「はっ!その程度かい!!」
「おいおい、テメェこそその程度か?鬼の器が知れるな」
互いに罵倒し合い二人は睨みあう。正に一触即発と言うべき緊張の中第三者が声を掛ける。
「五月蠅いわよ!少しは静かに出来ないの!!?」
怒声と共に飛んできた木材は闘華の手に易く止められ二人はその声の主を見る。
「「こいつが先に手を出した」」
「どっちでも良いわよ!!」
現在三人は建築作業をしています。
◆
「しかし、幽香の嬢ちゃん意外と力あるな」
「そこら辺の弱小妖怪と一緒にしないで頂戴」
「おい、何か木材が半分に裂けたぞ」
「テメェは力加減しろや!」
真っ二つに裂けた木材を持ちながら闘華が駆けよって来る。
「テメェ一本作るのに苦労したんだぞ!?」
「アンタも散々ぶっ壊してただろう」
「テメェみたいな壊し方はしてねえよ!!」
騒ぐ二人を余所に幽香は木材を運んで行く。既に昼に差し掛かろうというのに予定の半分も進んでいない。主に二人が喧嘩する所為で…。
「ったく、幽香の嬢ちゃんに任せっきりじゃねえか。お前はこう言う時位しか役に立たねえだろう」
「失礼な奴だねえ。殆ど役に立たない奴に言われたくないよ」
「それはテメェだ!」
「二人ともよ。働きなさい」
幽香の言葉に二人は漸く黙々と働きだす。
「幽香の嬢ちゃん。この木材もう一本何処置いた?」
「それはあっちよ」
「ありがとなー」
幽香が指差した方向に置いてあった木材へと走って行く全。それを見ながら幽香が呟く。
「……何で私がこんなことしてるんだろう」
「月が真ん中来る前に終わすぞー!」
「おー」
その呟きは誰にも聞えなかった。
◆
「…あれだな。少し本気出し過ぎた」
「月が真ん中に来る一歩前に終わったから良いんじゃないかい?」
「……貴方達おかしいわよ」
会話している二人の後ろで愕然とした様子の幽香。三人の目の前には普通の家が一軒建っていた。
「中はまだ全然だがな。あの国と似た感じにしたんだがどう思う?」
「悪くない。少なくとも過ごしやすいだろう」
「貴方達何なのよ」
「大妖怪さ」
「俺の場合自称だけどな。しかし能力が此処まで使えるとは」
そんなことを言いながら全を先頭に三人は家の中へと入る。家の中は至って普通の家だ。ただ家具が一切配置されていない為物悲しく感じる。
「明日は家具でも作るか」
「その前に酒を―――」
「汚水でも飲んでろ酔いどれ」
幽香は家の中を見回す。
「凄いわね。人間達にこんな物は作れないわよ?」
「まあ、伊達に何千と生きてねえよ」
「…決めた。私も此処に住むわ」
「あ?マジで言ってのか?」
「別に文句は無いでしょう?私も手伝ったんだから。此処なら花達の様子も良く分るもの」
その言葉に全は頭を抱える。闘華も諦めろとその肩に手を置いた。
「これなら何時でも此処で酒を飲めるな」
「酒無いんじゃなかったのか?」
「酒はな。只妙な物を手に入れたんだよ!水を酒に変えてくれるんだよ」
「頼むから片付けはしろよ」
「おう!」
笑う闘華に不吉な物しか感じず全は深い溜息を吐く。
「それで、結局私は此処に住んでいいんでしょう?」
既に彼女には決定事項なのだろう。
「そうねえ。寝床が欲しいわね。明日は寝床でも作りましょうか」
「おい、まてや。何で幽香の嬢ちゃんが仕切ってんだよ」
「貴方達が働かないからよ」
全の言葉に満面の笑みで答える幽香。
「やりましたー!俺一番働きましたー!!」
「いや、アタシだろ」
「婆は黙って――――」
「ふんっ!」
「痛ってえぇ!!!」
背後で殴り合いを始める二人を無視しながら幽香は次々に家具の配置などを決めて行く。月が空の真ん中に昇り始めた頃、花畑は静寂とは真逆の騒々しさが木霊していた。
◆
「……」
ただ静かに、夜風の音だけが響く中、全は一人月を見上げていた。時折、雲に隠されながらも、月は静かに浮かび続けている。
「…ほれ」
そんな全の横に、闘華が座る。闘華は持っていた杯の一つを全へと渡す。
「……確かに酒だな」
杯に注がれた液体を一舐めし、全は呟く。
「だから言っただろう?」
そんな全に、闘華は胸を張る。一々反応するのが億劫なのか、全はそれを無視して月を見上げる。
「アンタ、確か仕えてる身だったかい?」
「ああ。今頃は月で働いてんじゃねえかなぁ」
「何だい、迎えも寄越さないのかい」
闘華の言葉に、全は何処か不機嫌そうに唇を歪める。
「良いんだよ。別にそんなのを求めてる訳でもない。そもそも、俺一人の為に穢れのある地上に迎えを寄越す訳にもいかないだろう」
その言葉に闘華は憤慨する。
「穢れ、穢れ、これだから月の奴らは…」
「仕方ねえだろうが、妖怪と違って、人間の寿命は短いんだからよ。生物なら、当たり前の感情だ」
「お前は、月に行きたいとは思わないのかい?」
「思わねえよ。あそこには、興味ねえんだ」
「………」
そう言う全の顔は、何処か未練があるように思えた。
「そうか…」
闘華は杯に注がれた酒を仰ぎ、瓢箪を全へ渡す。
「ほれ、飲め」
「あ?まだ飲み干してねえよ」
「ほれ、良いから飲め」
そう言って全の杯に無理矢理酒を注ぐ闘華。それに特に反抗することも無く、全は注がれる酒を見ている。
「そう辛気臭い顔をしていると酒が不味くなる。何時も通り笑っていろ」
「誰が辛気臭いんだよ」
呆れた様に肩を竦め、全は笑みを浮かべる。そこには、先程までの未練がましさは無くなっていた。
「この程度じゃ酔えもしねえっての…」
「嘘も大概にしときな」
「嘘じゃねえよ」
「ほう、そこまで言うんじゃあ、今度飲み比べでもしてやろうじゃないか」
「上等だよ。俺がテメェに負ける訳ねえだろうが」
満月の輝きに照らされながら、二人は静かに笑っていた。