人類愛のほか   作:中島何某

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召喚

「サーヴァント、セイヴァー。藤丸…立、香……? あら?」

 

「え」

 

 オルレアンから帰ってきて、適度な休養をとった後、一番にしたことは英霊召喚だった。最後に残ったカルデアの一握りの人類。その中で唯一生き残ったマスター適正のある人間が、自分、藤丸立香だった。

 まさか自分が世界の命運をかけて、英雄たちと共に戦う、なんてことになるとは十数年生きてきて思いもしなかった。己を取り巻く事態の変遷は唐突で、それでも、生きるためにやらなければならなかった。生きたいのであればどんな未熟者でもやるしかない、そういう状況で、冬木で、自分は世界を救うことを決意した。

 オルレアンは二つ目の特異点だった。美しいフランス。生き生きとした英霊たち。悲しき英霊たち。それらに囲まれて、対峙して、なんとか味方になってくれた英霊たちの働きで人理の乱れは修正の流れに乗った。

 帰ってきてひと眠りしたあとに英霊召喚しようとしたのはなんとなくだった。特異点で人理復元を為した後はなんだか縁がまだ続いている気がして聖晶石を砕いてしまう。それで、彼女と出会った。

 急に自分の名前を呼ばれて呆然と魔法陣から現れた英霊の彼女を見詰めてしまう。暁の髪を揺らし、現代的なのか何某かの時代のものなのか判断しづらい服装、此方を見る困り顔。

 

「えっ……と、会ったことなかったよね?」

 

「ええ。……マスター」

 

「あっ、うん、なに?」

 

 彼女に呼ばれて少し焦ったように返す。召喚したばかりでは絆も持たず、有名な英雄であろうと反英雄であろうと、サーヴァントたちは力こそ貸してくれるものの、最初に一言、「マスター」と呼ぶまでなんの抵抗もない者は少ない。いや、普通サーヴァントを召喚する聖杯戦争では、サーヴァントは令呪を持つ召喚した人間のことをまず抵抗なくマスターと呼ぶらしい。勝者は願いを叶えられるという報酬と利害関係もあってマスターと呼ばない方が珍しいとか。

 ただダ・ヴィンチちゃんやドクターが言うには、俺は特異点で本来サーヴァントとしては存在し得ない対象を数奇な縁によって、カルデアという2015年で唯一残った世界に、希少な確率で影を映し得たというだけであって、元々願いを持たない存在・人の下につくという選択肢が本来ない存在が多すぎるだけ、ということらしい。

 

「突然のことで驚くかもしれません、或いはそういったサーヴァントを他に見たことがあるかもしれません。ですが、お聞きください」

 

 落ち着いた声で滔々と語られ、ピン、と背筋が撓る。じっとりと手の内が汗で湿り、ぬるり、とそのまま握りしめる。それだけ、彼女は不思議な雰囲気を持っていた。オルレアンで出会ったルーラーのジャンヌに少し似た清らかで、それでいて意思の強そうな雰囲気。清廉な頑固者、屈強な精神の持ち主、といったような。……もはや要塞、強固でいて攻撃の要。人間と呼ぶには果たして堅牢すぎる英霊たるソレ。(……? あれ、どうして“もはや”なんて思ったんだろう)

 

「私は、未来の人間です」

 

「未来?」

 

「はい。2015年現在、私が為し得たことを知る者は誰も居ない。加えて並行世界では霊長の守護者としての可能性も持つ者」

 

 俺はぽかん、と口を開いた間抜け面で彼女を眺めた。すると彼女は困ったような雰囲気を滲ませて片膝をついて礼をした。

 

「私はアナタを知っている。アナタは私を知らない。……私は、恐ろしいのです」

 

 祈るように彼女は言った。どこも震えていないのに、芯の通った心持ちで、それでも切望しながら。

 

「マスター。どうか、私にこの先の未来を語らないことをお許しください。ただ、生きたい。そう思って歩んできました。周りの人たちも、きっとそう。その果てが英霊として呼び寄せられた事実そのもの。私は、私の言によって今までそう思って戦ってきた人々のその思いがゆらぐことが恐ろしくてたまらない」

 

 俺の手をとって、彼女は火傷しそうに強く、燃え盛り、怒り狂ったような瞳で見詰めてくる。睨まれているのではという錯覚は足が竦みそうになる。彼女の語る恐ろしさなど、猛々しい歩みで焼き焦がすのではないか、などと--

 

「アナタが世界を救う、その手伝いに尽力致します。しかしどうか、今を救うために未来を語ることの御容赦をお願い申し上げます」

 

「も、勿論!」

 

 年のそう離れていなさそうな女性に手を掴まれて少しどきりとしながらも、それを誤魔化すように捲し立てる。

 

「つまりはこれぐらい頑張れば成功出来る、って思って、結局言われたから力を抜きすぎて失敗しちゃったとか、ここが危険だって教わって別の道を選んだら、実はそっちはもっと危なかったっていうのを避けたいってことだろ?」

 

「ええ。そう、なります」

 

「英霊のみんなが手を貸してくれるだけで大助かりなんだ、本当は。俺を知ってる、ってことはへっぽこぶりも知ってると思うけど……未熟なマスターが調子に乗れる状況じゃないし、力を貸してくれるだけでほんと、ありがたいんだ」

 

 にへら、と笑って頬をかこうとして彼女にまだ手を握られていることに気付いた。もだもだしていると、それから彼女は深くこうべを垂れた。晒されたうなじがいやに白い。

 

「……ありがとうございます。アナタの寛大さに感謝します」

 

「い、いいって! 頭とか下げなくて!」

 

 握られた手が離れたので慌てて肩を押して体勢を戻そうとする。が、びくともしない。こういう所で英霊は人間じゃないんだって実感する。彼女は未来の――つまり俺を知ってる時点で間違いなく現代の人間なワケだけれど、英霊として召喚した以上エーテル体で出来ていて、普通に生きていた時と異なるところが出てきているはずだ。英霊は信仰によって強くなるって聞いたことはあるけど、未来の彼女ははたしてどういう生い立ちなんだろう。

 

「……。――私のことは、スー、とお呼びください」

 

「スーさん?」

 

「はい」

 

 はにかんで、頷く。その様子は普通の少女のようだ。それでも、やはり違う。その空気、その信念、その、不屈。痺れるように伝わってくる。確かに言う通り、彼女はただ生きたかっただけなのかもしれない。きっとその、ハイエンド。俺達が目指す場所の、辿り着いたその先。

 

「あっ、そうだ! マシュ、ええと、もしかして知ってるかな。デミサーヴァントで大切な後輩なんだけど、一緒に戦ってくれるんだからマシュに紹介しなきゃ。たぶんドクターのとこだと思うし、ダヴィンチちゃんも居るかも」

 

「ええ、そうなのですか」

 

 立ち上がって、彼女は俺の手を握った。今度は握手の形で。毅然とした声が召喚室によく響く。

 

「これからよろしくお願いします、マスター。少しでもお力添えになれたらと思います」

 

「ありがとう。魔術師としてもマスターとしても新米だけど、俺、がんばるから」

 

 彼女は少し笑って手をほどいた。次に視線は部屋の外、みんなが居るだろう所に向いた。一体彼女と俺は、将来どこで出会うのだろう。英霊になるような人物だ、カルデアで出会ったのだろうか? それは世界を救った後なのだろうか? 疑問は尽きない。でも、あんまり聞き出すのもよくない気がした。

 ……未来の事を聞けば聞くほど、堕落の道に、俺は落ちてしまうのだろうか。或いは彼女の懸念、それだけなのだろうか。……、分からない。どうしてこんなに、生前の彼女と俺の関係を聞きたくないのだろう。

 

「セイヴァーのクラスで顕現したので、対魔力、対英雄を持ちます。現在は千里眼、戦闘ではカリスマが使えます。霊基再臨でもう少し増えますが…」

 

「へー、千里眼! アーラシュが使えたと思うなあ。ランクは?」

 

「EXです」

 

「いーえっくす」

 

「カリスマはDランクになります。サーヴァントに使用する際はA+相当です。…カリスマを『使用』と言うのもおかしな話ですが」

 

「えーぷらす」

 

「千里眼は、生前の行いをスキル化したため過去と未来を見通します。召喚に応じたのは初めてなので、少し不思議な感覚です。同様に千里眼EXの能力を持つ者と視線が合う――と言いますか」

 

「す、すっごいサーヴァント実は呼んじゃった…? いや、英霊では結構あることなのか、これ……? ご、ごめん。勉強してるんだけどまだまだ知らない事が多くって」

 

「いいえ、とんでもない。少しずつ勉強していきましょう。そちらも微力ながらお手伝い致します、マスター」

 

 かつり、と彼女が廊下で徐ろに止まった先は、ドクターとマシュが居るであろう医務室だった。振り向いた彼女は何かを飲み込んだ微笑みを、やはりちっとも崩していなかった。




折角登録したので何かあげようと思い、此方の作品は既にpixivに掲載していますが、プロットはあっても書き始めるまでに時間がかかるので尻叩きも兼ねまして。
此方のサイトには初投稿なので、なにか不具合を見つけ次第直していこうと思っています。
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