戦姫絶唱シンフォギア 外伝 ~いつか空駆けるその日まで~ 作:チョコ明太子味
この物語のキーマンも登場して、物語は未だゆっくりと進んでいきます。
「あのさ、魔術云々って言ってただろ?ってことはここはイギリスなのか?」
「いいや、ギリシャだ」
「ええっと、どのあたりだっけか」
「ブルガリアの下……イタリアの右斜め下だ」
「ああ、なんとなく分かった。けど、意外だ。魔術とイギリスって線でつ なげるくらい身近だと……」
ゲームとか小説とかで魔術が取り上げられる時などは、大体イギリスに大きな組織とかがあったような気がするけれど、と思いながらアレイスターにそう言うと、彼女はまたもや軽い訂正をしてきた。
「それは近代魔術の場合の話だな。……まあ、その近代魔術も錬金術と癒 着し始めているのだが」
「ははあ、話が読めたぞ。つまり古き良き魔術を使う人たちはそれが許せ ないわけだ」
「……意外と頭が回るのだな」
大仰にそう言うアレイスターに、ほっとけ、と悪態をつきながら頭上のマンホールを押しのける。
無論、マンホールの蓋なんか、人間の力で持ち上げられるものではない。
アレイスターに付けられた赤い紋章のおかげだ。
「すごいな、この赤いの。力が何倍にもなってるみたいだ」
「なってるみたいじゃなく、なってるんだ。あっちだ、いくぞ」
「はいはい。で、なんでギリシャなんだ?」
「簡単に言うと、古代ギリシアの魔術を代々伝えているからだな。ギリシャとギリシアが同一だという事には説明しなくても?」
「しつこいぞ。それぐらいわかる。で、これで最後。ここに来た目的は?」
「……」
そこでアレイスターは口をつぐんだ。
それは、言いたくないというよりも言葉を探しているような感じだ。
「カメラの中身を見たのなら、管の少女については知っているな?」
「ああ。それなら多分見た」
「あの娘は超弩級の魔術炉心……、簡単に言えば放射線を発しない核エネ ルギーの塊のようなものでな。そいつをここの奴らは非人道的な実験に 活用してるわけだ」
「つまり、その娘を盗んでその組織から力を削ごうってわけか?それはま た……」
熱のかけらもない……と言いかけて思わずカケルは口をつぐんだ。
アレイスターがまっすぐこちらを見て、睨んでいたからだ。
「違う。私は……ただ約束しただけだ。そこから助けるとな」
……?いや、それはおかしい。
その言い方じゃあ何というか、人助けのために頑張ってるみたいな言いぐさじゃあないか。
「あのさ……」
胸の中にわだかまった言葉を伝えようとした瞬間、施設が大きく揺れた。
「な、なんだ!?」
「日本政府の部隊が仕掛けたんだろうさ。ここから走るぞ」
「わ、分かった」
ぞっとするほどの速度で走り抜ける。
百メートルを四秒で。
息を吸って吐くほどの時間で道を駆け抜けた。
うーうー、とうなりを上げるサイレンと共に再びの衝撃。
落ちてくる建材のクズを気にすることなく、一分ほど走り抜けて、大きな扉の前へとたどり着いた。
「ここだな」
がちがち、とドアをおして確認する。
鍵穴も電子ロックもないのに、鍵がかかってるいるようだ。
「少しどいてくれ」
そういうと、アレイスターはカバンの中から取り出した紙を扉に張り付けた。
途端に、紙の上に幾何学的な模様が走り抜け、紙を二つに割り裂きながら扉があき始めた。
さすがは魔術。理解の範疇外だな、と、ぼやきながら、部屋に入る。
一足先に入ったアレイスターに続いて入ったカケルの目に映ったのは、大きな部屋いっぱいに敷き詰められた管の数々だった。
それは何かを、部屋の外へと届けるようにたまにピクリピクリと蠢いている。
非生物系の、具体的に言えばプラスチックのような物質でできていてよかった、とカケルは密かに思った。
もし、肉肉しいもので構成されていたのならば、悲鳴の一つでも上げていたかもしれない。
「この部屋の中央に、あの娘が……『マータ』がいる。お前も来い」
「分かった」
管の数々を乗り越えながらカケルとアレイスターは中心へと向かう。
建物を揺らす衝撃はだんだんと強くなっている。
早くしなければ建物が崩れてしまうかもしれない。
「あっ……」
いた。管に取り囲まれた中に一人の少女が。
自分よりも年下。おそらくは中学生ぐらいである少女がそこに。
アレイスターが管を体から取り外していく。
針でつなぎとめているというよりも吸引式。もしくは魔術的なものでくっついていたのだろうか。その数々は引っ張ればなんなく剝がれていった。
そんな彼女は自分が助かるというのに未だうつろな目であらぬ方向を見ている。
「これで、目的は達成だ」
「ああ、そうだな……これからどうするんだ?」
「まずはここから脱出して潜水艇を……。いや、まずはお前を返さなければな」
どこか上の空で、アレイスターの言葉を聞く。
なんというか、そんな事よりも今助けた少女の事が気になるのだ。
「マータちゃん。おーい」
カケルが呼びかけても当の本人は一切反応しない。
彼女がしているのは自発的な呼吸と、光に反応して行われる瞳孔の収縮くらいであった。
「無駄だ。この娘の心はいまだ囚われたままだ。それをどうにかするまで私の約束は終わらん」
「やっぱりあんたって……」
本当にただのお人好しなのか?と告げようとしたところで、アレイスターとカケルの背後で何かが動く気配を感じ取る。
わずかに片足を曲げ、ボレーキックのように、こちらに向かってきた金属の球体を蹴り飛ばした。
「これは……」
「アレイスターさんよ。遅ればせながらの到着みたいだな」
カケルが蹴り飛ばした物体が、ドロリととける。液体状の金属は形を成し、犬状の物質やらトカゲ状の物質やらあらゆる生物に変化する。
「これは自動迎撃システムだな。予想はしていたが……うむ、まいった。想定の三倍はいる」
「冷静に言うことかよ!」
部屋の中で徐々に増えゆく怪物は、優に百を超える。
「まったく、あいつらはこの娘のことがどうにかなってもいいってのかよ!」
「そういう奴らだ、察してくれ」
そう言いながら、アレイスターは結界のような半球状のドームを動作なく作り出した。
そして結界内で、魔法陣のようなものをアレイスターは書き続ける。
「今からこの結界を拡大しながら部屋の外に出る」
「そんなことせずとも、ワープを使えばいいんじゃないのか?」
「あれはそんなに便利な代物じゃない。私の魔術は近代魔術の中でも錬金 術と合体してない珍しい型だからな」
「つまりは燃費が悪いってか」
「ああ。だから今言った手段もうまくいくとは限らない」
これは参ったな。と思いながらギイギイと金属の関節を鳴らしながら、アレイスターが作った結界を破壊しようと動く金属生命体を睨みつける。
ギイギイ、ギイギイ、ギイギイ。
ハウンド達が体を動かすたびに聞こえるそんな異音に交じって、ふと何かが聞こえたような気がした。
「あ……」
歌だ、歌が聞こえる。
透き通るような歌が。
そんな歌と共に、入り口から銃弾、ミサイル、その他もろもろの火器が豪華絢爛全部乗せでやってきた。
その火器類は、ハウンドの約七割を屠りさり、薬莢の落ちる音を響かせた。
火薬が混じった煙がわずかに晴れると、その向こう側。
カケル達が入ってきた方と反対にある入り口が吹き飛ばされ、人の姿を確認することができた。
その、肌にぴったりと張り付くような服を、戦装束のようだと思ったのは彼女がミサイルなどをぶっ放した本人だからなのかは、今のカケルには分からなかった。
●
シンフォギア奏者である雪音クリスは焦っていた。
というのも、数日前にハウンドに襲われたものと同じ生命反応が基地の中央から発されていることを先ほど知らされていたからだ。
「ったく!一転突破はあのバカの仕事だろうが!」
『響さんは入り口近くで敵に囲まれています。どうやら先の戦いで警戒される対象に設定されたようで……』
『S.O.N.G職員も応戦しているが、いかんせん数が多い。クリス君は敵をせん滅しながら目的地へと向かってくれ』
『表側の通路と、クリスさんが侵入している経路はつながっています!つまり……』
「つまりは、私が倒せば倒すほどそっちも楽になるってことだろ?上等だ。このまま私一人だけでもソコにたどり着いてやる!」
〈Bye Bye Lullaby〉
両手に構えた銃をガトリングに変形させ、目の前のハウンド達に放つ。
目的地までは入り組んでいるが細い通路をたどっていくことになる。
なればこそ、銃から放たれる鉄の雨は致命傷には至らさせずとも、ハウンド達を押し返すことをたやすく可能とした。
そのまま、腰近くに存在する追加兵装の格納庫を開き、多段ミサイルを発射する。
様々な動物の形をとるハウンドをすりつぶし、吹き飛ばし、押しつぶしながら、一歩一歩と前へと進む。
『今のペースだとあと数分後に目的地にたどり着きます!さらに警戒を!』
超高速で吹き荒れる重火器の嵐を目の前で展開しながら、大きな鉄の扉の前にクリスはたどり着いた。
『異端技術で構成された扉です!どうやら、鍵のようなものが必要……』
「そんなの、いらねえっよッ!」
肩部に人一人分くらいの大きさの巨大なミサイルを展開させ、目標である鉄塊の扉に向ける。
扉の鍵が見つからなければ、力で開けてしまえばいいのだ。
〈MEGA DEATH FUGA〉
肩部につがえたミサイルを点火させ、発射。
着弾と共に、シンフォギアのバリアフィールドの特性をもったミサイルは爆発し、熱と鉄の破片で扉を食いちぎった。
「これはまた……大狂乱だな」
右を見て、左を見て、両手両足を使っても数えきれないほどのハウンドを見て呟く。
そして、中央に張った半透明上の球体の中にいる三人の姿を見て眉をひそめた。
「どうやら一人だけじゃないみたいだぞ?」
『生体反応には引っかかっていない……、いや、間違いなく三人います!人物照合を』
『照合……できました!先日の事件で発見された少女と、彼女が抱きかかえている女の子の二人は全国の戸籍には登録されていませんが、その隣にいるのは日本在住の……一般人……一般人です!』
『一般人だとォッ!?』
「関係ねえ!まとめてここで助けてやる!」
ガトリング展開、腰部のマイクロミサイル展開、ミサイル四つの全部乗せ。
〈MEGA DETH QUARTET〉
轟音を響かせながら、ハウンドの七割を消し飛ばす。
しかし、その中でも素早い個体は身をひるがえらせ、クリスの方向に向かって突進しようとしてきていた。
「しゃあねえ、新技のおひろめだァ!」
左右に三本ずつミサイルをつがえ、真正面に発射した。
それはハウンド達との距離を半分ほどつめたところで、途中でミサイルの外装が剥がれ落ち、さらに細かいミサイルとなって残りの三割を襲った。
〈MEGA DETH SYMPHONY〉
ハウンド達の残った三割は、横から吹き付けてくる暴風雨になすすべも持たず、その体のいくつもの場所にミサイルをくらい砕け散った。
『目標すべて沈黙。ハウンドのせん滅を確認しました!』
「さて、とじゃああいつらだな……と、おわぁ!」
先ほどから何か言い争っている様子の三人組(なお、しゃべっていたのはそのうちの二人)の方向に向いた瞬間、なにかがクリスの前に現れて、そのまま彼女にぶつかった。
シンフォギア奏者の中でも非力なほうであるクリスは、それに耐えきることができず思わず、『ソレ』と一緒に床にひっくり返った。
「ってて、なにが……っておわあ!?」
少し体を起こして飛んできたものを確認すると、ソレは三人組のうちの一人、一般人であるとされる少年だった。
目の前のアレイスターの様子を見るに、強化した身体能力で少年をこっちに投げ飛ばしたのだろう。
その少年はクリスとぶつかったときに頭を強くぶつけたらしく、ぐるぐると目を回していた。
「もうそいつは必要ない。元の場所にでも返してやるといい」
「待て!」
カケルを払いのけて、アレイスターに向き会うべく立ち上がるクリス。
もう一度、ゴンという音が聞こえたのはご愛敬である。
「お前の目的は何なんだ?何が目的で動いてやがる!」
「……私の目的は一つだ。魔術師である義務を放棄してまで追うのはすべて彼女のため……。お前たちとはまた会うことになるだろう。そこでお前たちが敵に回るというのなら、私も『虎の子』を出さねばならなくなる」
そんな言葉を残しつつ、アレイスターは幾何学的な模様を足元に出してその場から去ろうとする。
「待て!」
元来、そんなことを言われて待つものなどいるわけがなく、アレイスターと胸に抱かれた少女はそのままその場から消えた。
「あいつは……」
『クリス君。響君の方もハウンド達を無事に片付けたようだ。君はそこの彼を本部に護送してくれ。施設の制圧は目前で、彼には聞きたいこともあるからな』
「ああ、分かった」
ずるずる、とカケルの服の首元を引きずりながら、クリスはその場から立ち去った。
今の戦いを記録されていたことに気づかずに。
主人公、連行されるの巻。
ここからは日常パート(?)。
少しまき散らした伏線の回収と、あとは主人公についてを数話の間にやっていこうと思います。
追記
編集完了。