25:フランスとドイツのそれぞれの団欒
―――フランス、パリ。
その一角に建つ豪邸のとある一室で、三人の男女が席を同じくしていた。
一人は、おそらくは豪邸の主だろう壮年の男。
顎髭を蓄えたその風貌は険しく、自他に対する厳しさをよく表していた。
彼の名は【アルベール=デュノア】。
フランスが世界に誇る第二世代量産型ISの傑作機【ラファールリヴァイブ】を各国に提供する大企業の社長を務めている。
彼の隣に座っているのはその正妻である【ロゼンダ=デュノア】。
彼女は気品にあふれた所作で、優雅に茶を喫している。
その後ろには老年の執事が控えていた。
そしてアルベールの体面に座るのは、十代半ばほどの少女だ。
やや癖のある長い金髪を後ろで一つに纏めていて、顔立ちはやや中性的ながらも整っている。
笑えば花が咲くような美貌だが、しかし今は何の感情も伺えない。
少女の名は【シャルロット=デュノア】。
姓から察せられるとおりアルベールの実子であり、しかしロゼンダとは血の繋がりはない。
つまりは、道ならぬ想いの果てに生まれた子だ。
そんな彼らの間に流れる空気は、ひどく張りつめている。
「シャルロット」
「………はい」
娘の名を呼ぶ声は、しかし重く固い。
それに対する少女の返事も、表情同様に感情を感じさせないものだ。
その様子は、それだけで親子の会話というものとは明らかにかけ離れている。
「こちらの用意は整った。 そちらはIS学園に行く準備は済んでいるか?」
「はい、既に」
「そうか」
頷きつつ、アルベールは続ける。
場の空気はやはり重く、そんな中でロゼンダは我関せずとばかりにカップを傾けている。
「だが、反社長派の横槍は思った以上に大きくてな。
お前の専用機になる予定の第三世代『コスモス』のロールアウトは年末近くまでずれ込みそうだ」
「そうですか」
そこに関心はないといったシャルロットの反応に、アルベールの眉がわずかにピクリと動くが、それだけだ。
「………それまでは今使っている【Type:C-2】を引き続き使え」
「解りました」
【Type:C-2】……登録名称【ラファールリヴァイブ・カスタムⅡ】はシャルロット用に調整されたラファールリヴァイブのカスタム機だ。
彼女に合わせてシステム周りや武装レイアウトが大幅に変更されており、総合的な性能は初期型の第三世代に勝るとも劣らない。
そして彼女はそれを十全以上に使いこなすだけの能力があった。
それこそ、フランスの代表候補生の座を得るほどに。
「パッケージや武装に関しては、『コスモス』への移行も考えてそれに合わせたものを送る予定になっている。
要望があるなら早めに連絡しろ」
「はい」
ここまで、その会話の全ては冷たいものになっている。
他人同士であっても、こんな空気のまま話し込むのはご免被るだろう。
しかし二人は血の繋がった親子でありながらそれをしている。
まるで、親子の情などないかのように。
「……ところで、一つ訊いていいでしょうか?」
と、シャルロットは声の調子を変えないままそう尋ねる。
そしてアルベールが答えるよりも前に、その表情を笑顔に変えた。
それは先ほどとは全く違う野に咲く花のような笑顔で、
「―――学園が始まる前に全て片付けると豪語していたのに、こんな時期までずれ込んだことに関する言い訳はありますか?」
そのくせ、瞳はこれっぽっちも笑っていない氷よりも冷たいなにかだった。
瞬間、空気がさらに張り詰めていく。
同時に、アルベールは自分にだけ重力が増したかのような錯覚を得た。
胸の内にある心臓が暴れている。
文明人ゆえに鈍っているはずの本能が、危機感と恐怖に警鐘を鳴らしていた。
だが彼は大企業の長としての自負と、それ以上になけなしの父親としての矜持で以ってそれを抑え込む。
「先ほども言ったとおり、反社長派の横槍は思った以上に大きかった」
「はい、それで?」
「事前に察知した計画の中にはお前の身を直接的に害するものもあった。
実行可能だったかは別として、その危険があったのは確かだ」
「はい、それで?」
「IS学園へ入れば手は出せんだろうが、向こうもそれは承知で入るまでを狙ってくる可能性があった。
最悪、テロに見せかけてでもな」
「はい、それで?」
「………故に、万全を期す意味でも、そして後顧の憂いを断つ意味でも、声だけはデカい馬鹿どもを潰すまではお前には動いてもらうわけにはいかなかったのだ」
「はい、それで?」
「………………それで、だな」
「それで?」
まったく表情を変えずに見つめてくるシャルロットに、アルバートの声が尻すぼみになっていく。
自負も矜持もボロッボロの満身創痍だった。
ぶっちゃけへのツッパリにもならなかった。
シャルロットはなおも表情を変えず、軽く首をかしげる。
「―――ねえ、お父様? ボク、確かその辺りのことは前に聞いた記憶があるんだ」
「そ、そうか……そうだったな」
「その上で、入学には間に合わせるって胸張って言ってたと思うんだけど?」
「…………そ、そうだったな」
滝のように冷や汗をかく姿に、すでに威厳はない。
表情だけは保っている分、むしろ滑稽にも見える。
だが、空間が軋んでいるような錯覚を覚えるほどのプレッシャーを実の娘から注がれているのだからむしろ腰を抜かさないだけ耐えているといえなくもないのではないだろうか?……そんな自己弁護を現実逃避気味に展開する。
と、彼は横目で妻を見た。
半ば無意識に彼女からの助けを求めてのことだった。
そして肝心のロゼンダはというと。
「奥様、お茶のお代わりが入りました」
「ええ、頂くわ。 ……相変わらず、よい腕ね」
「恐悦にございます」
我関せずとばかりに、茶を楽しんでいた。
というか、カップとソーサーを手に、こちらから完全に背を向けていた。
老執事も彼女への対応という態を取ってこちらから完全に視線を外していた。
思わず目を見開くアルベールだったが、その両頬を柔らかな手が包む。
そして両手は彼の顔を優しく前へと戻した。
それに対しアルベールは成すがまま、一切の抵抗をしなかった。
……というより、抵抗でもしようものなら首がグキリとイワされそうな予感がヒシヒシとしたのだ。
そうして強制的に向けさせられた視線の先には、両手の持ち主であるシャルロットの顔が。
「ねえ、お父様―――ダメだよ、お話の最中によそ見しちゃ」
「あ、あぁ……」
窘めるような口調のシャルロット。
その言葉は、先ほどとは比べ物にならないほど柔らかく、親しげなものだ。
それだけならこちらのほうが余程に普通の親子らしく見えるだろう。
しかしアルベールの冷や汗は止まらない。
ともすれば、腹の底から震えが湧き上がってくる。
アルベールには見覚えがあった。
シャルロットのどこまでも冷たく、その奥底に炎のように揺らめく感情を宿した眼差し。
それは今は亡き彼女の母を、本気で怒らせたときまったく同じものだった。
「ねえ」
アルベールの意識が過去から現在に引き戻される。
ミシリ、と頬を挟む手にさらに力が籠められる。
シャルロットはさらに笑みを深めながら、奈落のような瞳で問いかける。
「なにか言ってよ―――オトウサン」
***
後に、憔悴しきったアルベールはかく語る。
「なんでああいったところまで瓜二つなんだ………!?」
ついでに、社長夫人も(遠い目をしながら)かく語る。
「本当、彼女に瓜二つだったわ……懐かしい」
***
フランスでそんな心温まる家族の交流が描かれていた頃。
ドイツのある基地にて。
「―――そ、そうですか。 学園への編入の日時が決定したと。
解りました、すぐに準備を整えます!!
……い、いえ、張り切ってなど……す、拗ねてなどおりませんでしたよ! 入学が遅れたからだなんて、そんな。
……な、泣いてません、泣いてなどおりません!! って、クラリッサ! なに写真など撮って、なんで貴様らまでそこに!?
ちょ、ちょっと待て、何を……し、司令も笑ってないで助けてください!!」
―――ある特殊部隊隊長の少女が、上官と部下たちに温かい視線を向けられていた。
今日もドイツは平和である。
というわけで新章です。
短いうえに書き溜めないから次回は未定ですが、この作品のシャルとラウラの現状はこんな感じ。
具体的にどんな環境になっているかは、この章で語っていく予定です。
正直、物語開始時点で一番原作から離れてんのはこの二人な気がします。
作中、アルベールさんが【ラファールリヴァイブ・カスタムⅡ】を【Type:C-2】とか呼んでるのはスパロボOGシリーズを若干意識してたり。
さて、そういえばDMMのアーキタイプブレイカーのβテストが始まりましたね。
これ読んでる方の中にもやってる人がいるかもしれません。
ちなみに自分はちょくちょく触っている程度ですね。
なにせ低スぺだから止まりやすい&chromeあんまり使わないでちょっとやりにくいので。
ちなみに事前登録で選べるカードは迷わず『のほほんさん』を選びました。
……楯無さんじゃないのか?
それはそれ、これはこれ(ェー
ちなみに個人的に欲しかった順はこんな感じ↓
のほほんさん>>>>>一夏≧楯無>簪>新キャラ勢>メイン五人
……別に、箒たちが嫌いってわけじゃないですよ?
ただ、あの五人は自分の中じゃ横並びっていうか、それよか楯無とか簪とかのほほんさんとかのほほんさんとかのほほんさんとかのが好きっていうか……
閑話休題。
さて、この章ではいろいろなキャラが一歩踏み出したり踏み出さなかったりするので、温かく見守っていただければ幸いかと思います。
それでは、この辺で。
……この章でオリキャラ登場予定。 ただしジジイ(爆