ペイントボールの匂いが、北の方から漂ってくる。
動いてはいない。たぶん、巣の周辺を警戒して潜んでいるか、眠っているか、いずれかだろう。
アキュートが出発した直後に、グラーヴェとエリア内に潜んでいるアイルーに頼んで、レイアの位置を調査してもらってきた。
ついでに、わざとらしく『ガノス希少種がいたら、レイアのいるエリアには近付けさせないようにしてくれ』なんてことも言っておいた。
こんな状況で、建前の大切さを知ることになるとは思わなかったな。
パティに焼いてもらった肉は、一つを除いて一旦バックパックにしまい、道中に食べることにした。
燻製にした沢山の肉は、見習いアイルーの荷車で運んでくれるらしい。
結果的に、水没林のアイルーが総出で動いていることになってしまった。
「こんな状況になるなんて、思ってたか? 最初はオレとお前の二人だけで、途中でガノスも一緒に戦ってくれたけどさ。一人になったと思ったら、急にこれだぜ? まったく分かんねえもんだよあ……」
両腕両脚、内蔵、顎を失ったマーキに、オレは話しかける。
「後のことは任せろってグラーヴェは言ってたけど、大丈夫なんかなあ。ここまでしてくれたあいつらが、オレと同じ密猟者として逮捕されて、禁固刑で投獄なんてなったら、ほんとシャレにならないぜ」
ベッドの上のマーキは、穏やかに瞼をおろして眠ってるようにも見えた。
でも、もう二度と起きない。
こっち側の世界では、二度と。
オレは一つだけ手に持っていた肉を、静かに口に運び、食いちぎった。
マーキの右腕、前腕、中央の肉。
断面から肉汁が溢れ、顎を汚し、革のスーツの胸元にたれる。
さっぱりした口当たりだが、密度の高い肉を、全ての歯で咀嚼する。
ひたすら顎を動かし、一片の欠片も逃さず味わい、嚥下する。
オレの身体の中に、マーキが入っていく。
物理的に、精神的に。
一六頭のガノトトスを殺して食い、血肉として受け継いだように。
マーキを、受け継ぐ。
変化はなかった。
でも、確実になにかが変わった。
それをマーキに伝えられないのが、辛かった。
「まあ、なんだ。安心しろよ、お前の仇を討っても討てなくても、どっちにしたってそっちにいくぜ。そしたら、宜しく頼む」
オレは振り返り、待っていた赤ブチ柄のアイルーの肩を叩く。
「じゃあ行くか、パティ」
「ニャ! 絶対みんなで生きて帰りますニャ!」
パティが指示すると、見習いアイルーたちが荷車を押して動き出す。
オレも、右腕前腕の大盾と、背中に納刀したランス――『アクアンスピア』を一瞥し、歩き出す。
浸食された岩盤を風が吹き抜け、誰かが口を鳴らす音が聞こえたような気がした。