ーーー私は強くなりたい。過去に、弱い自分に負けたくない。
ーーー戦いを!!闘いを!!飽きれる程の闘争を俺にくれよ!!その果てで俺を倒してみろよ!!
ーーー自分が弱いなんて自分が一番知ってるんだよ!!だけど、2人が戦ってるのに僕だけ引きこもっていられるかよ!!
歓迎しよう、その決断を
「ーーーガンゲイル・オンライン?」
「ーーーそうそう。通称GGOって言うんだ」
「GGO……DDBを思わせるフレーズだな」
「エラッタされたんだから許してやろうよ……」
「ダメだ、絶対に許さない」
昼休みの屋上でコンビニで買って来た惣菜パンをもそもそと食んでいると隣に座って弁当を食べていた友人の新川恭二が唐突にゲームのタイトルを口にしたのだ。
「ガンって名前から銃がメインのゲームか?」
「そうだよ。その上PKも推奨されているし、
「何それ超楽しそう」
今までVRMMOは
それでも気にせずにPKはしまくっていたけど。
それに結果的には追放されたおかげであいつらと知り合うことが出来たのだから良いこと尽くしだと言えなくもない。
「ALOからコンバートって出来たっけ?」
「出来る出来る。GGOからも出来るはずだしね。その代わりアイテムを預けとかないと全ロストするから気を付けてね」
「それは知り合いに任せるとして……GGOか、やってみようかね?」
「良し、これで新規ユーザー勧誘のボーナスアイテムが手に入る!!」
「それが目的かよ」
恭二の目的に呆れながら最後の一切れになった惣菜パンを口の中に放り込んでお茶で流し込む。時間を見れば昼休みが終わるまでまだ30分もあった。
「んじゃあ寝て来る」
「また昼寝?よく寝るね」
「ALOにダイブしっぱなしで精神的に疲れてな」
ヘラヘラと笑いながらパンのゴミの入ったビニール袋を片手に転落防止のフェンスを越えて周囲を見渡し、人がいない事を確認してから雨樋を伝って地上まで降りる。
向かう先は中庭にあるベンチだ。あそこは分かりにくい場所にあるわけでも無いのにどういうわけだか人があまりやって来ない。植えられた木の影もあるので昼寝をするにはもってこいの場所なのだ。
鼻唄混じりで中庭に向かっていると、ベンチに既に先客がいた。黒髪の眼鏡をかけた少女で、膝の上に置いてある本を真剣に読んでいる。人がいるなんて珍しいなと考えながらどうしようかと迷っていたがその少女は不意に本を閉じて顔をあげ、しばらくするとまた本を読み始めた。
その行動が気になったので気配を消しながらこっそりと近づく。後ろから何を読んでいるのかを覗いてみるとそこには銃のイラストと説明が記されていた。
「銃?」
思わず声に出してしまい、気付かれて少女が振り返る。だがその顔は真っ青で、驚愕というよりも我慢の限界を迎えている顔だった。
そして正面から見て気が付いた。こいつは知り合いだ。
「大丈夫?動けるか?」
どこからどう見ても吐き出す数秒前の顔をしている彼女に尋ねるが返事は無く、口元を押さえているだけ。動かせないと判断してビニール袋からゴミを全部出して差し出すと引っ手繰る様に取られて、
一気に決壊した。前屈みになりながら吐く彼女の背中を摩ってやる。中途半端だとスッキリしないと経験から知っているのだ。なので吐く時は全部吐き出した方がいい。そうしてしばらく背中を摩っていると落ち着いてきたようだった。
「まだ出そうか?」
「……いいえ、もう大丈夫よ」
「だったらこれで濯いどけ。飲みかけで気持ち悪いかもしれないけどな」
まだ顔は青いがそれでもさっきよりもマシになっている。それでも吐いたままの状態では気持ち悪いだろうと思って飲みかけのお茶のボトルを差し出した。そういうのを気にしない性格なのか、それともそれを気にしている余裕は無いのか彼女はお茶を受け取り言われた通りに口を濯ぐ。
「はぁ……ごめんなさい」
「困った時はお互い様ってな。本当に済まないと思ってたら俺が困ってる時に助けてくれ」
「……相変わらずね、漣くんは」
「それが一番俺だからな」
ヘラヘラと道化の様に、心配など不要だと思わせる様に笑う。そうでもしないと彼女は気にしなくても良い心配をする事になるから。
「んで、朝田はなんで銃を見てリバースしたんだ?」
メガネをかけた、どこか痩せた子猫を思わせる彼女は
余計なお節介だとは分かっているが力になれるのなら成りたいし、助けたいと思っている。
「……銃が、苦手なのよ」
戸惑いがちに朝田は嘔吐の理由を教えてくれた。その顔は苦々しく、どこか怯えている様に見えた。
「リバースしてもんじゃを作るほどにか……」
「もんじゃって言わないでくれるかしら?」
現代の日本において銃に苦手意識を持つ人間はほとんどいないだろう。なにせ、日本では一般人が銃を所持することは認められていないのだから。職業として銃に触れる警官や自衛官、もしくは裏稼業の人間かそれらに関わりのある人間なら銃に触れる機会もあるだろうが朝田からはそういう人種から感じるはずの特有の匂いや気配は感じられない。正真正銘の一般人だろう。そういう人間が銃にトラウマを持つのなら自然と限られて来る。
過去に銃で殺されそうになったか、それとも
後者だと考えれば朝田は現代社会において忌諱される人間なのだろうが俺は気にしない。なにせーーー
「銃が苦手ねぇ……」
「こんな本だけじゃなくてモデルガンのケースを見るだけでも気分が悪くなるから……」
「重症すぎるな」
銃といえば日本人に取っては関わりのない物だと思われるが見るだけならテレビの中やモデルガン、それにゲームの中など様々なところで目にする物だ。本を見るだけ、モデルガンのケースを見るだけで気分が悪くなる程の重症なら治したいと思ってもおかしくない。
そしてなんの因果か、俺は丁度その悩みを解決出来るかもしれない方法を知っていた。
「一つだけ、どうにか出来るかもしれない方法を知ってる」
「……本当に?」
「かもしれない方法で治らないかもしれないし、もしかしたら今よりも酷くなるかもしれない。教えて欲しいというのなら教えるし、知らなくても良いというのなら教えない」
「何よそれ」
「要するに自己責任って事。治るかもしれない可能性に賭けて教えてもらうか、酷くなる可能性に怯えて断るかは朝田次第だ」
力になりたいと思ったところで俺は所詮は部外者に過ぎない。朝田が抱えているトラウマを克服するかどうかなんて朝田自身が決めなくてはならない問題なのだ。
リスクとリターンを秤にかけているのか、それともリスクを承知しながらも覚悟を決めているのか朝田は暫し逡巡し、自分の答えを口にした。
「ーーーリンク・スタート」
恭二からGGOに誘われたのが木曜日。その日の内にソフトの購入を済ませたりALOの知人にコンバートをする事を伝えてアイテムを預けたりし、金曜日の夜に俺はアミュスフィアを被ってコマンドを入力しゲームを開始する。
目を開いて視界に入ってきたのは霧の様な物が漂う近未来の街並み。メタリックな質感を持つ高層建築群がそびえ立ち、それらを繋ぐ通路が空中で掛かっている。痛いほどに光っているネオンに目移りしながら地面を見れば、そこは土や石ではなくて金属のプレートで補強されていた。
「ここが〝SBKグロッケン〟ねぇ」
ALOの幻想的な要素など一切無い街並みは見ていて新鮮なものがあったが、今の目的はそうでは無い。自分のアバターの姿を確認する事だ。
課金でもしなければアバターの制作はランダムになる。ALOではどんな幸運かほとんどリアルと同じ容姿と身長のアバターだったので気にはしなかったが、GGOにコンバートした事で変更されているはずだ。視線から身長はリアルの170センチと然程変わりはない様に思える。出来れば見た目も変わって欲しくないなと考えながら視界に入ったミラーガラスに歩み寄ってアバターの容姿を確認する。
「……中性的なスキンになったなぁ」
リアルでは誰が見ても男と分かる見た目だったが、このアバターはどちらかといえば中性的な見た目になっていた。短く切り揃えられた黒髪は艶やかで、肌の色は健康的な白。目付きはリアルとALOと同じ様に気怠げで鋭いのがそれもこのアバターの魅力の一つになってしまっている。身長も合わさってモデルやアイドルにも見えなくはない。
中性的、男性が見れば女性に見えて女性が見れば男性に見えるというどっち付かずな仕上がりになっていた。
「ま、いっか」
マトモな感性の持ち主だったら頭を抱えるのだろうが俺は気にしなかった。身体つきがリアルと似通っていて、不愉快を感じさせない容姿であるなら文句は無い。
アバターの確認は済んだので、次は先に入っているはずの恭二を探さなくてはと辺りを見渡しーーー隅の方で周囲からキチガイを見る様な目で見られながらスクワットをしている迷彩模様の上下を着ている長身痩躯のプレイヤーを見つけてしまった。
本音を言えば知らないと言って目を逸らしたい。でも恭二は絶対に分かるって自信満々に言っていた。多分あれだ。近付きたくない。
そう考えてどうしようか迷っていると、スクワットをしているプレイヤーと目が合ってしまった。
「サモサモキャットベルンベルン」
「DDBDDBオラッ!!オラッ!!射出射出あざっしたー」
「お前だったのか」
「畜生」
関わりたくなかったが、分かってしまってバレた以上は仕方がない。出来るだけ周囲からの視線を避けながら恭二へ近づく。
「なんと言うか、モデルみたいなアバターになったね」
「身長がリアルと変わらないのは助かったけどな。ちなみに名前は?俺はウェーブだ」
「シュピーゲルだよ」
「ん?シュピーネ?」
「形成様と同系統に見られるとか恐れ多いから止めてくれ」
真顔で言われたので本当に止めてほしいのだと察して降参の意を示すために両手をあげる。そしてそのまま流れる様にフレンド登録を済ませ、その場に待つ事にした。
「んで、本当に来るの?」
「来るって言ったんだから来るんじゃない?1時間待ってみて来なかったら諦めるけど」
俺の提案を彼女は受け入れた。だから来ると、トラウマに立ち向かう覚悟を持っている彼女は来ると信じている。中々決心はつかないだろうが必ず来ると信じている。
そうして待ち始めてから10分程経ち、キョロキョロと辺りを見渡している女性プレイヤーを見つけた。額の両側を結わえた細い房がアクセントの水色のショートヘアーで、猫を思わせる藍色の大きな瞳が誰かを探しているのか忙しなく動いている。
その目を見て分かった。若干の不安の色が浮かんでいるものの、あれは彼女であると。
「よう、来たみたいだな」
「えっと……漣くん?」
「イエスイエス、見た目がアレだけどな。ところで、名前は何にした?俺はウェーブね」
「……シノンよ」
そう、彼女は、朝田詩乃は選んだ。銃へのトラウマを克服するために銃が全てのGGOの世界に飛び込む事を。
それを祝福しよう。それを歓迎しよう。そして俺は誓おう。
君が折れない限り、俺は君の力になる事を。
主人公は新川きゅんやシノのんと同い年、それでいてシノのんのお隣さんとかいう。
DDBは絶対に許さない。