東方渡来人   作:ひまめ

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二十四歩 先生、旧作は難しかったです

息を吐く間もなく放たれる短剣にてゐは只逃げるばかりであった。

 

「威勢が良いのは口だけですか!?」

 

 回避できない物は撃ち落としてゐは夢子と距離を取る。

 

「もしかしたらこれが作戦かもよ?」

 

「あちらの戦いが終わるまでの時間稼ぎですか?そんなことをしても神綺様が勝つのは明白ですよ!」

 

 投げ付けられたナイフが脚を掠めてゐは思わずバランスを崩す。

 

「鬼ごっこは終わりです」

 

 氷の様に冷たい瞳と冷徹な口調で告げる夢子。てゐのいる場所は彼女の距離に入っている。この距離ならば一切の抵抗を許さず仕留める事が出来るだろう。

 

「ふっふ~ん。これが何か分かるかな?」

 

「……只の壺ですね」

 

 てゐが両手で掲げた物を一瞥する夢子。見た所魔術的要素もない只の壺だ。それはルイズに対して使った壺と同一の物であり少々生臭いという程度だろう。

 

「そんな物で私の攻撃を避けられるとでも?」

 

「一発位なら防げるでしょう?」

 

「そしてまた逃げる、と。…弱者には御似合いですね。尤も―――」

 

 防げればの話ですが。

 その言葉と同時にてゐへと無数の短剣が放たれた。それは躱すことはおろか防ぐことも出来ない。その攻撃にてゐは壺を盾にし身を小さくした。放たれた短剣が壺へとぶつかる―――――寸前

 

「――――――まあ、防ぐなんて言ってないけど」

 

「―――――――え?」

 

 呆けた声を上げながら夢子は茫然とする。それも当たり前だろう何せ先程までは放った弾幕の先で身体を小さくし身を守ろうとしていた少女が自分の頭上、それも目の前にいるのだから。

 

「ど~ん!!」

 

 声こそ可愛らしいがその両手に持っているのは大きな壺。それを小柄ながらも体重を乗せて落としてきているのだ。

 茫然としていた夢子はそれに反応することが出来ず

 

「~~~~~~~~っ!!!!」

 

 壺の割れる音と声にならない悲鳴が上がる。夢子はふらふらと頭を揺らし、やがて気絶し墜落していく。流血こそしていないのは魔界人であるお陰だろう。

 

「回収、回収っと。いやあ、全の能力も便利だねえ。私じゃ一回くらいしか使えないけど…」

 

 気絶している夢子を縄をぐるぐると巻いて拘束していくてゐ。

 彼女の先程の攻撃。それは全の転移を使用したことによるもの。それは本来なら出来ないこと。だが主の能力を従者が使用する方法はある。つまり、今てゐは全の式神として使役されているのだ。それによって一時的に全の能力を使用し転移する。

 しかし全の能力の基本は演算や微細な感覚が必要となる。よって、チャンスは一度きりだったのだ。

 

「ふ~…」

 

 一仕事終えた表情のてゐ。これで後は全が神綺に打ち勝てば宝を手に入れる事が出来る。

 

「負けてる姿が想像できないなあ」

 

 普段からあれだけの力を見せ付けている全の負けている姿を必死に想像しながらてゐは全と神綺がいる下へと飛んで行った。

 

 ◆

 

「っちい!」

 

 額から流れる汗を拭う暇もなく全はすぐさま転移する。刹那、全がいた場所を無数の光線が過ぎ去って行く。

 

「手加減お願いしまーす!!」

 

「無理でーす」

 

 ボロボロの服を纏いながら叫ぶ全。その言葉を神綺情け容赦なく切って捨てる。全も霊力弾を放つが返ってくるのは視界を覆い尽くす妖力弾と光線の弾幕だ。だがその状態になりながらもアイスキャンディだけは手放さない辺りは凄いと言えるだろう。

 宙に張った結界を足場に神綺の攻撃を躱していく全。だが彼も只逃げ続けていた訳ではない。動こうとした神綺の指先に鋭い痛みが走る。その痛みに僅かに目を瞑り指先を確認する。そこからは微量の血が垂れ指先を赤く染めていた。

 

「一歩動けば全身がそうなるぜ?」

 

「……器用ね」

 

 全の指先に繋がっているのは淡く燐光を放つ極細の霊力の糸。それは神綺の周囲を覆い神綺の身体も縛り付けている。

 

「大胆ねえ」

 

「生憎、長生きしてるとそう言った物は薄れるんでね」

 

 困った様に微笑む神綺のペースに飲まれないよう注意しながら全は糸を手足の様に扱う。

 

「けど―――――まだまだ甘いわ」

 

 神綺が呟くと同時に彼女を中心に弾幕が発生し糸を容易く引き千切って行く。彼女の背にある羽からも光線が発せられ、縛られていた身体は完全に自由になった。

 

「ノーカウント!今のはノーカウントだ!やり直しを要求する」

 

「現実は何時だって残酷よ?」

 

「大人みたいなことを言うな!!」

 

「大人だもの」

 

 全の叫び声にのほほんとした声で答える神綺。そう言いながらも手加減をされているとは思えない威力の弾幕を放っているのだ。全は回避に集中し隙間を縫うように霊力の糸を撓(しな)らせ神綺を襲う。

 

「ッラァ!!」

 

 そちらに意識が向いた瞬間に背後へと転移し拳を振り落とす。全の身体を光線と妖力弾が抉り、焼いていくが彼は一切意に介していない。拳が新規へと触れようとした瞬間―――

 

「えい♪」

 

 拡散して打ち出された妖力弾に吹き飛ばされた。勢いよく水面から出ていた柱へと叩き付けられ衝撃で息をすることが出来ない。

 

「…っ、ぉ!…い…てえ。手加減する気ねえだろ」

 

 頭部から流血した状態で上体を起こす全。その表情は痛みに苦しむものではなくうんざりとした物であった。感覚が鈍くなってきているのかもしれない。

 

「まあ、後のことなんて考えなければいいか」

 

 取り敢えず脱出も勝ってから考えよう。力を温存することを止め全は通常より遥かに凝縮させた霊力弾を放っていく。それは神綺の弾幕を押し返していき弾幕に穴を空ける。

 

「痛えだろうが!!」

 

「男の子はちょっと無理するぐらいが良いのよ」

 

「常識を学べ!!」

 

 放たれた踵落としを難なく躱す神綺。だが脚が通った場所から霊力弾が放たれ神綺を襲った。この戦いが始まり初めての被弾である。距離を取り弾幕を放つ神綺。六枚の羽から放たれる光線と無数の弾幕。それを前にし全は右手を握りしめる。

 

「もう一発行くぞ!」

 

 全は再び霊力弾を放つ――――振りをし神綺の懐に潜り込んだ。弾幕が掠り身体から何かが焼け焦げた様な臭いを放つ。

 

「喰らえ一式!」

 

 全は腕を高速で突き出し神綺へと渾身の一撃を放つ。その攻撃を神綺は防御しようとするが両者の距離が近過ぎる。神綺が防御するより速く全の一撃が届く。

 

「痛っ!」

 

 バシンと言う鈍い音を奏で神綺の額に凸ピンが炸裂した。

 

「二式三式四式」

 

「あうっ!~~~!!」

 

立て続けに放たれる凸ピンに神綺は涙を浮かべて行く。

 

「これが百八式じゃあ!!」

 

「痛い~…!」

 

 止めに両腕での凸ピンに神綺は額を押さえ悶える。その姿からは戦意は窺えない。

 

「…で、まだやるか?」

 

 ボロボロの姿になりながらも霊力の糸で神綺を何時でも攻撃できるよう構える全。先程とは打って変わって勝敗は明らかだろう。

 

「というかアンタ本気じゃなかっただろう?」

 

「友達を殺そうとなんてしないわ」

 

 未だに涙目で額を撫でる神綺。神綺は降参の意を込め両腕を万歳のポーズで上へと上げる。

 

「神綺ちゃんは変わってるな」

 

「全君程じゃないわ」

 

「どうして皆揃って俺を変人扱いするかな」

 

「よく考えてみると良いわ~」

 

 先程の雰囲気は何処へやら二人は和気藹々と話している。

 

「お~い!」

 

「お、そっちも勝ったか」

 

「勿論!」

 

「夢子ちゃんが負けるなんて思わなかったわ」

 

 全達に声を掛けながら向かって来るてゐに全も声を掛ける。縛られながら引き摺られてくる夢子を見て神綺は目を丸くした。

 

「どうだった?」

 

「成功したよ。結構大変だねこれ」

 

「慣れれば楽なんだけどな・・」

 

 答えながら全はてゐを式神から解放する。

 

「そっちは?」

 

「おまけで合格って所。向こうが本気出してたらヤバかったかも」

 

「情けないなあ」

 

「お前も俺の能力なかったらやられてただろ」

 

 やれやれと肩を竦めるてゐの頭を軽く小突きながら全は溜息を吐く。

 

「そんなことよりお宝だよ、お宝!」

 

「ああ、そうだったな」

 

 二人は気絶している夢子を撫でている神綺に声を掛ける。

 

「う~ん、まあ、少しくらいなら。たくさんだと後で夢子ちゃんに怒られちゃうもの」

 

 困った表情の神綺はそう言って二人を自らの家へと招く。ボロボロの全は行動に支障がない程度に怪我を治すとてゐと共にその後に続いた。

 

 ◆

 

「いやあ、収穫があって良かった」

 

「本当にね」

 

 竹林に建てられた屋敷の中ふたりは言葉を交わす。彼らが魔界から帰り二日。全の手元には宝の代わりに鉄等の鉱石が置いてあった。

 

「喜んでもらえたなら良かったわ」

 

 そして何故か微笑みながら居座っている神綺。つい先日会ったかと思えば再び山の中にいた所を二人が発見したのだ。

 

「夢子の嬢ちゃんは?」

 

「大丈夫よ。あの子はしっかりしてるから」

 

 相変わらずのほほんとした様子の神綺。全は苦労しているのだろうなと此処にはいない夢子に合掌する。

 

「神綺ちゃんも暇人か」

 

「そういえば全って私にちゃんとか付けないよね」

 

「お前にちゃん付けとか俺の腹が捻じ切れるわ」

 

「外見的に私の方が合うでしょう」

 

「内面考えろ」

 

 その言葉にてゐは全の膝を蹴りながら訴える。神綺はその様子を微笑みながら眺めていた。

 

「此処に来るのは暇人ばかりだな。働け」

 

「アンタが一番働かないで遊んでる気がする」

 

「俺は明日から本気出すタイプだから」

 

「それって結局やらない人じゃあ」

 

「こんなのに付き合ってたら疲れるから止めた方が良いよ」

 

 てゐは神綺にそう言うと外にいる兎達を引き連れて筍を取りに行く。

 

「それじゃあ、私もそろそろ戻らないと。夢子ちゃんに怒られちゃうもの」

 

「む、神綺ちゃんもか。気を付けて帰れよ?あの山妖怪もいるし」

 

「ええ、それじゃあ」

 

 手を振って山へと帰る神綺。それに手を振り返しながら全は横になった。

 

「……そろそろ俺も此処出ようかなあ」

 

 呟きながら畳の上をごろごろと転がる全。ごちゃごちゃに混ざっている思考の中只ごろごろと転がり続けている。

ある意味こうして何も考えずにいられるのは一種の幸せなのでは?等と考えながら全は突然上体を起こす。

 

「……そう言えば浅間の所に行かねえと」

 

 今迄忘れていた目的を思い出し全は漸く身体を起こす。

 

「よし、忘れない内に準備しよう」

 

 鼻歌を歌いながら全はふらふらと屋敷の奥へと歩いて行く。誰もいなくなった居間の片隅には新品の鶴嘴が忘れ去られ寂しそうに鈍く輝いていた。

 

 

 

 鶴嘴は後日全にきちんと見つけられました。

 

 

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