“エリア4”へ降りる時は、崖から飛び出した木の根を伝ったが、今度は水の流れる普通の山道を登ることになる。曲がりくねってはいるけど、それなりに広い道だから、ガノスもちゃんとついてこられた。
「次の立ち回り、変える必要があるな」
「なんでだ? さっきみたいにオレが、レイアを抑えこんでればいいんだろ?」
「無理だな。もうレイアには、こいつの危険性が伝わっちまったさ」
「ああ……それもそうか」
マーキが指さしたのは、誰あろう、オレたちの連れであり三人目の仲間(?)であるガノスだった。
虹色の水玉の爆発は、レイアの炎ブレスを無効化した上に、直接的な破壊力さえもつ攻撃なんだ。しかもそれはタイムラグもなく、ガノス側のリソースもそんなに食うでもなく打てるらしい。レイアがどれだけ把握しているか分からないけど、脅威と思われるのが自然だろう。
「それに今は、“エリア2”みたいな広い場所は少ないからな」
それもそうだ。レイアは泳げないそうだから、雨期で移動可能なエリアは狭い場所に限定されてしまう。
「っていうと、ガノスとレイアが接近した状態で狩りをする必要があるんだな。どうやってガスを無効化する?」
今のところ、それが可能なのは虹色の水玉の爆発だけど、それをガノスに常に狙ってもらうのは――
「――無理だろうなあ」
「だな。“太刀の大剣も太刀の中”だよな」
マーキも似たようなことを思ったのか、オレに同意した。
……同意した?
「なあ、その格言っぽいの、なんだ?」
「ああ……いや、もう通じないか」
オレが問い返すと、マーキは汚れたヒゲを袖で拭って笑った。
なんだろう。遥か昔に流行った言い回しか?
でもマーキは説明する気がなさそうだし、まあいいか。
「作戦は、レイアにブレスを噴かせない、だ。レシオはガノスを護ってくれ。オレがあいつの正面に張り付いて、顔面を攻める」
「それしかないか……」
自分が貢献できないかもしれないことを若干残念に思っていると、マーキはオレのバックパックを叩いた。
「今度はオレのターンだ。お前はのんびりしてろ」
「お、おう……」
そこで会話は途切れ、オレたちは黙々と山を登る。
昨日の夜のことは、あの後、一度も話していない。
でも、それでいいと思ってる。
お互いどんな事情があっても、こうやって狩りを進められるなら。
……あ、いやいや、まだ話しておきたいことはあったんだ。
「なあマーキ、オレの戦い方、あれでよかったのか?」
「ああ、想定通りだぜ。お前がレイアを引きつけて――」
「――違う違う、そこじゃなくて――」
『今を見ろ』って。
マーキは首を傾げただけだった。
でもその反応から、特に問題がなかったことは分かる。
「――ああいや、いいや、うん。変なこと言って悪かった」
「ん? ああ……」
釈然としないマーキを残し、オレは顔を前に向ける。
大丈夫だ。オレはちゃんと動けてた。
レイアの戦闘における情報は皆無だったけど、さっきの立ち回りから弱点が腹だってことは分かったし、そこから、外敵に腹を見せることを想定していないなら、レイアが“飛竜種”の中でも飛ぶことを苦手とする種類の生物だと想像できる。
なら気を付けるべきは、広範囲を焼き払う炎ブレス、直線的な火球、突進、そして直接の接触だけだろう。
マーキには問題ないだろうし、オレが戦うことになっても、もう問題はない。
「もうすぐ“エリア7”だぞ。なんかあるなら、今のうちに言っておけ」
マーキの言葉で、見覚えのある泥の壁に気付いた。ここを大きく左に曲がれば“エリア7”だ。
「別に大丈夫だぜ。オレたちならちゃんと、レイアを狩れるさ」
「……そうだな」
マーキはかすかに頷いた。
そしてオレたちは揃って最後の曲がり角を曲がり、レイアを討伐せんと“エリア7”に入り――