて、凄い顔芸を披露している(神の腕を壊された様な顔)が、当然流には見えないようになっているのでそれを認識することは出来ない。

 

「……まあ、何が言いたいかと言うと、君は相当マシなんだよ。クソな父親はいたけど、弦十郎殿は君を体を張って間違いを正すと言っている。なんであんなクソみたいなあの方に惚れたのか知らないけどフィーネも君の母親として良くやってくれている。緒川だって、君の立場上色々大変だからこそ何でもできるように仕込んだ」

「……」

 

 ソロモンは流の反応が芳しくなく、少しずつイライラしてきた。

 何千年と待ってやっと呪縛を解いてくれるかもしれない人間が作られたのに、その人間は本来の精神性とは程遠くて自分をモブと思っている始末。しかも、一々落ち込んで人間であることに固執している。この機会を逃したら、次は何時になるか。この指輪から解き放たれるのは。

 

「それにこのまま君の体を放置していたら、あの方の意思に乗っ取られる。そうすれば君は絶対に取り戻せないよ? 君の精神が死んだとわかれば、雪音クリスは後追いをするだろうね。月読調だって、君を支えにしているんだ。マリア・カデンツァヴナ・イヴはこんなことを仕出かした結果、流が死んだと思って精神が死ぬ。他の人達も何らかの障害を残してしまう。それでもいいのかい?」

「マリアは俺を捨てた」

 

 流の投げやりな一言にソロモンはキレた。

 ソロモンは流を守るために響との会話に介入してしまった。現実に介入したツケでダメージを受けている体を喝を入れて流の真横に移動する。

 

「……ん?」

「歯を食いしばれ!!」

 

 弦十郎が見ても感心するほどの綺麗なフォームで、完璧な角度で流の顔面に右ストレートをぶち込んだ。ぶち込まれた流は何メートルも吹き飛び、地面に這いつくばった。

 

「……なんだよ」

「なんだよじゃねえよ! お前本当にいい加減にしろよ? 俺はお前の女じゃねえんだよ、クリスや調にでも慰めてもらえ。女を抱かないで童貞だからそんなにウダウダしてんだよ!!」

「童貞は関係ねえだろ!」

 

 殴られたのに威勢がよくない流にソロモンは駆け寄り、流の仰向けにしてマウントを取って顔面を殴り続ける。

 流は殴られれば殴られるほど、何故自分はソロモンなんかに殴られている? という怒りが湧いてきて、最後にちょっと、ほんの少しだけ気にしている事を言われてブチ切れた。

 

「キレてんじゃねえよ雑魚! 訃堂のアホの策に乗るのは癪だが、お前には色々教えてやるよ。お前は本来ならこの世界の何者にも負けぬ魂、神話のゼウスのような気性を持った想いを付与されて世界の全ての人々の神に対する想いを束ね、魂を想いで強化して神たる器に相応しい魂を嵌め込んで生まれるはずだった!」

「は? 黙れよ。まず俺を殴ってんじゃねえ!」

 

 足技寝技、腕や頭、錬金術からエネルギーのそのままの利用。全てでソロモンを流自身の上から剥がそうとするが全てを綺麗に防がれる。

 

「何千年もの技術の会得者に小手先で勝てるわけねえだろ。それなのにキャロルが行った世界解剖に異世界にいるにも関わらず影響を受けて、解剖された人間の魂を核にシンフォギアの登場人物に対する世界全ての愛を寄せ集めてその体に宿ってしまった。ふざけんなよ! 原作知識なんて無くたって、世界を征服できるだけの力を与えられる筈だったのにただの人間程度の力しか持ってないとか!」

「嘘ついてんじゃねえよ。なんだよ想いを束ねるって」

「立花響だって思いを束ねることをするだろうが! その想いを概念として付与したと思えばわかんだろ? お馬鹿さんにもよ」

「ふっざけんなよ! 俺の知識を馬鹿にするってことはママの一部を馬鹿にするってことだからな?!」

 

 流は技術で攻めるのをやめて、何故かデュランダルに一切侵食されていない体でソロモンを無理やり抱きしめてマウントを逆転させる。本気でソロモンをぶん殴るが、寝ている状態なのに震脚によってうまくダメージを流されている。

 

「フィーネ程度の知識で何調子乗ってんだよ。まあ、弦十郎には感謝してるよ。クソみたいなてめえを戦える程度にはしてくれたんだからな」

「お前よりも絶対に父さんの方が強いからな?」

「黙ってろ。というか、お前チキン過ぎるんだよ。あの家にいる全員が好きなのにも関わらず誰にも手を出さない。うぇ〜ん、手を出して嫌われたら怖いからって子供か! しかも自分から離れていかない霊体二人にだけは心を許すとか情けねえ。それなのに奏もセレナも度胸がない、それにやり方がわからないからって手を出さないとか今の小学生だってわかるぞ」

 

 流の足をうまく絡め取られ、そのまま折られるが、構わずソロモンを殴り続ける。ソロモンの顔はわからないが、少しずつダメージが与えられているのがわかる。折れた足を無理やり絡めているから、震脚などのダメージ流しで受け流しきれていないようだ。

 

「う、うるせえ!……そうだよ、愛の想いを束ねたんだろ? それのせいだろ」

「はいダウト。その想いはきっかけになるかもしれないが、そのあとその感情をどう育むかはお前の選択次第だ。お前は全てを愛したいと思っているのは、フィーネの教育とお前の選択による結果だよ、チェリーくん」

「死ねや!!」

 

 イザークの錬金術で治した足でソロモンのソロモンをぶち破ろうとしたが、その勢いを利用されて吹き飛ばされた。

 

「立ち技なら負けねえ」

「無理だよ。私が何千年鍛えてきたと思ってあるんだい?」

「いっぺん死ね!」

 

 流はソロモンの背後に瞬間移動をしようとしたが、移動経路に拳を置かれて鳩尾にモロ拳がめり込んだ。

 

「ウグっ」

「しかもマリアが君を宗家に売ったと思っているね? それで色々痛みを受けた。痛みも愛とか言ってる癖にマリアが選択して与えている痛みを愛と認識してないじゃないか。フィーネの真似事はやめな。彼女の痛みは愛は本物だけど、君は母親を真似ただけのまがい物だ」

「……黙れ!」

「いいや、言うさ。響が君の古傷を弄ったけど、あれは君に本気で感謝をして君のことを思ってくれていた。それなのに君は痛みで返した。響は痛みという名の愛を与えてくれたのにだ。それなのに君は愛ではなく、ただの痛みを響に与えた。なんだ、アニメの響父と同じじゃないか」

「死ねええええええ!!」

 

 弦十郎とは違い、どれだけペースをあげても完璧に流されてその間に一撃をもらってしまう。弦十郎はパワータイプならば、ソロモンは技巧タイプのようだ。

 今の流にはアニメの記憶はないが、何となく言われていることは分かった。きっと、響の父親はアニメでは響に理不尽な暴力を振るったのだろう。

 

「フィーネは君に知識を。弦十郎は君に心と体を。緒川は君にずる賢さをそれぞれ与えてくれた。君の父親はクソだから除外するとして、私も君の父親みたいなものだからね。君には私が愛というものがどういうものか教えてあげよう。人を愛するというものがどういう事か、痛みは愛とはどういう事か。君の中にある何億もの想いを少しずつ消費して、()()()()()教えてあげよう」

 

 ソロモンは流を蹴り飛ばすとその場で流が異世界から引き寄せた想い出の中にある、ある術式を発動させた。魂は既にないが、その経路から流れてきたシンフォギアの登場人物に対する愛と、それに付随する想い出をソロモンは管理している。全てを生きている流に流したら流の頭が破裂してしまうし、影響を受けすぎてしまうからだ。

 流はすぐに起き上がってソロモンを見るとその右腕の上には小さな太陽があった。その熱に当てられたのか、ソロモンが来ていたトーガや宝石は蒸発してしまっている。

 

「抜剣してんじゃねえよ」

「これは君がいつか体験するであろう、ツングースカ級のエネルギー弾だ。君にはこれを片手で打ち消せるくらいになってもらうよ」

「は?」

「じゃあ、まず一投目」

 

 ソロモンが腕を振るうと小さな太陽、人間からしたら視界を覆う大きな熱の塊が流へと飛んでくる。

 飛んで逃げても間に合わない。ここでは宝物庫が開けそうにないから逃げられない。ならばやることはひとつ。

 

「うおおおおおお、って流石に無理!!」

 

 セレナやマリアのアガートラームのようにエネルギーを再配置して自分の出力に変えようとしたが、デュランダルでもない腕では上手くいかない。更にエネルギーが圧倒的過ぎて流の目はすぐに蒸発し、喉の奥は焼け、皮膚が茹で上がり、流は消滅した。

 

「さあ、想いを糧に何億と立ち上がれ! あんな神を自称する別の宇宙から逃げて来た、人間の女一人の想いすら察せられずに呪いを与えた奴に負けるほどヤワじゃないだろう!!」

 

 ソロモンの私怨マシマシの神に対する裏切り行動が今始まった。流は怒りや負の感情をあまり留め続けない性質を持つ。今の流の魂は愛の集合体であり、それ故に負の感情はあまり長続きしない。

 流はいつの間にかソロモンを倒すという考えに染まっていて、先程までの鬱状態を起き去っていた。

 

 

 **********

 

 

「無理はしちゃ駄目デスよ!」

「でも!」

「逆に流や翼さん、皆にも心配されちゃいますよ?」

「……そう、かしら?」

「デスデス」

 

 切歌はたった一人で走り回っていた。

 

 マリアは日が経つにつれて少しずつやつれていっている。クリスの言葉が効いているようでマリアはたった数日なのに痩せてしまっている。食事もあまり口には通っていない。

 響は理由を言わないが、流をマリア以上に心配していてご飯も小盛一杯しか食べれていない。切歌は何とか重荷を一人では背負わせないようにするために、聞き出そうとしたが言わないと言われてしまった。

 そして響の元気がなくなるにつれて、未来も元気がなくなっていった。響を見ていると自分の選択が間違いだったのではないか? と常に自分に問いかけ続けているようだ。

 

 そんな中、切歌はマリアを元気づけて、響に甘い物を食べさせて笑顔を少しでも引き出そうとして、未来にはそんな響と話をさせる。

 皆の前では笑顔を絶やさず、元気に明るく、おちゃらけて精一杯動いていた。

 

 今回はマリアがひたすらシンフォギアを纏ってシミュレーションをしていたので切歌が止めに来た。既にリンカーを何本も使って体内浄化せずにやり続けていたため、機関の方から切歌に声が掛かった。

 情報が欲しいからシュミレーションを使わせたら自分から壊れるように体を酷使し始めたので、話の通じそうな切歌に連絡がいった。ナスターシャはマリアの状態を見て、話し合いや調整をエルフナインと二人で行っている。しっかりサポートもしているが状況が打破できないと焼け石に水だろう。

 

「ありがとうございます」

「いいデスよ。マリアはやり過ぎちゃいますからね。逆に教えてくれてありがとうデス」

 

 過激派であっても装者達に被害を加える気は無い。それをしようとしたある家が、会議の場で訃堂に直接物理的に首を切られているので絶対にそんなことはしない。

 

「マリア、行くデスよ」

「……ごめんね切歌」

「何言ってるデスか! マリアは流を守りたかっただけデスよ」

「そう、よね」

「今未来さんがカレーを作ってくれていて、あと鎌倉のあのトマトをマムが注文してくれたデスよ! 急いで帰らないと無くなっちゃいますよ!」

「そうね。いざって時に動けないと駄目だものね!」

「デスデス! 行くデスよ、マリア!」

 

 切歌は自分も励ますように、マリアの手を繋いでその場を駆けた。マリア達には絶対に知られてはいけない秘密を胸に抱いて、崩れそうな笑顔を絶やさず笑いかける。

 

 たまたま廊下を歩いている時に部屋から聞こえてしまった。流が良い特別待遇を受けてはおらず、牢屋に入れられて、言葉による拷問を受けている事実を胸に仕舞う。

 切歌は身内以外信用出来なくなってきていて、ここにいる人達にはマリアも響も未来も一時も預けないために切歌は走り続ける。

 

 この状況をどうにかしようと、切歌なりに考え続け、ある手を講じている。他人を信じられなくなりつつある切歌が講じたのは他人を信じることだった。

 

 

 **********

 

 

「入れ」

「失礼致します」

 

 翼はカリオストロの襲撃があったあと、流の家を探索したが一つを除いて気になる点はなかった。

 その気になる点もクリスや調は認識していなかったので確かめるのをやめておいた。

 

 今は一人で風鳴宗家に足を運んでいる。訃堂のいる部屋に来る途中、切歌の足音のようなものが聞こえたが、聞こえた場所には誰もおらず、すぐに訃堂の元へと向かった。

 

「何用だ。不肖の防人たるお前に対して、割ける時間は限られておるぞ」

「では単刀直入に。流を返して頂きたい。この宗家に置いていては彼の身が危うい」

「知らぬ」

 

 訃堂はそれだけ言うと、部屋から出ていこうとする。その訃堂の影に対して翼はクナイを投げて【影縫い】を発動させた。

 

「貴様!!」

「流を防人歌のような防人にさせるわけにはいかない! 彼はもう愛する者を失っている。これ以上の重荷は彼女の代わりの妻である私は、許容出来ぬと心得えよ!」

 

 翼は流がたった一度、奏が死んだ後の灰に対して呟いた愛の言葉が聞こえていた。だが、あの時は奏の死に耐えきれず、流に怒りの矛先を向けて心の均衡を保っていた。故に空耳だとあの時は断じていた。

 翼が流を殺そうとしたのは一度どころでは無い。シンフォギアを纏ってノイズとの戦いでたまたま攻撃が飛んだ風に偽装したことは一度のみではない。

 

 今思えば流はあそこで奏が死ぬ事を分かっていたのだろう。流がライブ前に引きこもったのもそれのせいだ。奏がライブが始まる時に、今までありがとう、なんていう言葉を言ったのも知っていたからだ。

 翼はもう流、それに皆を失わない、失わせないように出来るのであれば修羅にだって落ちる意気込みだ。

 

「……今、流の妻と言ったか?」

「貴方がそうお決めになったと」

「そうか……お前、()()()()そういう選択をするか」

 

 訃堂は気合で影縫いから抜け出してから席に戻った。そして翼を座らせた。これから始まるのは反逆だ。

 

「よいか、これはあの者の血を継いだ翼のみが知るべき事だ。絶対に他言無用である」

「……はい」

「我らの血には悪鬼が住み着いている。だが、我らの血はこの地を護るための証でもある。良いか、悪鬼に身を委ねるな。あの血を継いだ翼ならばきっと対抗できるであろう。彼奴はそういう存在だ」

「はい」

 

 翼は意味を理解できないが、それでも今後に役に立つであろうことはわかる。今までの物を見るような目ではなく、訃堂の目が人を見る目になっていることから分かる。

 

「流は渡せぬ。もうじき可決されるであろう事柄も関係するが、流は現在フェーズ5を迎えている」

「五段階目ですか?」

「さよう。あれは途中で止めれば乗っ取られる。逆に完遂しても乗っ取られる……彼奴に流を渡したくないのであれば……自らを神すらも斬れる剣と鍛えよ」

「神……」

 

 訃堂はそれだけ言うと、部屋から出ていった。そして訃堂は自室に戻るとその場で倒れた。

 

「神殺しの剣である天羽々斬、だけど私には何かが足りないという事か」

 

 翼もその場を後にしようとして、流の気配を感じたような気がした。

 

「……雪音や奏ではないのだ。そんなことはないはず」

 

 翼はその直感を無視して、宗家を後にした。




シンフォギアで欝のあとはもちろん修行パート。本来なら流についてはAXZ最後にラスボスが語るはずでしたが、ミサイルとかいう兵器を使う国が、流が嫌っている国だったので修正。

何故あの世界にカストディアンという神のような奴がいるのに、オーディンやらザババの伝承があるのかな? と思っていたので、そこら辺は人間が創り出したって事にしました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。