Fate/Grand Order 唯就職したかったんです。 作:B-in
かなり削ったけど中途半端です。
堅い椅子に長時間座っていた影響か、体中から骨が鳴る音が聞こえる。
飛行機を降り、荷物を受けとり、ロビーを出ると、まだまだ冷たい風がピュウと吹いた。
「うぅ、寒い…えっと、迎えの人は…っと」
そう、声に出し辺りを見回そうとした瞬間に声を掛けられ、反射的に飛び引いてしまった。
「藤丸立夏だな」
スーツ姿の男が真後ろに立っていた。あれ?私飛び引いたよね?
「往くぞ。時間が無い。」
掴まれた腕を引っ張られ、止まっていたタクシーに放りこまれる。声を出す暇も無かった。寧ろ、声を出したら殺されると思った。一抹の希望を込めて運転手を見ると、細長いグラサンに金髪の兄ちゃんが笑って言った。
「行き先は?」
「変わらん。」
「障害は?」
「無理なら車を捨てるだけだ」
「ヒュー、昔から変わんないな。アン時を思い出すよ」
何だか、私は置いてけぼりで映画みたいな掛け合いが?!
「それじゃ、舌噛むなよ!!」
急に加速した車、乗っていた私は背凭れに身体を押し付けられる感覚に気持ちが悪く成る。
「あ、あの」
ヤバい、怖い。威圧感が凄い。イライラしてるのが手に取る様に分かる。
私の声に反応してくれたのか、私の隣に座る男は溜息を吐きながら声を出した。
「すまないな、君をあのままにして置いたらカルデアには辿り着けなくなってしまうのでね」
え?
「さぁ、混乱している君にも直ぐ分る様に今の状況を説明しよう。アイスソード」
「殺してでも奪い取る。分かりました。つまりは裏切りが在って狙われていると」
この人、愉快な人だ。
「年代からは外れていると思ったんだけど?」
「いやいや、今時の子なら分かりませんけど。私、ゲーム好きだし、テンプレも有りますから。」
「おーい、俺は分からないんですけどー」
金髪の兄ちゃんが楽しげに言い返して来るが、視線は前に固定されている。と言うか、スピードが洒落に成らないんですけど!!
「安心しろ、そいつはハリー、元CIAな上に代行者だ。身体能力もだが、運転技術等もずば抜けてる死にぞこないだ。」
「CIA?! 代行者?」
前者は分かるけど、後者は何? 何だか左の脇腹がぎゅんぎゅんするんですけど?
「時間は?」
「三十分でポイントAだ。其処からは…」
「全力だな。荷物は頼むぞ?」
「OKOK」
「さて、緊急事態だ。類稀なる素質のマスター候補君。世界の終わりが確認された。人の積み重ねてきた歴史が無に帰された。待つのは誰もが認識できない消滅だ。」
「は、え?」
いやいやいや、えっと・・・え?
「君に残されたのは抗わずに誰かが解決してくれる事を待つか…抗って、序に世界を救ってしまうかだ。どっちが良いかな?」
「で、出来れば・・・」
お、女は度胸!!
「世界を救う序にやらかした奴をはたきたいです。はい。」
こうなりゃ自棄だ!! 往く所まで往ってやる!!
私の就職先は一体どうなってるんだ!!
Side out
Side 器港雷堂
昔馴染みの腐れ縁の迎えに同僚(予定)の確保。その後に足止めの罠を食い破ってカルデアに到着してみれば爆発音。
「こりゃぁ、(他のマスター達は)ダメかも知れんね」
フフフ、地獄を潜りぬけた先は地獄でした。
カルデアに着いても個人照会に時間が掛かったのが痛い。ロマニの野郎、新人の登録と照会で何で模擬戦させるんだよ。畜生が…
「おい、ライドウ。お嬢ちゃんが放心してるけど良いのか?」
「構わん、歩いて着いて来れてる。死にはしない。寧ろ、これからの方が死ぬ確率が高くなる。」
まぁ、来る途中であんな事が有ったのだ。放心もするだろう。
「ハリー」
「ん? あぁ、アトラス院のお嬢ちゃんなら大丈夫だ。部屋も確保してるって連絡は貰ってる。アンタの息の掛かってる人間のホウレンソウは確かだよ。こっちに鞍替えして正解だったさ。」
じゃなきゃ、死んでる。
その呟きは聞かなかった事にして、管制室に向かう。慌ただしく成っている局員達の中には顔見知りが多く、人の姿を確認した瞬間にはその動きを止めていた。
その中の一人に声を掛ける。
「状況は」
「え、あ、レイシフトの直前に中央発電所・管制室で火災発生!! 中央区画は30秒前に閉鎖されました!!尚、中央管制室の火災は爆発物が使用された模様!!」
「予備電源は?」
「Drロマニが手動で切り替えに成功。カルデアスの無事は確認していますが…」
「コフィンに入ってる連中の生命維持を優先。命だけは失わせるな、身体の欠損は後からどうとでも成る。」
「しかし!! 」
「既に俺も部外者ではない!!今現在、俺とロマニ以外に指示を出せるだけカルデアスを把握している人間が居ると思うのか!!」
「い、いません!! ですが…」
「後からちゃちゃ入れてくる奴は黙らせる!!」
「分かりました。」
「俺は管制室に行く。ハリー、他の奴らと協力しろ。既に此処以外は無いだろうよ」
「はいはい、これからは雑用係として頑張りますよ」
はぁ・・・気が重いってレベルじゃないんだけど。
管制室に向かう足取りは重いが、後ろから無言で着いて来る少女は未だに放心している。恐らくだが、神秘に当てられたのだろう。
カシュっと空気が抜けるような音と共に管制室の扉が開く。
「あっ、くそ!! 電源が!! マシュ!!立香君!!」
「はい」
「え?」
「お前じゃ無い。ロマニ、急患だ、軽く見てやれ、最後のマスター候補だ。」
「ライドウ?!遅いよ!!何してたんだ!!」
五月蠅い、こちとら不眠不休だぞコラ
「状況は把握した。こっちは俺が、一時的に預かる。お前は言った通りにしてから戻って来い。」
「わ、分かった。あ、マシュは成功したようだよ。向こうに居るマスター候補も誠実で真面目な元一般人だ」
「そうか、ソレは何よりだ。」
誘導しやすい。ロマニは藤丸立夏に声を掛け、医務室に向かった。
「さて、各員状況報告!!」
声を張り上げ、顔を上げる。慌ただしく報告して来る知ったと、知らない顔を確認しながら、痛く成る頭を抱え込まない様に目の前の問題に対応する事にした。
Side out
Side 藤丸立香
燃え盛る町の中、どうしてこうなったのだろうと思ってしまう。こう、考えられるのは周りが廃墟だからなんだろう。此処には人が暮らしていたと言う気配が驚くほどに無い。
嘗ては人で賑わっていただろう町はただただ、瓦礫と焔に包まれている。
「先輩、先輩!!」
「あ、ごめんマシュ。ちょっと考え事してた。」
「いえ、大丈夫ならそれで良いのですが…どうしましょうか?」
「どうしようか?」
目下の問題は
「なんでどうして来ちゃってるのよ?大体から来るなら二日後の筈でしょ?いや、来て欲しく無かった訳じゃないけど来たら来たで国家間での問題があるし、あああああでもこんな状況じゃアイツが居た方が協会にも教会にも顔が聞く上に問題解決の糸口に成るしどうしたら良いのよもーーーーーーー!!」
荒ぶる所長をどうしたモノかと言う事だ。
そもそもの問題は、マシュのマスターに僕が成った事なんだろうけど・・・元々がプライドの高い人だし、そんな中で居るのが元一般人のペーペー魔術師兼マスターの僕一人と言うのがいけないのだと思う。
だが待って欲しい。僕は知識も技量も半人前ぐらいだが、その両方を持ってる所長が居る事は現状救いに成るのでは? と考え、レイシフトする直前にDrが言って居た最高戦力なる人物が来たと言う、僕が知る限りの吉報らしき情報を伝えただけなのだ。
「余計な事を言っちゃったかな?」
「いえ、戦力の把握は所長の義務だと思います。今この場に居る人間でも一番階級の高い人ですし」
「そうよ!! 私が一番偉いの!! カルデアの責任者なの!!でも、アイツは在る意味でそれ以上なのよ!!いやーーー!! 死にたくなぁーい!! 死にたくなぁーい!!アイツ率いるキチガイ集団何て敵にしたくないのよ――――!!!」
所長がキレッキレだ!!
「此処まで取り乱した所長を見るの…初めてです」
「あ、此処までじゃ無い事は結構在るんだ?」
「はい、普段はDrか、レフ教授が居ますので…」
あのDrって結構重要だったんだ。サボリ魔かと思ってたよ。と、言うか。マシュ、僕の心を読めるの?
「あ、いえ。不完全な念話の様です。恐らくですが、先輩の表層意識で考えている事等が流れて来ているのかと」
「パスは繋がっている様ね!! 藤丸!! シャンとしなさい!! 魔力を絞って、回路は全部起動させない!!」
「は、はい。」
意識を落ちつけ、集中する。
「あ、聞こえなくなりました。成功です、先輩。」
「ありがとうございます、所長。」
「ソレ位良いわよ。叫んだら落ち着いたし。それじゃあ、早速…いや…うーん」
落ち着いた様子の所長が急に難しい顔をして唸り始めた。
「ど、どうしたんですか?」
「いや、やっぱり…よし。藤丸、講義の時間よ。貴方は冬木は初めてでしょ?」
「はい、そうですけど…」
「此処では無く、教会に拠点を構えるわ。急ぐわよ。」
まって、そんな事言われても右も左も分からないんですけど!! 所長?!
「先輩、捕まってください。流石は時計塔のロードの一人、強化魔術も一流です。」
「え、マシュ? 掴まれって、速っ?! 所長速いですよぉぉぉ!!」
僕の声は走るマシュに担がれ間延びしていった。
どうしよう、訳が分からない事ばかりで不安どころか、ちょっと楽しく成って来た。
Side out
Side 藤丸立夏
未だにふわふわとしている頭が、現状を認識する事を阻んでいる。それが自覚できるのは落ち着いているから・・・と、言う訳ではない。寧ろ、未だに混乱の渦中に在るのだろう。
では、こうして考えているのは何かと言えば、混乱している自分なのだ。混乱し過ぎて、逆に落ち着いているのかもしれない。
今、私の目の前に居るふわっふわな髪をしている人辺りの良さそうだが、八方美人っぽいヘタレな感じの男が話しかけてくる。
「はぁ、それじゃあ確認からしよう。君の名前は?」
名前? 私の名前・・・アレ? 私は・・・
「ふ、藤丸立夏?」
「うん、そうだね。字はどう書くんだい?」
私は今、言葉を話したのだろうか? 否、私は・・・私の声はこんなにもしゃがれて居ただろうか?
「藤の花の藤に日の丸の丸、立つって言う字に夏って書きます」
「へぇ、僕は藤の花って言うのは見た事は無いんだけど、どんな色をして居るんだい?」
藤・・・藤の花? 色は、薄い紫で・・・
「紫で小さい花弁が・・・ん? あれ? 何で花の話し何か・・・うわっ?! 貴方誰?! ハリーさんは?! 師匠は?! あれ?」
私は今、何処に居るの?!
「よし、戻って来たね。僕の名前はロマニ・アーキマン。カルデアの医療班のトップさ!!どうやら神秘酔い・・・いや、魔力酔いをしてたみたいだね。」
コレは、相当な妨害が有ったみたいだね。
と小さく吐いた言葉に、記憶が鮮明に蘇る。
A地点と呼ばれた場所に到達した私達を待って居たのは、猿と犬を足した様な化け物だった。一m程の全長、四本の足に犬の顔に背中から猿の胴体の上をくっつけた様な異様な獣に襲われた。
ハリーさんが柄の短い直剣を投げ、すぐさま撃退したと思われたソレは、血風を撒き散らしながら、爆発し、仲間を呼び寄せた。
師匠は眉間に皺を寄せながら死徒化の呪法を不完全に混ぜたとか何とかと言って、私を抱き抱えて駆けだした。
人生で初めての異性からのお姫様抱っこである。トゥクンとは成らなかった。後ろを振り向けば何か、肉片がうぞうぞと蠢きながら再生、そして増える。初めて、声に成らないと言う表現が合う悲鳴を上げた。
ハリーさんが蹴散らしてたが、何と言っても数が多い。と言うか、二人の走るスピードが尋常じゃない。雪山の道無き道を、しかも登りを山の神を越える速度で、余裕を持って走るのである。揺れが全然来ないし。
「あの、師匠は?」
「寧ろ、何でライドウを師匠と呼んでいるのかを僕が聞きたいんだけど?」
「えと、魔術回路? とかを開くのを走りながら手伝ってくれて、宝石呑み込まされて、強化を走りながらして、筋が良いらしくて…」
言葉が、言葉がでない?!
「それで、何か犬と猿の化け物を、三百万のルビーが大爆発で、爆発四散したら、山の中腹を過ぎたあたりで、焔のお人形が凄くて?!」
「あぁ、うん。分かった。落ち着いて。ライドウが火精をブッ飛ばして、そのまま走って来たんだね?」
「はい!! 最後に荷物の中に入ってたボルシチの缶詰が鎮火しました!!」
「ボルシチ?! なんで!!」
あ、何か、目の前で混乱してる人が居ると落ち着いて来た。
(そう言えば、あのボルシチって先輩がくれた奴だったなぁ)
私は目の前で混乱しているロマニさんを眺めながら、そんな事を思い出した。
そっか、カルデアに着いたのか。・・・?! 速く師匠の所に行かなきゃ!!
「ロマニさん!! 速く師匠の所に行かなきゃ!!」
「うぇ?! そ、そうだね!! て言うか君結構凄い事してるね!!」
私は、何か驚いているロマニさんを急かして、師匠の元へ向かう事にした。お願いしますから、呑み込んだ宝石の値段を聞かせて下さい。金額が怖いです。
意識がはっきりとしてから、確認するカルデアと言う場所は近未来的だなと思った。ライトノベルとかで見るSFみたいな感じだ。綺麗な廊下を少ない数の人員が走り回っている。聞こえてくる声は管制室がどうたら、中央区画の防壁がどうだとかと、映画の世界に迷い込んでしまったかのような単語が飛び交っている。
別の世界に踏み込んだんだと、自覚する。多分だけど、今までの常識とかは全部一旦置いておいた方が良い。そう思う。此処に来るまでが既に、非日常だったのだ。
だけど、私は幸運なのだろう。此処まで案内してくれる人が居た。
そして、その人はこれからも色々と教えてくれるんだと思う。
ロマニさんの後ろを着いて歩き、カシュっと空気の抜けるような音と僅かな駆動音と共に、その部屋の中に入った。
ピリピリとした空気の中、その人は腕を組んで立って居た。そして溜息を一つ吐き
「おい、ロマニ。マリー姉のヤツ、自分なりに動き始めたぞ」
「嘘?! あのマリーが?!」
どうしよう。この職場は案外楽しそうだ。
Side out
Side 器港雷堂
情報を纏め、各自に指示を出し、連絡が通じるのを待つが、予測された時間を大幅に超えた。
何か不測の事態があったのかと、皆が胆を冷やしながら焦りを見せ始めた。その時に、ロマニが藤丸立夏を連れて戻ってきた。
「おい、ロマニ。マリー姉のヤツ、自分なりに動き始めたぞ」
「嘘?! あのマリーが?!」
ロマニの言葉が俺の本音でもある。
あの小心者で自尊心が強く、臆病な姉気分が自分から行動を起こす。コレは考えてもみなかった。混乱して、新人君達に八つ当たりしてる位は考えていたが、まさか自分から行動するとは…
「あ、多分だけど。この間、ライドウと在った時に冬木のリサーチはしてたみたいだから、もっと安定してる霊脈の在る所に移動したのかも?」
「ソレは俺も考えた。」
お互いに周りに聞こえる様に言う。あの三人は生きていると押し付ける様に。
「だがな、霊脈が安定している所だと…」
「うん、何かしらの罠や、敵が居ると思うんだけど…マシュがデミ・サーヴァント化しちゃったからちょっと強気に成っちゃてるのかも?」
「だろうな。はぁ、ロマニ此処の指揮権はお前に返す。藤丸立夏に戦闘用霊衣と礼装を渡せ、三時間後にレイシフトする。」
「いやいや、中央管制室はご覧のあり様だよ?! 何処からするのさ!!」
阿呆が、敵対者に一番狙われるであろう物のサブ位は用意してるに決まってんだろう。
「サブを用意している。レオナルドが此処に居ない、分かるな?」
「あ、そう言えば居ない。と言うよりサブって在ったの!!」
「用意してるさ。独断じゃないぞ? マリスビリーの同意の元に念の為に俺の私室の地下に四つ用意して在る。俺も、アイツもソレ位考えてる。」
「わ、分かった。マリー達と連絡が取れ次第連絡する。ナビゲートは任せてくれ、えっと…立夏ちゃん? これから三時間で色々詰め込まれると思うから覚悟して。そして、レイシフトしたらライドウの指示に従ってくれ。そっちの方が生存率は跳ね上がる。」
「はい!! 師匠宜しくお願いします。」
元気だなこの子。
(あぁ、ハイに成ってるな。緊張の糸が切れないようにプレッシャーを与えながらの方が良いか。)
そう考える。何よりも、恐らくだが、この藤丸立夏と既にレイシフトしている藤丸立香。この二人は人理が選んだマスターだと思われる。
(抑止が足掻いたか? いや、それなら守護者が既に働いている筈。そして、今みたいな事態には成って居ない。ならば・・・)
偶然でも奇跡でも無い何らかの必然が働いている。
レイシフトしている方の藤丸も確認しなければ分からないが、資料によれば、この二人はマスター適性は同率でトップだ。それだけのモノを秘めている。
こいつ等は、恐ろしく育つだろう。あぁ、今から後の事を考えるだけで胃が痛くなりそうだ。
取り合えず、礼装の使い方と此処に来るまでに使わせた強化の反復をさせよう。召喚はまださせない方が良さそうだ。マリー姉達に合わせた方が良さそうだな。
だからな、恥ずかしがるな。身体の線がダイレクトに出るのは製作者の趣味だ。俺の趣味じゃない。
潤んだ目でこっちを見るんじゃぁない。ドレだけ見ても戦闘用霊衣はソレだ。
庇護欲を湧かせる様な事をしても無駄だ。だってソレしかないんだもの。
次回、謎の天才現る。立香君プロットを破壊する。です。