やはり私と彼の出会いは間違っている。   作:赤薔薇ミニネコ

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第27話です。


第二十七話 本気と出会う

 体調不良から復帰した翌日、八幡はいつものようにベストプライスで昼食をとる。心地よい風か吹き抜ける、人気の無い落ち着ける場所である。最近の社畜生活を忘れさせてくれる癒しの時間である。見上げた空には大きい雲が鳥と共に流れていく。

 

「あぁ……雲になりたい、早く文化祭おわんねーかな……」

 

 数少ない癒しの空間もすぐに崩れ去る。≪二年F組の比企谷君。至急、職員室まで来てください。≫と校内放送が流れる。教室にいるであろう、雪ノ下、由比ヶ浜、忠絵から一斉にメールが届く。ため息をつきながら届いた三通のメールを確認する。

 

『比企谷君、いい弁護士を紹介するわ。何があっても私は味方よ』

『ヒッキー呼び出しされてるよ?職員室だって』

『職員室行って』

 

「休み時間くらい、休ませろ……ブラック会社かよ」

 

 愚痴をこぼしつつ、メールの返信を済ませる。

 

『勝手に犯罪者にするな、お前が一番の敵だ』

『聞こえてたから大丈夫だ』

『了解』

 

「由比ヶ浜のメールが一番まともなのが悲しいな……」

 

 食べかけのパンとマッカンを急いで胃に詰め込み、職員室へと向かう。職員室に入室すると、食事途中の厚木先生から声をかけられる。

 

「比企谷、呼び出してすまんな。教室に行ったらいなかったんでな」

「平気ですよ、要件はなんでしょうか?」

「文化祭にテレビ取材が来るだろ、準備活動の話を比企谷に聞きたいらしい」

「それなら相模のがいいんじゃ?」

「そう思ったんだが、比企谷をご指名でな。それじゃ応接室に行くぞ」

 

 普段では入るこのとないであろう応接室に入る。黒革の立派なソファーに、高級時計を腕につけた、三十代後半の勝ち組代表といわんばかりのイケメン男性が座っていた。お互い軽い挨拶をした後、対面に座る。

 

「こんにちは、比企谷君。私は、今回のテレビ取材をさせて頂く責任者の綾瀬です。今日は学生の文化祭の準備映像と簡単なインタビューをしたくてね。文化祭実行委員の活動とか教えてほしいんだよ」

 

 厚木先生は役目を終え応接室から退出する。途中だった昼食に戻ったようだ。

 

「き、きょ……今日、取材あるんす……あるんですか?」

「あれ、聞いてないかい?学校には取材予定の内容は伝えてあるんだけど。今日は文化祭実行委員の活動してるところの映像を撮るだけだから、緊張しないでいいよ、ハチマン君」

「あ、えっと……綾瀬さん。文化祭委員長がインフルエンザで休んでいたので、少しバタつくかもしれません……」

「いいね、いいよ!そういうのを撮りたいね。まぁいつも通りやってくれればいいから、ハチ君」

(ハチ君……?)

 

 眉間に皺を寄せて、不思議そうな顔をしていると、目の前にいる男は急に笑い出しながら、肩を叩いてくる。急にフレンドリーになった男に困惑する。

 

「あはは!目が腐ってるよハチ君、緊張しすぎだって!俺、【チーバクン】のヌレセンだよ」

「……ヌレセンさん?」

 

 今までの緊張が噓のようになくなっていく。ヌレセンさんは、βテスターの頃から付き合いのあるメンバーである。チーバさんやチバケンセツさんよりも出会いは早かった。ヌレセンさん経由で【チーバクン】ギルドとも知り合えた。最近はギルドイベントでしか出会わないが、ゲーム初期の不具合だらけの中を一緒に駆け抜けた仲間である。

 

「……ヌレセンさん、俺を指名したってこのためっすか?」

「そうそう、ハチ君に会いたかったし、チーバさんからも聞いてたからね。学校の先生達に無理いって呼んでもらっちゃった。ハチ君の彼女もこの学校にいるんでしょ?オジさん会いたいな~、紹介してよ~」

「おい、オッサン!ニヤニヤしながら女子高生に会いたいとか、完全にアウトだから」

 

 さっきまでの、緊張した雰囲気から一転し、応接室にいる二人はゲーム内と同じ対等な関係になっていた。雑談に夢中になっていた二人の耳に、昼休みの終わりを知らせる音が届く。

 

「いや~すっかり話に夢中になってしまったな。それじゃハチ君、また後で会議室にお邪魔させてもらうよ」

「うっす。自分も授業が始まるんで、そろそろ戻ります」

 

 教室に戻ると、クラスメイトの視線を強く感じる。休み時間中なら、由比ヶ浜がすぐに聞きに来るだろうが、授業もはじまるので気にすることはない。五限目の授業を終えると、由比ヶ浜が予想通り近づいてきた。

 

「ヒッキー、お昼の呼び出しなんだったの?」

「別にたいしたことじゃない、文化祭のことでちょっとな」

 

 由比ヶ浜は、周りを気にしながら急に小さい声になる。

 

「やっぱり、さがみんのことだったりするの?」

「ん?なんで相模がでてくるんだ?」

「サッカー部のマネージャーの子が教えてくれたんだけど、さがみんの悪い噂が広まってるらしいの……」

「たぶん文実のことだろうな、俺も噂されてそうで怖いな。まぁ、文化祭が終わればなくなるだろ」

「そうだね、それじゃ授業始まるからもどるね~」

 

 授業開始のチャイムが鳴る。開始時間をすぎているのに六限目の先生が現れない。委員長が職員室へと向かう。しばらくして、戻ってきた委員長が黒板に『自習』と文字を書き、自習になったとみんなに伝える。

 

「まじ自習とかラッキーじゃね、ついてるわ~」

「平塚先生どうしたんだろ~」

 

 委員長の眼鏡君が言うには、『準備が忙しい』とのこと。休み時間もまともにに取れなかったので、戸部の言う通りラッキーではある。耳にイヤホンをつけて睡眠学習をはじめが、疲れがたまってるせいか、爆睡してしまう。気がつくと、由比ヶ浜に、揺すり起こされていた。

 

「ヒッキー、まじで寝すぎだし。文実あるんでしょ、いかないとまずいんじゃないの?」

「あぁ、すまん助かった、行ってくる」

 

 うとうとしながら、会議室に入る。いつもより机同士が密着しており、後ろにできた空間にカメラマン達が撮影の準備をしている。後ろの扉には綾瀬さんも顔を覗かせている。イケメンプロデューサーに女子生徒も気になって後ろをチラチラ見ている。

 

 奥の席の二人を見て眠気が一気に覚める。普段ジャージ姿の厚木先生がスーツ姿で文実の会議に参加している。完全にカメラを意識している。それより驚いたのが、普段の白衣姿ではない、スーツ姿で本気の化粧をしてるであろう平塚先生の姿があった。

(自習にしてまで、このひとは……ヌレセンさんのこと見すぎでしょ……)

 

 平塚先生の隣にいる陽乃さんが笑いをこらえてる。厚木先生に至っては、緊張してるのか一言も発しない。カメラの撮影もはじまり、文実の会議がスタートする。

 




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