「…………アツイ」
うだるような暑さに思わず声が出た。
季節は梅雨、例の如くこの鎮守府も雨に見舞われていた。
「あつい…」
雨は嫌いではない。雨の独特のあの匂いや雰囲気は、むしろ好きなくらいだ。
問題は湿気だ。体にまとわりつくあのジメッとした空気、何もしなくても体力を削られているような感覚に襲われる。というか実際削られてる。
「暑い…」
このままではいずれ小破、中破、として大破となってしまう。大切な一張羅がボロボロになってしまうのはどうにかして避けたい。…いや待てよ?ボロボロになった方が涼しくなっていいんじゃないか?新手のクールビスとして売り出せば案外……
「あぁちゅぅいぃ…」
「うるさいキモイ黙れ死ね。それが済んだら仕事しろこのクソ提督」
はいはい辛辣乙。ちなみにクソ提督って呼び方は曙専用だと思うんだけどその辺どうなんでしょうか叢雲さん。
「いやだって暑いんだもん。雨のせいで窓も開けれないし、湿度何パーセントよこの部屋」
「仕方ないでしょ、梅雨なんだから。そんな事より早く手を動かしなさい」
「無理。うちわを仰ぐ気力すら持っていかれました」
「そっちの手じゃないっての。アンタ、この調子じゃ本当に今日の仕事終わらないわよ」
それを3DSしながら言いますか。音を聞いた感じだとやってるゲームはニンテンドッグスとみた。なかなか可愛い趣味をしてらっしゃる。
「……ダメだ、マジで限界だ。どっか涼しい場所探しに行こう。このクソ暑い執務室はうんざりだ」
「ちょっとアンタ、仕事はどうするのよ⁉」
「いつから俺が仕事が終わっていないと錯覚していた?」
なん…だと…⁉と、お決まりのリアクションを取ってくれる叢雲。そういう所ほんと好き。
「終わってるなら言ってくれればいいのに…。で、目当ての場所はあるの?」
「取り敢えず間宮の所だな。あそこなら冷房も聞いてるだろうし、冷たい物も食べれて一石二鳥……って何、ついてくるの?」
「執務室に一人残っても何もする事ないし、どの道この雨じゃ出撃もできないんだから、別にいいでしょ?」
そう言って間宮で俺にスイーツを奢らせる算段ですね、分かります。女の子ってそういう所ズルいよね。
―――と、いう訳で間宮に着いたわけだが、
「何だこれ」
扉を開けて見えたのは人、人、人。テーブルは当然満席、挙句の果てにはわざわざシートを持参して床で寝転んでる奴もいやがる。
「大盛況みたいね」
「大盛況にも程があるだろ。仕方ない、とにかく場所を変えるぞ」
「あら、注意しなくていいの?」
「仮に俺が逆の立場なら、注意されても絶対聞かない。ならほっとくのがベストだ。悪いな、アイス買ってやれなくて」
「え?」
「ん?」
「…………………ああ、その手もあったわね」
畜生俺の被害妄想かよ!勝手に決めつけてごめんなさい!
それから少しして、俺は叢雲と共に廊下を歩いていた。
「それで、次はどこに行くの?この時間冷房がある場所と言えば、あと資料室くらいだけど」
「どうせそこも同じ状況だろ。となれば当然、穴場を狙いに行くわけだが…」
「行くわけだが、何?」
「……どっかいいとこ知らない?」
「ノープランかいアンタは!」
しょうがないじゃん、思いつくところないんだから。工廠は論外として、後思いつくのは保管庫か風呂ぐらいしか―――
「よし、叢雲。一緒に風呂入るか」
俺が言葉を言い終わって僅か0.02秒、凄まじい回し蹴りが俺の後頭部に炸裂した。
「――死にたいわけ?」
「死にたくないです。冗談ですごめんなさい」
まったく、俺じゃなかったら本当に死んでたぞ?ギャグ補正が効いて助かったぜ。
なんて事をして歩いていると、廊下の窓の前に立つ人影が一つ。あれは…
「む、何だ貴様か。叢雲も一緒じゃないか。二人揃ってどうしたんだ?」
でっかい響こと、ガングートさんだ。ちなみに改装は二回とも完了している。
「涼しい場所を探していてな。どこかいい所知らないか?」
「はっはっはっ!その様子だと、さてはマミヤの所に行っていたな。あそこはすでに満員だったろう」
「あら、アンタも間宮に行ってたの?」
「ああ。と言っても、私は先に入っていた方だがな。遅めの昼食をとっていたら、いつの間にかあの有様だ。早々に席を譲ったよ」
「なるほどな。で、お前は何してんの?こんな所で」
「ああ、それはな……っと、これだ」
ガングートは胸のポケットから白い塊を取り出す。ポケットから手を出した際にポヨンと揺れた双丘など私は見ていない。だからそんなに睨まないで叢雲さん。
「テーリーボーズをここに吊るそうと思ってな。ツーユーにはこれをするのが、ここの風習だと聞いてな。どうだ、いい出来だろう」
「ああとてもいい出来だ。だが俺に見込みだと実はもう一つあるんじゃないか?だからもう一度胸ポケットに手を入れて『バキッ‼』
二発目の回し蹴り。染みる、そして染みになる。
「? 叢雲、どうした。何をそんなに怒っている?」
「気にしないで。ただ罪人を裁いただけだから」
「そう…なのか…?」
「ところでガングート、これ誰から教えてもらった?」
きょとんとするガングートの前で俺氏華麗に復活。だてに残機は増やしてないぜ。
「あ、ああ。ちっこいのと、その姉妹達が教えてくれたんだ。気晴らし程度とはいえ、こういうのは風情があって、いいものだ」
ちっこいのというと、響達第六駆逐隊か。何にせよ、ここにもずいぶん馴染めたみたいだな。よかったよかった。
「ああ、そうだ。涼しい所を探してるんだったな。ならいい場所を知っている。ついてくるといい」
「マジか!やったぜ、スパシーバ!早速行こうぜ!」
それから数分後、ガングートについて行って到着したのは、
「…工廠か?」
「工廠ね…」
おいおいマジかよ、このロシアっ子ちゃん暑さで頭オーバーヒートしちゃったか?
なんて考えながらも、工廠に入っていたガングートの後を追って行く。様々な機材の横をすり抜けた先、廃材置き場のすぐ隣の扉の前で、ようやく足を止める。
「着いたぞ、ここだ」
「ここって…確かここの機材の資料室だったよな?」
「正確には元ね。今は確か、鎮守府で溢れ物の物置部屋になってたはずだけど…」
「まあそう考え込むな。入ってみたらわかるさ」
コンコン、とガングートが扉をノックすると、中から「はーい」と女性の声が聞こえてくる。あ、何だろう。俺この後の展開読めた気がする。
ガングートがドアノブを握り、扉を開く。そこにあったのは埃臭い物置などではなかった。中央にはお菓子の入った器の置かれたテーブル、座り心地のよさそうなソファー、奥には漫画や雑誌などが並べられた本棚、そして天井には清涼な空気を流し出すエアコン。そしてそこにいたのは――
「いらっしゃ~い、ガングートさ――ってげぇ⁉提督⁉」
やはり貴様か明石。
「え、うそ、提督⁉何で⁉」
ついでにお前もか夕張。ジュース零しそうになってんぞ。
――話を纏めるとだ。ここ梅雨の暑さに痺れを切らした明石が、夕張と共に元資料室を大改造。自分達だけの秘密のオアシスを作ってたって訳だ。
「で、でも!使った機材は全部工廠の余り物ですし、電気も自作の発電機で補ってるんです!だから経費とかは全く掛かっていません!」
「そうそう!これはいわゆるリサイクル、資源の有効活用なのよ!だから今回はどうかおとがめなしに……」
「するわけないでしょこのアホ共」
「「ですよねー…」」
正座をする二人に叢雲はにっごり笑いかける。このキレ具合、5段階評価を付けるとすると4の位置にあたる。
「すまない、まさか無断で部屋を改装していたものとは思わなかった。処罰を下すというなら、私にも同じようにしてくれ」
ちなみに、ガングートがここの存在を知ったのはつい3日前、工廠で作業をしていた時に偶然見つけたらしい。その時には明石に、この場所は工廠スタッフの専用の休憩所で、たまになら使ってくれて構わないと伝えられていたようだ。
「ガングートは悪くないわよ、このバカ二人がしでかした問題なんだから。で、提督。この二人どうする?」
「え?あ、処罰の事?許す許す、超許すよ」
「そうね、今回はゆる…ってはぁ⁉」
「ただし条件がある。俺もこの秘密のオアシスの住人に加えてくれ。そしたら今回の件は完全に免☆罪デス」
「どうぞどうぞ!ごゆっくり御寛ぎ下さい!」
「ジュースにお菓子、アイスもあるわよ!あとで感想聞かせてね!」
計 画 通 り
ん?何睨んでんのよ叢雲さん。だって涼しさは正義でしょ?明石の言う通り経費には問題出てなかったし、ダイジョブダッテ!
「そうだった、忘れてた。こいつこういう奴だった……」
「そう気を落とすな。同情はするがな」
こうして俺は当分、工廠の秘密部屋に入り浸るのでした。
ちなみに余談だが、俺がここにくる時は大抵先に叢雲が来てる。何だかんだ言ってお前も甘々ジャン?って言ったら殴られた。解せぬ。
閲覧ありがとうございます!
さあやってしまいました。他の作品をほっぽり出して新たな作品を投稿。しかし例の如く後悔はしていない。
こちらの作品はタイトル通り日常メインの話となります。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。それではまた次回!