――何故この業運がリアルガチャで出ないのか。
人理継続保障期間“フィニス=カルデア”。
本来は相容れない筈の「科学」と「魔術」が、(『人類皆兄弟』という建前で以て、『アイツらには負けたくない』という本音を包みつつ)手を組んで人類の歴史を過去・現在・未来に渡って観測することで、人類の存在を証明する。「地球、若しくは世界を観測の対象とした天文台」と喩えれば良いだろうか。
しかし、カルデアは現在その通常任務を休止させ、緊急任務に就いている。
何者かによって強行された“人理焼却”によって、世界はカルデアを残して完全に消滅。歴史を人間の手に取り戻すため、偶然にも生き残った十数名のスタッフと、奇跡的に英霊と融合した“デミ・サーヴァント”、只の数合わせで招集されていた一般人“人類最後のマスター”は、7つの時代の転換点――通称“特異点”を巡る旅に出る。
・・・
秘匿技術の塊であるカルデア研究区画の中でも、とりわけ最重要機密として扱われる部屋が複数ある。その一つである「英霊召喚場」の三重ロックを、臨時所長となったロマニ・アーキマンはあっさりと解除した。
「時間も人手も物資も足りないというか、そもそも無いんだ。機密とか秘匿とか、なりふり構っている場合じゃないからね」
「でも、正直意外です。あのヘタレが代名詞だったドクターがこうもアッサリと――」
「――うん、僕も自覚あるからそれ以上は勘弁して・・・・・」
「あはは・・・・・。ええとドクター、この部屋って冬木で作ったサークルと同じ?」
「ああ、そうだよ立香くん。丁度この部屋が霊脈の真上だから、同じようにマシュの楯を設置すれば完成さ」
「では早速、ーー召還サークル起動します、先輩」
カルデアの白衣姿のマシュが、デミ・サーヴァントの能力を限定解放し、自身の(元は名も知らぬ英雄の)楯を機械に据え置く。数秒ほどで、魔力の粒子が沸き立ち、現世と“英霊の座”を繋ぐ門の魔術式が展開された。
展開に異常が無いと確認したカルデアの技術部顧問、レオナルド・ダ・ヴィンチちゃんは、早速“人類最後のマスター”とならざるを得なかった少女、藤丸立香をサークルへ導く。
「さて、のんびりしても居られないし、早速召還といこうか。只まあ、今のカルデアには碌に触媒も無いから、一人目は当てずっぽうになるけどね~」
ハイ呼符。と、ダ・ヴィンチちゃんはサーヴァント召還の詠唱と魔力を圧縮した魔術符――金色の“呼符”を立香の手に押しつける。投げ遣りなチュートリアルに狼狽える少女を見かねて、ロマンが助け船を寄越す。
「始めの一人――いや、マシュが居るから二人目だけど、今はどんな人物でも良いから人手が欲しいね。寧ろ厳しい状況だからこそ、『強い英雄』より『一緒にいてくれる』人をイメージして呼べば良いんじゃないかな?」
「はいっ、ドクター!」
意は決した。ならば無心で呼び掛けるのみ。
優しく放たれた呼符が楯の上で魔力に溶けて、抑止の輪より護り手を召還する――
「サーヴァント、セイバー。召還に応じ参上した。問おう、貴女が私のま、すた・・・・・あー」
「あっ(歓喜)」←立香
「あっ(警戒)」←マシュ
「あっ(驚愕)」←ロマン
「あっ(愉悦)」←ダ・ヴィンチちゃん
ーーするのだが、今回ばかりは間が悪すぎた。
・・・
「そ、その節は誠に申し訳ございませんでしたぁ!」
金髪美少女(王)による美事なまでの五体投地。「ゴウランガ!!」の幻聴でも聞こえそうなものだが、生憎この場にはニンジャもサムライも居ない。
「わわぁ! 顔を上げてくださいって、折角来て下さったのに怒ってなんていないですから!?」
「しかしこのままではケジメが・・・・・斯くなる上は、自害してもう一度アヴァロンからのダイレクト召還を――」
「だめええぇぇ!? マシュも押さえるの手伝って!」
「は、ハイ先輩!」
今度は聖剣を取り出して切腹の構えである。……この王様、日本文化に詳しすぎではなかろうか。
~~しばらくお待ちください~~
「……重ね重ね、失礼致しました」
「違う意味で心臓に悪いよもぅ……」
「『魔力放出』で何度も吹き飛ばされました、さすがは最優のセイバーです……」
ようやく「狂化(E--)」から快復した剣士は、世界を背負ったマスターに向き直る。
「改めて挨拶をーーサーヴァント“セイバー”、アルトリア・ペンドラゴン。この時より、私が貴女の剣です。以前は敵となった非礼を、三倍にして返上しましょう」
「うん! ヨロシクねセイバー」
「よ、よーし。何だかぐだぐだしたけど、ともあれ一人目からアーサー王を呼べたのは幸先が良いぞぅ。この調子で二人目も呼んでみよう!」
「じゃあ、コレだね!」
元気よくマスターが取り出したカードは、先程アルトリアを召還した呼符とは異なるものだった。
「マスター、それは?」
「えっへっへ。キャスターの兄貴がくれた『クラスカード』!」
呼符の裏側を見れば、“キャスター”のクラスを示す老魔術師のセイントグラフが描かれている。確かにこの呼符を用いれば、キャスターのみを狙って召喚できそうだ。
「しっかし凄いね兄貴、消えるまでの十秒ちょっとでこの呼符作っちゃうのだもん」
「自身の存在が曖昧になったことを逆用して、『クー・フーリン』の霊基を削り『無色の魔術師』として加工する……見事な手際でした」
「やはり、ケルトの大英雄は伊達ではありませんか。私はキャスターとしての彼は初見でしたが、あれだけのルーン魔術ならば、これからもきっとマスターの助けに――」
「――あー、それがさ……」
『いいか? 餞別でこいつはくれてやるが、その呼符で俺を呼ぶんじゃねえぞ。俺の本領はランサーだからな! 判ったか、絶対だぞ! フリじゃな――(消滅)』
「って言ってたから、多分キャスターじゃあ来ないと思うの。少なくとも昨日の今日じゃ絶対」
「ランサー、面倒見が良すぎるのも考え物ですね……」
「と・は・い・え、今回ばかりはその気遣いが有り難い。シールダーにセイバーだから、ここは後方支援型のキャスターでバランスを整えたいからね」
「よーし、キャスター出て来いやぁ!」
『先輩(マスター)、女の子がしていい発言ではありません』
野蛮な叫びとは裏腹に優しく投入された術呼符は、2,3回バチバチとスパークした後、人型を作り出す。
「あれ?」
「えっ?」
「おや?」
その人型を真っ先に目視した三人娘が発するのは――疑問と困惑。
何故ならそのサーヴァントは、
「よっし、召喚成功!」
淡いベージュのスラックスに、濃い青のジャケット、
「僕は……うん、キャスターのサーヴァントだ」
黒いマフラーを緩く棚引かせる、
「真名、坂井悠二」
現代日本人の少年にしか見えなかったからだ。
「人理救済、僕も協力するよ。マスター」
・・・
何も見えない、何も聞こえない、何も触れない、何も嗅げない、何も味わえない。
何も、何も、何も、感じない。
だれもいない、ナニモナイ。
「全く、探したぞ」
――ごめんね、今は何時だい?
いいや。“彼”がいる、“僕”がいる。だったら“彼女”も、どこかに……。
「……西暦2015年、だった時代です」
――何があったの?
「“人間の歴史”そのものが焼失した。僅かな“歪み”だけを残して、世界そのものが『なかったこと』にされた」
――いったい誰がそんなことを?
「未だ解明には至っていないが、これだけの茶番をやってのける力と思考の持ちは、まあ自ずと限られるさ」
――僕には、何ができるかな?
「それは、お前自身で決めることだ。だが――」
――?
『お前が如何なる選択をしようとも、我々はお前の欲望を尊重する』
――っ、ありがとう。……“歪み”への対処法は?
「“歪み――いやさ、特異点”に直接干渉することは、焼却された我々では難しい。しかし、異変発生する直前の段階で、特異点調査の準備を進めていた研究施設がある」
――その場所は?
「人理継続保障期間“フィニス=カルデア”。当然ながら、此処も犯行者の襲撃を受けて壊滅状態ですが、唯一生存した“マスター”が、歴史上の英雄である“サーヴァント”を連れて、特異点の一つを正常化させたようです」
――カルデア。サーヴァント……よし。
「俺達は世界の外側だからな、こうして見送るぐらいしかできんが……」
――十分だよ、行ってきます。
「では、な――」
――ああ、
『因果の交差路でまた逢おう』
・・・
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 見た目の年齢はともかくとして、現代人だろう? 依り代を代行する擬似サーヴァントならまだしも、神秘の廃れた現代の人間が英霊にまで上り詰めるなんてことが、本当に有り得るのか!?」
「……不可能ではありません、Dr.ロマン」
「アルトリア?」
至極当然のロマンの困惑に反論したのは、意外にも召喚されたばかりのアルトリアだった。『坂井悠二』と名乗った謎のキャスターは、静かに佇み拝聴の姿勢である。
「元来“英霊”とは、こうして死後の未来に召喚されるように、時間の概念は取り払われています。それ故、過去の英霊に比べれば少ないですが、『未来の英霊が過去の聖杯戦争に召喚される』というケースも存在します」
「へえ、それは興味深い……」
「――というか、特異点Fのアーチャーがソレです。プライバシーの保護として、私の口から真名は明かしませんが」
「えっそうなの!?」
解決したこととはいえ、戦略レベルの情報をあっさり暴露するセイバー。
――ックシ! ……猛犬殿が噂でもしてるか?
これには錬鉄の英雄も苦笑い。
「しかしキャスター、アナタには別に伝えるべきことがあるのではないですか?」
「そりゃあ、信頼してもらうためには誠意を尽くすけど、僕自身もどこからどこまで言っていいものやら……」
「では私からは一つ。
――英霊の座に存在しない貴様は何者だ?」
『!?』
緩んでいた空気が一気に凍り付く。そもそも人理焼却を実行したレフ達は「カルデアをわざと見逃す」という主旨の発言を残しており、いつ態度を翻してカルデアに攻め込んできてもおかしくないのだ。その様な厳戒態勢の中に“正規ルートではない来訪者”が訪れたところで、歓迎されることは無い。
そんな警戒心は予測していたのだろう。不可視の剣を突き付けられても、自称サーヴァントは冷静に口火を切る。
「予想通り、僕は英霊じゃない。そもそも、この世界の人間ではない可能性が高い」
「えええぇぇ!?」
「なんとっ!」
「それは、平行世界といったものでしょうか。しかし――」
「――いいや、『ifの世界』というのは実在するよ」
「そうなのですか、Dr.?」
先程アルトリアに解説を任せてしまったDr.ロマンが、今度こそ我が意を得たりと断言する。
「二人には解説していなかったけど、現存していた“魔法使い”の一人は『平行世界の運営』という能力を持っていた。彼が存在することによって、魔術師達は平行世界の存在を、見たことは無くとも認識していたんだよ」
それこそ、カルデアスを観測して人理を保障するカルデアみたいにね。と結び、ロマンは少年に対する視線を和らげる。
「そもそも、このカルデアの英霊召還システム“フェイト”は安全第一で造ってある。反英霊とかも召還しちゃうけど、世界を滅ぼそうとする極悪人はそもそも弾くようにしてあるよ」
「加えて、こうして我々と会話しようとする時点で敵ではないのでしょう。――先程はマスターの安全から詰問しましたが、カルデアを攻めに来たのであれば相応の能力・戦力を持ち込んできている筈であり、サーヴァント二騎でこうも膠着するのは不自然です」
「……疑われている立場から言うのもおかしいけれど、もう少し他人を疑っても罰は当たらないと思うよ?」
「――三者、意見が出そろいました。如何しますか、先輩」
「うぇ! あたし?」
今の今まで騎士と青年の気迫に呑まれていた一般人は、後輩からの視線で我を取り戻す。
「ええ、マスター。これから先、貴女が現場指揮官です。選択の一つ一つに、相応の責任が伴うことは免れません」
「勿論、その責任はカルデア全員で背負うものだ。立香くん一人に押しつけるなんて絶対しないよ」
「大丈夫だよ藤丸さん。喩え誰もが認めなくても、貴女がやるべきだと決めたならば、僕は全力で肯定するから」
「私だって、先輩の決断なら喜んで尊重出来ます!」
最早疑惑云々を無視してマスター訓練の様相だが、ダ・ヴィンチちゃんはとても面白いので黙っている。
「ふんぬぅぅううぅぅ!?」
『待って、女の子がしちゃいけいない顔してる!?』
鬼の形相もかくやの苦悶を顔に表す(その場の全員からドン引きされている)マスターは、しかし程なくして妙案を思いつく。
「そうだ! こういう時こそ令呪だよ。――『令呪を以て命じる。坂井悠二、己の潔白を証明せよ!』」
「――委細承知、大正解だよマスター」
今まで穏やかな顔を崩さなかったキャスターに、別種の笑顔が灯る。それは、艱難辛苦に真正面から挑みかかる、燃え立つような喜悦の色。
踵を返して再び召喚サークルに陣取った彼は、静かに跪きマシュの盾に手を翳す。
「“
術式では、あり得ない。それは、世界へと呼びかける祝詞。
「此方の楯を旗印に、彼方からの他神通あれ――」
呼び声の主の身体は、炎に包まれている。世界を塗り潰す、輝かない黒の色。
「
そして自在師は更に欲を張る。この先、自分以上の艱難辛苦を負うであろう少女に、僅かでも安らぎと力を与えるために。
「此処が
呼ばれた。頼られた。ならば集おう。応えよう。
――助けよう。と、焼却された世界の空白から声が届く。
「ええ。どうか貴女の旅路に、主の御加護があらんことを……。私も、直に馳せ参じますので!」
「良いぞ! 存分に駆け抜けよ。余と
「ハッハァ! そりゃあデカい大冒険じゃないかい。どれ、アタシも一枚噛ませておくれよ」
「随分と逆境だなぁ、反逆したいのなら剣を貸して――げぇ父上ぇ!?」
「誰も居ない世界など……治癒の歓びも、別れの悼みも在りません。どうか、救済を――」
「案ずることはありません。貴女なら大丈夫、我等が王も往くのですから、どうぞ迷わずに」
「先ずは立ち上がるがよい、雑種。貴様が人理修復に値する勇士か否か、その旅路を以て見極めるものとする!」
だから――
『どうか、進んで。その歩みを止めないで……』
今は
サーヴァントなどという枷に縛られない、英霊達からの約束であった。
「――判るかい? 藤丸さんは“唯一のマスター”だけど“孤独”ではない。喩え召還されなくても、喩え敵として立ちはだかっても、英雄達は君達を見守っているのだから。今は魔力と時間が足りないからこれが精一杯だけど……どうやら、信用は勝ち取れたみたいだね」
「うん。……ありがとう、悠二君。これから宜しくね」
「――先輩、ハンカチをどうぞ」
「うわあぁぁんんマシュウウウゥゥ!!」
努めて明るく振る舞っていても、やはり辛かったのは事実だったのであろう。既に限界だった立香の涙腺は、後輩からの暖かい気遣いで容易く決壊した。
感極まって後輩に抱きつく先輩と、その先輩からの愛情にフリーズした後輩を横目に、騎士王は一仕事終えた顔の少年に声を掛ける。
「先程は失礼しました。貴方に敵意が無いことは察していましたが、マスターが同席している以上、無警戒で迎える訳にはいきませんでした」
「判ってるよ、自分でも怪しさ満点だと思ってたから、寧ろセイバーの姿勢は一発で信用できる」
「それはなにより。――それと、これからは真名で呼びましょう。これはサーヴァントが競い合う“聖杯戦争”ではありません。我々は仲間――同士なのですから、信頼と信用は築くべきでしょう」
「ご尤も。――宜しく、アルトリアさん」
「ええ、ユウジ。共に勝利を、我等がマスターに」
二人の騎士が強く握手を交わしている5m隣では、
「ましゅぅぅぅぅぅ! みんなぁぁぁぁぁ!! わたしがんばるからああああ!!!」
「せんぱい、せ゛ん゛は゛あ゛い゛!」
先輩と後輩が貰い泣きの悪循環に陥っていた。
・・・
「よし、歓迎会しよう! マシュ、食糧庫へゴー!」
「は、ハイ!? マシュ・キリエライト、吶喊します!」
「マスター!? ユウジは兎も角、私はサーヴァントですから食事は不要――あっでもお握りは一個食べたいです!」
号泣から復活した立香は、両手に花を引き連れ居住区へと突撃していく。その後に、状況処理が追いつかず胃が軋み始めたロマンと、困難を自覚しつつも挑戦することに愉しみを感じつつあるダ・ヴィンチちゃんが続く。
悠二も苦笑いで追い掛けようとして――
――自在法の発動を察知して召還サークルを振り返った。
「よし、先輩のルート逆算が完了した。運次第だが、これで俺達も参入できる」
「グッジョブ! 只見ているだけなんてもどかしいからな、仲間全員揃ってこその攻略だ」
「流石に、コレは不幸とか言ってられないよな……手段があるなら迷うな、そうだろ先輩!」
それは、悠二が駄目元で使ったもう一つの通信式。自分と同じ、異世界の勇士へ届けた号令への返答だった。
「――大丈夫。貴方ならきっと出来る」
「!?」
「うむ。幸い、道筋は一つでは無いようだ。“歪み”を追えば、自ずと因果は重なるであろう」
「――ああ、そうだね」
「……悠二、マスター」
「……シャナ、皆」
『因果の交差路でまた逢おう』
【マテリアル(簡易版)】
※小出しにして、全部出揃ったら単発で投稿します。
キャスター(擬似英霊)
[プロフィール]
真名 :坂井悠二
性別 :男性
出典 :『灼眼のシャナ』
地域 :日本(世界中での活動歴有り)
属性 :秩序・中庸・人
色 :黒地に銀
特技 :危機に比例して冷静になる
好き :鰤料理、チョコレート、カツ丼、メロンパン
誠実な対応、素直な欲求、蛇
嫌い :セロリ、マシュマロ、マヨネーズのマスコット
無感情の正論
天敵 :結構多い(本人談)
最近の悩み:『後輩達』に比べて、どうしても地味
CV :日野聡 or 森田成一