ガノトトス希少種保護譚:マーキ・パラオの解脱   作:fuki

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9.水没林・エリア6
● 三頭目、移動中


 身体は意識を無視した。

 不安定だった姿勢をただし、頭を下、脚を上へ。

 イキツギ藻を濃縮して詰めたマウスピースをポーチから出してくわえる。

 水没林に来た時は、大体一度はやる、“エリア7”から“エリア6”への移動――飛び込み。

 指先で水を裂くように着水し、その勢いを殺すことなく三〇メートルほど潜る。

 マウスピースを噛み締めると、ブワッと空気が噴き出し、オレはその泡の中で一つ呼吸をする。

「クソ、マーキ……!」

 自分の目の前で起こったことが、信じられなかった。

 オレが見たのは間違いだ。勘違いか間違いだ。

 だってマーキは最後に、『オレの勝ちだ』って言ってたじゃないか。

 あそこまでが作戦なんだ。作戦なんだから、そんなわけないだろ?

 オレが上に戻れば、マーキはピンピンしてて、ガノスだって――

 ――ふと、乱暴に落ちてくる膨大な水に、熱が混じるのが分かった。

 なにかから膨大な熱が奪われ、崖の上で失われ、それが水に乗って流れてきた証拠……だ?

 なんだよその推測。

 じゃあ、じゃあまさか。

 まさか――

 ――ぬう、と、濁った雨水の向こうで、白い岩石が揺らめくように動いた。

 いや……違う。

 白い甲殻を身にまとった“海竜”。

 とぐろをほどいた姿は三〇メートル近く、翼を持たないそのシルエットは、“水竜”とは別の意味で、海の“モンスター”の代名詞となっている。

 ラギアクルス、その亜種。

「やめろ……今はお前とヤり合ってる場合じゃねえんだよ!」

 叫ぶが、当然伝わらない。

 突然の獲物に、赤い目を輝かせたラギアは、頭頂の二本の角と、ヒゲのように張り出した左右の角を振り乱し、吠える。

 たぶん、やはり流れてきた血の匂いに引かれて目を覚ましたんだろう。完全に餌を求める態度になってると思っていい。

 血の匂い。

 ……誰の?

「クソ!」

 思わず歯がみしたオレは、噴き出した空気を振り払って視界を確保する。

「いいぜ、でも甘くみるなよ。こちとら三年間ずっと、水中で狩りしてたんだからな!」

 その言葉を嚆矢としたか、ラギアが、ぐん、と身体を縮め、身体をバネにして突進してきた。

 オレは右手で片手剣を抜こうとして――

「あ、盾!」

 ――右腕に大盾があることに気付いて、咄嗟に回避を選んだ。

 やばい、どう戦う?

 右腕に盾がついてるんじゃ、剣を抜刀できないじゃねえか!

 と、オレの身体が突然後方に引っ張られた。

「ごっぼああ!?」

 思わず漏れる空気が前方に吹っ飛び、ラギアの背中に並ぶ二メートル近い長さに飛び出した甲殻にぶつかって散っていく。

 振り返るとオレの装備のベルトに、ラギアの角が引っかかってる!

 しまった、焦って回避の距離が足りなかったか!?

 ラギアは餌を確保したことを知ってか知らずか、スピードを落とす気配はない。

  オレはラギアの背中に引っかかったまま、暗い暗い水の穴へと、引きずり込まれて行く。

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