● 三頭目、相乗り終了
――オレの“恥”を濯ぐ名前。
なのに、こんなところで!
鼓膜への水圧で水深の変化を読み、オレを引き摺っている白いラギアクルスが、“エリア6”と“エリア8”を繋ぐ細い穴を移動しているのは分かった。
だけどそのルートは雨期では完全に水没して、距離はそれほどではないが、一時間以上の潜水に耐えるしっかりした装備がなければ通り抜けることは難しい。
雨期で“エリア3”から“エリア8”へのルートが完全に禁止されるのと同様、こちらも禁止した方がいいのでは、という議論が時々ギルドではされるらしいが、移動効率の問題でこちらは解放されている。
でもまあどっちにしても、水棲“モンスター”は普通にそこを通るわけで。
ラギアはガンランスの銃身に刻まれたライフリングを描くようにバレルロールをしながら、地下水と化した雨水をガンガンかき分けて進んでいる。
スピードはたぶん二〇ノット以上――時速四〇キロ。
突端に近い角のギザギザに引っかけられたオレは、ラギアの頭部自体の水除け効果には期待せず、角に抱きつくような格好で強力な水圧に耐えている。時々ラギアが穴の壁に接触したらしい衝撃が伝わってきて腕に力を込めるけど、ラギア自身はそんなのお構いなしだ。
クソ、オレが本当にガノスを受け継いでるなら、水中最速の泳ぎでこんなヤツぶっちぎれるのに!
マーキとガノトトス希少種が窮地に陥っていて――いや、その表現が生やさしいって確信してて、オレの思考と身体は暴発寸前だった。
だけど、貴重な空気を口に納めるために歯がみもできず、ただ眉間に皺を寄せたまま耐えるしかない。
それにこの“エリア8”までの長い移動をラギアに頼れるのは、“エリア7”に戻るための重要なショートカットになる。自分のためにも仲間のためにも、オレは耐えなきゃいけないんだ。
(クソ……)
オレの身体は水の流れに耐え、時に抗い、ラギアの移動に従っている。
眼球を洗うようにぶつかってくる地下水は、オレの頭を冷やしてくれはしない。
目を細め、なぶられるまつげを意識する。
オレは恥にまみれて垂れた頭を、持ち上げたいだけだ。
そのために名前を捨てた。
恥のために失ったものと、決別するために。
過去を捨てたんだろ。
(なのに、なのにこれ以上、失ってたまるか……!)
近付く光に目を細める。
肺の空気を絞り出す。
角から右腕を離す。
締めたベルトを確認。
大盾の向きを水と調節。
一瞬であたりに光が戻り、どん、と水のベールが消え去った。