ガノトトス希少種保護譚:マーキ・パラオの解脱   作:fuki

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● 受け継ぐ

 ペイントボールの匂いが、北の方から漂ってくる。

 動いてはいない。たぶん、巣の周辺を警戒して潜んでいるか、眠っているか、いずれかだろう。

 アキュートが出発した直後に、グラーヴェとエリア内に潜んでいるアイルーに頼んで、レイアの位置を調査してもらってきた。

 ついでに、わざとらしく『ガノス希少種がいたら、レイアのいるエリアには近付けさせないようにしてくれ』なんてことも言っておいた。

 こんな状況で、建前の大切さを知ることになるとは思わなかったな。

 パティに焼いてもらった肉は、一つを除いて一旦バックパックにしまい、道中に食べることにした。

 燻製にした沢山の肉は、見習いアイルーの荷車で運んでくれるらしい。

 結果的に、水没林のアイルーが総出で動いていることになってしまった。

「こんな状況になるなんて、思ってたか? 最初はオレとお前の二人だけで、途中でガノスも一緒に戦ってくれたけどさ。一人になったと思ったら、急にこれだぜ? まったく分かんねえもんだよあ……」

 両腕両脚、内蔵、顎を失ったマーキに、オレは話しかける。

「後のことは任せろってグラーヴェは言ってたけど、大丈夫なんかなあ。ここまでしてくれたあいつらが、オレと同じ密猟者として逮捕されて、禁固刑で投獄なんてなったら、ほんとシャレにならないぜ」

 ベッドの上のマーキは、穏やかに瞼をおろして眠ってるようにも見えた。

 でも、もう二度と起きない。

 こっち側の世界では、二度と。

 オレは一つだけ手に持っていた肉を、静かに口に運び、食いちぎった。

 マーキの右腕、前腕、中央の肉。

 断面から肉汁が溢れ、顎を汚し、革のスーツの胸元にたれる。

 さっぱりした口当たりだが、密度の高い肉を、全ての歯で咀嚼する。

 ひたすら顎を動かし、一片の欠片も逃さず味わい、嚥下する。

 オレの身体の中に、マーキが入っていく。

 物理的に、精神的に。

 一六頭のガノトトスを殺して食い、血肉として受け継いだように。

 マーキを、受け継ぐ。

 変化はなかった。

 でも、確実になにかが変わった。

 それをマーキに伝えられないのが、辛かった。

「まあ、なんだ。安心しろよ、お前の仇を討っても討てなくても、どっちにしたってそっちにいくぜ。そしたら、宜しく頼む」

 オレは振り返り、待っていた赤ブチ柄のアイルーの肩を叩く。

「じゃあ行くか、パティ」

「ニャ! 絶対みんなで生きて帰りますニャ!」

 パティが指示すると、見習いアイルーたちが荷車を押して動き出す。

 オレも、右腕前腕の大盾と、背中に納刀したランス――『アクアンスピア』を一瞥し、歩き出す。

 浸食された岩盤を風が吹き抜け、誰かが口を鳴らす音が聞こえたような気がした。

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