「ん⋯⋯っ」
あれから何時間経ったんだろうか。心地よい暖かな風が吹き、ザァ⋯と草がたなびく音で、目を覚ました。ぽかぽかした日差しが俺の体を包み込み、覚めそうな意識を再び眠りの世界へ引き込もうとする。。
「うーん⋯どこだここ⋯?というか自分何して⋯?」
目を擦り、視界をはっきりさせる。目の前には自分の顎辺りまで伸びる長い草が一面に広がっている。後ろにはやけに大きな湖がある。俺のいる場所は、まさに平和そのものだ。
こんな場所に見覚えは無い。どうして自分がここにいるのか。どう思い出そうとしても分からない。数日前分の記憶、そこだけ穴が空いたようにぽっかりと俺の記憶から抜け落ちていた。
⋯何もかも状況を把握出来てない。
それより⋯喉が渇いた。
取り敢えず湖に行こうと足を動かした途端、何かを蹴飛ばした感覚がした。足元に目をやると青色の木の実のようなものが数個転がっている。
「これ、食えるのか⋯?」
あまり美味そうに見えない見た目。だが食えなくもなさそうだ。食べるべきか、食べざるべきか。
(⋯罠かもしれない)
直感的にそう感じた。全く知らない場所で目を覚まして、そのすぐ傍に食べ物がある。この状況下においては何らかの罠がある可能性が高いだろう。
その前にまず水だ。木の実を取り敢えず放置して、湖の方へと歩く。歩く、と言っても20m程度の距離だ。まずは喉を潤して、それから考えよう。
(やっぱり⋯知らない場所だな)
湖の他にはただ草原が続き、家らしきものは1つも無い。こんな場所で目を覚ましたら普通はパニックになりそうなものだが⋯どうしてだろう、とても心地いい。初めからここで生まれ育ったような安心感すら覚える。
そんな感じで特に障害もなく、湖へ辿り着いた。
「さて、飲むか⋯ん?」
湖の水を飲もうと身を乗り出す。その時、水面になにかの姿が写った。
「⋯え?」
水面に写ったもの、それは茶色くてもふもふした狐のような動物。俺が驚くと、水面のそれも同じように驚いた表情をした。
「⋯⋯」
無言で手を見る。手⋯というより前足となったそれには小さな肉球が付いていて、腕は茶色い毛で覆われていた。水面のそれと同じように。再び水面に姿を移す。確かにそこには動物が、それも現実には存在しない液晶越しでのみ存在する架空の生き物が。
俺は、イーブイになっていた。
⋯声が出ない。人間というのは本当に驚くと何も言えなくなるのか⋯最も、今は人間では無いが。
「有り得ないだろこれ⋯夢だよな?」
夢だ。夢以外説明がつかない。きっとこの湖も草原も偽物だろう。夢ではないことを確かめる事は出来ないが、夢である事を確かめることなら出来る。
俺は数歩後退りをし、助走距離を取る。
「よし⋯やぁっ!」
俺は後ろ足に力を入れ、湖に向かって全速力で走った。足が水につくギリギリで前方へジャンプする。重力の影響を受け、大きな水音を立てて勢いよく水へと飛び込んだ。
夢なら水中でも息が出来るはず。そう信じて勢いよく息を吸った。
「がは⋯っ!?」
そんな俺の予想を裏切り⋯大量の水が口の中へと入ってきた。息が吸えると思っていた俺はまともに水を飲み込んでしまう。この苦しみは子供の頃プールで溺れた時に体験したのと同じだ。
(間違いない、これは⋯夢なんかじゃ⋯!)
なんとか水面へ出ようと思った時にはもう遅かった。
元々水泳はあまり得意でなかったからだ。ひたすらもがくが一向に水面に辿り着けない。
(⋯⋯)
あ、これ死ぬやつだ。
そう察しながら意識が朦朧となったその時、突然水音が響き、俺の体に何かが巻きついた。
なんだこれ、そう思ったところで意識が途絶えた。