インフィニット・ストラトス~シロイキセキ~   作:樹影

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27:新星二つ、そして巨星落つ

 

「突然ですが、今日は転校生を紹介します! しかも二名です!」

 

 朝のSHRで開口一番、真耶が言い放ったそのセリフにクラスのほぼ全員が驚きの声を上げた。

 それもそのはず、前触れもなしにクラスメイトがいきなり二人も増えるとなれば驚かないほうが不思議だろう。

 そんな中で、一夏だけは違う意味で驚きを得ていた。

 

(二人って……まさか、あの二人ともこのクラスってことか?)

 

 その疑問に答えるように入ってきたのは、案の定見覚えのある二つの顔だ。

 

 一人は、長い金髪を後ろで一つに纏めたやや中性的な少女。

 優しく人当たりの良さそうな雰囲気を纏った彼女は、やや袖を余らせたミニスカートタイプの制服に身を包んでいる。

 自身に集まる注目に少し緊張しているのか表情が若干固いが、一夏の存在に気付くと表情をほころばせた。

 

 もう一人は、同年代と比してかなり小柄な体躯をした長い銀髪に眼帯で左目を隠した少女だ。

 体つきも幼く見えるが、しかしだからと言ってか弱く感じることはない。

 まっすぐ伸びた背筋からなる整った姿勢、そして刃のように鋭い右の眼差しが彼女を凛々しく魅せていた。

 ズボンタイプにカスタマイズされた制服もその雰囲気を後押ししているのだろう。

 

 二人は真耶の傍に並んで立ち、まず金髪のほうから口を開いた。

 

「シャルロット=デュノアです。 フランスの代表候補生をしています。

 この国には慣れないことばかりなので、ご迷惑をかけることも多いかもしれませんがよろしくお願いします」

 

 丁寧な口調とお辞儀に続く形で、もう一人が凛と声を上げる。

 

「ラウラ=ボーデヴィッヒ。 ドイツの代表候補生だ。

 ―――まず、貴様らに言っておくことがある」

 

 言いながら、ラウラは一歩前に出た。

 偉そうな物言いだが、それに眉を顰めるよりもその先の言葉への好奇心が勝っているようで、わずかなざわめきに嫌悪の色は見えない。

 彼女は一度クラス全体を睥睨してから、一夏へと視線を固定して殊更に大きく声を張る。

 

 

「そこにいる織斑 一夏は私と……私の率いる特殊部隊【黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)】の嫁だ!! 異論は認めん!!」

 

 

 その宣言に、真耶やシャルロットを含めた全員がキョトンとした表情を浮かべ、しかる後に驚愕へと返事させていく。

 例外は腕を組んで仁王立つラウラ本人と、姉弟そろって頭を痛そうに抱える千冬と一夏だ。

 そして次の瞬間、驚愕は穴の開いたダムのように決壊し、

 

『『『な、なんだってぇええええええええええええええええええ?』』』

 

 次第に尻すぼみに疑問へと捻じれていく。

 というのも、叫んでいて途中で言葉の違和感に気付いたからだろう。

 代表するかのように、本音が袖に隠れた手を挙げる。

 

「しつもーん」

「ム、いいだろう。 なんだ?」

 

 言いたいことを言えたからか満足げなラウラが許可すると、本音はコテンと首を傾げながら訊ねる。

 それは、クラスの全員の総意でもあった。

 

「おりむーが嫁なの? 婿じゃなくて?」

 

 そう、先の発言でラウラは確かに一夏が【嫁】だと断言していた。

 あるいは日本語の使い方を間違えたのかとも思ったが、その割には自信満々な様子だ。

 その証拠に、彼女は胸を張ってその根拠を述べる。

 

「副官のクラリッサ曰く、日本では気に入った相手を『嫁にする』というのだろう? 故に、一夏は我らの嫁だ!!」

 

 つまり、アイドルやアニメなどのキャラを指して『○○は俺の嫁』というのと同じ理屈なのだろう。

 正直、日本の文化やら認識やらに齟齬があるように思える発言である。

 これにはクラスの面々も苦笑いを禁じ得ない。

 が、ラウラの根拠はそれで終わらなかった。

 

「それにクラリッサはこうも言っていた。 料理上手の家事万能でマッサージまで上手くて気づかい上手で優しい……どれもヒロインの属性だと!!

 故に、一夏を嫁扱いすることになんの不自然もない!!!」

『『『な、なんて説得力……!』』』

「………なぁ、さり気に俺の人格が否定されてないか、オイ?」

 

 思わず納得せざるを得ないという様子のクラスメイト達に、一夏は思わず頬を引きつらせる。

 と、グダグダになってきた教室の空気を刷新するかのように千冬が手を叩く。

 

「アホ話はそこまでだ。 ―――デュノア、ボーデヴィッヒの二人は空いている席に就け」

「はい」

「わかりました、教官」

「ここでは織斑先生と呼べ」

 

 ラウラに軽めの出席簿チョップを見舞いつつ、千冬は真耶と入れ替わりに教壇に立つ。

 その間に、シャルロットとラウラの二人もそれぞれの席に向かう。

 と、一夏の横を通り過ぎる際、二人はそれぞれ目配せと笑みを送り、一夏も頷いて返す。

 それを面白く思わないのは箒とセシリアで、わずかに据わった目線を送っている。

 

「そこの二人、よそ見をやめるか今すぐグラウンドを走るか好きなほうを選べ」

「「っ、すいません!!」」

 

 その二人も、ドスの効いた千冬の声に身を竦ませる。

 そして千冬は咳払いを一つして、改めてクラスの面々へ顔を向ける。

 

「さて、転校生の紹介も終えたところでHRはここまでとする。

 この後は二組との合同でISでの実戦訓練の実習だ。 各人、素早く着替えてグラウンドに集合すること。 以上だ」

 

 解散、と締めくくられると一夏は手早くISスーツの入った袋を手に立ち上がる。

 このままでは他のクラスメイトが着替えられないからだ。

 

 男子である一夏は他の生徒とは違い逐一更衣室を借りて着替える形になっている。

 事前に把握しているスケジュールの中から、空いている更衣室を頭の中に思い浮かべつつ教室の戸に手をかけたところでふと立ち止まる。

 

「―――なんでついてきてるんだ、ラウラ?」

 

 その言葉通り、一夏の背に続く形でラウラが後ろについていた。

 一方の彼女は「なにがおかしいのか?」とでも言いたげな様子で首を傾げる。

 

「着替えるためだが?」

「いや、お前は教室だよ」

「なにを言っている。 夫婦はいつでも一緒だとガフッ!?」

 

 ラウラの言葉を遮るように、先ほどと比べてだいぶ手加減を抜いた一撃を千冬が放った。

 脳天に炸裂した教育的指導(物理)にラウラがふらつき、その隙に千冬が目配せとハンドサインで合図する。

 それに反応したのはシャルロットに箒とセシリアだ。

 彼女たちはラウラの両腕と両足を抱えると、教室の奥へと連行していく。

 

「な、なにをする貴様ら……」

「はいはい、いいからこっちで着替えようね」

「というかいきなり何をしようとしてるんだお前は」

「うらやま……じゃない、はしたない真似はおよしなさい」

 

 それを見送った一夏は、教室から出て扉を閉め、ぽつりと呟く。

 

「―――今日は確か第二アリーナの更衣室が空きだったか」

 

 我関せずとばかりに歩を進めながら、一夏はふと視線を遠くに置いた。

 

「本当……賑やかになりそうだ」

 

 その響きに込められていたものが期待か疲労かは、あえて語るまい。

 

 

 

***

 

 

 

 しばらく後、グラウンドにはISスーツを纏った少女たちと一夏の姿があった。

 その前には、白いジャージ姿の千冬もいる。

 整列する生徒たちの前に、千冬と並ぶ形で一夏とセシリアに鈴音、そしてシャルロットとラウラが佇んでいる。

 五人の共通点は、『専用機を持っていること』だ。

 眼前に並ぶ二クラス分の少女たちを睥睨しながら、千冬は凛とした声を張る。

 

「それでは、これから実機を用いた格闘と射撃の訓練を開始する。

 皆には五つのグループに分かれてそれぞれ順番に機体に搭乗、操縦をしてもらう。

 こちらにいる五人にはその補助をしてもらうので指示に従うように」

 

 揃って『はい!』という快活な返事が響くが、すぐにひそひそと話し合う者たちが続出する。

 細かい内容は聞こえないが、概ねとしては誰に指導してもらうかというもので、やはりというべきか圧倒的に一夏を希望する声が多い。

 それを知って一夏以外の四人が頬やこめかみを引きつらせるが、当の一夏は我関せずと言わんばかりに涼しい表情だ。

 一方で、そんな姦しい少女たちに深い溜息を吐きつつ、千冬は意識を引き締めんと手を叩く。

 

「静かにしろ! まずは、手本として模擬戦をしてもらう。

 そうだな……オルコット、凰、お前たちに頼もうか」

「「はい!」」

 

 返事と共に二人が一歩前へ出る。

 当然のごとく注目が集まるが、彼女たちは臆するどころかどこか得意げに胸を張る。

 なお、その格差に鈴音の目がわずかに鋭くなるが、今は対して関係ない。

 

「それで織斑先生、私たち二人で戦えばよろしいんですの?」

「いや、二人の相手は別にいる。 もうすぐ来るはずだ」

 

 千冬がそう答えているのをよそに、一夏はなぜか空を見上げているのに気付いた。

 それに気づいたシャルロットが、首を傾げる。

 

「一夏、どうしたの?」

「いや……織斑先生の言う相手とはアレかなと」

「アレ?」

 

 視線を彼と同じ方向へと滑らせれば、点のような影が見えた。

 その点はだんだんと大きくなっていき、それにつれて空気を引き裂く甲高い音も聞こえてくる。

 そして。

 

「ああああああー!! ど、どいてくださーい!!」

 

 なぜか、そんな悲鳴も上げていた。

 その正体に、一夏が思わず半目になる。

 

「……なにやってるんだろうか、山田先生」

 

 どうやら、なにがしか操縦をミスったようだ。

 その軌道は『まるで』という形容詞を必要としないそのままズバリの墜落だ。

 同じく気づいた千冬が、それはもう深々と溜息を吐いた。

 

「………誰か、補助に入ってやれ」

「それじゃ俺が行きます。 ―――白式」

 

 投げやりな千冬にそう返して、一夏は幅跳びのように踏み切ると同時にISを展開、一直線に真耶へと飛翔する。

 相対距離が無くなり、肉薄するまでは数秒とかからなかった。

 並ぶと同時に向きを修正しつつ速度と方向を合わせる。

 

「山田先生、補助に入ります。 いいですね?」

「お、織斑君!?」

 

 一言断って真耶の体に触れるが、それが逆効果だったか彼女は落ち着くどころか「あわわわ!」と更に狼狽してしまう。

 落ち着く様子のない彼女の様子に一体どうしたのだろうかと困惑する一夏だが、まさか自分の視線を意識しすぎたせいで制御を誤ったなどとは露とも思わない。

 それはさておき、そうしている間にも地面との距離も猶予も縮まっていく。

 仕方なし、と彼は真耶の意思を忖度することをあきらめた。

 

「失礼します。 文句は後でお願いします、山田先生」

「あわわわわ……ふぇ?」

 

 

 

***

 

 

 

 もつれあうように落ちてきた二人は、軌道を大きく変えて千冬や生徒たちから離れた場所に落着する。

 勢いを殺しきれなかったためか、地面を抉りつつも盛大に土煙を巻き上げる。

 

「ちょ、あれ二人とも大丈夫?」

「まやまや、いったいどうしたっていうんだろうね」

「ていうか、織斑君は無事なのかな?」

 

 思いがけず繰り広げられた惨状に、少女たちがざわめきだす。

 何気に真耶への呼称がなれなれしいものになっているが、この辺りに普段の彼女への認識が強く出てしまっていた。

 その事実と目の前の出来事に千冬が頭が痛そうに深い溜息を吐く。

 そして、もうもうと立ち込めた土煙が晴れていき、

 

『『『あ!』』』

 

 という大多数の声と、

 

『『『あ゛?』』』

 

 という一部の低い声が唱和した。

 

 そんな彼女たちの視線の先には、装甲を纏った真耶を背と膝裏を抱える形で雄々しく立つ一夏の姿があった。

 涼しい顔を浮かべる一夏に対し、そんな彼を腕の中から見上げる真耶の顔は赤くも心ここにあらずな有様である。

 有体に言って、二人の状態はお姫様抱っこそのものだった。

 

 

 




 というわけで、シャル&ラウラが転校してきました。
 なんというかシャルの影が薄いなぁ……というより、最後の山田先生が全部持ってってるなこれ。
 なお、次の話も半分くらい山田先生メインだったりします。

 さて、次回はこの章最初の戦闘……なんですが、どちらかというと外様からの考察がメインになるので戦闘描写そのものは控えめになるかと思います。
 できれば年内に更新したいですね。

 あとなろうのほうで更新している『オークはみんなを守護りたい』ですが、正直モチベーションが上がらないので一度消したうえで設定とキャラを流用しつつ一月ほど時間をおいてから別の物語として作り直そうかなと思ってたりします。
 ちなみにその場合、主人公はアキラになる予定。
 向こうの活動報告でもすでに告知済みですが、こちらでも宣伝していたので発表させていただきました。
 また、それとは別にオリジナルの話を近いうちになろうとハーメルンの同時掲載で公開しようと思っているので、その時は楽しんでいただけたらなと思っています。

 私事な報告が多かったですが、今回はこの辺で。
 それでは。


◎おまけ
 Q:なんでシャルロット男装してないのに一人称『ボク』なの?
 A:ボクっ子は正義、異論は認めますん。 ……というか一人称特徴的なの変えると書き分けがめんど(以下略
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