戦姫絶唱シンフォギア 外伝 ~いつか空駆けるその日まで~   作:チョコ明太子味

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バイトの夜勤が続いて、なかなか投稿できませんでした。
今回は少し短めです。


少年は悩む

 視界が閉じられた中、相手を索敵する。

 わずかな息遣いは前方から。相対を開始した瞬間から、相手は動いていない。

 相手の視線の気配は己の体の中心へと向かっている。

 

 体をわずかに落とし、構えを作る。

 隙を作らないように、重心はそのまま。

 前方への攻撃の警戒と、死角への攻撃準備を同時に行う。

 相手がそのまま馬鹿正直に突っ込んでくるとは限らない。

 

 

 正面突破以外の攻撃経路は上空、または気配を消してからの――。

 

 息が聞こえなくなり、視線を感じ取ることができなくなった。

 足音、気配共に感じず。

 

 だが。不自然に空気が死んでいる箇所が背後に一つ。

 

 構えていた右腕を、体を回転させる動きに乗せてひじから相手に向けて放つ。

 

「……っ」

 

 わずかに息をのむ音。

 それを感じ、わずかに攻撃の点を微調整。

 肘鉄を相手が放とうとしていた掌底に潜り込ませるように、相手の腕に向かって撃つ。

 

 確かに攻撃が当たった感覚。

 しかし、下から攻撃の気配がそのまま襲ってきた。

 こちらが加えた力に逆らわず、そのまま上体を後ろに勢いよく倒し、けりを放ったのだ。

 狙いはこちらの顎。

 

 姿勢をわずかに落としているせいで、リーチの短い相手の蹴りは容易くカケルの顎へと入ってしまう。

 

 だが、こちらの体はまだ動く。

 所謂詰めの状況に、こちらは至っていないのだ。

 そのまま上体を僅かにそらし、蹴りを回避する。

 ヒュッ、と風が通り抜ける感覚が肌をうつ。

 

 そして、そのまま相手の腰を横抱きにするように掴み、そのまま地面に倒れこみ、足の関節、そして次に上体の動きを封じる。

 しばらく体をゆすって抗おうとしていたカケルの妹は、やがてあきらめたように口を開いた。

 

「参りました」

 

  ●

 

「いや、やっぱりかなわないなぁ。お兄ちゃんには」

 

「そんなことない。たぶん神崎のほうの腕はお前のほうが才能あるよ。たぶん柚子が高校に上がるころには、兄ちゃんを超えてるんじゃないかなぁ」

 

 まあ、所々に甘いところはあったけど。

 だけれど、それも数年のうちに削れてくるだろう。

 

「でも、お兄ちゃんは目隠しして、それだし」

 

「まあ、こればっかりは天性のものだからな」

 

「ずーるーいー」

 

 少しすねたように、道場の床に突っ伏す柚子を見て、カケルはほほえましそうに彼女を見た。

 カケルの持つ、いわゆる『心眼』というやつは努力の末に手に入れたものではなく、自然に手に入れたものであるため、柚子は気に入らないらしい。

 

「今度は神崎の方じゃなくて、本家のほうでやってよ」

 

「だーめ、お前にはまだ早い。兄ちゃんから一本取ったら考えてやるよ」

 

 そこまで話して、思い出したようにカケルは柚子に声をかけた。

 

「あ、そうだ。明日はお兄ちゃん出かけるから、ご飯は作り置きのもので我慢してくれ」

 

「んー?明日は土曜日だけど……どこかに遊びに行くの?」

 

「うん、友達とな。前々から約束してたんだ」

 

「別に大丈夫だよ?今日はみっちり稽古してくれたし」

 

 そう言いながら道場に置いてある丸時計に視線をやる柚子に合わせて、カケルもそちらを見る。

 始めたころには八時頃だったはずだが、いつのまにか十一時になってしまっている。

 

「ああ、もうこんな時間か。先に風呂が沸いたらすぐに入って今日は寝ろよ」

 

「はーい」

 

 元気よく道場から出ていく柚子をしり目に、道場の外にある金属ロッカーからバケツと雑巾を出し、道場を掃除する。

 

 かつては毎日出入りしていた道場も、今となっては一週間に一度入るくらいの割合になってしまっている。

 四年前から。

 四年前のあの時から、少しずつ、少しずつ。鍛錬の時間は減っている。

 もしかしたら一年後にはここに出入りすることもなくなってしまうのかもしれない。

 

 そんなことを考えて、妙にセンチな感情を覚えている自分に思わず笑いが漏れた。

 ばかばかしい。そもそも今の稽古に身の入らないような状態のまま道場に入ってしまうことがおかしいのだ。

 

 掃除道具を片付けて、一通り掃除した道場を出る。

 明日は律たちと遊ぶ日だ。

 楽しみだ。楽しみであるはずなのだが。

 

 それでも素直に楽しみ切れない自分がどこかにいるような気がして、否応に笑いたくなった。

 

   ●

 

「楽しかったね」

 

「ああ。こんなに長い時間遊んだのは久しぶりのような気がする」

 

 もうすでに夕方。空には朱色が混ざっている。

 朝の八時頃から律、那由他と一緒に遊んでいたので、よくもまあここまで羽目を外せたものだと自分でも感心する。

 

 ちなみに那由他は、すでに違う道をたどって家に向かった。

 

 カケルは律を駅まで送るために、バイクを引きながら律といっしょに談笑しながら帰っているのだった。

 

「そういえば、夏の学園祭の件はどうするの?」

 

「別にいいぞ、それぐらい。俺にできるような楽器ならバンドの手伝いくらいはしてやるよ」

 

「うんうん、大丈夫。カケルなら絶対大丈夫だから」

 

「楽器の演奏経験は全くないんだけどな……」

 

 一体その自信はどこから出てくるのか、と律を横目で見ると、とうの彼女はカケルの方をじっと見つめていた。

 

「な、なんだよ」

 

 そんな彼女に、声を僅かに上ずらせながら問いかける。

 律は、カケルに向かってなんだか考えるようなそぶりを見せてから口を開いた。

 

「カケル、なんだか悩んでる?」

 

「え?別になにも悩み事なんかないけど……」

 

「じゃあ、迷ってる……のかな?今日遊んでいる間何度かぼうっとしてる時があったし」

 

「よく見てるんだな」

 

「それは――友達だから。たぶん那由他も気づいてたと思うよ?」

 

「そうか……。そんなに俺って分かりやすい?」

 

「うん、とっても」

 

 勢いよくうなずく律に、まいったな、とわずかに目を伏せて頭を掻く。

 

「まあ、ちょっと色々あってな。でも大丈夫だ。これくらい、数日たったら吹き飛ばせるようなもんだからさ」

 

 だから律が心配するようなことは何もない、と言って律から視線を外す。

 なぜか、彼女の顔を見ながらその言葉を吐き出すことはできなかった。

 

「そう。だったら別に聞かない。じゃあこの辺りでね」

 

「もういいのか?」

 

「カケル、目の前を見てみてよ」

 

 その言葉に、少し伏し目がちだった顔を上げる。

 そこには、隣町の名前を大きく書いた駅が目の前に立っていた。

 

「あー、まいったな。全然気が付かなかった」

 

「うん。だから、今日は早く寝たほうがいいよ?せっかくの三連休なんだし」

 

「わかったわかった。じゃあ、また火曜日にな」

 

「うん、また今度」

 

 そう言葉をかけて、ハンドルの近くにかけていたヘルメットを被る。

 鍵を回して、エンジンをかける。

 

「あ、そう言えば、ソースがないんだった」

 

 家に帰るついでに少しよって買って帰ろう。

 そう思いながらいくつ目かの信号機に捕まった時だった。

 交差点のそばにある大きな電気量販店のテレビから臨時速報のニュースの内容が耳に飛び込んできた。

 

『臨時速報です。今日午後6時ちょうどに名古屋県に存在する熱田神宮が 何者かによって襲われました。不審者はご神体を粉々に砕いたのちにい ずこかへと逃走したとのことです。目撃証言などから、捜査はS.O.N.G が主導となって捜査を進めていくとのことで――』

 

 信号が青に変わる。

 S.O.N.G。あそこが動くということは異常現象に関わること……か。

 父さんも、確かあの組織に関わる立場にいたはず。

 前身の二課が存在した時、まだ小さい頃の本家の総会で周りの人が言っていたような気がする。

 

 熱田神宮のご神体。

 つまりは天叢雲剣。

 アレはたしか聖遺物と呼ばれるものだったはずだ。

 神秘を色濃く残した昔の武器とか、そういうものがそう呼ばれるのを知っている。

 

 天叢雲剣は確か、ヤマタノオロチのどこかしらから出た剣の事……だったはず。

 

 思わず脳裏にアレイスター達の姿が浮かぶ。

 あいつらかもしれない。

 だって、あいつらを追いかけてた組織の狙いはあの人形みたいな子のはずで、日本の聖遺物を狙う理由なんてないんだから。

 アレイスター達が。正確に言うならばアレイスター個人だが、彼女が少女を守るために天叢雲剣を何かに使うとして。

 

 だから……。や、ちがうか。壊したんだよな。

 だったら聖遺物の欠片が欲しかった……?

 

「くそっ……。何だってんだよッ……!」

 

 胸の中にあるもやもやに決着をつけられず、思わずカケルは毒づいた。

 

 




主人公は神崎流の使い手としては未熟者です。
心眼に頼って一流に肉薄するぐらい。
主人公に格闘の才能はありません。

追記 最後のあたりを加筆しました。

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