戦姫絶唱シンフォギア 外伝 ~いつか空駆けるその日まで~   作:チョコ明太子味

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だいぶ遅くなってすいません。
大学の提出物などがあるので、また遅れると思います。
あと、これまで投稿した話を微妙に修正しています


少年少女

「ごぅっ…………」

 

 顔から地面に向かって崩れ落ちる。

 手の先にはしびれが残り、びくびくとわずかに痙攣している。

 いや、それよりも。なによりも。自分の体に走る不快感のせいでもだえる事すらできない。

 

「おっ……」

 

 のどの奥から迫ってきたすっぱいものを必死になって飲み込む。

 

「ふむ、このやりかたもだめか」

 

 淡々とした口調で言うアレイスターは、ぺらぺらと手元の資料を捲りながらため息をついた。

 

「これは君専用のチューニングをしなければ使い物にならないかもだな」

 

 その言葉を聞いた翔はペットボトルに伸ばしていた手をピクリと止めた。

 

「専用って……、俺意外に受け皿になる当てはあるのか?」

 

「いや。そうではなく、ただのコスト的な問題だ。私たちに使えるコストは限られているんだ。実装的にも運用的にもかかるコストは最低限な物のほうがいい。だが……不完全な状態ならこの形式のままでよさそうだ」

 

 自分の頭についていた部品。見た目はヘッドフォンに近いそれを外してまじまじと見つめる。

 ヘッドフォンには端子がいくつもついていて、計測用の装置などにつながっている。

 

 そして、右耳のあたりのプラグから伸びるコードは丸形のステージのようなものにつながっていて、そこにマータがいた。

 

 音楽符号の名をつけられた少女は初めて見た時からその様子を変えることはない。

 

「それにしても、意外と機械的なんだな」

 

「近代的な魔術師は、お前たちが思っているような魔法は使えない。ようするに近道ができるものだと思って構わない」

 

「近道……」

 

「うむ。このフォニックゲインの抽出も先の未来できっと実現するような事柄だ。それを魔術という手段をもって実現可能にしたわけだ」

 

「なるほど。つまりズルしてるってことだな」

 

「…………。さあ、もう一度起動だ。今度は注入量を本来の40パーセントほどに変えてあ  る。マータ」

 

 名を呼ばれた少女はコクリと頷き、その小さな口から音を奏でる。

 

「Bravelyu amenomurakumo zizzl」

 

聖詠に反応して、彼女の胸元のペンダントが拡散的にフォニックゲインを放出する。

それを彼女の周りを覆うようにした装置が、回収する。

回収されたフォニックゲインは、その幾分かを減衰させて翔のつけたヘッドフォン状の機械に送られる。

 

体の中に、真綿がつめられるような違和感が流れ込み。

 

そして、その真綿が解けるような感覚が体内でした。

 

「おぉ、成功じゃないか?」

 

「状態も安定しているな。劣化型だがシンフォギアの基本要素は実現しているようだ。マータが発したフォニックゲインはカケルの体を隙間なくバリアのように覆っている」

 

「まさか、数日で完成するとは思ってなかったけど……」

 

「それに関しては天叢雲剣の『エネルギーを変換する』という性質がなければ厳しかった。フォニックゲインと言う、『手の加えにくいエネルギー』を『手の加えやすいエネルギーに変えることができた』のが大きい。では、手元の擬似アームドギアにヘッドギアのケーブルを差し込んでくれ」

 

 アレイスターに言われるがままに、ヘッドギア内部に収納されていたケーブルを伸ばし、ゴテゴテとした機械刀とでもいうべき鉄塊につなげる。

 

「お、良い感じの重さになってる」

 

「こちらも問題はないな。少し処理に時間がかかっているか」

 

 先ほどまでは両腕で支えることで精いっぱいだった鉄塊は、劣化型ギアとアームドギア内部に存在するエネルギーのおかげで体感的な重さは握りなれた模擬刀ほどになっていた」

 

 試しに少し力をいれると、それに呼応したように僅かに紫電が刀身を走る。

 

「よし、一度ギアの機能を止めることにしよう。マータ」

 

 フォニックゲインの供給が途絶えられ、翔も展開した装備を外す。

 

「とりあえずは完成したが、改善点を直して直ぐにでも後継機を作らねばな」

 

「なあ。ずっと思っていたんだが、彼女自身に戦わせるわけにはいかなかったのか?勿論それが危険なことだとは分かってるけどさ」

 

「それができるならばやっていた。そのほうがむしろ彼女自身にとっても最も安全だっただろう。だが、それはできない。……マータには胸に抱いた歌がないからだ」

 

「胸に抱いた歌?」

 

「それがなぜできるかと言うと…………、いや言っても分からないか。ご苦労様。この四日間弱音を吐かずによく頑張ってくれた。今日のところは自室でマータと共にゆっくりしてくれ」

 

「ああ、分かった」

 

 血反吐とすっぱいものは吐いたけど、と苦々しい気持ちで付け加えながら、ポッドから出たマータの手を引いて転送装置から自室に戻ってくる。

 

「はあっ……」

 

 溜息をついて、部屋に存在するベッドに倒れこむ。

 この部屋に存在するもののほとんどの家具は翔自身の要望でかなえられたものだ。

 ゆえにこの部屋にはベッドが二つあるし、冷蔵庫もある。シャワー室は最初からあったけれど。

 

「…………」

 

 横目で音楽符号のついた少女を見る。

 彼女は最初に見た時と同じ、部屋の隅っこで膝を抱えてこっちをずっと見ている。

 

 あれから数日。彼女と色々話をしたが、進展はほとんどなかった。

 なんとか名前だけは覚えてもらえたようだけど、彼女から話すことは何もないし、彼女が話す言葉は俺の名前だけだ。アレイスターといる時もそれは変わらない。

 

 それにしても、変な名前だよな。

 

 フェル・マータ。マータと言う名前だったら外国人で聞く機会があるかもしれないが、フルネームだと謎の音楽符号になってしまう。

 お世辞に言っても名前ではない。どこか冷たく、愛着を持って呼ぶこともできない。

 

「名前……でも俺が決めていいものでもないだろうしなぁ……」

 

 元から彼女についていた名前を勝手に変えることなどしてはいいことじゃないだろう。

 

『ビー!ビー!』

 

「ん、ご飯か」

 

 そうして、部屋の一部がせりあがって出てきたのはこの三日間全く同じエネルギーゼリーと固形型食料。

 

「ったく、もうちょっとないのかよ」

 

 といっても、もしかしたら家系的にあれなのかもしれない。

 

 でもなぁ、と隣にいる少女を見る。

 

 全体的に細い体をした彼女を見て、やっぱりこの年の少女が摂る食事ではないことを確信した。

 

「あっ。そうだ」

 

 確か、持ってきたカバンの中に間食が入っていたはずだ。

 海底基地で放り出したかばんはいつの間にかアレイスターによって回収されて、自分の部屋にちゃんと存在している。

 

「あった。お菓子。……まあチョコが多いけど」

 

 嗜好品として持ってきたわけではないのでレパートリーは少ないが、女の子が好きな甘いものはいくつもある。

 

 その中から板状のチョコを取り出して小さく割り、懸命にゼリーを吸っている少女の元に持っていく。

 

「えっと、マータ。これ食べてみないか?」

 

 そう言って、おそるおそる手の上にのせて差し出す。

 

「?」

 

 くんくんと、珍しく恐る恐ると言った様子でチョコのにおいをかいだ後、彼女はチョコを口に含み固まった。

 

「お、おーい」

 

 マータが目を見開き、固まったことで何かやらかしてしまったのではないかと焦りながらも彼女に向かって声をかける。

 すると、彼女はもむもむと租借を始め、すぐにチョコを飲み込むとんあっ、と口を開けた。

 

「もう少し欲しいってことか?」

 

 口を開けたままこくりこくりとうなずく彼女の口に再びチョコの欠片を放り込むと再びそれを租借し、再び口を開ける。

 

 親睦を深めるつもりが、なんだか餌付けのようになってしまったことに、少しばかり気落ちしながらも、美味しそうに(あくまでも翔の主観だが)チョコを食べるその姿をどこかほほえましく感じるのだった。

 

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