インフィニット・ストラトス~シロイキセキ~   作:樹影

5 / 47
2:試験開始

 

 それから数十分後、一夏は控室とアリーナを繋ぐゲートに立っていた。

 その身には既にIS……打鉄を纏っている。

 

 通常の実技試験なら近接用ブレードなど試験官と同じ武装をあらかじめセッティングされた上で行われる。

 敢えて例外を上げるならばすでに専用機を持っていてそれを使用する者くらいか。

 これは学園を受験する殆どの者がISを動かした経験がないためである。

 言ってしまえば実技試験とはIS学園への入学がほぼ決まった者が入学前の時点でどれだけの適性があるかを図るだけのものであると言っていい。

 なので、この試験で不合格になり入学できないという者はまずいない。

 

 しかし、今回の一夏に限っては真耶や楯無との会話でもあったように少々毛色が違っていた。

 これで不合格になることはまずないというのは同じであるが、内容の自由度が違う。

 武装が固定ではなく、事前に提示されたリストから自由に選択できる形になったのだ。

 これは一夏のIS操縦経験が豊富であるから……ではない。

 事実、ISを動かした経験のある他の受験者も、専用機持ちでない限りは経験の多い少ないに限らず他の受験生と同じ扱いである。

 ならなぜ一夏は別の形になったのか。

 それは言わずもがな『一夏が特別である』からに他ならない。

 

 世界で唯一の男性の適合者。

 そのため、この日まで入学のための教育を座学実技問わず積まされてきた。

 つまりこの試験はその成果の一端を示す場でもあるのだ。

 

 それを証明するかのように、ただの試験であるはずの場で観客席にいくつかの人影が見える。

 目を凝らせば日本人に限らず多彩な国籍の面々がまばらに固まっているのが解る。

 恐らくはIS関係の企業や研究機関、軍や政府筋の者たちだろう。

 その反面、マスコミ関係はもちろん学園の在校生の姿も見えない。

 それが意味することは、この試験の内容は極秘であり同時にこの場にいるのはそれを見ることを許されたある種のVIPであるということだ。

 と、そのVIPの中に見覚えのある男の姿を見つけた。

 

「フーさん……」

 

 ついこの間まで、共にアメリカにいた知己だ。

 周りに何人か同僚らしきものがいることから、こちらも仕事できたのだろう。

 

 その時、対面のゲートから人影が出てくるのが見えた。

 自分と同じく、打鉄を纏った少女……今回の試験官だ。

 

「更識、楯無……」

 

 先ほど会ったばかりの少女の名を、ポツリと呟く。

 一夏は彼女の名を知っていたし、彼女の肩書がどういう意味を示すかも理解していた。

 

 ロシアの国家代表。

 自由国籍という形で、他国の代表を担うほどの実力者。

 そしてIS学園の生徒会長……それがどんな意味を持つのか、彼は正しく理解していた。

 

「―――【学園最強】、か」

 

 呟くその先で、頂に立つ少女がアリーナの中心付近でゆっくりと止まる。

 それを見て、一夏もまた気を引き締めてゲートを潜った。

 

 途端に、周囲がざわめく。

 多くはない観客でも、静寂を破るには充分だったようだ。

 そして楯無と対峙するまでは大した時間もかからない。

 

「準備はいいみたいね、織斑くん」

「そのつもりです」

 

 一応は目上であるため、敬語を使う。

 対して、何故か目の前の少女は一瞬不満げに眉を歪めてから、

 

「そうだ、ちょっと提案があるんだけど」

 

 一転して笑顔になって、とても嫌な予感がすることを言ってきた。

 一夏は今までの“留学”で様々な人物と巡り会ってきた。

 その中には楯無と比較的似た雰囲気の人物もいた。

 そしてそんなタイプの人物がこういう顔をしたとき、あまり良いことが起きたためしはない。

 

「なんでしょうか?」

「そんな嫌そうな顔しないでよ、お姉さん傷付いちゃう」

 

 無表情を貫いたつもりだったが、隠しきれなかったか。

 或いは、この少女が鋭すぎるだけなのかもしれない。

 楯無は「難しいことじゃないわ」と前置いて、

 

「この模擬戦で敗けたほうが勝った方の言うことを何でも一つだけ聞く……それだけよ」

「………いいんですか? 試験官がそんなこと」

「良いのよ、今は私がルール! それに無茶なことを言うつもりはないわ」

 

 すでにその主張が無茶な気もするが、言っても無駄な気がしたので口を噤む。

 しかし、次の言葉にはさすがに黙っていることはできなかった。

 

「それとも、負け確定だからやりたくない?」

「―――吐いた唾、飲ませませんよ」

 

 静かに闘争心を瞳に宿らせる一夏に、楯無は「上等!」と嬉しげに楽しげににっこり笑う。

 と、そこでスピーカーがザ、と音を立てて起動する。

 

『ではこれより、織斑一夏くんの実技試験を開始します。

 両者、準備を』

 

 通信でないのは観客席にいる面々のためか

 機械越しの真耶の声に、対峙する二人は最初から手にしていたそれぞれの獲物を構える。

 楯無は両刃の穂先を持つシンプルな形状の槍を。

 一夏は日本刀型の近接ブレードを。

 

 武器だけで見るならば槍である楯無の方が有利に見えるが、これはISでの戦闘。

 この程度の近接武器の違いなど決定的な差にはならない。

 纏っているのも同じ量産型第二世代の打鉄。

 故に勝敗を分ける要素はたった一つ。

 どちらがよりISを使いこなし、己の戦闘技術を十全以上に引き出せるかだ。

 

 ブ、と短い音が響く。

 カウントダウンだ。

 

 ブ、と再び鳴る。

 誰かが、硬い唾を飲み込んだ。

 

 ブ、三度鳴る。

 既に観客席の人間で声を発するものはいない。

 

 そして。

 ブゥーッ!!!、というブザーと共に、対峙していた真正面から二人が激突した。

 

 まずは剣戟が三連。

 文字通り火花散らす刃金の衝突。

 その結果―――あまりにもあっけなく、一夏の刃が弾き飛ばされた。

 

 

 

***

 

 

 

 二撃目を弾きあった勢いからの、遠心力も利用した下からの掬い上げるような振り上げ。

 可能なら武器を弾き飛ばせればいいと思って放った一撃が、期待以上に期待通りとなった現実に、楯無が呆けるように意識に空白ができたのはほんの一瞬。

 だが、その一瞬こそ一夏の狙い。

 

「フッ……!!」

 

 呼気も短く、その身が独楽のような回転を以って旋回し、瞬時に相手の後ろに回り込む。

 右手は空のまま、硬く握りしめられている。

 ISはそれ自体が鋼鉄の鎧、ゆえに当然ながら拳そのものが文字通りの凶器だ。

 

 一夏は鋼で作られた竜巻じみた挙動を以ってして、楯無の背に痛恨の一打を放ち―――

 

 

 

 ―――ゴィン……という、その勢いからは考えられないほどに気の抜けた音を鳴らすに留まった。

 

 

 

「っ!?」

 

 何が起きたのかといえば、簡単な話だ。

 楯無が振り上げた勢いのまま槍を背に回し、その長い柄で鉄拳を受け止めたのだ。

 

 先ほどとは逆に、自身が呆けることになった一夏。

 その視線が、肩越しに楯無のそれと重なる。

 

「―――うん、ざぁんねんでした」

 

 背が粟立つと同時、一夏は全速で後退しながら左手に現出させていたIS用のハンドガンを楯無に向けて発砲する。

 それを彼女は殊更にわざとらしく、おどけるように慌てながら或いは避け、或いは槍で弾く。

 

 本来は打撃直後の追撃として用いるはずだったものを、牽制として使いながら一夏は思考を走らせる。

 

(今の一撃、手応えが殆どなかった)

 

 霞を殴ったかのよう、と言うほどではないがそれでも金属同士の衝突とは思えないほどに肩を透かされる結果となった。

 ただ単に長柄を防御として使ったならこうはならない。

 一夏はその絡繰りを大凡で見抜き、その事実に戦慄する。

 

(柄を盾にして受け止めた瞬間、手首や肘、肩、或いは膝などの足の関節すらも利用して衝撃を吸収した……!!)

 

 例えば上に放り投げたボールを受け止めるとしよう。

 身を固くして手指の関節が完全に固定されていた場合、ボールは弾かれてしまう可能性が高い。

 逆に落ちてくる勢いに合わせて受け止めた腕や体を動かせば取りこぼす心配は少なくなる。

 単純に言ってしまえば、自分の体を壁にするかクッションにするかの違いだ。

 

 楯無はこれと同じ理屈で一夏の打撃を受け止めた。

 槍の柄で、しかも背面からの攻撃を、だ。

 

 ISの操縦において、飛行などはともかく手足の挙動などは当然ながらIS操縦技術の巧さと本人の技量に直結する。

 四肢や手指の動きの精密さは言うに及ばず。

 ISは基本的に操縦者の意志によって動かされるため、操縦者が生身でできないような動きを再現するのは難しい。

 無論、新体操やアクロバットのような動きならばパワーアシストやスラスターなどを利用すれば可能だろう。

 先のような打撃を受け止める動きだって、プログラムで管制すれば不可能ではないかもしれない。

 だが前者はともかく後者の場合は非常に自由度が低くなり、それならば普通に防御する方が合理的という話になる。

 つまり、先の攻防における楯無の動きはその全てが彼女の実力の賜物であるということだ。

 

 それらの事実が示すことはただ一つ。

 ISでも生身でも、更識 楯無は織斑 一夏を凌駕している。

 故に、この勝負の勝敗は既に決して―――

 

(―――否、まだだ)

 

 一夏の闘争心に陰りはない。

 元より最強を冠する相手、その程度は当然だろう。

 それを逆に制してこその闘争。

 大物喰らい(ジャイアントキリング)に挑む気迫もないならば立ち上がる資格などどこにもない。

 なにより、こんな入り口未満の場所で相手が己より強いからと簡単に膝を屈するような者にいったい何が成し遂げられる。

 

 これが他の武道の試合なら勝てなかったろう。

 異種格闘でも生身同士だったら太刀打ちできなかったかもしれない。

 

(だが、これはISでの戦い。

 一つ二つの要素で負けようとも、それ以外で相手を下せばいい!!)

 

 決意も新たに、右手に二丁目のハンドガンを呼び出して構える。

 

「隙ありぃ」

 

 瞬間、試験が始まった時と同じくらいの至近距離でそんな声を囁かれた。

 

 

 




 というわけでVS楯無戦。

 ちなみに試験での使用ISの武装が試験官と同じのをセッティングとかは独自解釈。
 あと、実技試験自体では不合格はまず出ないっていうのも独自解釈。
 だってそうしないと未経験者はまず合格できないですよね?
 たぶん、よっぽど下手打たないと実技の方では不合格出さないんじゃないかなと予想。
 ……あれ、原作で一夏の相手した山田先生って(汗)

 実技試験で専用機持ちが専用機使うってのも以下同文。
 だってそうじゃないとさすがにセシリアさん山田先生に勝てない気が(酷い風評被害)

 なのでこの作品では入学前の実技試験ではあくまでどの程度の適性があるのか&専用機持ちがどんな動きをするのかをチャックする程度って解釈でお送りします。

 それでは、書き溜めはまだあるのでまた明日。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。