新一「ふーん。まあいいや
お前頑丈そうだし、暇つぶしにいたぶって遊ぶには良さそうだしな」
相手してやるよ、相変わらずの上から目線な言葉に俺は喉まででかかった言葉を飲み込んで悔しさで震える拳を強く握った
ここで、俺が彼に対しなんと言おうとそれはただの言い訳にしかならない
だからといって、ここまで言われて
「はいそうですか」で帰るわけにも行かない。
己のプライドの為にもここで俺の強さを証明しなければならないそんな使命感とも似つかぬ感情が俺の中で渦巻いていた
アゲハ「けっ。そんなこと言ってられんのも今の内だからな!」
そんな強がりとも言えぬ虚勢を張って俺は気合を入れるため両手で頬を叩く。手の跡が残るほど強く叩いたせいか頬がじんわりと痛む
新一「へえ。じゃあ、期待してるぜ」
冷ややかな能面のようなゾッとする冷笑的な薄笑いを口元に浮かべる彼に、言い知れぬ恐怖がつま先から頭のてっぺんにかけ雷が落ちたようにゾクゾクと身体を震わせた
新一「さてと、ここで遊んでたらあいつにバレるからな。いいとこに連れて行ってやる、こっちだついて来い」
そう言って、手招きをする彼の後に続いて地下に続く階段を降りていく。蝋燭で灯された廊下には俺達だけの足音が響き一層不気味さを醸し出していた
時間にして約10分程度だろうか、体感としてはもっと長く歩いたような俺は目の前を歩く彼の背中を見ながらそんなことを思っていた
新一「さあ、着いたぞ。ここだ」
アンティーク調の扉を開くと、体育館くらいの大きさの部屋があった
壁は一面白で統一され床と天井は黒で統一された白黒の部屋で特に変わったところは見られない
壁には何かのスイッチだろうか?色とりどりのボタンがある
そしてそこには「触ったら殺す」と書かれた壁紙がされている
アゲハ「触ったら殺すってどんだけだよ
……いや、でもちょっとくらいならバレないよな?」
学校なんかにもある非常ボタンあれなんかと同じで触っちゃダメなものほど触れたくなる定義っての?ちょっとだけなら大丈夫だよな?ちょっとだけだから、ちょっとだけ
───そう、手を伸ばしボタンに触れようとした時
新一「おい、何やってる」
アゲハ「くぁwせdrftgyふじこlp?!
び、びっくりしたー。あ、いやこのボタン何かなーって…あはは」
思わず変な叫び声をあげてしまった
触れかけた手を強引に頭にもっていき後頭部を掻く仕草をしながら引き攣った笑みを浮かべる
というか、コイツいつの間に俺の背後に…?肩に手を乗せられるまで一切気配を感じられなかった
新一「…ふーん。まあいいや
ここの地下室は防音防災防水仕様だからどんなに暴れまわっても誰にもバレないし迷惑もかけない。便利だろ?」
アゲハ「へ、へえー、そうなんだー」
危なかった…、バレてないのか?
いたずらがバレた子供のように心臓がバクバクと脈打つ、俺は自分自身を落ち着かせるため大きく深呼吸をする
新一「あ、そうだ。
今回は許してやるが、次はないぞ」
あ、これ完璧バレてるやつ
俺は首がもげそうなくらいに振るだけで精一杯だった
新一「じゃ、さっそく殺ろうか」
ん?あっれぇ?今「やる」が「殺る」になってなかった?なってたよね?!途中まででかかった言葉を飲み込み心の中でツッコミをいれる
彼は慣れた手つきでボタンを押すと白黒の部屋からいっぺん廃墟の世界が広がる
アゲハ「…ここは」
間違いない、この景色これは俺達が初めて彼とあった場所である
新一・アゲハ「「サイレン世界」」
二人の言葉が重なり、様々な感情が交差する
このドキドキと高鳴る胸はなんだろう
恐怖?緊張?いや違うもっとこう…。
例えるなら、遠足に行く前のあのドキドキ感あれだ。なんとも言えぬ昂揚感に身体がソワソワしだす
俺より強い相手と今こうして戦えるという事がとてつもなく嬉しいんだ。自然と頬が緩んでいるのが自分でもわかった
新一「ルールは簡単、お前が俺にかすり傷一つでもつけたら認めてやる。な、簡単だろ?」
かすり傷一つって、随分とまあ俺も舐められたものだ。今に見てろその余裕ぶった表情を崩してやる
アゲハ「いいぜ、あとから文句言っても遅えからな!」
新一「ククッ、お前は精々死なねぇ努力でもしてるんだな」
─────戦いが始まった。
ふう、と大きく深呼吸をして軽くジャンプする
緊張してるのか?俺は震える手のひらを見ながら自嘲気味に笑う
新一「ふあ…ぁ、んんー」
だらしのない声が聞こえ顔を上げればポケットに手を突っ込みながら大きな欠伸をし屈伸をしたり伸びをしたりする新一さんの姿が視界に映る
アゲハ「チッ、余裕ぶりやがって」
苛立たしげに舌打ちをし悪態をつく
気持ちを落ち着かせるように息をゆっくりと吐いて首をポキポキと左右に鳴らし全ての力を身体から抜くようにだらりと手をぶら下げる
アゲハ「落ち着け、俺。
怒りに任せて動いても勝ち目はない」
相手がどんな武器や力を持ってるか情報がない上で突っ込むのは危険だ。でもそれは彼も同じこと。
この勝負最初の一手で決まると言っても過言ではないだろう
((ならば、相手より一分一秒早く動きだすだけ))
空気が一瞬にして変わった。
俺と彼が動き出したのはほぼ同時
空気を踏みつけるように加速し真正面から
黒い鎌を片手に攻撃を仕掛けてくる彼に俺はニヤリと含み笑いをする…
アゲハ「全てを貫け。
暴王の流星(メルゼズ・ランス)」
出し惜しみなんてしてられない最初から全力で行かせてもらう!
黒い稲光のようなものが両手で禍々しく蠢き暴王の月を小型化し、高速度で標的を貫く
が、彼は最初から攻撃がくる事を知っていたかのように攻撃を淡々と避ける
アゲハ「だが、それも予想してたこと」
パチンと指を鳴らすと流星もまた彼を追うように方向を変える
新一「チッ、しつけーな」
しつこいだろ?何度撒いても意味はないぜ。
アンタを仕留めるまでそれはずっとつきまとう
だが、それは囮であって本来の攻撃はここからだ!
アゲハ「暴王・円盤Ver(メルゼズ・ディスクバージョン)」
ハンドボールくらいの大きさで濃縮されたそれを無差別に攻撃していく。円盤状に飛んでいくそれに彼は一瞬ギョッとしたような表情をする
新一「ッおいおい
まさかコイツ俺のPSIを喰ってやがんのか!」
彼のPSIを吸収・膨張し更に攻撃力を増す
最初はハンドボール程の大きさだったものが今ではその10倍20倍いやそれ以上に大きくなっている
新一「…ククッ、これは面白い。だが、まだ甘いな…」
くるりと方向変換して、後ろを執拗に追跡 していた流星を手に持っている黒い鎌ではなくあろうことか蹴り一つで消滅させる
アゲハ「……は?」
素っ頓狂な声をだし目の前の光景に開いた口が塞がらない。飛ばすとか壊すではなく消滅させやがった?!そして、円盤状に飛んでくる攻撃は黒い鎌で斬って同じく消滅させる
新一「脆いな、豆腐でも斬ったみてぇだ」
アゲハ「と、豆腐?!」
あんの野郎!!ふざけやがって!!
いや、でも最初からわかってたことだ
こんな攻撃が効かないことくらい。今はそれがわかってよかった。もう少し上手い使い方をしたら目くらましくらいにはなるはずだ
アゲハ「ッ?!」
凄まじい衝撃が身体を襲った
爆風によってか攻撃によってかわからないが一瞬身体が浮いたかと思うと、吹き飛ばされるように壁にのめり込み床に倒れる
新一「余所見してるなんて、イケないなー」
遠くで彼の声を耳にしながら俺の頭には疑問ばかりが浮かんでは消えを繰り返していた。
防御が間に合わなかった、というか今俺に何が起こった?気付いた時には何かの力によって吹き飛ばされ今のような状態になっていた
アゲハ「ゲホ、ゲホゲホッ、っはあ、はあ、ぁ…っくそ」
立ち上がろうと身体を動かすが、その瞬間まるで稲妻でも走ったかのように痛みが全身を駆け抜けあまりの激痛に顔が歪んだ
横腹を抑えながら壁をつたうように立ち上がり
震える足でしっかりと地面を踏みしめ、ねっとりと滲み出るような汗がふきだし熱の篭った身体は急激に冷やされ吐き気をもよおす
吐き気をもよおすと言っても実際に吐くわけではない。甘いものを食べすぎた時の胃もたれ感や熱中症になる前の初期症状みたいな感じであのなんとも言えない気持ち悪さがあった
新一「へえ、やっぱお前タフだな
二割程度しかまだ出してねぇけど普通の奴なら全身の骨が折れ て重症なのに」
アゲハ「…いや、それ死ぬ奴でしょ」
てか、さっきの攻撃で二割程度だとしたらそれ以上になると…いや、やめとこう。想像したら恐ろしくなってきた
新一「あ?死ぬわけねぇだろ、そんな怪我くらいで」
いや、軽っ!軽いなこの人!
「そんなかすり傷程度で死ぬかよ」くらいのテンションで言うけどそれはアンタだから死なないわけで俺達みたいな一般人はそんな攻撃受けたら死ぬからね?!バカなのこの人?!
新一「まあ、細かい事は気にするなよ
さあ、おしゃべりタイムはここまで
ここからが本番だぜ?俺を楽しませてくれよ~
ア ゲ ハ く ん」
語尾に音符がつきそうな口調に「ひぃ」と俺は思わず悲鳴を上げた。足の先からてっぺんにかけ、ぶわゎと鳥肌がたつのがわかる。そんな俺を面白がるように彼はニタニタとした気味の悪い笑みを浮かべ楽しそうに笑っていた
再び戦いが始まった
二人を一瞬の静寂が包む
───そして、二人の視線が絡み合った時
アゲハ「ッ!!」
コンマ一秒にもみたない、瞬きをするその一瞬で一気に間合いに詰め寄られ壁に吹き飛ばされる。バランスを崩しながらも彼を視線に捉えながら
アゲハ「暴王・円盤Ver(メルゼズ・ディスクバージョン)」
新一「チッ。また、コレか」
一瞬でいい。少しの隙さえ作れれば…!!
地面に足をつけ戦闘態勢に入る拳を顎の前近くに
構え脇を締め目線は彼を捉え相手の一瞬の隙を狙う
───────今だ!!
彼の視線が一瞬背後を追跡していた攻撃へとうつる
その一瞬を見逃すことなく地面を力いっぱい蹴り間合いに入り
アゲハ「この近距離なら
流石のアンタでも避けきれねえだろ?
全てを貫け
暴王の流星(メルゼズ・ランス)」
彼も何をしてくるのか気付いたのだろう
「ッてめぇまさか?!」と声が上擦り見たこともない程の焦り顔で攻撃を避けようとするが、それよりも早く標的を射貫く。そう完全に射貫いた“はず”だった
新一「なーんて言うとでも思ったか?バーカ、甘いんだよっ…!」
彼を射貫く直前まるで蚊を叩くように攻撃を素手で払い落とし彼を射貫いていたと思った攻撃は既に消滅していた。
しまったと思い方向転換をするが何かに縛り付けられたようにその場から動けない
アゲハ「んだよこれ!なんで身体が…クソっ!!」
早く、早くこの場から逃げねえと
そう思うのに藻掻けば藻掻くほど
その見えない何かが絡み付いてくる
新一「あんまり暴れない方がいいぜ
てめぇの手足が千切れようが構いはしねえが
そうはなりたくないだろ?」
彼の表情はどこまでも冷たく無表情で言葉にもなんの感情も篭ってない。最初に会った時から感じていたが彼は雨宮に似ている
いやそれ以上に彼は「壊れている」その表現がぴったりだった…。
大人しくなった俺を見て先程までの無表情が嘘のように満足気に微笑み拘束を解く
アゲハ「…アンタ、サイレン世界にどれほどの時間いたんだ?」
疑問を言葉にして彼に問う
新一「それを聞いてどうする?
お前になんの関係もないだろ」
その言葉はまるで「俺に関わるな」そう言っているように聞こえた。慌てて謝罪の言葉を口にし再び二人を静寂が包む
その沈黙に耐え切れず俺はそっと隅っこに隔離されている雨宮達に視線をうつした。
心配そうにこちらを見る雨宮とカブトは口パクで俺に「大丈夫か?」と問う
それに俺も応える様に大丈夫だと親指をあげる
再び視線を彼にうつすと、彼もまた何か思いついたように雨宮達から俺に視線を戻しニヤリと口元を歪める
嫌な予感が頭をよぎる…まさか、そう思った時には既に彼の姿はなくかわりに雨宮達がいる場所から悲鳴があがった
アゲハ「…てめぇ、何のつもりだ」
激しい怒りが波のように全身に広がり地を這うような声で二人に手をかけようとしている彼に敵意をむける
新一「何って、なかなかお前が本気を出してくれないからさぁ…。
だから少しでも本気を出してもらうために、ね?
可哀想だけど、コイツ等を殺すんだよ」
仕方ないよね?と悪魔みたいな表情で嘲笑う彼はなんの躊躇もなく黒い鎌を振りかぶる
新一「…へえ。俺の攻撃を素手で止めるなんてね」
黒い鎌が振りかぶる直前、片手でその攻撃を受け止めあいた手で彼の腕を掴む。怒りで身体が震える。彼は少し驚いたようにそれでいてどこか楽しそうに呟く
アゲハ「…コイツ等に指一本触れてみろ、ブッ殺すぞ!」
吊り上がった両目は血走り般若のような形相で、憤怒に狂気めいた殺意が腹の底から沸々とわいてくる。掴んだ腕を引っ張るように手前によせ
アゲハ「これは、さっきのお返しだ」
そう、耳元で呟いて渾身の一撃を見舞いする
高く天井に飛ばされる彼に容赦なく攻撃を仕掛ける、明確な殺意をもって。
アゲハ「はぁ、はぁ、っ…はぁ、どうだ?少しは効いたか?」
地面に突っ伏す彼にいつでも攻撃できるように戦闘態勢に入りながら様子を伺う。すると、突然何かが壊れたかのように笑いはじめる
新一「ぷっ、ククッ、あっはははははははははははははははははははは!!! イイ、すごくイイ。これだよ、俺が求めていたのは!!最ッ高の気分だ」
…ちょっ、え、何コイツ。いきなり狂ったように笑い出して意味不明なこと言い出したけど、え、頭大丈夫か?変なとこでも打っていよいよおかしくなったか?なんて憐れむような目で見ればピタリと笑い声が止む
そして、何かに取り憑かれたようにゆらりと立ち上がり、すうっと白い息を吐いて天井を仰ぐ。
彼の纏う空気が一段と凶悪さを帯び黒い髪は白髪に死人のような青白い肌と全くの別人が姿を現す
コイツは…何だ?
今まで戦ってた「工藤 新一」であるのは確かなのだが
これじゃまるで黒い雨宮…。アビスみたいじゃないか、容姿は全くの別人だが雰囲気的は彼女とどこか似ている
得体のしれない恐怖が蛇が這いずるように足先から上に上に駆け上がって、深い深い闇へと誘う。その度に、俺の第六感が警報を鳴らす
コイツは、危険だと…
俺はもしかしたら、目覚めさせてはならない何かを呼び起こしてしまったのかもしれない
そんな後悔とも罪悪感ともとれない感情が心の奥底でぐるぐると渦巻いていた
アゲハsideend