戦姫絶唱シンフォギア 外伝 ~いつか空駆けるその日まで~   作:チョコ明太子味

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ようやく、プロローグに当たるものが終わりました。
大学も始まり、忙しいですが、どうぞよしなに。


少年。

「いててて……」

 

 しっかりとショーケースの中から取り出した欠片を手の中に握りこむと、翔は顔をしかめた。

 恐る恐るシャツをめくり、殴られたところを見るとグロテスクな紫色に晴れ上がった皮膚が見えた。

 

「あー、まあ器官にダメージはそんなにないのが救いか」

 

 さて、ここからの時間稼ぎをどうするか、と考える。

 倒すなんてことは論外だ。

 身一つの超人ならまだしも、あのシンフォギアと言うものはこちらの持っている常識を捻じ曲げて攻撃をしてくるだけ質が悪い。

 

 もし心眼を持っていなかったら、こちらが五手の攻撃を放つ前に敗れていただろう。

 

 そして、時間を稼ぐにも限界があるのを翔は感じていた。

 なぜなら、体に走る文様から感じる熱が徐々に薄れて行っているのを感じていたからだ。

 

 あのアレイスター曰く、これは一時的な処置らしいし要はガス欠のようなものなのだろう。

 つまりは、まあ、なんだ。

 

「貴様、どういうつもりだ」

 

 こうしてアレイスターがやってきてくれなかったらやばかったという事だ。

 

「お前は!」

 

 クリスがアレイスターを見て、叫び声をあげる。

 

 しかし、声を浴びせかけられた本人は翔に向けた視線を外そうとはしなかった。

 

「まあ、なんだ。お前らの仲間になるための物を取りに来た、と言う所だな」

 

 どこかばつの悪そうに言うカケルの姿に、アレイスターは目をひそめた。

 

「お前たちに会うためには、どうしても先回りしなきゃならなかったからな。お前らの必要としてるものを先に取ってしまうのが一番の方法だと思ったんだ」

 

「お前を倒してソレを奪うとは思わなかったのか?」

 

「それをさせないために、わざわざシンフォギアを連れてきたんだ。二人来てくれるとは思ってなかったけどな……。いくらあんたでもシンフォギア奏者二人を一人で倒すのは厳しいだろう」

 

「…………。というわけで交渉だ。天叢雲剣の欠片をお前に渡すためには条件がある。一、

 俺を仲間に入れる。二、一般人を巻き添えにはしない事。だな」

 

「そもそも私たちは、何の力を持たない人間を屠る気はない」

 

「なら、二番目は取り下げかな。ともかく、これを飲んでもらわなければこれは渡せない。もし飲めないなら、俺はおとなしくコレを返して捕まることにするけれど」

 

「お前は……。なぜそこまでする?何も背負わないお前がなぜそこまで私たちに肩入れする」

 

 その言葉を聞いて、やや苦々しく顔をしかめる。

 

「あの子を助けたいと思ったんだ。純粋に彼女を今のまま放っては置けないと、そう思ったんだ」

 

「そうか。……ならば、お前は利用できそうだな。私たちには都合がいい」

 

 一つ頷いたのち、アレイスターは翔に問いかける。

 

「私はお前の事を利用する。その過程でお前がどれだけの事をされてもそれでもお前は彼女を守りたいか?」

 

「背中を押してくれた友達に誓って。もちろんだ」

 

「ではまずはこの場を離れよう。いささかここは窮屈だ」

 

「ずいぶんと簡単に言ってくれるじゃねえか。私たちが簡単に逃がすとでも?」

 

「お前たちが逃がすか逃がさないかなど関係ない。翔。お前に施した刻印は……消えていないな。うむ。では……」

 

クン、とアレイスターがその指を軽く振ったのを翔が確認したとたん、彼の視界はがくりと揺れる。

そして自分がちゃんと真っすぐに地面に立っているのだと認識した瞬間には、視界の先の景色はまるで変わっていた。

 

それは明かりの色だったり、構造物の様相であったり。

 目の前の少女が二人消えていたりだとか。

 

「ああ、ちゃんと呼び寄せることができたようで安心した。刻印内の魔力でギリギリ足りたようだな」

 

 隣には先ほどまでと変わらぬ様子でそこに立っているアレイスター。

 呼び寄せた、と彼女は言っていた。つまり彼女自身はあの場には立っていなかったことになる。

 

 ならば分身のような存在だったのだろうか。

 つまり彼女はその状態でもあの鉄火場に飛び込む余裕があったわけで。

 

「俺って、奇跡を掴んでたんだな……」

 

 いや、本当に。と翔は思う。

 

 最悪、彼女一人でシンフォギアの相手は余裕だったのかもしれない。

 

「奇跡などと軽々しく使うものではない。せめて幸運だった、に留めて置け。さて、こっちに来い。中枢に向かうぞ」

 

 つかつかと歩き出す彼女の後ろを素直に追いかける。

 しかしおかしい。この場には人の気配がまるでしない。

 どこもかしこも空気の出入りする音と、金属が重なり合う物音が響くだけで話声の一つさえ聞こえてこないのだ。

 

「なあ。ここには誰かいないのか?なんだか否応に寂しいところだけど」

 

「ああ。私と彼女と、そして今はお前だけだ。変に人を入れると誰が情報を漏らすか分からん。そも、義理での付き合いは嫌いだ。お前のように無償で頼る実験体は欲していたがな」

 

「実験体!?」

 

 突如、彼女の口から飛び出してきた言葉を思わず聞き返す。

 

「ああ。彼女のために何でもしてもらうぞ。と言っても体を切り裂いたりはしない。やるのは肉体労働と単純作業だ。あとは盾だな」

 

「まあそれなら……」

 

そう話しているうちに、アレイスターの歩みが止まった。

彼女の言う『中枢』についたのだと思われるが、そこはだだっ広いだけでなにもない。

 

「――――――」

 

 何かを彼女が唱えると、床部分がスライドして、細い金属のような棒がせりあがってきた。

 彼女がそこに手をかざすと、空間が震えると同時に、空中に大きな画面がいくつも出てくる。

 それは文字だったり、風景だったり、人の写真だった。

 

「さて、私たちの目的から話そうか」

 

「あの女の子を狙う組織を倒すんだな」

 

「うむ。彼女の名前はフェル・マータと言う。私たちは彼女の体にある魔力炉心を敵対勢力に奪われないように動くことになる。本来ならば彼女の身を守るために、フェル自身にも動いてもらう必要があったが……。お前がいるのならば話は変わってくる」

 

 これを見ろ、とアレイスターが言うと、空間に新たな画面が現れた。

 

「これはある兵器の設計図だ。数年前に協力していた女から分けてもらった研究データになる」

 

「あー、すまん。素人目には全く分からないから解説してくれると助かる」

 

「だろうと思っていた。と言ってもこれ自体はお前も目にしているはずだ。これはFG式回天特機装束。通称、シンフォギアだ」

 

その言葉を聞いて、過去に画面で見た姿。そして、顔を見合わせたあの姿を脳裏に浮かび上がらせる。

 

「これは、シンフォギアの力の源であるフォニックゲインの発生方法と、どのようにしてエネルギーを奏者自身に流し通すかをまとめたものだ」

 

「それが俺に何の関係があるんだ?俺にシンフォギアを纏えっていうのなら無理な相談だと思うけど」

 

「そんなことは百も承知だ。……まあ、当たらずとも遠からずか。要はフォニックゲインを他者に通すようにギアを改造すればいいのだ。それをするには理屈や常識が邪魔をするが、あいにく私は魔術師の中でも指折りの実力者だ。かのアレイスターにも迫るだろう力があれば裏技程度造作もない」

 

「うん。とりあえず聞きたいことはいくつもあるが。つまりはそのフォニックゲインを使って俺に戦えって言ってるんだな」

 

「その通りだ」

 

「ところで、あんた本当の名前は?数十年生きてるらしいことは聞いたが、アレイスターって名前が本当の名前じゃないんだろう?」

 

「確かに私はかのアレイスター・クロウリーではない。だが、このアレイスターと言う名は偽の名前などではない。…………さて、お前には部屋を案内しよう。といっても、そこの円陣に乗るだけだが」

 

 指し示られた先には、魔法陣が描かれている。

 つまりはゲームのワープゾーンみたいなものなのだろう。

 

 いや、それよりも露骨に話をそらしたことに突っ込んでもいいだろうか。

 

「いいから早くしろ。早くしないとお前の姿を動物にでも変えてやるぞ」

 

 前言撤回。そんなおとぎ話のような面白体験は死んでもごめんだとばかりに、急いで魔法陣に飛び乗る。

 なんだかもう慣れてしまった酩酊感が止むと、そこはなんだか不愛想な部屋だった。

 家具は一通りそろっているが、なんだか不自然と言うか。

 

「…………」

 

 そして、彼女はそこにいた。

 あらぬ方向に向かってその人形のような眼を向け続ける、真っ黒な髪をした真っ白な少女に向かって、翔は手を伸ばす。

 

「初めまして。俺の名前は神崎翔。十八歳です。好きなものと嫌いなものはいっぱいあるけれど、これからそこそこに長い付き合いになると思うから、どうぞよろしく」

 

 




序章の加筆修正、そしてキャラの事も少しまとめたいので、次もやや遅くなると思います。
とりあえず、次の投稿は現状出てきたキャラのまとめです。

追記 キャラのまとめは物語に一区切りついてからにします。

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