箱庭の空   作:白黒yu-ki
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第六話 職業と能力

早朝の菌講座を終え、何とかヘンリーに解放された俺は早朝の散歩に出掛ける。菌については一般常識しか教えることができないが、それでもヘンリーにとっては…いや、この世界の住人にとっては新しい視点ともいえる。言い方を変えれば、今までの常識が覆るのだ。最初は信じてもらえないと思っていたことも、柔軟な思考をもつヘンリーはみるみるうちに知識を吸収していった。

今俺が着ている衣服はヘンリーから借りた物を着用している。昨日まで俺が着ていた服はこの町では目立ってしまうというヘンリーの案があったからだ。散歩に出たのは早朝講座の息抜きという意味合いも含まれているが、一番の目的はこの町の視察だった。自分がいた日本とどれだけ違う文化レベルなのか、それを見極めたかったのだ。

 

辺りを見渡すと、地元よりも栄えてはいるが、東京と比べることはできない。通る家の窓から屋内が見えるが、電化製品のような物は一切見かけなかった。町の中心と思しき場所には井戸があり、町の人たちはそこから生活に必要な水を確保していた。つまりは水道もないらしい。日本の都会生活に慣れてしまった自分としては、こちらの世界の生活は不便さを感じさせるが、それらが無い時代はこのような暮らしが常識だったはずだ。元の世界に戻るまでこちらが合わせるしかない。

 

不意に後ろを振り返ると、小さな女の子が慌てて建物の陰に隠れた。金髪の小さな女の子と言うと、この世界では俺にはティアしか思い当たる人物はいない。そちらをじっと見ていると、見つかってしまったのを察したのか、ティアはそっと建物の陰から出てきて駆け寄ってきた。

 

「おはよう、ティア」

「…おはよう、コウタロー」

 

世界は違っても挨拶はどこも共通なんだなと苦笑する。一瞬、そこで何か違和感を抱くがそれが何かは分からなかった。俺はティアを連れ、花が乱れ咲く花壇近くのベンチに腰をかけた。隣に座るティアを見ると、父親が亡くなった悲しみが多少なり和らいでいるように見える。しかしそんな簡単に切り替えることができるかという疑問が残った。昨日の今日である。しかしそれを切り出すのは地雷のような気がして、頭の中でモヤモヤとした感情を溜めてしまう。

 

「…お父さんとは…」

 

そんな事を考えていると、ティアの方からその話を振ってきた。

 

「まだ数ヶ月の関係だったけど、やっぱり良くしてくれた人が亡くなると悲しいな…」

「え?」

 

お父さんとの関係が数ヶ月と言われ、頭の理解が追いつかなかった。どういう意味なのか、俺はティアの続けられる言葉を待つ。

 

「私、元奴隷だったの。だけどお父さんが…あの人が私を買って、親子になろうって言ってくれて…嬉しかったな」

 

ティアと父親…正確には買い主になるのだろう。どのような出会いなのかは想像もできないし敢えて聞くこともしないが、この世界には奴隷制度がある事は理解した。かつて学校の授業で黒人奴隷のビデオを観せてもらったことがある。それは人種差別をしないという文化で育てられてきた自分たちにとっては衝撃的な内容だった。人が、人として扱ってもらえていないのだ。それはある種の消耗品ともいえる。世界には未だ黒人差別をする者もいると聞くが、肌の色が違うだけで彼らは自分たちと何ら変わらない人間なのだ。そんなことを思い出し、この世界に小さな不快感を抱いてしまった。

 

「お父さんが私を娘にしてくれて職業が『商人の娘』になったけど…きっとまた奴隷に戻る。だからそれまでにコウタローにちゃんとお礼を言いたかった。コウタロー、私を助けてくれて…お父さんを町まで連れてきてくれてありがと」

 

「いや、俺も必死だっただけで…ん? 商人の娘って…それは職業になるのか?」

 

また奴隷になってしまうのか、可哀想だな…と同情した瞬間に、思考がその前の単語を反芻させる。職業が商人の娘。それは身分のようなもので職業とは違うものだ。そんな俺の疑問に、ティアは不思議そうに首を傾げている。

 

「えっと…人は生まれた時から職業が決まってる。経験を積んで行けば転職はできるみたいだけど」

 

ティアはそう言って右手をかざす。すると半透明な画面が出現する。まるで魔法のような出来事に、俺は思わず身を乗り出していた。そこにはこう記されていた。

ーーーーー

ティア

職業:商€〆#奴隷

レベル:1

HP :10

MP :0

力 :6

体力 :8

素早さ:10

知識 :4

幸運 :1

 

スキル:なし

ーーーーー

 

まるでゲームのような画面だ。田舎である地元には近くにそういったゲームを売っている店は無く、幼馴染の優月が持っていたファミリーコンピュータのRPGのゲームをやらせてもらったことがある。それと似ているのだ。最初に名前、次に職業か。やや文字化けしているが、これが商人の娘から奴隷に職業が変えられている途中なのだろう。ステータスを見てもこの数値が高いのか低いのかも分からない。レベルが1なら弱いのは当たり前で、レベル1のステータスの平均が俺には分からないのだ。

 

「これは誰でも出せるものなのか?」

「え…頭で思い浮かべれば出せるけど…」

 

こんなことも知らないのとでもいうように、不思議そうな表情を浮かべるティア。俺はこの世界の住人じゃない。この世界の常識など通用しないのだが、それをティアに伝えても仕方ないだろう。俺はティアがやったように右手をかざして念じる。

 

すると、この世界の人間でない自分にもティアと同じような半透明な画面が出現した。俺は自分の能力を確認する。

 

ーーーーー

生明光太郎

職業:

レベル:1

HP :35

MP :0

力 :66

体力 :96

素早さ :75

知識 :25

幸運 :10

 

スキル:チェンジ

ーーーーー

 

これは…レベル1でこれは高い…とは思う。ティアが低すぎるのか俺が高すぎるのかまだ判断がつかないが、気になる点を見つける。まず職業が空白なのだ。この世界では誰でも生まれたら時から職業が決められているらしいが、別世界の人間である自分はそれに該当しないのだろうか。そしてスキルの項目にある『チェンジ』。パッと思い浮かんだのは某漫画に出てくる某特戦隊の隊長の技だが、下手をすれば変な生物とチェンジしてしまうので下手に試すことも出来ない。とりあえずスキルは今後慎重に試すとしよう。

 

気がつくと、隣で俺の能力を見ていたティアが信じられないものを見る目で俺の能力と顔を交互に眺めていた。






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