ガノトトス希少種保護譚:マーキ・パラオの解脱   作:fuki

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● 二乙目、その直後

 ―→(1)――ぼんやりした意識の中でオレは、厚く茂った葉から差し込む月光の下、オレの身体を弄くり回している銀色の毛を見た。

「もう後がないですニャ」

 今回のクエストにあてがわれた、レスキューアイルーの一人、グラーヴェ。

「レシオ様の応急手当はしましたニャ。でも完治にはほど遠いですニャ」

 ラギア戦の治療は一度革のスーツを脱がされてからされていたけど、今回はスーツの中に無理矢理ガーゼを詰め込まれ、スーツの上から包帯が巻かれていた。本当に応急処置だ。

「レイアはまだ“エリア10”に釘付けですニャ。しばらくは安静にして頂きたいですニャ」

「……お前一人で助けたのか?」

「レスキューアイルーは二人一組が最少構成ですが、今、水没林にいるレスキューアイルーは、ボクだけですニャ」

 ああ、アキュートが出かけちまったからか。そのリスクは全然考えてなかったな。

「そっか、サンキュな」

「仕事ですニャ」

 でも、その話じゃないんだ。

「質問の仕方を変えるぜ。オレを助けたのは、お前か?」

 グラーヴェはそこで、オレの質問の意図を汲み取ったようだった。細かな金色の光を浴びた首を僅かに俯けた。

「荷車を引いてたボクは間に合いませんでしたニャ。でもボクがここにいることを考えれば、分かると思いますニャ」

 グラーヴェが? どういう意味だ?

「ボクはガノス希少種様を、レイアに近付かせないようにしてましたニャ。でも三時間ほど前に、どうしてもガノス様をとめられなくなり、仕方がないのでここまでご一緒させて頂いた次第ですニャ」

 うん、ちょっと待て。

「なに言ってんだ、お前には『レイアの位置を特定して欲しい』って頼んだんだぜ?」

「それは見習いアイルーにもできることですので、そう指示しましたニャ。でもガノス希少種に対するもう一つの指示は、ボクが責任を持って遂行する必要があると判断しましたニャ」

 いや、そういう意味じゃなくてだな。

「話が噛み合ってねえな。ガノス希少種は死んで食われたんだろ?」

「そうですニャ」

「ギルドか解剖するかなんかで、アイルーで遺骸を運んだんだろ?」

「そうですニャ」

「でもお前、ガノスをレイアに近付かせないようにしてたんだろ?」

「そうですニャ」

「矛盾してるじゃねえか!」

「そう思うなら、“エリア10”に戻ってくださいニャ」

 いや、まあ、分かってる。

「分かってなかったんですニャ?」

「分かってる、ってか……」

 荷車で運ばれていった、あの長さ一五メートルくらいあったガノスの脚。今考えてみれば、たしかにおかしかったな。

 ヒレを含めた体高が五メートルのガノトトスにしては、“長すぎ”だ。

 脚の長さ一五メートルって言ったら、体高一〇メートルは下らないサイズになっちまう。

「あの時“エリア7”で殺されて、食われたのは――」

「――主虹ですニャ」

「しゅ? こう? なんだそりゃ」

「虹は普通、主虹と副虹の二つの構成されますニャ。あの虹色のガノトトスも、大きな個体と小さな個体の二頭がいましたニャ。ボクらはその二頭をそう呼び分けていましたニャ」

「…………」

 なるほど、なるほどな。

 お前らずっと、保護対象のガノトトス希少種が二頭いて、死んだのはそのうちの一頭って知ってたのかよ!そんでもう一頭は生きてるからクエストは失敗してないって、そう思ってたのかよ!

 なんだこの、クッソくだらねえオチ……!

 頭のどこかがそう叫んで、でも、俺の顔はまったく別のリアクションをしていた。

「そっか、まだ生きてたのか、あいつ……」

 オレは涙ぐみそうになった瞼を強く閉じた。こんな暗さじゃアイルーに見えないとは分かってても、“凄腕ハンター”として、涙は見せちゃいけない気がしたんだ。

「状況は分かった、じっとしてる場合じゃねえな」

 ポーチに突っ込んでおいたマーキの腕の肉を、もはや普通の冷めて硬くなったこんがり肉と同じように、無造作に噛み切って飲み込んだ。

 行くぜ、マーキ、あと少しだ。

「じゃあな。アキュートが毒をもってきたら教えてくれよ」

「レシオ様。さっきの立ち回り、マーキ様みたいでしたニャ」

 グラーヴェが言い、オレは振り返る。

「当たり前だろ? オレはあいつの肉を食った、あいつを受け継いだんだ。オレは一六頭のガノスであり、マーキでもあるんだぜ。マーキに見えて当然じゃねえか」

「このまま戦うなら、レシオ様は亡くなりますニャ」

 否定しようとして、オレは口をつぐんだ。

「さっきの狩りは、マーキ様の真似をして突っ走ってただけですニャ。ラギアの時の、レシオ様の狩りを思い出してくださいニャ。でなきゃ、もしこのクエストを終えても、いずれきっと、レシオ様は亡くなりますニャ」

 言いたいことは分かった。それが正しいだろうことも。

 オレは使う余裕のないだろうポーチの中身をもう一度チェックし、右腕の大盾の具合を見る。両腕両肩を回し、腰や膝に痛みがないか確かめる。『アクアンスピア』がない以外は大体元通りだった。

 そして改めて、きちんと、銀色のアイルーに振り返った。

「オレは、オレが背負ってきた“恥”を、“代償”を全部背負い直すって決めた。あいつらが生きるはずだった命を受け継いで、あいつらと同等になるんだ。なにもかも。分かるか? 分かるだろ?」

「仰ってることは分かりますニャ。でもレシオ様はマーキ様じゃないですニャ」

「いや、なんつうか、オレはもうマーキなんだよ。上手く言えねえけど、違うんだ、昨日までオレとは、もう」

 グラーヴェは首を振る。

「それではレシオ様はどこに行ってしまいましたニャ?」

 オレは考える間もなく、

「ここにいるだろ?」

 と答えた。

 今度はオレの発言が矛盾している。

 でもそれ以外に、表現する術はなかったんだ。

 グラーヴェは、もうなにも言わなかった。

 オレは自分自身に『二人で』『狩猟』と手信号で示し――(2)―→

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