七夕転生物語。   作:すぴか。

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書き出しって難しい。


日常。

 

 

6月30日。

 

鬱陶しい梅雨もようやく終わり、そろそろ本格的に暑くなってくる頃。後1週間か2週間程くらい経てばセミの声が聞こえてくる時期。

 …のはずだが、今年はそんな去年までとはまるで事情が違った。最近騒がれてる温暖化とかのせいかセミ達はもう既にそこら中で鳴き喚いているし、今日の気温は32度、真夏日並の気温だ。

約1ヶ月前倒しの真夏日の中、俺は今何をしているかと言うと…1人寂しく軍手をはめて運動場の端っこに屈んでいた。

「なんで俺は…こんなことを…」

日曜日の午前中にも関わらず雑草を握り、引き抜き、ゴミ袋の中に放り込む俺。この作業を休み無しではや2時間。目の前に茂る大量の雑草。終わりの見えない草との戦いに加え日光による空からの追撃。…もうだめだ、容赦ない双勇の前に俺は遂に地面に背をつき、空を仰いだ。

 「あーもう無理だこれ…こんなことだと分かっていれば清掃委員なんて…」

過去の自分の選択を幾度となく後悔する。もしタイムマシンがあるなら掃除するだけで楽そうとかいう理由で清掃委員を選んだ未来を今すぐ変えに行くだろう。そしてもっと楽な委員に…

「おい、大丈夫か?」

突然俺の顔に陰が差す。同時に聞き慣れた声が上から降ってきた。

「あ、先生…もう終わっていっすか…てかなんで俺1人なんですか」

声の主は50代の禿げたおっさ…ではなく、我が清掃委員の顧問。俺を1人で無限草むしりの刑に処した恐ろしい人物だ。

「お前先週サボってたんだろ、当然の報いだ」

「いやサボってないですよ、ちゃんと正当な理由で連絡したじゃないすか…!」

「じゃあ、なんで休んだかここでもう1度説明して貰おうか」

顧問のその言葉に、俺は暫し固まる。嘘を吐いてありきたりな言い訳で通すのも良かったが…およそ10秒の時を経て、俺はありのままを話すことに決めた。

「実は…妹の飼っているカマキリが逝ってしまわれて…その葬式をいだだ」

顧問は無言で俺の髪を引っ張り持ち上げ始めた。なんて力だ。

「そうかそれは大変だったな、お前も逝くか?」

「いやいや問題発言ですよそれ!?いたいいたい!体罰反対!」

「ま、冗談だけどな」

顧問の手から解放された。俺の体が一瞬中に浮き、そのままあえなく雑草の海へと墜落する。

「いった…ひどいですよ…慰謝料請求も辞さない…」

腰を擦りながらやんわりと顧問に抗議してみるも顧問はそれを当然のようにガン無視し、俺に視線を合わせる代わりに腕時計に目をやった。

「あー…まぁもう昼だしな、もう終わっていいぞ。ほら、こいつは慰謝料だ」

と思ったら無視されてはなかった。ポイッと唐突に投げられたそれを慌ててキャッチする。手にひんやり冷たい感覚が伝わった。…アポカリプス、誰もが知っている至極有名なスポーツドリンクだ。

「助かった…頂きます」

強制労働の末に死にかけた喉を癒す恵の雨を一気に飲み干す。500ml入りのアポカリプスは瞬く間に俺に飲み込まれていく。

「よーしじゃあ帰っていいぞ、来週はもうサボんなよ」

「よっしゃ、お疲れ様でしたー」

ようやく終わった…。今日は帰ってすぐ独りで映画を見に行く予定だ。独りで。独りの理由は聞かないで欲しい。ともかく俺は急いで高校から脱出しようと…。

「あ、待て」

まさに校門を潜ろうとしたその時、顧問が後ろから俺を呼び止めてきた。

「なんですか?やっぱりもう1時間やれとか言い出したらここで干からびますよ俺」

「干からびられてもいいが後始末に困るから言わない、ほら受け取れ」

言われるがまま、渡された長方形の紙切れを受け取る。見ると黄色い薄っぺらい紙だ。

「は?…なんすかこれ」

「何ってお前普通分かるだろ?」

そんなことも分かんねぇのかと言わんばかりの呆れた表情にイラッとする。

「ほら、今日って何日だ」

「今日…確か6月の30でしたっけ?それとこの紙となんの関係が?」

クソハゲ…顧問は大きなため息をついた。

「…七夕って知ってるか?」

「あぁ、7月7日のあれ…ってことはこの紙って」

紙の正体とその目的をようやく理解した俺を見て顧問はニッと妙な笑みを浮かべた。

「そうだ、それは正に短冊だ。そいつに願いを書いて笹にかけると誰でももれなく願いが叶うらしいぞ」

「それぐらい知ってますよ。…ってかなんで今このタイミングで渡したんです?」

俺は今すぐ帰って独り映画を興じたいんだ。それなのにこのハゲは何故今渡した。何故今なんだ。俺の中で不快な感情が沸き上がる。

「清掃委員の皆には先週渡したんだ、その時お前来てなかったからな」

なら帰り際ではなく来た時に渡してくれればいいじゃないか。そう言いたかったが時間の無駄を悟り、短冊という名目の薄い紙を黙ってポケットへしまった。

「…ありがとうございます、それじゃ」 

一応形だけのお礼をして、高校を出た。

 

 

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