インフィニット・ストラトス~シロイキセキ~   作:樹影

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11:幼馴染の語り場

 

 

 

 中に入れば、部屋着だろう簡易な和装を纏った箒が正座で待っていた。

 まだいくらか湿り気を持っている髪は、教室で見たときのようにポニーテールに纏められている。

 やはり先程のことを気にしているのだろう、顔を赤く染めながらこちらを見る目はきつい。

 

 一夏はそんな痛い視線を受けながら彼女の対面に座る。

 

「とりあえず、久しぶりだな。 箒」

「あ、ああ、久しぶりだな。

 ………ところで、お前が同室と言うのは本当か?」

「ああ、悪いとは思っているが、そうなるな」

「い、いや、別に……ただ」

 

 そこで箒は照れくさそうに身を捩りながら、

 

「もしかして……お、お前が希望したのか? 私がいいと」

「いえ、それに関しては私と織斑先生が相談して決めました。

 というか、ほぼ織斑先生の鶴の一声ですね」

 

 どこか淡い期待を無意識に込めながら問いかけると、それに真っ先の答えたのは三角形を作るように二人の真ん中に座る真耶だ。

 彼女は苦笑しながら手をパタパタと振って否定する。

 対して、一夏は呆れたような半目で箒を見据える。

 

「……箒、お前は久方ぶりに会った幼馴染を、年齢も弁えず一つ屋根の下で暮らすことをリクエストするアグレッシブドスケベだと認識しているのか?」

「い、いやそうではなくてだな!!?」

 

 慌てたように弁明しようと身を浮かせる箒。

 しかしうまく言葉が出ないのかしどろもどろになってしまっている。

 それを見かねたのか、「そういえば」と真耶が思い出したように切り出す。

 

「織斑くん、さっき言っていた『見慣れている』っていうのはどういうことなんでしょうか?」

「む」

「ん?」

 

 その問いに、一夏は少しだけ困ったような表情になり、箒は何事かと動きを止める。

 

「一応、貴方のお姉さんである織斑先生の言葉もあり、申し訳ないことですがこういう形になってしまったわけですが……

 その言葉の意味によっては、改めて考え直さなければいけないかもしれません」

 

 そう口にする真耶の表情は真剣そのもので、一夏は彼女のこれまでで最も教師然とした姿に内心で感嘆の念を覚えた。

 が、それはそれとしてその問いに対する答えを思うと精神的な疲労を覚えずにはいられなかった。

 

「……留学中、こちらをからかったり、或いは単にずぼらだったりでああいった格好でこちらの前に現れる人が少なからずいたんですよ。

 特に前者はこちらが過剰反応すると喜ぶ手合いですしね。

 そりゃ否応なしに慣れて流すくらいできるようになりますよ」

 

 また、これにはプライベートではとことんずぼらになる実の姉の存在も少なからず関係しているのだが、さすがに口には出さない。

 姉の面子を守る程度の気配りと思いやりは持ち合わせているのだ。

 

 一夏の答えに納得したのか、胸を撫で下ろすかのように安堵の溜息をもらう真耶。

 それを見ながら、一夏は信じてくれたのはありがたいと思いつつ、言葉だけでこうまで信用してしまうのは大丈夫なんだろうかと明後日な心配をしていた。

 真耶の名誉を守らせてもらうなら、恐らくそれだけ一夏が信頼に値するということなのだろう、きっと。

 ところで箒の方はと言うと、質問の内容は解らなかったが、なにやら(乙女心的に)不穏な意味合いを感じたので思わず半目になっていた。

 

「それじゃあ、私はこれで。

 二人とも、しばらくは窮屈かもしれませんが辛抱してくださいね」

「こちらこそご足労していただきありがとうございました」

「はい、それじゃあまた明日」

 

 立ち上がる真耶を一夏は見送り、頭を下げる。

 箒も慌ててそれに続く。

 その様子を見て、クスリと微笑みながら真耶は部屋を後にした。

 

 残された二人は、再び向き合う。

 何を言えばいいのか、内心で迷ってしまった箒が押し黙り、しばらく沈黙が続いた中、おもむろに一夏が口を開く。

 

「そう言えば、さっきの一撃はすごかったな」

「え、ってあれは……その、すまない」

「いや、不可抗力とはいえ、仕方がないだろう」

 

 正直に言えば過剰防衛ような気もしたが、貞操の危機を感じればあんなものなのかもしれない。

 ともあれ、掘り返す様な話題でもないだろう。

 一夏が言いたいのはそこではないのだ。

 

「単純に、良い腕前だったって言いたいだけだ。

 流石、全国大会優勝者だな」

「あ、ああ……というか、何で知っている!?」

「新聞に載っていたからな。

 まぁ、それほど大きい記事ではなかったから見つけられたのは運だったが」

「な、なんで新聞なんか読んでいるんだ!?」

 

 思わず流しかけたが、彼の口から聞くとは思わなかった言葉に思わず怒鳴るような言葉で返してしまう。

 だが一夏の方は気にした様子もなく淡々とした様子だ。

 

「留学先によっては新聞やTVどころかネットの接続すら制限されるような場所もあってな。

 それでなくても日本の時事には疎くなりがちだから、帰った時に溜まった新聞や流れているニュースの類には一通り目を通すことにしてるんだよ」

 

 もっとも、それでも芸能関連や流行り廃りにはどうしてもついていけない部分も多いのが困りものなのだが。

 一方で、それを聞いた箒は一気に頭が冷えていくのを自覚する。

 

「そ、そうか……すまん」

「いや、気にしていないさ。

 それなりに貴重な体験や出会いがあったしな」

 

 申し訳なさそうな幼馴染に、一夏は歯を見せる笑いで返す。

 屈託のない笑みに、箒は顔が熱くなるのを感じながら話を変える。

 

「そ、そういえばオルコットと戦うことになったようだが……」

「ああ、互いに引く理由がなかったからな」

「………勝算はあるのか?」

 

 箒としてはそれが気になるところだった。

 相手は国家代表候補生、文字通り並みの相手ではない。

 だから一夏もはっきりと言う。

 

「今のところは何とも言えんな。

 まだ、準備にも取り掛かっていないのだし」

「……勝てる気がしない、ということか?」

「そんなわけがないだろう」

 

 箒の不安を、一夏は一刀両断する。

 その顔には、セシリアと対峙したときのように不敵な笑みが浮かんでいる。

 

「確かに、相手は代表候補生で、専用機持ちで、それがどんなものなのかは小耳に挟んだ程度でしか知らない」

 

 それでも。

 

「やるからには……やると決めたからには、勝つさ。

 勝つつもりで、あらゆる手と持てる全力でぶつかり、降して見せる」

 

 必勝の決意を込め、彼は闘志を滾らせながら言い放つ。

 

 そんな力の込められた眼差しと、強い意志を宿した言葉に、箒は先ほど以上に顔に熱が集まるのを感じる。

 記憶の中にある幼馴染より、さらに凛々しく強く力強い姿を垣間見せられて、胸の内の淡い想いがさらに深く鼓動する錯覚を得ている。

 離別してからも憎からず思っていた相手が、己の理想のように凛々しくなっていたのだ。

 その反応もさもありなんといったところだろう。

 

「そ、そうか……なら、なにか手伝うことはあるか?

 といっても私などよりお前の方がISの使い手として余程に実力があるだろうし、余計なお世話かもしれないが……」

 

 最期はどこか寂し気に言う箒の申し出に、一夏は顎に手をやってしばらく考えてから口を開く。

 

「……箒、ここでも剣道部に入る予定はあるのか?」

「え? あ、ああ、明日にでも申請して顔を出す予定だが……」

 

 話の見えぬ問いに、戸惑いつつ答える箒。

 正直なところ、思うところもあるのだがだからこそ己を見つめなおし鍛えるためにも剣道は続けるつもりでいた。

 

 一夏はその答えを聞くと、頷いて、

 

「なら、部活が終わった後でいいから俺と打ち合ってくれないか?」

 

 そう訊ねた。

 

 専用機を持っていない一夏が、最後にISに搭乗したのは楯無との実技試験の時だ。

 それ以降も体を鈍らせないために鍛錬は重ねていたが、さすがにそれだけでセシリアとの戦いに赴くには不安が過ぎる。

 最善なのは練習相手も含めて二機分の訓練機を借りることだが、これも難しいだろう。

 学園にあるISは量産機が十機ほど。

 一所にある機体の数としては破格ではあるが、生徒の数と比すれば当然ながら足りるものではない。

 それを考えれば、自分が使う一機を確保できれば良いほうだろう。

 故に、次善として戦う者としての気構えを作り維持するために箒と剣を交えたいと考えていた。

 

 もっとも、箒の側の事情や、剣道場の都合が付けばの話ではあるのだが。

 

「え?」

「勿論、向こうが場所を借りることに難色を示すならあきらめるし、それ以前に箒も部活を終えた後に俺に付き合わせるのも悪いから断ってくれても構わないが……」

「い、いや!! 構わない!! 場所や道具も私が責任を以ってかけ合う!!」

「あ、ああ。 なら助かる」

 

 一夏の提案に、食い気味に了承をの意を伝える箒。

 

 彼女からすれば、剣術は一夏との大切な思い出の一つだ。

 それを再び交えることができるというなら、願ってもないことだった。

 ましてそれが彼の手伝いになるというなら是非もないことだ。

 

 身を乗り出す箒に一夏が若干気圧されるが、とりあえずは了解を得られたことに安堵しておくことにする。

 咳払いを一つして、話題を変えることにした。

 

「……ところで、風呂についてなんだが」

「っ! あ、ああ……さっきみたいなのはごめんだからな」

 

 思い出したのか、潮が引くように体をかき抱いて下がる箒。

 その顔は、真っ赤に染まっている。

 

「時間としては私が七時から……」

「いや、ちょっと待て」

 

 時間で区切ろうと提案する箒の言葉を一夏が遮る。

 なんだ、と軽く睨むが、一夏は動じず続ける。

 

「時間帯で決めるのもいいかもしれないが、俺もお前もまだここでの生活スタイルが定まっていないだろう?

 それで何時から何時までといっても、十中八九あとで不都合が出てくる」

「それは、そうかもしれんが……」

「だから……」

 

 言って、一夏は拳の裏で壁を叩く。

 

「基本はノック、それと声かけだな。

 この二つを徹底しておけばそうそうさっきみたいなことは起きないだろ」

「そう、だな。 わかった、それで構わない」

 

 話がまとまったところで、『よし』と一夏は手を叩いて時計を見る。

 ちょうど夕飯時だ。

 

「それじゃあ、食堂に行こうか。

 初日からなんだか疲れたしな」

「あ、ああ」

 

 本音を言えば、日課のトレーニングをしておきたかったが、今日は精神的な疲労が大きかった。

 食事の後、休みを挟んで軽く流す程度にしておくことにした。

 そも、今日は昼食を抜いてしまっている。

 食物をよこせと脳に訴えかける胃が、今にも物理的に自己主張を奏でかねない。

 

 それに、優先しておきたいこともできたのだ。

 

「箒」

「ん、なんだ?」

 

 一夏は振り向いて、笑いかける。

 

「せっかくだ。 メシ食ったらお互いがいなかった間のこと、いろいろ話そうぜ」

 

 その提案に、箒は一瞬キョトンと呆けた後、

 

「―――、ああ!!」

 

 花咲くような笑顔とともに、大きく肯いた。

 

 その夜、二人は消灯時間まで旧交を温めた。

 

 

 

***

 

 

 

 そして、一夏は夢を見る。

 それは、己の転機の回想。

 それは、過去の再現。

 

 なんてことはない、ここ三年ですっかり見慣れてしまった悪夢である。




 今回、まったく山が無くてすいません。
 ただ、話的に必要だったので。
 ここら辺、うまくまとめられるようにできればいいんですけどね。
 早くセシリア全に入りたいけどもう少し掛かる予定。
 気長にお待ちください。

 今回、箒と打ち合う理由が作れました。
 といっても、作者に剣道的なスキルや知識はないのでバッサリカットになる予定ですが。

 次回ですが、ちょっときつい表現が出てくるかもです。
 主にグロ的な意味で。
 そこまで過激且つ綿密な描写ではないと思いますが、陰鬱な内容から始まると思いますのでご注意を。
 まぁ、ここかいてる時点ではまだ一文字も手ぇ付けてないのですが(ェー

 それでは、また次回。
 またちょっと間が空くと思いますが気長にお待ちくださいませ。
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