「ヒュウ……!」
マーキはランスを納刀し、岸辺へと泳ぎだした。
「アイルー! ロアルは死んだ、水揚げの時間だぞ!」
「「ニャー!」」
マーキの言葉に反応して、身長一〇〇センチ前後の人影が陸地の方々から姿を現した。
アイルーとは人間社会の一翼を担う亜人種で、クエストでは危険な狩り場の至るところに潜伏し、観測気球との連絡や、危機的状況に陥った“ハンター”の救出などなど、様々な形でサポートしている。
車高の高い荷車を持っている辺り、彼らは討伐した“モンスター”から剥ぎ取った素材を運搬する役割のアイルーだろう。
「えー、それ引っ張り上げるニャー!?」
「ヤダニャー! ビチャビチャニャー!」
「冷たいニャー!」
「雨降ってる中なに言ってんだ。文句言うな」
「でっかいお魚さんいるニャー!」
「これは食べられないニャー!」
「熱いニャー!」
「お、おいマーキ!」
「ん?」
マーキに追いついたオレは、その肩を掴んで言った。
「殺す必要はなかったんじゃねえか? こいつはもう完全にガノスに負けたんだし、いくらオレたちの食料が足りないからって、こいつの肉じゃ食い辛いだろ」
オレがまくし立てると、マーキは息を吐いて、陸地を見た。
「あいつのメシだ」
いつの間にか集まってきた数十匹のアイルーに牽引されたロアルが、岸に近付いていく。
それを眺めているのは、“翡水竜”ガノトトス希少種。
高熱で全身に浴びる雨を蒸発させ、鈍色の身体を油の光沢で虹色に輝かせ、自分が見逃した生物が死骸となって戻ってくる様を眺める、オレたちの護衛対象。
「餌付けすんのか? あいつを」
「ああ。毒もこんなもんなら問題ねえだろ。腹減ってんのかどうかは知らんけどな」
たしかに、毒生肉みたいに濃縮された毒ならともかく、襟巻きの中の紫色の毒液ならオレがかぶっても平気だったんだし、いくら小さいとはいえ大型“モンスター”なら大丈夫なのかもしれない。
でも、そうか、こうやって最終的な目的のために手段を選んでいくのが、“ハンター”ってヤツなのか……。
オレたちが陸にあがると、ちょうどガノスがペタリペタリとヒレ状の足で獲物に近付き、柔らかい腹に食らいついたところだった。
足下の植物を熱で殺し、ロアルの死骸からしみ出す体液さえ沸騰させてるその様は、まるで生物とは言いがたい。近寄ることさえできない、高熱で鍛えられた金属のように渋みのある鱗やヒレも、その印象を後押ししている。
もしかしてこいつ、オレたちがあと三〇時間近く護らなくても、普通に生き延びられるんじゃないか?
てかそもそも、古生物書士隊の調査団が来たとして、どうやって調査するんだ? 一〇メートルも近付いたら熱さで皮膚をやられちまいそうなのに。
そんなことを考えていると、
「ああ、そうそう」
とマーキが振り返り、親指を立てた。
「初めてにしちゃいい動きだった。助かったぜ」
オレは唖然として、言葉を返せない。
助けられたのはオレじゃないか。最初から最後まで失敗ばっかりだったオレを、フォローしてくれたのは“凄腕ハンター”のお前だったのに、お前がそれを言うのか?
「そろそろ暗くなるな。ガノスの行き先をチェックしたら、今夜は一旦キャンプをはろう」
オレが疑問を口に出せずにいる間に、マーキは一つ伸びをして、長いヒゲをじょりじょりとかいた。