流は着地してからすぐに違和感を覚えた。それを口にしたのはセレナだった。
『……あれ? これって仲間割れしてますよね?……マリア姉さんとクリスさんの二つに別れちゃってますよね?』
『多分そうだな。切歌が風鳴宗家になんでいるのかって疑問だったけど、俺を
響は流が裏切ったとしても、それでも信じると言って中立くらいを貫くと流は思っていた。だが、マリア側に未来がいるので押し負けたのかもしれない。
あと流の脳内変換を二人は無視することに決めた。どうせ意見を変えないであろうことがわかっているからだ。嫉妬していると言われるだけ。
『なあ、なんか翼から視線を感じるんだけど。ローブから髪とか出てないよな?』
『『ちょっと待った!』』
『な、なんだよ』
奏も平然と
『いや、なんで統一言語使ってるの? 基本的に人類は使えないんだよ? 幽霊は多分例外として』
『さあ? 死んで幽霊になって、更に復活なんて前例ないだろ? あたしもわからん』
『……そういえば普通に私のことも見えてますよね』
『それはまだ流の指輪が有効だからだろうな』
奏が統一言語を使っている理由はわからなかったが、セレナが見えるのは未だ奏の指にはソロモンの指輪を嵌っている。指輪は物理的な物ではないようなので、肉体を手に入れても魂に付随しているのだろう。まあ、流に魂はないのですが。
「流は無事だったん……あれ? 右腕はどうしたんだ!?」
「治した」
「あれって治るもんなのか!」
流は登場したくせに、いきなり目を閉じて黙りこみ始めたのでクリスが声を掛けようと近づくと、流のデュランダルになっていた右腕が生身になっていた。
クリスは先程までマリアと争っていた時とは違い、笑顔が花開いているが戦っていたもう一人は違った。
「なんで出てきちゃったのよ!」
マリアは流の無罪を証明するために軟禁していたのだ。装者が損耗してから出てきたのならわかる。戦力として使うためだろう。だが、このタイミングでの登場は流の脱獄以外ほぼ有り得ない。
これでは流を無理やり押し込めてでも、皆を裏切ってでも、他の人を巻き込んででもやろうとした事に意味がなくなってしまう。
「もう、マリアは独占欲強いな。だが、そこがいい」
「え?……え?」
「だってそうだろ? 俺を愛するあまり、牢……部屋の中に閉じ込めて管理したいなんて、なかなか悪くないよね!」
「え?」
マリアは全く予想をしていなかった返しに反応ができなかった。それに続いた言葉も訳が分からなかった。それは翼とパヴァリア以外の皆が一緒だった。
「話したいことも色々あるけどちょっとだけ待って。待ってくれないとキレるから」
流は自分の今の考えは
『ママ、インカム送って』
『ねえ、さっき言ったこと本気?』
『え? 違うの? マリアは年齢が割と上だし、焦っちゃったのかなって』
流はソロモンの忠告や説教を聞きながら何度も殺された。何度も達成できない試練に心が折れかけた。そして死んでいる間はソロモンが復活させるまで、考えることしか出来なかったのでマリアについて考えた。
始めは何故マリアが裏切ったのか、なんて考えていた。だが、ソロモンが出したXDマリアに殺された時、あれ? もしかしてマリアって俺の為にやったのでは? と思い始めた。そこからは馬鹿みたいに都合のいい考え方に変わっていった。
結果、マリアは自分が愛おしくて愛おしくて他の人にやるくらいなら監禁してやると思ってしまうくらい愛されていた。そう流の中では結論付いた。精神に高負荷が掛かっている状態で頭が馬鹿になったのだ。
ソロモンの唯一の失敗は時間が無いからと、流の精神を強くするために壊して再生を繰り返すのと説教を同時に行ってしまったことだろう。
了子も流が何か変わった……具体的に言うと、より自分に近づいた気がする。愛する人になら何をされても愛に感じる『痛みは愛』という考え方に染まったのだと理解した。同志だからこそ理解した。
なお、いくら痛みは愛でも、会話もできず想いを伝えに行こうとしたらその手段を剥奪され呪いまで掛かられた場合、それは愛ではなくただの苦痛でしかない。カストディアンもフィーネに一言告げていれば歴史も変わっただろう。
流が了子にテレパスでお願いをするとすぐ流の横にインカムをテレポートされてきた。それを流は付ける。了子のようにサンジェルマン達が
「ママと娘に聞きたいんだけど」
『キャロルなら居ないわよ。エルフナインならマリアのサポートのためにいないし』
『流、大丈夫だったか?』
「なるほど。大丈夫も何も、マリアが監禁してくれたおかげで色々理解出来たからね。感謝と愛おしさしかないよ」
『……あー、なるほど。とうとう息子が壊れたか』
流は先程からキャロルにテレパスを送っているのだが、向こうが受け取ってくれない。
そして弦十郎がとうとう息子が色々とぶっ壊れたことを悟るが、悪に堕ちたのでもなくどちらかと云うとアホになっただけなので別にいいかと問題の棚上げをした。
「それであれ何?」
『ヨナルデパズトーリ。無敵の怪物って言ってたけど、膨大なエネルギーを何処か……キャロルちゃんは平行世界って言ってたわね。とにかく膨大なエネルギーで無理やりダメージを無かった事にする怪物よ』
「ふーん。あれってあれ自身の意思があったりする?」
流は身内以外どうでもいいし、他の害する奴は死ねという考え自体はあまり変わっていない。だが、皆が自分を愛しているし、それなら初めの一回の過ちは許そうと思い直した。ただそれを適応するのは自己の意思を持つものに限る。
あと既に大切な人を殺している奴らは別だ。流自身しかり、アメリカしかり。
『今のところはないわね。人間の魂やらが使われてるかもしれないけど、核となる作られた想いにエネルギーと錬金術で降臨させているのだと思うわ』
「なるほど、人間でもなく、意思疎通を行うには
『……出来るのか?』
「あれがノイズ系統じゃなければ余裕」
『違うわね。ならちゃちゃっと倒しちゃって』
「了解!」
了子の軽い言葉に同じく軽い返事を返して流は目を開けた。
「本当ならここで色々やって俺の事を話したいところ何だけど、ちょっとあのへ……不味そうな鰻が気になる。殺してからお話をしようか。あっ、話を聞かないで逃げたら地の果てまで追うからね?」
『元々その毛はありましたけどヤンデレの毛まであるんですか?』
『いや、マジで今逃げられると困るから』
流はこの場で自らの真実を詳らかにするつもりなのだ。皆に自分の事をある程度知って欲しい。それにここでパヴァリアの三人を逃がして、記憶にあるカリオストロとプレラーティの死ぬ悲劇を起こさせる訳にはいかない。この場で説得もする気だ。
「……流、あなたが我々と手を取り合おうとするには遅すぎた」
「全然遅くないね。その鰻を殺すけどいいよね? それがいるとあんまり良くない気がするんだよ。何となく漠然と」
「……」
サンジェルマン達が人を殺しまくっているのはパヴァリアがやる儀式の礎、エネルギーとするためだ。だが未だに儀式の中心である大祭壇を作り出すエネルギーが足りていない。
サンジェルマンは流がアダムの代わりになり得ると思っていたが今更もう遅い。流には世界革命の礎となってもらう事にした。流というぶっ飛んだ人間なら、きっと一人だけで足りない分の生命エネルギーを賄えるはずだ。
「やりなさい、ヨナルデパズトーリ」
『……さあ来いよ、不味そうなドジョウ。捌いてやる』
サンジェルマンがヨナルデパズトーリに命じると、それに従って流へと突っ込んでいく。流はそれに合わせて統一言語で
『奏は俺の後ろへ。デュランダルは俺を全身変換して』
生身で受け止めるのは
「ぐっ、うりゃあああああ!!……父さんの殺す気の拳よりは軽いわ!」
突っ込んできたヨナルデパズトーリの下顎の先を掴み、全身を使って衝突の威力を受け流す。多少体にダメージが来るが弦十郎の拳に比べたら痛くない。
ヨナルデパズトーリは逃げるために暴れるが、流は位相を少しだけズラして空間に自らの体を挟み込んで
そしてインカムの向こうでは、
『俺は息子を殺す気で殴ったことはないだろ!』
と弦十郎は叫んでいるがクレームは全てソロモンへ。全部ソロモンが悪い。
「さて、俺が今まで最強の盾、デュランダル以上の最強の盾として使っていた技術を矛として扱おう。これは人間には絶対に使わない。意思を持っているやつにも使いたくない……あまりにも可哀想過ぎるからな。だから、サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティは安心してくれ…………ヨナルデパズトーリ、対話が出来たかもしれないが済まない」
流は位相差を操作する時、自分の体以外の服や荷物も一緒に位相をズラしていた。今までは防御にしか使ってこなかった位相差変更を攻撃に転用するとどうなるか。
サンジェルマンや他の人達は何が起きたのかがわからなかった。流が話した後、いきなり流とヨナルデパズトーリが消えたと思ったら数秒後には流だけがそこに出現した。
「何をした!!」
「そんなに叫ばなくてもサンジェルマンにも教えてあげるから……待て、これを言う前にしっかり言っておかないとな」
流の言葉にサンジェルマンは言い知れぬ不安に襲われたので、攻撃をして口を塞ごうとしたがもう遅い。
「皆は俺を好きで愛してくれていると思う。俺も、響に翼にクリスに未来に、マリアに調に切歌に、キャロルにエルフナインに、ママに弦十郎父さんに緒川父さん、ウェルも藤尭もナスターシャも友里も八紘も斯波田爺ちゃんも、みんな皆、愛している!!」
『もちろん奏は特に愛しているし、セレナもこの後沢山愛してあげるからね。体で支払うって約束したし』
「だからこそ、俺はみんなに俺という存在が何者なのかを知って欲しい。あっ、カリオストロも好きだよ? 体を押し付けてきてウザイけど。プレラーティも多分好きだけどあんまり話してないし。サンジェルマンも多分好き」
「「「『『「「は?」」』』」」」
奏とセレナ以外の皆は、いきなりヨナルデパズトーリが消えた事を言うのかと思っていたのに何故か愛の告白。しかもここにいる全ての人に向かって告白をしてきた。
だが、一部の人は愛しているとしっかり言われて嬉しそうにしていたりする。逆に露骨に怒っている人もいるが今の流からしたらその怒り顔も愛おしい。今すぐにでもその怒りの篭った鏡で殴られてもいいが、光だと死んでしまうので勘弁だ。痛みは愛だが、消滅の可能性のある神獣鏡の光だけは勘弁だ。
「で、俺の秘密は色々準備が必要だから置いておくとして、何故ヨナルデパズトーリが消えたか。まず皆は位相ってどんなものか分かる? すぐ隣の位相は薄い膜程度の距離しか離れていないんだよ。で、その位相を何十何百と離すのがノイズの位相差障壁なんだ。で、俺がさっきやったのは何億……いいや、それ以上離れた位相にヨナルデパズトーリごと移動してその位相にヨナルデパズトーリを放置してきた。無敵の蛇なら邪魔にならない場所に放置してしまえばいい!」
位相の場所によっては人間は生きられない位相もある。位相を理解しつつある流でもこの世界から離れれば離れるほど、その位相がどうなっているのか目で見ることが出来なくなる。深い海に沈んでいくようなものだ。
もし人間にこれをやったら何も見えないし体も動かせない。ひたすら衰弱するまで何もすることがなく永遠の暗闇に放置されることになる。そんなもの人間には耐えられない。
故に流は人間にはやらないことにした。意思を持つ存在にもできるだけやりたくない。
「……我々の無敵の力がノイズの技術によって完全に無効化された?」
「サンジェルマン、落ち込むのは後にしましょう。多分彼が語ることは計画にも利用できる可能性が高いわ」
無敵が無敵を発揮する前に消されたことに少なくないショックを受けているサンジェルマン。カリオストロは慰めつつ、流の言葉からしてまだ保険を掛けられることに安堵する。切歌を襲った時点でもう駄目かもしれないと思っていたのだ。
「次に俺の事を知ってもらいたい。俺は秘密主義が過ぎたらしいからね。まあ、全くもって話せなかったんだけど、これもある鬼畜な所業が大好きなお節介な王様がヒントをくれたんだ。話せないという呪いを無理やり解除する方法だ」
流は原作知識と呼ばれるものは話せなかった。それに奏やセレナのことも話せない。今も奏が肉体を得て、ここに居るだけで流は圧迫感のようなものを感じ続けている。
クリスや他の人達からも無理はするな、などの言葉を言ってくれるが流は自分の事をみんなに知ってほしい。もう無駄に隠し事をしたくないから止められてもやる。
ソロモンのヒントは簡単だった。
「流は呪いを発動すると話せなくなる。呪いは漠然としたものではなく、君に圧力をかけて話せなくしたり、記憶の摩耗を引き起こしたりしている。圧力や事象を引き起こすには力が絶対に掛かっているんだよ。君のそばには力を操るのに長けている子がいるだろう? ああ、大丈夫。流やその子へ危険が及ばないように色々仕掛けておいたから。その子にも色々教授したしね」
それを聞いてすぐに流はソロモンを本気で一発殴っておいた。勝手にセレナを巻き込んだ罰としてだったが、ソロモンも殴られることがわかっていたのか文句の一言も言わなかった。ソロモンもこれに協力した方が自分の解放が早くなるから協力は惜しまないとのこと。
『セレナ本当に大丈夫なの?』
『もちろんですよ。あの胡散臭いソロモンに色々教えてもらいましたから』
大抵の人にはさん付けするセレナが呼び捨てにしている。実際怪しいからしょうがない。
『……あとこれからは勝手にソロモンの所に言っちゃダメだよ? あいつロリコンだし』
『……え? って、私は別にロリじゃないです! 胸だって切歌ちゃんに近づく程度にはありますから!』
なお、流はソロモンから精神体について学んだ時、セレナの胸の真実を知ってしまった。
精神体はその人自身も想いによって姿がある程度左右される。霊体のセレナは自分の想いで胸を膨らませている可能性がある。なので、セレナの肉体を完璧に作った場合、ヘタしたら成長しない可能性もあるのだ。逆にマリア並になる可能性もあるが、奏曰く普通くらいにしかならないとの事。
セレナが死んだのは13歳の時だ。奏は13歳の時には既に巨乳になる片鱗を伺わせていた。だが、セレナは流の下に来た時は割とぺったんこだった。故にあまり育たない可能性が高いらしい。
「……すー、はー。俺は今からある事実を言う……! グッ!……」
セレナと奏はここにいる。
ただその一言を言うことが出来ない。今までと違って無理やり言おうとするとどんどん頭が割れるように痛くなる。体が、今は無き魂のあるはずの場所が締めつけられる。
『憑きますね』
セレナが流の体の中に入ってくる。流に憑依したセレナも同じような痛みを味わうが、流が心の底からお願いしてきたことなので何としてでもやり遂げる。自分や奏が蘇生されて、みんなに顔を合わせたら流が死んでしまったらやり切れない。ここで全てを終わらせる。
「……か……うぐっ、セ……」
流を従わせようとする力がどんどん強くなってくる。そんな流を奏はそっと支える。
流の体感時間では数時間ほど経っている気がするが実際はまだ数分も経っていない。セレナは流の体を操り、力が掛けられている方に手を伸ばす。ゆっくり焦らず、だが確実にセレナは流の右手を閉じていく。
『……流さん!』
流と流の握りしめた拳と『月』が完全に一直線上になり、セレナが強く握りしめたことにより流は初めて奇妙な物を握りしめていることがわかる。
未だ味わったことのない感覚だがあまり人間が触っているのは良くない気がする。流はもう人間ではなくなっているがセレナは人間なのだ……幽霊だが。
『あとは俺が無理やり呪いを握りつぶすだけ!…………おい、俺を制御下に置きたくて、色々してくれちゃった誰かさん。あんたのおかげで皆と出会えたから一度だけ感謝する。ありがとう。だが、次お前が干渉してきた時は……神だって殺す』
「『おおおおおおおおおお!!』」
流とセレナが叫びながら引っ張った何かがチラリと見えた。不思議な色をした線が流に向って月から伸びていた。
その時色々と理解した。流に対して了子が全く理解出来ない言語で歌を歌ったことが一度だけある。あの時はこのラインを通して何かに語りかけていたのだろう。
パキッ
何かが壊れて割れる音がした。だが、今回は流から聞こえたのではなく流とセレナが握っていた空間から響いていた。
その音を聞いた後から、流に対する圧力のようなものが無くなり流は何でも話せるような気がしてくる。
「か、かな……奏とセレナはここにいる!!」
流はそう叫んだ瞬間『疑問が確信に変わり、大輪の花が咲き誇るような喜び勇む想い』と『信じられないモノを聞いたが、もし本当なら号泣してしまうほど嬉しい想い』が濁流の如く流に流れてきて、流はその想いを処理しきれずに気絶した。
呪いは物理的にぶっ壊しました。ペナルティ? そりゃありますけど、流とセレナと奏からは変な音はしませんでした。
ヨナルデパズトーリはどことも知れぬ位相にボッシュートされました。南無三。