インフィニット・ストラトス~シロイキセキ~   作:樹影

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29:乙女は鋼の手足に王子様の夢を見るか

 

 さて、そんなこんなで実習が始まった。

 それぞれの班に専用機持ちが指導役として入っているわけだが、その辺りに大した問題は起きていない。

 例えばセシリアと鈴音だが、前者は理論派に、後者は感覚派に過ぎる面はあるものの、今回はやってもらう操作そのものが大して難しいものではないこともあって概ね問題はなかった。

 もっとも、先ほどの敗北が尾を引いている部分があるようではあったが。

 

 次に転入生であるシャルロットだが、こちらも概ね問題なく、むしろ良好だった。

 

「デュノアさん、ここら辺のやり方がよく」

「ああ、そうだね……それならこういう風にちょっとやってみて」

「う、うん……あ、なんかいけそうかも」

 

 彼女は相手がどの辺りかわからないかをしっかりと把握し、その上で解かりやすく解決策を提示している。

 彼女自身の聡明さと、それを鼻にかけない人当たりの良さがうまくかみ合っているともいえる。

 

 さて、一方でもう一人の転入生であるラウラだが、こちらは少々の問題が出てきた。

 厳しい表情で班員を睨みつける彼女に対し、班の生徒たちが委縮してしまっているのだ。

 生身では矮躯の少女とはいえ、持ち前の雰囲気と纏ったISの威容から受ける威圧感は少女たちを硬直させてしまうに余りある。

 そうして双方が黙っていること暫く、ラウラが小さく息を吐いて、言葉を紡ぐ。

 

「―――始めに言っておく」

 

 ビクリ、と肩を震わせる班員たちに対し、ラウラはなだらかな胸を張る。

 

「悪いが、私はISの指導に関しては厳しい指導しかできない。

 それで私を嫌う分は構わないが、それで手心を加える気はないので覚悟しておけ」

 

 そんな宣言に、委縮していた少女たちがいよいよ顔を引きつらせる。

 それに対し、ラウラはさっそく厳しく声を放つ。

 

「返事!」

『『『は、はい』』』

「声が小さい!!」

『『『はい!!』』』

 

 よし、それでは……と言いながらラウラの班もようやく実習を開始する。

 班員の動きに対し時折檄を飛ばすその姿を、一夏は離れた場所から眺めて一言。

 

「―――あれなら問題はなさそうだな」

「いや大丈夫なの、ホントに?」

 

 漏れ出た言葉に、思わず突っ込みを入れたのは同じクラスで一夏の担当の班の【相川 清香】だ。

 同級生に厳しく当たっている銀髪の少女の姿を眺めながら、彼女は頬を引きつらせている。

 それに対する一夏の反応はしかし落ち着き笑みを浮かべたものだ。

 

「最初に厳しくすると言っているしな。 彼女自身が真面目だから、それに引っ張られて皆が真面目になるなら御の字だろう。

 ああ見えて、一部隊の長というのも伊達ではないしな。 案外、今日の実習で一番成果があるのはあの班かもな」

「ふーん……」

 

 さて、と一夏は気を取り直すかのようにガシャンと掌を打つ。

 そろそろこちらも動かなければ、本当にランニングをする羽目になりそうだ。

 

「そろそろこちらも始めようか。 まずは相川からだったな」

「はい! それじゃあよろしくね。 織斑くん」

 

 言いつつ、清香は割り当てられた打鉄へと歩み寄り、スムーズとはいかないまでも補助もなし装着して見せた。

 彼女は手足を動かし、一夏のほうへ振り向いて手を振って見せる。

 

「乗れたよー」

「よし、それじゃあまずは飛んでみてくれ。

 それから……」

 

 一夏の指示と指導の下、清香は機体の挙動に入った。

 時折、危うげな部分もあり、おっかなびっくり動かしていた部分も多かったがなんとか予定通りの機動をこなすことに成功した。

 すべてを終えて着地した清香は、運動量よりも緊張から来たものだろう汗を額に浮かべて安堵の息を吐いた。

 

「な、なんとかうまくできたかな」

「ああ。 今の時点ならあれで十分だと思うぞ。

 それじゃあ機体から降りてくれ」

「はーい」

 

 僅かに疲労を滲ませながら、機体を降りる清香。

 そして次の番の少女が乗り込もうとしたとき、ここで問題が発覚してしまった。

 それは。

 

「……あの、乗れないんだけど」

「あ、ごめんなさい!!」

 

 反射的に清香が手を合わせて頭を下げる。

 清香が降りた時、機体を直立した状態のままにしてしまったために次の者が自力で乗り込めなくなってしまったのだ。

 これについては一夏もばつが悪い。

 

「すまん、俺も気づかなかった。 一言いっておくべきだったな」

 

 言いつつ、機体と次の順番の少女を見比べて、吐息と共に軽くうなずく。

 

「悪いけど、少し失礼するぞ」

「え? って、ふぇええ!?」

 

 一夏は返事を待たず、少女を抱き上げた。

 膝裏と背を持ち上げる形の、所謂『お姫様抱っこ』というものだ。

 彼は先ほどより顔の近付いた少女を見下ろす。

 

「膝や背中、痛みがあったりしないか?」

「だ、だだだ、大丈夫だけど……いきなり、なんで!?」

「台を探すのも時間がかかりそうだしな。 パワーアシストの都合上、脇から抱えて持ち上げると下手すれば脱臼しかねないからな。

 恥ずかしいかもしれないが、この体勢で我慢してくれ」

 

 狼狽する少女に、一夏は落ち着かせるように静かな口調で語り掛ける。

 その説明に納得したのか、彼女はコクコクと頷く。

 了解を得て、一夏は丁寧に打鉄へと彼女を近づける。

 

「これで乗れるか?」

「えと……うん、大丈夫みたい。 ありがとう、織斑君」

 

 言いつつ、彼女は機体を装着して手早く起動準備を終える。

 そこから先は清香と同じで、特に問題もなく機体を動かし、降りる。

 

「……で、また立ったままの状態なんだが」

 

 と、そこで一夏はあることに気付く。

 次の番の少女が、どこか期待しているかのように瞳を輝かせているのだ。

 そしてよく見れば、それは順番待ちをしている他の者も同様だ。

 何だろうと考え、すぐに心当たりにたどり着く。

 それは。

 

「……これでいいか?」

「ウッス! ありがとうございます!!」

 

 体育会系なのか、気合の入った返事が返ってくる。

 その体勢は、先ほどと同じお姫様抱っこだ。

 

 つまりは、そういうこと。

 彼女たちはどうやらこれが目当てなようで、二番手の少女もそれを察して機体を屈ませなかったのだろう。

 

「正直、絵面としては武骨にすぎないか?」

「いやいや、それはそれでというやつだよ!」

 

 嬉しそうにそう語る少女に、一夏としてはそういうものかと納得するほかない。

 彼は粛々と同じように腕の中の姫を馬車ならぬ甲冑へとエスコートするのみだ。

 

 そうして一夏がその後も班員を抱き上げて搭乗させている一方、別の班では。

 

「え~と、どうしたの? わたしの顔になにかついてる?」

「い、いえ!! なんでもないわ!!」

 

 静寐が、本音とそんな会話をしていた。

 自分をじぃっと観察していた友人に首を傾げてる本音。

 それに対し静寐は、

 

(さっきみたいな顔にはなってないわね。 やっぱりさっきのは見間違いだったのかしら?

 ………きっとそうよね! うん、そういうことにしよう!!)

 

 言い聞かせるように、自身に納得を与えていた。

 そんな彼女に首どころか体ごと傾けて疑問を表す本音。

 どうやらスイッチが微妙に違うようだ。

 

 

 

***

 

 

 

「それじゃ、最後はお前だな、箒」

「う、うむ」

 

 顔を真っ赤にした箒が、恥ずかし気に身を抱きながら捩らせている。

 ちらりと見た彼女の視線の先、一夏の背後にある打鉄は、やはり直立したまま次なる搭乗者を待ち受けていた。

 それを見て、これから起こることを想って殊更に顔を赤くするが、すぐさま引き締めるように自身の頬を打つ。

 そして意を決したかのように一夏へと一歩踏み出し、顔を見上げる。

 

「それじゃ、頼むぞ」

「……おう」

 

 言いつつ、一夏はこれまでと同じように箒を抱き上げた。

 押し黙っている彼女は、恥ずかし気にその顔を真っ赤に染め上げている。

 その一方で、引き締まった肢体の中で豊かに育った胸が寄せられ僅かに形を歪めながら艶めかしく自己主張をしていた。

 そんなたわわな果実を至近で視界に収めながら、しかし一夏の表情はとても涼しげだった。

 

「………なあ、妙に反応が薄すぎないか」

 

 意識している様子の全く見えない一夏に、箒が思わず尋ねる。

 いやらしい視線を向けられたいわけでは決してないのだが、かといって全くの無反応だとそれはそれで納得のいかない複雑な乙女心だ。

 一方の一夏といえば、やはり表情を変えないまま淡々と答える。

 

「ISを使ってる間は意識を切替えるようにしているからな。

 正直、いちいち反応していたらきりがない」

「そういう、ものか」

 

 医者などが若い異性相手でも顔色を変えずに診断するようなものかもしれない。

 箒がなんとなくそんな感想を抱いている間に、打鉄の前へと到着した。

 もとより数歩もない距離なので当たり前のことであるが。

 

「よし、降ろすぞ」

「あ、ああ」

 

 内心名残惜しさを感じつつも、それを努めて表に出さないように振る舞う箒。

 ややあって装着を終え、一夏と目線を同じくする。

 

「違和感はあるか?」

「い、いや。 問題ない」

「そうか。 ……そうだ、箒」

「な、なんだ?」

 

 呼び止められ、意味もなくドキリとする箒。

 そんな乙女の胸の高鳴りを知ってか知らずか、一夏は常と変わらぬ表情で言う。

 

「シャルとラウラのちょっとした親睦会でもと思ったんだが、昼は空いてるか?」

 

 期待した方向とは多少違ってはいたが。

 一も二もなく、箒が承諾したのは言うまでもない。

 

 

 






 えー、時間かけた割に内容が薄くてすいません。
 当初は箒と長々と会話してたら千冬さんがキレて『片付けorランニングか選べ』とかいうお仕置き選択コースとか、親睦会云々言わなくて期待させた挙句『こんなことだろうとおもったよ』的な朴念仁ムーブとかも考えてたんですが、千冬さんがキレすぎなのもどうよとか一夏が原作と変わらない感じがするとかで結局ボツに。
 ……これはこれで毒気がなさ過ぎたかなとも思い、塩梅とは難しいと思う今日この頃。

 あと、新作オリジナルがキリのいいところまで書けましたので、近いうちにこちらと小説家になろう様のほうで同時に上げていこうかと。
 タイトルは『赤ずきんたちとオオカミさんの絶望打破』(タイトルは変更する可能性もあります)。
 公開した時にはこちらも読んでいただけるとありがたいです。

 さて、次回の更新は未定ですが、お昼ごはんののお話です。
 まだ手を付けてませんが、セッシーに未来はあるのか。
 ……でも原作11巻のデートだとなんか普通に弁当作ってきてたよね、セッシー。

 それはさておき。
 今回はこの辺で。

 追伸:これ書いて更新した日は夜に出勤して翌日に帰ってくる予定。
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