ガノトトス希少種保護譚:マーキ・パラオの解脱   作:fuki

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あとがき


 マーキ・パラオのことを書いた書物は少なくないが、基本的には否定的なニュアンスで語られることばかりだ。

 タンジアの港に突然現れた彼は既に凄腕の“ハンター”であり、オトモのアイルーと共に難易度の高いクエストをいくつかこなして名前を売った。彼の過去を知るものはなく、ギルドも『他の地方からの移籍』と発表しただけだった。甘いルックスと無精に伸ばした顎ヒゲに、軽妙で人を煙に巻く会話、身体の線の出るセクシーな“水竜”装備もあって、“エスメラルダ”の二つ名で多くの人気を集めた(これはガノトトスを素材としたランスの名称として、彼の人気にあやかろうとしたギルドが正式に登録し、現在も“不名誉にも”使われている)。

 タンジアに腰を据え、順風満帆の“ハンター”生活を続けると思われた彼は、なぜか突然海を渡り、ミナガルデの街を拠点として、やはりなぜか“水竜”ガノトトスの乱獲を始める。

 もちろんハンターズギルドのミナガルデ支部が発注したクエストの範囲なのだが、なにしろ水中戦という技術のない街では難易度が高く人気もない“モンスター”だから、クエストは余りに余っており、最初の一年間でマーキ・パラオが討伐したガノトトスの数は優に二五を越えたそうだ。

 年間に四~五頭も狩られればよかった“モンスター”の素材が大量に街に溢れたことで、その価格は大暴落、市場は混乱を極めたという。溜め込んだ素材を少量ずつ高値で売っていた商人が逮捕され、同様に、狩れるガノトトスを狩らずに素材の値段を維持していた“ハンター”の何人かも、数人晒し上げられたと記録にある。

 そのマーキ・パラオ本人はというと、素材をタンジアに持ち込んでばらまき、またミナガルデに戻っていく生活を繰り返していたようだ。当時はロックラック、タンジアなどでガノトトス狩猟禁止令が発令されており、原因は違うものの高騰していた素材の価格は、この影響で適正を割って下落したという。

 この件は、世の本では『高騰していた素材を密輸スレスレの方法で持ち込んだマーキ・パラオは、素材をタンジアで売却して濡れ手で粟を狙ったが、性急すぎる動きに値はあっさり下落、結果としてトントン程度の成果しか得られなかった』という失敗談として語られる。

 そして、『夢に破れ、人気も失ったマーキ・パラオは、金に困り、タンジアで細々とクエストを受注し、何度かの大きな事変に関係した後、行方不明となる』のだった。

 

 私はハンターズギルドの歴史の中で語られるこの人物が、師匠として私を“ハンター”に育て上げ、技を伝授してくれた“マーキじいさん”と同一人物だとは――当然だが――思っていなかった。軽口をよく叩くところ以外はまるで、人物像が違いすぎたからだ。

 しかしマーキ・パラオが天寿を全うし、彼のオトモアイルーとして活躍した“パティ”ことクレオパトラと初めて本格的な狩りに出た際、この昔話を聞かされ、すべてが変わった。

 既に死んでいた師匠に対する認識を改めると共に、そしてもう一人の師匠の影響で文を書いていた私は、この作品の執筆を始めたのだ。

 結局それから数十年が経過し、もう一人の師匠とパティを始め、幼少期の私を知る人物のほとんどは“解脱”してしまったが、無事にこの作品を脱稿することができ、心から安心している。

 ここで私の話をすることはしない。私は誰も知らない名もなき執筆者だし、“マーキ・パラオ”の物語にはなんの関係もないからだ。

 ただ、師匠たちが私に自分の能力を受け継がせたように、私がこの物語を通じて、“マーキ・パラオ”と“シェイム・ダウン”の生き様を少しでも伝えることができたなら、それ以上に幸いなことはない。たとえ、歴史とは違う、悪漢を英雄視する類いの“フィクション”として扱われたとしても。

 

 ……ところで読者の中で、作中でマーキ・パラオが――つまり“本物の”マーキ・パラオが――言った、“太刀の大剣も太刀の中”の意味をご存じの方はおられるだろうか。

 もしおられたら、私にその意味を教えて頂きたい。この作品の中でこれだけが謎として残ってしまっていることが、作者としても心苦しいし、なにより純粋に好奇心が刺激されるのだ。

 私自身が解脱する前に、是非とも。

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