いつの間にか降り出した雨がキャノピーを後方に流れていくのを眺めながら、オレとマーキは防水バックパックの上からパラシュートを背負った。
時刻は、パイロットの言葉では一四時半。“翡水竜”――ガノトトス希少種の調査にやってくる王立古生物書士隊の調査団と、その護衛“ハンター”が到着するのは、明後日の深夜三時ごろ。
眼下に広がるのは、点在する密集した木々と、その間を縫って流れる大量の水をたたえた川。いや、“水没林”の名が示すとおり、むしろ水のない空間になんとか木が脚を下ろしているような地域だ。ところどころにある高低差の大きな場所では水がごうごうと音を立てて、雨期の雨水を低地へとぶちまけている。
この過酷な舞台で約三六時間踏ん張るのが、オレたちの請け負った保護クエスト。
キャノピーを流れる雨の角度が、ほんの少しだけ変わった。湿った雲を雨水にする山の稜線にそってエリアに進入した飛行船が、若干速度を落としたのだ。
マーキがキャノピーの後部をスライドさせて開くと、風が一気に狭い機内に入り込んでオレたちの身体をあおった。
「この速度を維持する! タイミングは任せるよ!」
「おう!」
「あ、ああ……!」
笠を抑えて発せられる声にオレたちは応え、それぞれの足の裏で金属製の淵を踏み、地上を見下ろす。
こんもりと茂った木々、散ってしまった裸の木々、そして濁り水が茶色と緑色の混じった色が後方に吹き飛ばされていく。タンジアの港で見た鮮やかな青とはまったく違うが、積もり積もった命を感じる色。
このどこかに、オレたちがまもるべきガノトトス希少種が潜んでいる。
そう思うと胸が高鳴るとともに、ここへと飛び降りる未来に足がすくむ。
オレが顔を上げた時、マーキはオレの背中を掴んでいた。
「慣れてねえんだろ? オレに合わせろ」
『初めてだ』とは言えず、素直に頷き、覚悟を決めた。幸い降下の方法とパラシュートの使い方は、マーキたちの会話で頭に入ってる。
と、そこでオレはコクピットを振り向いた。
「なあ、お前の名前、聞いてなかったな。なんて言うんだ?」
肩越しにオレを見る彼の顎が一瞬引かれ、唇のラインが含みを持たせたように傾く。が、
「戻ってきたら教えるよ。ちゃんと見張っててね」
すぐに元の声色で、そいつは笠の下で笑った。
オレは頷き、マーキを横目でちらりと見る。
マーキは感情を殺した顔で彼を数秒見ていたが、なにも言わずにオレに目を向けた。
「降下したら“エリア7”を目指せ。水没林で一番高い岩山の東側にある開けた場所だ。運がよければ桜が見られるかもな」
「桜?」
「ほら、行くぞ!」
タイミングもクソもないかけ声に、オレは舌打ちを隠すようにブーツの踵で思い切りデッキを蹴って――