進撃の狩人   作:jack pow

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あげる方間違えて顔真っ赤wwww


ごめんなさい


第二話

 俺がハンターになって二週間が経過していた。

 クリスさんは相変わらず俺のことを心配そうに送り出してくれる。そして、俺が大した怪我もなく無事に帰ってくるのを見て、ほっと安堵の息を吐くのだ。

 

 俺はジャギィどものボス、ドスジャギィを危なげなく狩れるようになった。

 ドスジャギィはジャギィを二回りくらい大きくした巨大なエリマキトカゲで、派手な体当たりにさえ気を付けておけば余裕を持って倒せる相手だ。問題は周囲にいるジャギィだが、立体起動装置があるのでそこまで大した邪魔にはならない。

 

 ――まあそんな訳で、そろそろ次の大型モンスターに挑戦することにした。

 青熊獣アオアシラ、という奴である。

 こいつは名前の通り、大型の青い熊だ。恐らくではあるが、苦戦はしない……と、思う。

 前回のクエストに行く前に一覧の中にあったから、多分まだ残っているはずだ。ユクモ村は小さい村なので、ハンターの数も少ないのである。

 

 と、いうことで。

 今日も立体機動装置の整備を済ませた後、ギルドに入ってクリスさんの所に一直線。

 

「「アオアシラの狩猟クエスト、登録お願いします」」

 

 見事に声が被った。ぴったりのタイミングである。

 既にギルド内に居た他のハンターが別の方向から来ていたらしい。全く気付かなかった。

 

「――なんだ、あんたか」

 

 つい言ってしまった。

 俺の真横に居るのは俺がギルドに登録する際に説教をかましてくれた女ハンターである。

 形のいい眉が凄い勢いで吊り上がった。

 僅かに赤み混じった虹彩で俺のことを睨みつける。

 前回見た時はハンターシリーズだったのが、何時の間にやらジャギィシリーズに変わっている。こいつ、俺と同じ理由でアオアシラに挑もうと思ってるな?

 

「それはこっちの台詞よ。悪いけど、アオアシラの討伐は譲れないわ」

「それは俺もだ」

「私のほうが先輩なんだから、譲りなさい」

「そんなことは関係ないだろうよ」

 

 む、と視線をぶつけ合う。

 睨みあったまま数秒が経過し――口火を切ったのは、横で見ていたクリスさんだった。

 

「一緒に行けばいいんじゃないですか?」

「「却下」」

 

 ……一応言い訳をしておくと、俺が却下したのは別に彼女と一緒にクエストに出るのが嫌だからではない。自分の戦闘技術を上げるのには、一人でモンスターを狩った方が得られる経験値が多いと思ったからだ。

 まあ恐らく、この少女は普通に俺が嫌なだけなのだろうが。

 

「……何よ」

「何でも」

 

 何を思うでもなく見ていた俺の視線に敏感に反応する少女。――字面だけ見るとエロいな。

 

「ごほん。……とりあえず、俺は誰かと組むつもりはないので」

「私もよ」

 

 不毛な睨み合いが再開する。

 直ぐに舌鋒の交し合いに発展し、それも平行線になってきたころ、クリスさんが呆れたようにぱんぱんと手を鳴らした。

 

「そこまでです。まだ続くようならギルドの外でやってください。――その間にクエストを他の人にとられても知りませんが」

「ぐっ……」

「む……」

 

 ――已むを得まい。

 俺は大きく溜息を吐いて、ねめつけるように少女を見た。

 

「……今回だけだ」

「……当たり前でしょうが」

 

 とまあ、そういう次第で一緒に狩りをすることと相成った。

 クリス姉さんが満面の笑みでクエスト用紙を出してくる。

 

 少女が先にサインを書いた。名を見ると『ネル・レグルス』と書いてある。

 レグルス……というと、村で唯一の医師、レグルス先生の一人娘か。そういえば『娘はハンターを目指している』と言っていたか。良く見れば目元が若干似ているような気がしないことも無い。要するにあんまり似てない。

 俺は怪我をしたときに、先生に何度か世話になっている。とはいえ向こうから俺の家に来てもらうことが多かったので、娘である彼女とは面識がなかったのだ。

 

 その横に連名で『エルディッチ・グレイディ』と書き込む。それを見て、彼女も少し意外そうな顔をしていた。父親から話を聞いたことがあるらしい。

 

「……オトモを連れて行こう」

 

 クエストの場所である孤島まで、片道およそ五日。その間、そりの合わない相手と二人きりというのは中々辛いものがある。

 最近になってハンターズギルドのルールが変わり、クエストを請けるのが二人以下であればオトモアイルーを連れて行くことが出来るようになったのだ。

 

 

 ――と、いうことで。書類は一旦クリスさんに預かってもらい、俺達は各々の家へと戻った。

 

「おうい、ドタンバ」

「はいニャ?」

 

 部屋の中で雑誌『狩りに生きる』を読んでいた――『今週のセクシー猫』のコーナー――俺のオトモアイルー、ぶち柄黒毛の二足歩行猫が、飛び上がるようにやってきた。

 

「喜べ、狩りだ」

「えー……ニャ」

 

 がっくりとそのなで肩を落とす。どうやら家でぐだぐだしながらグラビアを眺めていたかったようである。このエロニートめ。

 

「ほれ、早くしろ。十分後に出発だ」

「了解だニャー……」

 

 えっちらおっちらとダルそうに準備を始めるドタンバ。こんな奴を雇ったことを後悔しながら、俺はそれを眺めていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ――遂に孤島へ到着しました。

 竜車と船を乗り継いで片道およそ五日。

 その間は水浴びも不定期になるので体臭が気になるのだが、何故だろうか、俺の隣に居る少女からはそんな臭いはしてこない。

 女の子万歳、と内心で感嘆しつつ、俺は大きく背伸びをする。

 

「なあ」

 

 俺がかけた声に、ネルは振り返って訝しげに首を傾げた。

 

「何よ」

「一緒に狩りをすることにはなったが、別に無理に連携を取る必要もないだろう。ここからは別行動にしないか」

 

 我ながらどうかと思う質問だが、そうした方がお互いの為だろうと考えてのものである。実際、いがみあったままで協力など出来よう筈もない。

 だが、ネルは俺をちらりと見てから首を振った。

 

「駄目よ。獲物を横取りされるのも、するのも――それで無駄ないさかいを起こすのも御免だわ」

 

 む。

 もっともすぎる言い分に、俺は口をつぐんだ。とはいえ俺の言ったことが間違っているとは思わない。

 少し考えた末に、俺はネルの背中にある巨大な剣を見ながら口を開いた。

 

「分かった。なら分業だ。陽動は俺がやろう。あんたはその隙にそのでかいのを何発か叩き込めばいい」

 

 ――ネルは大剣使いである。背負っているのは『バスターソード』。スタンダードで扱い易い鋼鉄製の一品だ。

 立体機動装置というヒットアンドアウェイを基本とする武器を使う以上、俺は陽動に徹した方がいいだろう。

 

「なあなあご主人。あのアイルー、凄い別嬪さんだニャァ」

「……俺が知るか」

 

 横から駄猫が話しかけてくる。確かに向こうの猫――名前はみりんと言うらしい――は毛並みがいいし可愛らしい顔をしているが、俺は猫を恋愛対象として見るつもりはない。吐き捨ててやった。

 

「そう言うニャよ」

「うるせえ。蹴ってやろうか」

 

 蹴った。「ニ゛ャ!?」と悲鳴を上げてひっくり返るドタンバを無視。顔を上げると、ネルがこちらを蔑んだ目で見ていた。ちょっと興奮したのは秘密である。

 

 

 

「よし……俺は準備できたぞ」

「私もよ。――それじゃ、行きましょうか」

 

 二人揃ってエリアを移動。アオアシラは確か……エリア2で待機していれば出会えたはずだ。

 竜車の中の疲れが少し残っているので、歩きながら移動する。アプトノスは無理に狩る必要も無いのでスルー。

 

「……ハンターには、いつから?」

「……二月前くらい」

 

 ぶっきらぼうながら、返事は来る。大体俺より一月半先輩なのか。

 理由を聞こうとして、やめる。少し迷ってから、別の質問を口にした。

 

「武器はずっと大剣なのか?」

「一番最初、訓練を始めたときはランスだったわ。半年位して、教官が『お前、盾なんかまず使わないんだからもっと攻撃的なの使えよ』って」

「なら双剣だろ」

「あれは軽過ぎて使いにくいわ」

 

 ……一応、分厚い金属の塊だからそれ相応の重さはあるんだがね。どんな筋肉してるんだか。見た感じは華奢なのになぁ、と何を思うでもなく眺める。

 

「死になさい」

 

 ……誤解だ。

 

 

 

 ――とまあ、紆余曲折はあれどエリア2まではすぐにやって来られた。

 ……しかし周辺の様子を見ると、アンカーを刺すのに適した場所が殆ど無い。最初はアオアシラを岩壁の側に寄せることからか。幸い件のモンスターはまだ現れていないので、俺は周囲を観察しているネルに声をかけた。

 

「最初に、アオアシラを壁際に寄せたい。手伝ってくれ」

「何故?」

「俺の装備はちょっと特殊なんでな」

 

 太股の脇の箱を軽く叩く。

 訝しげに見てくる彼女だったが、すぐに軽く溜息を吐いた。

 

「分かったわ。端に寄せればいいのね?」

「ああ、頼む。ドタンバも、精々囮になってくれ」

「……酷いニャァ」

「みりん、カバーは任せたわよ」

「任されたニャ」

 

 ――そして、待機すること十五分程度。

 我々の居るエリア2へと、青い毛を持ったずんぐりした体型の熊が現れた。

 アオアシラ。緊張感から、自然と顔が強張るのを自覚した。柄型の射出装置に刃を取り付けた。

 

「……あそこの端だぞ」

「分かってるわよ」

 

 俺達は揃って指した方向へと走り出す。両腕を広げて威嚇のポーズをした熊が、俺達の方向へと愚直に突っ込んできた。朧げに存在するゲーム知識では随分とろとろ走っていたと覚えていたが、案外に速い。

 

「じゃあ、撹乱は任せろ」

 

 一応持ってきていた道具『角笛』を取り出す。

 口に咥えて息を吹き込めば、澄んだ音色が響き渡る。数秒も吹けば、アオアシラの目線は俺に釘付けだった。

 再び突進。思っていたよりは速いとはいえ、冷静に見れば大した速度でもない。

 青い巨体が目の前に迫る。鋭いつめが付属した太い腕が振り上げられる。風切音に紛れて「ちょっ」と慌てる声が聞こえた瞬間に、俺は人差し指を握りこんだ。

 少しの抵抗。かちりと引き金が引かれ、俺の視線の先にある岩へとワイヤーが繋がる。

 巻き取り開始。使用されたガスが噴き出され、俺の身体はその岩に向かって一直線に進みだす。アオアシラの攻撃は空を切った。首をぐるりと巡らせて俺のことを視線で追ってくる。その先で、俺は悠々と岩壁に着地し、そいつに向かって怒鳴って見せた。

 

「おら、こっちだ!」

 

 アンカーを岩に突き刺したまま、俺は岩壁を横ばいに走り出す。

 

「な――」

 

 ネルが俺をぽかんと見ているのが視界に入った。

 ――動け! ほれっ、隙だらけだぞ!

 俺の念が届いたのか、俺の後を追う熊を更に追った。奴の弱点――尻の目の前で、抜刀斬り。

 ああ、あれじゃ切れ痔になっちゃう……。

 ……冗談はともかく、熊は尻から盛大に血を噴出した。急に衝撃に前方に転がって瞬間だけ悶える。その隙にアイルー二匹が手に持った細い武器で袋叩きに。プラスチックのバットで殴るような『ぽかすか』という効果音が聞こえた気がしたが、それでも少しは怪我を負わせられたらしい。あいつら本当なんで居るんだろうね。話し相手やら立体機動装置の整備係としては優秀だが、ぶっちゃけた話、あまり戦闘には役立たない。

 ……世の中には罠を仕掛けたり、タル爆弾で攻撃するようなオトモも居るそうだが、生憎とうちのドタンバはただのニート猫なのである。

 そんなことを考えながらも、俺はネルに向かって怒鳴る。

 

「すぐに起き上がるぞ! 今度はあんたに攻撃してくるはずだから、一回だけなんとか避けてくれ!」

「お安い御用」

 

 言葉通り、剣を納めた彼女は、立ち上がった熊が振るった爪を紙一重で華麗に避けて見せた。ひゅう、と口笛を鳴らしつつ、俺は反対の端に向けてアンカーを放った。

 遠い。が、辛うじて届いた。

 巻き取り開始。高速で飛行、その熊の上を通過しざまに斬りつけた。背中の肉をごっそりと貰って行く。俺の後方で血が噴き上がった。ビチャ、と俺の背中に当たる。

 ああ、帰りの竜車の中で返り血を拭き取らないとな。巨人と違って、モンスターの血液はいつまで立っても蒸発してなくなったりはしないのである。

 アオアシラは、ギャン、と哀れな悲鳴を上げて倒れこむ。その頭に、巨大な剣を振りかぶったネルの影が映りこんだ。

 

「よし――いけ!」

「言われるまでもない――わッ!」

 

 三つ分の溜め。赤い闘気を纏わせて、彼女はその鉄塊を振り下ろした。

 ぐちゃ、と嫌な破砕音。熊は頭蓋骨を見事に破壊され、血と脳漿を撒き散らして絶命した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「お疲れ様です。一緒にクエストを請けてみて、どうでした?」

「……まあ、悪くはなかったです」

「……ええ」

 

 格段にやり易かった。しかしそう素直に言うのもなんとなく癪なので、目を逸らしながらぼそりと言う。横から同意の声が上がった。

 しかし長年の付き合いであるクリスさんには全部お見通しのようで、彼女はにこにこと笑って二、三頷いた。まるで微笑ましい初心なカップルをみるような視線だ。やめて!

 

「はい、こちらが報酬です。今日はゆっくり休んでくださいね」

 

 頭を下げてギルドを出る。俺の後ろをとことこと付いてきたドタンバは鼻の下を伸ばしてみりんに手を振っていた。

 

「見たかニャ!? 見たかニャ!? 振り返されたニャ!!」

「ニャーニャーニャーニャーうるせえ」

「アイデンティティがッ!?」

「言わなくても大丈夫じゃねえか」

「ニャ!」

 

 いらっ。蹴った。

 ひっくり返る猫を置いて自室に入る。装備を外して軽く汗を拭き、ベッドに寝転んで俺は天井を見上げた。

 ――他人と一緒に狩りをするのも、たまにはいいかもな。

 息抜きをしたいときにでも、ネルを誘ってみよう。俺はそんなことを考えながら、狩りと竜車の揺れによる疲れから来る睡魔に身を任せたのだった。

 

 

 ……ちなみに。

 この日を境にドタンバとみりんがちょくちょく二匹で会う仲になったというエピソードがあるのだが、これは完全に、余談である。

 

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