―――さて、唐突ではあるが山田 真耶という女性について話をしよう。
かつては代表候補生の一人に数えられ、【銃央矛塵(キリング・シールド)】という二つ名を戴いたこともある。
そんな彼女も現在はIS学園で教師をしているのだが、千冬への熱い視線から誤解されやすいが、実は男女交際への憧れというかそれなりに真っ当な結婚願望というものを持っていたりする。
ぶっちゃけそろそろ実家からお見合い話でも持ち掛けられそうな雰囲気を感じてちょっとした危機感を抱いているし、その一方で(いい歳こいて)白馬の王子様的存在が現れないかなとか心の底で考えてたりもする。
しかしながら、実際の男女交際の経験は残念ながら皆無であった。
真耶がこれまで通っていた学校は女子校で、そもそも思春期には出会いそのものがなかった。
そのため男性に対する免疫そのものがろくに形成されず、さすがに男性恐怖症とまではいかないものの若干の苦手意識を持ってしまっていた。
さらにそこへ、やや童顔で可愛らしい顔立ちとたわわに実った豊満な果実を持つ胸部という飛び道具どころかトドメ演出込みで一分以上尺を取ってしまうような最強武器を装備してしまっていた。
そんな彼女に向けられる異性の不躾な視線は、持っていた苦手意識を強めるには十分すぎた。
さすがに社会人となってからは対外的に表情や態度を取り繕い、そつなく対応することはできるが、だからこそ踏み込んだ関係にまでなることはなかった。
さらにダメ押しとばかりに身近にいるのは、下手な男よりも凛々しい自身の先輩でもある千冬だ。
強くて頼りがいのある彼女は、同性愛の気のない真耶をして思わず憧れを抱かざるを得ない存在だ。
昨今の女尊男卑の影響で『女性に可愛がられるためのチャラい男』というのが増えつつある中では、なおさらに比較してしまう。
長々と語ってしまったが、要は山田 真耶のこれまでの人生において彼女の琴線に触れるような男性との出会いは皆無であったということだ。
と、ここで一つ問題だ。
「―――山田先生、大丈夫ですか」
「…………」
男性に免疫がなく、そのくせ心のどこかで王子様のような誰かとの出会いを欲している女、山田 真耶。
そんな彼女に他の男と違い不快な視線をほとんど感じさせず、そのうえ憧れの先輩の面影を持つこともあって意識してしまった年下のクール系美少年、織斑 一夏。
彼が真耶へ生まれて初めてのお姫様抱っこをした場合、一体どうなるだろうか。
「………ふ」
「ふ?」
答え―――
「―――不束者ですがよろしくお願いします」
「………………は?」
―――速攻で堕ちます。
真っ赤になった両頬に鋼の掌を当て、いやんいやんと首を振りつつ幸せな妄想に意識をはばたかせる真耶。
一夏はそんな彼女に困惑の声と表情を露にするが、当の本人はまったく気にした様子もなく至福の表情を浮かべている。
だが、いつの世も人の夢と書いて『儚い』と書き、そしてそんな夢は早々に目覚めてしまうものだ。
「――――――山田先生?」
さほど大きくもないくせに、不思議なほどよく通る声だった。
それこそ、槍で勢いよく貫くかのように。
「ひゃいぃ!!!」
脊髄に氷柱どころか液体窒素を流し込まれたかのような、悪寒を通り越した得体のしれない感覚に真耶は反射的に一夏から離れて直立不動になる。
妄想の中で三人目の子供の名前すら考えていたところの落差に、一気に現実へと引き戻される。
そして彼女は、錆びかけたブリキ人形のようなぎこちなさで背後の千冬へと振り向いた。
「山田先生」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
名を呼びながらゆっくりと歩み寄る千冬。
その迫力と、さらには彼女の背後にいる少女たちのうちの幾人かから発せられる鬼気に真耶は思わず涙目になる。
一方の一夏も、わけがわからないまま威圧の余波を受けて戦慄と共に戸惑っていた。
やがて千冬は真耶の前にたどり着き、しばらく睨む。
その眼力に真耶が装甲ごと体を震わせて涙目になるが、そんな彼女を見て千冬は力を抜くように息を吐き、発していた威圧を霧散させる。
「張り切っていたのかどうかは知らないが、以後は気を付けるように」
「は、はい。 申し訳ありませんでした」
真耶は重圧から解放されつつ、冷えた頭で申し訳なさげに謝罪する。
そんな彼女の様子に千冬は頷くと、彼女の肩に手を置きつつ背伸びをするように顔を近づける。
すわ何事かと真耶が思わず頬を染めかけると、千冬は彼女にしか聞こえない声でそっと呟いた。
「………それと、先ほど漏らしていた妄言について後で話がある」
その瞬間、真耶は絶望に膝を屈して蹲りたくなった。
―――なお、余談ではあるが彼女らの後方にて。
「え、えっと……本音?」
「ん~? な~に~?」
「う、ううん、なんでもないわ!!」
箒の新しいルームメイトである鷹月 静寐(たかつき しずね)が戸惑いながら本音とそんな会話をしていた。
何事かと首を傾げる本音に、静寐は手を振って誤魔化すような愛想笑いを浮かべている。
その笑顔の裏で、彼女は困惑と混乱をひた隠しにしていた。
というのも、
(き、気のせいかしら……一瞬、本音の表情が笑顔の完全に消えた真顔に……あんな本音、見たことない……!?)
どうやら見てはいけないものを見てしまったらしい。
そんな友人の様子に、本音は何事かと思いつつもいつも通りの朗らかな笑みを浮かべていた。
***
「さて、遅れたが実習を始める」
なにやら暗い闇を背負ってそうな真耶を従えて、千冬が声を張る。
一夏はすでに他の専用機持ちと同じく千冬の横に戻っていた。
なお、戻る際に彼女たちから脛に軽い蹴りなどを喰らっていたが、それは一体何ごとだったのだろうかと首を傾げるばかりだ。
それはさておき。
「まずは手本として山田先生との模擬戦をしてもらう。 ……そうだな、オルコットと凰の二人に頼もうか」
「あら? 織斑先生、それは二戦するということですの?」
「いや。 お前たち二人で山田先生と戦ってもらう」
セシリアの疑問に、しかし千冬はきっぱりと否定する。
すると、途端に整列していた少女たちがざわめきだす。
先ほどの醜態もあるが、真耶は普段からのんびりしているというか、おっとりしているというか、とにかくどうにも頼りにならない印象を持たれている。
良く言えば、優しく穏やかで親しみやすい。
悪く言えば、鈍臭くドジで舐められやすい。
好悪で言えば好かれているほうではあるが、その方向性は先生としてよりも友人相手のような馴れ馴れしさが目立つ。
もっとも、それを強く窘められない真耶の気性にも問題はあるが。
そんな真耶が代表候補生二人と戦うというのだ。
しかも専用機二機と量産機で。
少女たちからすればそれは無理難題にもほどがあるというものだろう。
「うるさいぞ! 静かにしろ!!」
目の前でざわめいている戸惑いを千冬は一喝して黙らせる。
そうして視線を向けるのは一夏たちのほうだ。
「他の三人には……そうだな、ちょっとした講釈でもしてもらおうか。
まずはデュノア、始める前に山田先生の使う機体について簡単に説明してみせろ」
「はい」
言われ、シャルロットが一歩前に出る。
彼女は眼前の同級生たちをまっすぐに見据えながら説明を始めた。
「山田先生の使用されているISはデュノア社製『ラファール・リヴァイブ』。
第二世代最後期にして量産型では最後発ながらシェア第三位・ライセンス生産七ヶ国・制式採用十二ヶ国の傑作機です。
特徴は安定性と汎用性、そして何よりも乗り手を選ばない操縦の簡易性と豊富な装備によるマルチロール・チェンジ(多様性役割切り替え)の両立です。
これにより前衛から後衛、攻守のどの立ち位置にも切り替えることが可能です」
「うむ、結構。 さすがに実家の代表作には詳しいようでなによりだ」
言われ、恥ずかし気にはにかみながら俯き加減になるシャルロット。
恥ずかしいのは褒められたことか、それともにわかに実家自慢をすることになったことに対してか。
それはさておきと千冬がセシリアと鈴音のほうを見れば、二人は微妙な表情を浮かべていた。
どうやら二人掛かりというのが引っ掛かっているらしい。
そんな二人に、千冬はわざとらしくため息を吐いてみせる。
「なにをいちいち気にしているんだ。 どうせ今のお前らでは相手にならんから気にするだけ無駄だ」
その言葉に対して二人の表情に険が走る。
プライドを刺激されたのか、思わず千冬へと詰め寄った。
「織斑先生、さすがにそれは聞き捨てなりませんわ」
「そうです。 そこまで言われる筋合いは……」
「なら行動で示して見せろ。 囀るだけならひよこでもできる」
そこまで言われれば二人も引き下がるわけにはいかない。
セシリアと鈴音は不機嫌さを隠すことなく僅かにその場から離れると、それぞれの愛機に意識を集中させる。
「いきますわよ、ブルーティアーズ」
「来なさい、甲龍」
瞬時、という言葉で顕現したのは青の機体と赤の機体だ。
装甲を纏った二人の瞳に戸惑いはなく、戦意に満ち溢れている。
一方の焚きつけた張本人はその様子に満足げに頷くと、今度は真耶のほうに首を巡らせる。
真耶のほうはというと、今のやり取りに若干頬を引きつらせていた。
「山田先生も準備はいいですね?」
「は、はい……うぅ、そんなに挑発しなくてもいいじゃないですかぁ」
「それに、あれくらいならどうとでもできるでしょう?」
「た、確かにそうかもしれませんけれど」
と、セシリアと鈴音の眼差しが更に鋭くなった。
真耶の無自覚な挑発に、戦意に加えて殺意じみたものまで混ざったようだ。
千冬は一夏たちや他の生徒を少しばかり下がらせ、同じように自分も離れる。
「それでは三人とも、上空まで飛翔してから模擬戦を開始だ」
その言葉に、三機が一斉に空へと駆け上っていく。
***
昇ること暫し、対峙する時間もそこそこにまず鈴音が双刀で以って躍りかかる。
(まずは小手調べ、と)
激情を抱きはしたものの、こと戦いが始まれば最低限頭は冷えて切り替わる。
振り下ろした二刀は簡単によけられたが、その時の身のこなしから察するにあまり脅威とは思えなかった。
無論、遅いわけでも鈍いわけでもない。
だが強敵であるとはどうしても思えなかった。
(このくらいなら、十分どうとでも……!!)
そんな風に思考を巡らせながら、鈴音はいったん離れた距離を再び詰めていく。
迫られている真耶は彼女から視線を逸らさないまま、バック走のように後ろへと飛び続けながらゆらゆらと軌道を変えている。
すこしでも自分を捉えさせないためだろうか、しかしあっという間に詰め寄られる。
その辺りは近接戦仕様の面目躍如か、再び振るわれる斬撃を真耶は寸でのところで顕現させた盾でいなす。
「く!」
「はぁあああ!!」
盾との衝突で生じた火花が散り消えていくのを視界の端で捉えながら、鈴音はいなされた勢いのまま身を回し、
「でぇい!!」
回転の勢いを乗せた、すくい上げるような軌道の一撃が真耶を襲う。
「きゃあ!」
真耶は盾を弾き飛ばされ、自身も攻撃の勢いで間合いを放される。
鈴音は体勢を崩している真耶に思わず笑みを浮かべつつ、追撃……否、とどめの一撃を放たんとする。
「これで終わり!!」
背面ユニットが展開し不可視の砲身を構築、そうして発射態勢にまで至るのには一瞬あれば十分だ。
そして龍咆を放たんとしたその刹那、
「―――っ!?」
明らかにこちらを見て笑った真耶に、戦慄が走る。
しかし、すでに龍咆は止まらない。
その咆哮が真耶へと放たれんとしたその時、彼女は先ほどまでとは比べ物にならない俊敏さでその場から下へと回避する。
イメージとして彷彿させられたのは、水を吐き出して急加速するイカのそれだ。
当然そうなれば鈴音の攻撃は真耶のいた空間を素通りし、
「うあっ!?」
「きゃぅっ!?」
その先にいたセシリアを襲う。
鈴音の方も、彼女が放ったライフルのレーザーを諸に浴びる羽目になった。
見事なまでの同士討ちに、双方が顔を上げて互いに気炎を吐く。
「ちょっとセシリア!! アンタなにあたしを撃ってるのよ!?」
「り、鈴さんこそよく見て攻撃してくださいまし!!」
「はぁ!? なによそれ!!」
「そちらこそ!!」
真耶そっちのけで言い合う二人。
と、銃声が二つ鳴り響き、直後に二人は鼻先に黒いなにかがほんの一瞬だけ通り過ぎたことに気付く。
そのことに二人が同時に振り向けば、その視線の先には両手にハンドガンを構えた真耶の姿が。
どうやら言い争う二人に向けて二丁拳銃を撃ち放ったらしい。
それも、わざわざ解るように鼻先にぎりぎり触れない程度の距離を通過するようにだ。
「お二人とも」
真耶は手にしていたハンドガンを消すと、ガシャガシャと掌の装甲を二度打ち鳴らす。
そしてニッコリと穏やかな笑みで首を傾げて見せると、常と変わらない口調で窘める。
「授業中にお喋りとよそ見は厳禁ですよ?」
聞き分けのない子供にするようなその言い回しに、セシリアと鈴音はこれまたほぼ同時に奥歯を鳴らした。
そうして二刀を構え、ビットを展開して踏み出すように疾駆する。
「叩きのめして差し上げます!!」
「ぶっ飛ばす!!」
攻撃よりも先に突き刺さるような怒気と敵意をぶつけられ、しかし真耶は常の頼りなさが嘘のように涼しい顔で迎え撃つ。
「さあ、教育の時間ですよ」
***
「おお……見事なまでに手玉に取られてるな」
右手を庇を作るように翳しながら、一夏は感心したかのように呟く。
彼の言うとおり、セシリアと鈴音は完全に真耶に翻弄されていた。
射撃で相手を誘導し、最初のような同士討ちを誘うのはもはや基本だ。
時には相手の回避の軌道を完全に読んで衝突させたり、かと思えば片方の体を盾にするかのように立ち回って同時攻撃を封じたりもしている。
かといって攻撃の手を緩めれば、すぐさま弾丸を雨のように浴びせて思考の余裕を奪っていく。
緩急激しく隙を逃さぬその様は、同じ射撃でも一発一発が鋭いセシリアと比べて野生の肉食獣の狩りを彷彿とさせる。
「うわ、なんというかエグイね」
「……身も蓋もないな、シャル」
「いや、なかなか的確で合理的な戦い方だと思うが?」
「それはそれでシビアな見方だな、ラウラ」
左右の少女と旧交を温めるかのようにそんな会話をする一夏。
一方で、他の少女たちは専用機持ちの代表候補生を完全に手玉に取っている副担任の姿に、皆一様に唖然となっている。
どうやら想像以上に普段とのギャップが激しすぎたようだ。
「―――全員注目!」
と、千冬が声と共に手を叩いて全員の意識を戻す。
びくりと身を震わせる少女たちの視線を集めて、千冬は更に声を張る。
「模擬戦も途中だが、次の講釈をしてもらおうと思う。 ―――織斑!」
「はい」
と、ここで僅かに色めきだす。
やや騒がしくなったのは、主に接点の薄い二組の生徒だ。
そこへ、千冬がさらに強くパンパンと手を二回たたく。
「静粛に!! 織斑、お前にはオルコットと凰のコンビに対する評価をしてもらう」
「解りました」
ここで一夏を選んだのは、どちらとも戦ったことがあるからだろうか。
了解を示しつつ一夏はちらりと上空の戦いを一瞥する。
戦況は相も変わらず真耶の優勢で、二人は完全に手玉に取られている。
「………二人の連携などについてはさておくとして」
彼はそう前置いて、
「機体の能力で見た場合、できればあまり相手をしたくはないレベルで相性が良いですね」
上空での劣勢からでは信じられないような評価を下した。
そのことにまた少女たちがざわめくが、千冬が先ほど以上に強く手を叩いて黙らせる。
そして顎で一夏に話の先を促す。
「まず二人の主武装……オルコットのビットと凰の衝撃砲ですが、どちらも中距離射程の射撃兵装で、しかもどちらも非実体弾だから互いを相殺しにくい性質です」
レーザーを撃ちだすブルーティアーズとPICの応用で空間に圧力をかけて形成した運動エネルギーの砲弾。
互いの干渉が全くないわけではないが、それでも実弾兵装に比べれば影響は少ない。
「更に言えば、オルコットは長距離狙撃も可能な射撃特化、凰は中距離戦もできる格闘系と役割が明確に分かれています。
つまりこの二機のチームならそれだけで遠中近すべての間合いを網羅できるということですね」
鈴音が盾になりつつセシリアの狙撃で刺す。
セシリアの射撃で牽制しつつ鈴音が押し潰す。
遠近両方を封殺しつつ中距離からの飽和攻撃で完封する。
ざっと考えるだけでも、これだけの戦法が思いつく。
どれも嵌まってしまえば苦戦は必至で、そう考えれば敵に回すことは確かに考えたくはない。
「……もっとも、双方のコンビネーションが前提の仮定ですが」
締めくくる一夏が再び見上げれば、ちょうど決着がつきそうな場面だった。
***
「今度こそ!!」
「もらったぁ!!」
セシリアと鈴音が、やや離れて隣り合う形で互いの武装を展開する。
その延長線上、焦点のように重なる位置に真耶が立っている。
この構図に至るまで何度も辛酸を舐めさせられた二人だが、こうなれば同士討ちもない。
ここまでの雪辱、その全てを一気に返すつもりで二人は互いの主武装を一斉に放たんとする。
と、その瞬間、
「―――えい」
ぽーん、とそんな軽い擬音が似合いそうな様子で、真耶が何かを放り投げた。
それは三つほどの円筒状の物体で、セシリアと鈴音がその形を察知した直後だった。
その三つの円筒が、閃光と共に弾けたのだ。
「くうぅ!?」
「きゃぁっ!!」
思わず顔を背け、呻くセシリアと鈴音。
一方で地上の生徒たちも思わず悲鳴を上げるが、さすがに離れているためか影響は少ないようだ。
しかし近距離で喰らった二人のほうはそうもいかず、思わず完全に動きを停止してしまう。
実際のところ、こうした閃光弾の類は機体の相性にもよるが一瞬の不意打ちとしてならばそれなりに有効であったりする。
ISのハイパーセンサーが主に視覚情報を拡張したものであるためだ。
もっとも、その分リカバー機能も高いために効果の持続性はないし、そも場合によっては特殊なバイザーなどで完全に対策が施されている場合も多いため、実戦での使用例はあまりない。
閑話休題。
二人に生まれた隙は文字通り一瞬だったが、それだけあれば十分だった。
即座に戻ってくる色のついた視界。
その直前に、二人はすぐ横でガチャリ、という音を聞いた。
「「え?」」
セシリアも鈴音も、即座に音のほうへと振り向く。
その視線の先、ちょうど二人の中間の位置。
真耶が、重厚なガトリングガンを両手に一丁ずつ装備し、腕を左右に大きく広げる形で立っていた。
当然ながら蓮根の断面のように連なった銃口はそれぞれに向けられている。
真耶は眼鏡を煌かせながら、にっこりと笑う。
「―――これでチェックメイトです」
砲身が回るモーター音が響いた直後、弾丸の嵐が左右の二人を襲った。
***
「………これでIS学園教員の実力は解かっただろう? 以後は敬意をもって接するように」
千冬の言葉に、少女たちの返事が重なる。
彼女たちが真耶に向ける視線は輝いているが、当の真耶はというとむしろ恐縮してしまっている。
一方でセシリアと鈴音は授業開始当初の真耶に勝るとも劣らないほどの闇を背負ってしまっていた。
二人がかりでほぼ一方的に敗北してしまったというのだからそうなるのもむべなるかな。
「さて、それではボーデヴィッヒ。 今の模擬戦の総評をしてみろ」
「はい! 教官!!」
ラウラの頭が軽くはたかれる。
「織斑先生、だ。 なんども言わせるな」
「は、はい。 きょう……織斑先生」
薄く涙目になりつつ、ラウラは模擬戦を行った三人を一瞥する。
「先ほどの戦闘、そこの二人の連携がお粗末すぎたのは言うまでもありませんが……」
追い打ちに、セシリアと鈴音が胸を抑えて呻く。
自覚があるのか、それどころではないのか反論の言葉どころか視線もない。
それに構わず、ラウラが続ける。
「それ以上に、山田先生の技術が見事だったかと。
銃器の扱いは勿論のこと、戦況を把握し、ほんの少しの挙動や一発の弾丸で相手をかき回してこちらの思惑に引きずり込む。
まさに最小限の労力で最大限の戦果を得る手本といって差支えないかと」
その絶賛に、真耶が真っ赤になって照れくさそうに身をよじらせる。
その度に豊満な胸の膨らみが強調され、魅惑的に揺れるが、一夏は誰にも気づかれないようごく自然に視線を逸らす。
この辺りも、留学の最中に身に着けた(割と虚しい)技術である。
と、赤くなっていた真耶だが、次の言葉に一気に青くなることになる。
ラウラは唐突に彼女へ向ける目を半眼へと変える。
「………それだけに、授業当初のあの不審な言動が何だったのか非常に気になるところですが」
その言葉の直後、真耶がビシリと固まる。
完全に硬直して冷や汗を流し始める真耶だったが、そんな彼女の肩をいつの間にか隣に来ていた千冬がポンと叩く。
「織斑先生……」
「ボーデヴィッヒ、その疑問については私が後で個人的に山田先生から話を聞いておくので今は捨て置け。 いいな」
「はい!」
「織斑先生!?」
驚愕する真耶に、千冬は微笑みかけながらもしかし目が笑っていない。
「山田先生、お悩みがあるならば聞きますよ?」
言外に、逃がすつもりはないと宣告されて、真耶は再び闇を背負うことになった。
ごく一角が通夜のようになっているのを完全に無視して、千冬は改めて少女たちへと向き直る。
「それでは、これから八人ずつのグループになって実機での実習をしてもらう。
専用機持ちは各グループの班長となって指導と補佐に入れ」
言って、パンパンと大きく音を鳴らしながら手を叩く。
「さあ、さっさと出席番号順に分かれろ! もたつくなら、その班の授業は実習からIS担いでのグラウンドのランニングに変更だ!!」
言われて、少女たちは慌てて自身の番号を確認しながらめいめい分かれていく。
ほどなくして班の編成は終了し、なんとか復活したセシリアと鈴音も含めて専用機持ちがそれぞれの割り当てへと散っていく。
そして一夏の担当する班には、
「それじゃ、よろしく頼む」
「こちらこそ、織斑君! ほら篠ノ之さんも」
「あ、ああ。 頼むぞ、一夏」
気恥ずかしそうにISスーツに包まれた体を腕で隠す箒の姿があった。
皆様、遅ればせながら明けましておめでとうございます。
お正月はいかがお過ごしだったでしょうか?
……なお、自分は元旦しょっぱなから風邪でダウンした模様。
まあ、それでも初詣は行ったんですが。
そしたら『今年この年の生まれの人は運気低めだよ』なリストに自分の生まれた年がしっかりと書かれてました。
……まあ、その運気低迷分を正月の風邪で消費したと思うことにします、おみくじも中吉だったし。
さて、それでは本編ですが、時間がかかってしまってすいませんでした。
その分長くなってしまったのも少し反省。
山田先生がいろいろひどかったり活躍したり結局オチ担当だったりしますが、なんか彼女はいじられて輝く系キャラな気がします。(異論は認める
真耶VSセッシー&鈴の戦いがすっごい端折られてる感ありますが、これについてはご勘弁を。
うまく書けなかったというのもありますが、それ以上に一夏たちの講釈のほうがメインだったので。
ブルーティアーズと甲龍のコンビ相性についてはあくまでも持論ですので悪しからず。
閃光弾とハイパーセンサーに関する部分もかなりの独自解釈ですが、作中で見た感じ視覚の強化版だし、それで強い光受けたらその分影響も強そうだなっていうのと、その分システム的にリカバーも早そうだなと考えての解釈です。
さて、次回は実機授業。
……どういう風に書こうかな……
またちょっと間が開くと思いますが、気長にお待ちいただけたらありがたいです。
それでは、この辺で。
昨年は応援ありがとうございました。
今年もよろしくお願いします。
追伸:作中ののほほんさんの顔は怒ってるのではなく、『目がちゃんと開いて口が全く笑っていない無に近い真顔』でイメージしていただければと。
……普段笑ってばっかの子がいきなりそんな顔したら下手に怒るより怖くね?
読者様に、そんなのほほんさんを描ける絵心のある方はいらっしゃいませんか!?(笑