『オイ、“無個性”!』
違。
『“個性”あるんだったら使ってみ~ろよ~!』
見せられないよ。
『嘘つきだ~! お~い、皆! こいつ嘘つきだぞ~!』
違う。
私……嘘なんか吐いてない。
*
空になったペットボトルが、無造作に道端へ投げ捨てられる。
目に見える範囲だけで十数本。全て、赤と白が基調のラベルが巻かれている、有名なコーラのペットボトルだ。
自販機の前でこぢんまりと体育座りをする少女は、歯に纏わりつく甘さを舌で絡め取りながら、もう一度指を変化させて自販機に突き立てた。
ふと、彼女の肉体を張り巡らされている神経と自販機が繋がったことを、少女は感じ取る。
これが何なのかはまだ思い出せない。
だが、何故かとても大切だったもののように思えた。自分と誰かを繋ぐ、とても大切な……糸のようなものだろうか。
明らかに人間のソレには見えぬ手を見る度、彼女は形容しがたい愛しさと孤独感に苛まれるのだ。
自分は誰かと繋がっている。しかし、繋がっている対象はたった一人だけ。
二人ぼっちな私と■は、互いに姿を見せぬまま、各々の存在を示す為だけに繋がった糸を張ってみせる。
もし糸が途切れてしまえば、それこそ自分は一人ぼっちになるのではないか。
自分を見失いそうで怖かった。
だから少女は、大人が酒に溺れるように、記憶の糸を手繰り寄せてコーラを貪っていたのだ。
己と自販機を『神経接続』し、意のままに自販機を操作する。
既に十数本目になるコーラであったが、彼女は“空いた”感覚も“満ちた”感覚も分からない為、ただただ口の中に残る甘美な感覚を欲するがままに自販機を弄った。
「……あ」
無い。
自販機の中にあったコーラを全て飲んでしまったようだ。それもそうだ。墨汁で塗りたくったような空の下、街灯も少なく自販機から放たれる光だけが光源の狭い中、見える範囲には綺麗に飲み干されたペットボトルが無数に放り投げられているのだ。
見えている範囲はあくまで氷山の一角。明かりがあれば、数十本という空のペットボトルが見えることだろう。
しかし、少女にとっては飲んだ本数は問題ではなく、記憶の糸を手繰り寄せられそうな重要な飲み物であった品が切れたという事実の方が問題であった。
既に、口の中で爽快感が弾ける琥珀色の液体は残っていない。
それを理解した少女は、自販機に突き立てる“指”を元に戻した。
やることが無い。
暗い夜道に病衣姿で体育座りする少女など、傍目からすれば異様な光景でしかない。
しかし、今日に限って通行人が居ないことにより、誰も彼女に声を掛ける者が居なかった。
自販機が駆動する音と、遠くで自動車が走る音だけが聞こえる静寂な空間。
だからこそ聞こえた。
今まさに、獲物に狙いをつけるケダモノの息遣いが。
「―――!」
「ア゛ァァアッ!!」
体に電流が奔ったような感覚を覚えると同時に、少女は常人ならざる反応で頭上から振り下ろされた剛腕を回避した。
標的を見失った岩石のような腕は、そのまま少女の近くに佇んでいた自販機を、豆腐でも潰すかのように原型がなくなるほどに粉砕する。
「エェイ゛……! ア゛ァエエ……!」
「……」
身体中に埋め込まれている口が、泣き叫ぶかのように歪みながら人のものとは思えぬうめき声を上げる。
―――グロウイーター
連続食人殺人鬼だ。
“個性”でいう所の異形型さえも超越したような風貌の殺人鬼は、血走った数十の瞳を一斉に蠢かし、自身の攻撃を回避した少女へ視線を遣る。
一方少女は、虚ろな瞳で殺気の籠った眼を向けてくるグロウイーターと視線を交わしつつ、何時でも次の攻撃を避けられるようにと身構えた。
すると、先程自販機を支配していた白と黒が入り混じった稲妻が指先から伸び、そのまま自身の体へと突き立てるではないか。
自傷行為? 否、そうではない。
自身に“指”を突き立てた少女の体には、基板に刻まれる回路のように規則的な黒いラインが奔ると同時に、体の周りにバリバリと白い電光が爆ぜ始める。
「……強制発動。『超反応』、『膂力増強』、『瞬発力』、『筋骨
―――私は何を言っているんだ?
自然と口から零れる“個性”の数々に、思考が追いつかない。
だが、彼女自身が考えるよりも先に体が動いてしまっているのだ。まるで、自分が自分ではないように。
表情には出ていないものの、困惑している少女に対し、グロウイーターは依然として低いうなり声を上げるだけ。
だが、グロウイーターの体にもまた変化が表れ始める。
肉が埋もれ、骨が軋む音が鳴り響きながら、グロウイーターの元々巨大であった右腕が異常に肥大化した。
更に、腕の筋肉に埋もれている口腔からは、辺りを真っ赤に染め上げる紅蓮の炎が迸る。
「ア゛ァァアッ!!」
「ッ!」
直後、道路のコンクリートが砕け散る音と共に、両者の姿がその場から掻き消える。
すると、続けざまに空気が破裂するかのような轟音が数度響き渡った。閑静だった場所で爆ぜる閃光と鳴り響く轟音は、驚くほどに良く通る。
「オ゛ァッ! ア゛ァ! ア゛ァッ!」
次々と異形の腕を振るうグロウイーター。一振りする度に、近くの建造物に焦げ目がつき、触れた物は須らく破砕されていく。
しかし、一撃でも当たれば致命傷である攻撃を、縦横無尽に駆けて回避する少女。戦場に一変した場を駆け巡る彼女は、そこらのプロヒーローよりも俊敏であった。
『超反応』で敵の攻撃を瞬時に見切り、『膂力増強』と『筋骨発条化』で人間ならざる肉体の『瞬発力』で、命を叩き潰さんとする鎚を紙一重で回避する。
幾度となく振るわれる剛腕が電信柱に命中し、電線はBZZと電光を瞬かせながら千切れた。弾け飛ぶ破片は偶然にも少女の頬を掠り、赤い血が滲む掠り傷をつけるに至るが、
「―――『超再生』」
確かめるように少女が呟けば、頬の掠り傷は一瞬の内に塞がり、元の白く透き通った肌に戻る。
この程度の傷はなんともないとでも言わんばかりの無表情。
尤も、もともと機械のように表情が動かない少女であるが、これだけ襲いかかっても感情の変化を見せない相手に業を煮やしたのか、今日一番の咆哮を上げて拳を振りかざす。
「オ゛ァァアアアッ!!!」
「ッ」
「……ア゛ァ?」
突き抜ける衝撃。
そのまま少女を地面の染みにし、コンクリートの地面を砕く―――かと思いきや、拳が少女に命中した場所から一切動かない。
「―――『衝撃反転』」
「ッ……ア゛ァアア!!?」
刹那、バツリとゴムが無理やり引きちぎられたような不快な音と共に、鮮血が宙に迸る。
振り下ろした腕の皮膚が裂け、筋線維のみならず中の骨さえも見えるほど傷に悲鳴を上げるグロウイーターであるが、数秒後には傷口が埋まるように筋線維が盛り上がり、元通りの―――元々歪ではあるが―――腕に戻った。
一方少女はと言えば、『衝撃反転』を発動させた腕を宙へ掲げたままだ。
受けた衝撃をそっくりそのまま返す“個性”は、相手の攻撃の威力に依存する。文字通り受け返した少女の病衣の右腕部分は、敵の高温な腕も相まってか、ボロボロに破けた上に煤けていた。
「ッ……」
痛々しい様になっている腕を見て、思わず少女の表情も歪む。
痛くはない。ただ、その様に幻痛を覚えただけだ。
「ア゛ァ~……!」
「……」
睨みあう両者。
一人は、生気を感じさせない虚ろな瞳で。
一人は、喜んでいるような、怒っているような、哀しんでいるような、楽しそうな―――様々な感情を宿す数十の瞳で。
対照的な二人は容易くは崩れそうにない均衡へ突入してしまう。
だが、常人であれば塵のように弾き飛ばされてしまいそうな状況の中に、一つの影が降り立つ。
「
「ッ!」
「
隕石のようにやって来たヒーロー―――オールマイトは、その剛腕でクロスチョップをグロウイーターに繰り出した。
しかし、以前とは比べ物にならない反応で彼の一撃を回避したグロウイーターは、慣れた様子で体を『液状化』させ、そのまま近くのマンホールの隙間を通り、颯爽とこの場から逃げていく。
「くぅ……逃げ足が速い相手だ。だが、まずは君の無事を確認せねばな!」
拳を握り敵が逃げたことを悔やむオールマイトであったが、すぐさま声色を変えて踵を返す。
彼が瞳に映すのは、紛れもなく目の前に居る少女だ。
「……?」
「むッ、大変だ。右腕を怪我したのかい? もう少し近くで見せてくれるかな?」
「……うん」
「おおッ、返事してくれたね! ちょっと感動だよ!」
「……」
「あ、ゴメンね。私だけ場違いにテンション上がって」
無言で佇む少女に、無駄に嬉々としていたオールマイトがしょんぼりとする。
そのままテキパキとした様子で、煤けた少女の右腕を確認するオールマイト。ムキムキな彼が診断など、如何せん似合わない光景ではあるが、彼はヒーローとしての資格を有す者。トリアージは医者ほどではないがやってのけられる。
「うん、見た目よりは悪くない……って言うより、煤で汚れてるだけで傷はないね。私の杞憂で済んでよかったよ!」
「……オールマイト」
「ああ、私がオールマイトさ! ……じゃなくてね、君が一人で勝手に病院から出て来ちゃったから皆焦っちゃってね、ハッハッハ! いや、笑いごとじゃあないんだけど、ここまで無傷だと笑うしかないって言うか!」
そうは笑い飛ばすものの、オールマイトは内心穏やかではない。
閑静な場所に居た移木怜と思しきサイボーグ。恐らくは一人で居ただろう彼女をグロウイーターが襲っていたのだ。
あと少し遅れていれば彼女の命が危なかったかもしれない。
(いや……もしや、グロウイーターの狙いがこの少女だったのかもしれない。考え過ぎだろうか?)
五日も息を潜めていたグロウイーターが、このタイミングで姿を現したことに形容しがたい違和感を覚えてしまう。
(『
敵名の由来を思い返し、ギリッと歯を食い縛るオールマイト。これ以上、民間人から被害を出す訳にはいかない。これ以上被害を出せば、ヒーロー社会に不信感を抱かせるのに加え、グロウイーターそのものの戦力を向上させるに至ってしまう。
平和の象徴として―――そして、一人のヒーローとしてこれ以上グロウイーターの犯罪を許すわけにはいかない。
再び静まり返った街道に響き渡るのは、轟音を聞いた住民の通報を受けた警察のパトカーだ。直に、この場に急行した際に置いて来てしまった塚内もやって来るだろう。
神妙な面持ちで唸るオールマイトは、もう一度少女を見つめる。
その時、虚ろな瞳に僅かな光彩が宿ったように、オールマイトは感じたのだが、理由までは分からぬままだった。
*
『怜。今日、お父さんはお仕事休みなんだ。どこかお出かけするかい?』
『……うん』
『そっか。じゃあ、お昼は何食べたい?』
『えっとね……ワクドナルドのワクワクセット』
柔和な笑みを浮かべる父に撫でられたまま、私は一度も言ったことのない店の名前を口に出す。
ふと、父が驚いたような顔を見せ、『そうか』と笑みを深くしてから言葉を続けた。
『ワクワクセット以外じゃダメかな?』
『ううん……ワクワクセットがいい』
『今月の付録のおもちゃがヒーローグッズだからかい?』
『! ……うん』
図星を突かれ、私は羞恥心のままに着ていたワンピースの裾をギュッと握る。
『ハハハッ、分かったよ。じゃあ、今日はお父さんと怜の二人でワクドナルドに行こうか』
『……オールマイト』
『怜はホントにオールマイトが好きだな。将来の夢はヒーローか?』
『えっとね、わたしは―――』
はにかんで質問を投げかける父に、私は何かを言い放った。
すると父は突然泣き出し、ギュッと私を抱きしめてくれる。
理由は覚えていない。
私が何を言ったのかも覚えていない。
ただ覚えているのが、頬を伝う父の涙がとても温かかったというだけだ。
*
「やあ、調子はどうだい!? 移木少女!」
BANG! と病室の扉を勢いよく開けるオールマイト。彼の右手には美味しそうな匂いが漂ってきそうなワクドナルドの袋と、左手には巨大な紙袋が複数握られていた。
そんなオールマイトであったが、静かな病院で大声を上げれば迷惑でしかない為、すぐ横を通りかかったナースに『お静かに』と注意さえる。
筋肉の塊というべき男が、華奢なナースに起こられてしょんぼりする姿はある意味貴重だ。
「ハンバーガーとポテト……食べる?」
一方、またもやグロウイーターに襲われたサイボーグ少女―――移木は、返事をしない代わりに無言で頷き返す。
その様子に『そっか!』と笑い飛ばすオールマイトは、巨体に似合わぬ小さな椅子に腰かけ、どこを眺めているかも分からぬ虚ろな瞳を浮かべる移木と喋り合う体勢に入る。
先日の襲撃以来、またもや雲隠れしたグロウイーターの捜索を続けるヒーローと警察なのであったが、オールマイトはとある事情から一旦パトロールから離れ、こうして移木が居る病室に来ているのだ。
その理由は―――
『オールマイト。先日、移木怜が病棟を離れた際に彼女を襲撃していたグロウイーターの血液……それをDNA鑑定してもらったんだ』
『うん。それがどうかしたのかい?』
『奴から検出された複数のDNAの一部が、移木怜から検出された複数のDNA全てと合致した』
『な……なんだって!?』
衝撃の事実が塚内から知らされたのは、移木を病棟に連れ戻した二日後のことであった。
DNA鑑定で、数十人に及ぶDNAが検出された移木―――それだけ充分異常なのであったが、更には世間を騒がせているグロウイーターのDNAと合致するという新事実。
自分のDNAが他人と合致する確率は、超常黎明期以前に数兆人に一人との鑑定結果が出たこともある。それだけ、DNAとは“個性”以上に唯一無二だということなのだが、複数人のDNAを持ち、更にはそれらのほとんどが合致するということは、最早同一人物以外ではありえない事態だ。
『……私は、移木怜とグロウイーターに何かしらの因果関係があると読んでいる』
『ああ、そこまで合致するとなると、素人目から見ても関係があると考えるよ』
『だから私は彼女に話を聞きたいんだが……その役目を君に任せてもいいかい?』
『む? 何故だい、塚内くん』
『どうしたものか、あの子は私たちの質問には一切反応してくれないんだ。だけれど、君となら何度か口を開いてくれたんだろう?』
『成程! それで私に白羽の矢を立てたと!』
『そうだね。情けない話なんだが、君にあの子から有力な情報を得られるかどうか試してくれ』
『うむ、任せてくれ!』
―――などという経緯があり、今に至るのだ。
しかし、幾らオールマイトと言えど、会話の中から情報を引き出すなどといった訓練は一切受けたことが無い。人質をとる敵に対し、止めるよう窘めたりといった経験こそあれど、最終的には話術で落とすのではなく、拳で相手の意識を落とすのが専らであった。
更に付け足せば、普段相手にするのは直情的な思考を抱く者なのだが、今回に至ってはほぼ無感情……まさしく機械のような者が対象だ。
難易度で言えばルナティック。
しかも、攻略に挑戦できるのが自分だけであると思うと、全摘した筈の胃が責任感によるプレッシャーでキリキリと痛み始める。
(しかし、やらねばなるまい! 何故なら私は―――!)
「……オールマイト」
「なーんだい、移木少女!?」
己の心の声に合わせるように言葉を発した移木に、思わず声が裏返る平和の象徴。
「私を……知ってる?」
「むむむッ、いきなり哲学的な質問だな! だが、あえて言うのであればさっぱり分からない! だから、今から君とたくさんお喋りしたいと思ってるんだが……大丈夫かな?」
「……うん」
掴みは充分。
普段から笑みも画風も濃いオールマイトが、更に笑顔の皺を濃くする。
「よしッ、じゃあ買ってきたハンバーガーとポテトでも摘みながら語らおう! 飲み物は勝手にコーラを選んじゃったけど、飲めないなら別のを……」
「……コーラ、好き」
「そうか、なら良かった。私もコーラは大好きだ! ハハハッ、早速一つ私と君の共通点が出来たな!」
「……うん」
袋から取り出したハンバーガーを受け取る移木は、慣れた手際で包装紙を剥がし、そのままハムッと口を付ける。
そのまま桜色の薄い唇が、具の熱で柔らかくなったバンズに触れる―――と思いきや、
「おぉぉおぉお……!?」
噛み切るのではなく、そのまま口の中へぎゅうぎゅうにハンバーガーを詰め込み、まるでハムスターのように頬が膨れ上がる様を見て、オールマイトが驚愕と動揺が混じった声を上げて狼狽える。
そのままモッキュモッキュと数度噛んでから、部屋中に響き渡るほどの嚥下音を一度ならして、ハンバーガー丸々一つを胃袋に納めた移木。
「ご、豪快だねぇ……」
「……美味しい」
「そ……それならよかったよ! さあ、ポテトも食べるかい?」
「……うん」
全身サイボーグなのに食事ができるのだろうか?
しかし、その辺りは考えるのを止めたオールマイトが、外側はカリカリに、中はホクホクに揚がっているフライドポテトを差し出す。
「さ、遠慮せずに食べて大丈夫だ!」
「……」
「おおぉおぉッ……!」
またもや差し出された食べ物を、一気に口へ含んでいく少女に、オールマイトは最早一種の感動を覚えながら一連の流れを見届ける。
徐にケースを真っ逆さまにし、そのまま数十本のポテトを口腔へ流し入れた後、頬に少しばかり凹凸を作りつつ数度咀嚼し、再びえげつないほどの嚥下音を奏でて完食を果たした。
「コ……コーラ飲む?」
「……うん」
「んんん~~~! 飲み物も一気なのかぁ~~~!」
蓋を開けて炭酸が抜ける音と同時に柑橘系の香りが漂ったかと思えば、芸人顔負けの速度で500mlペットボトルを満たす琥珀色の液体を飲み干した移木。
擬音で表すのであれば、『ゴキュゴキュ』ではなく『ゴゴゴゴッ』という音。まるでダムから流れ落ちる水だ。
―――どうしよう、もう買ってきた食べ物なくなっちゃった。
『お年頃のあの子とは放課後にワックへ作戦』は潰えてしまった。
しかし、こんなところでへこたれる平和の象徴ではない。
「ハーッハッハッハ! 移木少女、安心してくれ! 君が楽しんでくれるようにと、私は洋服もたくさん買ってきた! さあ、気になる物があるか見てくれ!」
女の子と言えば洋服好き。で、あるならば、たくさんの服を見せればなにかしら気に入ってくれるのではないかという考えの下、オールマイトは手当たり次第に服を買ってきたのだ。
「これなんかどうだい!?」
尤も、『女子が洋服好き』という考えはオールマイトの偏見で、選んだ服もなんとなしにチョイスした物である。
つまり何を言いたいのかと言うと、独身の男がファッション誌も参考にせずに適当に買ってきた物など、到底普通とはかけ離れ―――
「……」
「……あれ?」
予想以上の無反応さ。
因みに取り出されたのは、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの着ぐるみパジャマ(虎バージョン)だ。
心なしか、常時虚ろな瞳の移木の瞳が、あらぬ方向を見ていると感じたオールマイトは、頬に汗を垂らして頓狂な声を上げるのであった。
*
「ここだわ……臭う。臭うわよ」
スネークヒーロー『ウワバミ』が見上げるのは、寂れた雰囲気を漂わせる廃病院だ。
「成程、隠れるには持ってこいの場所だ……まあ、指名手配中の身で根城を一つに絞るとは、向こうも随分合理的じゃない真似をするモンだ」
「まあ、そのお蔭で我々もこうして無事根城を発見することができた……早速、他へ連絡を回すとしよう」
「ええ。アレとやり合うなら、万全を期した方がいいでしょうからね……」
グロウイーターの根城を発見するという重要な役割を担い、尚且つ危険度が最も高いウワバミを護衛する為に付き添っていたイレイザーヘッドとベストジーニストが、落ち着いた様子で言葉を交わす。
「グロウイーター……今度こそは逃がすまい」
―――着々と外堀は埋められていく