人類愛のほか   作:中島何某

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「あれ、いつものお兄さん」

「や、リツカくん!」

 ひょい、と片手を持ち上げ軽快に挨拶したのは華やかな見た目の青年である。
 軽薄、すっからかん、という言葉の似合う中身をしたこの青年とはたびたび出くわすのだが、それは自分の不可抗力で、彼の方からやってくるようなのだ。

「どうしてよくここに来るの?」

「うーん、待ち合わせなんだけど、なかなか来なくてねえ。あっちも分かってるはずなんだけど」

「待ち合わせって……日時とかちゃんと決めた?」

「どうにかなるかと思って!」

 ぱやー、と笑った相手に、ダメだこりゃ、と顔を手で覆う。それを見て、彼は愉快そうにきちんと笑ってみせた。




狂化E-

 

 

「ええっとそれで、アサシンのスーさんは霊長の守護者なんだね?」

 

「うん。本来はアラヤに必要とされる能力もなく、人々に信仰され名を残す存在でもないけどね」

 

「そ、そんなに簡単になれるものなの?」

 

 召喚が昼に近かったこともあって食堂で彼女について聞きながらうどんをすする。うっ、昆布と鰹節でとった一番だしが豊潤な香りなのにくせがなくて旨味がよく出てて上手い。風邪の時に食べるぐずぐずのうどんも好きなんだけど(この前はおかゆどころか管で栄養を摂取したが)キュッとこしのあるうどん最高。さすが家事スキル持ちサーヴァント・エミヤの作だ。

 

「そんなわけがないだろう」

 

 そんなエミヤが目の前で冷静に否定する。お昼前ってこともあってまだあまり人は居ないが、ぼちぼち集まりだした人たちが新しいサーヴァントに物珍しそうな表情をしている。

 

「人類の存続をなすべき存在であり、人類を存続させるために役立つ者でなければいけない」

 

 皮肉的な声色を一切気にした様子もなく、目の前のアサシンは少女らしく笑った。

 

「サーヴァント化に伴ってある程度の戦闘能力は有してるけどね。本領はそっちより危機察知能力かな」

 

「危機察知?」

 

 日替わりランチの生姜焼きをもごもご食べる姿は少女の見た目に反してそれなりに健啖家のようだ。女の子っぽくないわけじゃないけど、なんとなくアサシンは女子高のJKっぽい。うん、自画自賛だが言い得て妙だ。

 隣に座ってアサシンのランチの付け合わせのフルーツポンチを勝手に食べているスーさんはJDっぽい。……っぽいかあ? いやでも戦国時代の乳母的な? 乳母(JD)的な? ……そうであるような違うような。

 

「ステータスを確認してくれれば分かるけど、直感と心眼(偽)ってあるでしょ。死を経験したことによって際立ったというか、私の鏡(マスター)に危険が及ぶ前に察知したり逃げ道を瞬時に探ったり、そういうのに役に立っちゃうわけよ」

 

「此度の未曾有の災害に適応した便利屋というワケかね?」

 

「そゆことよん。もーっと言うと、この未曾有の災害に私の鏡(マスター)のために適応した信奉者ってとこかな」

 

「――おぞましい妄執だ。聞けたものではないぞ」

 

「やん、潔癖症なんですね」

 

 冷たい声と軽薄な声。そんな二人の声が耳に届くより前に彼女のステータスを確認した俺は絶句していた。

 

 

狂化(E-):自身のBusterカードの性能を少しアップ。

【本来はバーサーカーのクラススキル。ステータスを向上させる代わりに、理性や言語能力を奪う。】

 

狂乱の直感(A+):スターを大量獲得。味方全体のクリティカル威力をアップ(3ターン)。(初期CT7)

【他者にとって最適な行動を瞬時に悟る能力。ランクA+にもなると、ほぼ未来予知の領域に達する。視覚・聴覚への妨害も大方無視できる。彼女の場合この能力は己への憎悪と等価である】

 

心眼(偽)(B):解放条件_霊基再臨を1段階突破する

 

矛盾の過ち(C):解放条件_霊基再臨を3段階突破する

 

 

 狂化、狂乱、己への憎悪、矛盾の過ち――不穏な言葉のオンパレードだ。バーサーカー・ランスロットや清姫とためをはる不穏さだ。二人と違って話しただけでは陰の側面は見えないが、狂化の値を見るに金時のように大した影響を受けていない、とかだろうか。

 

「それに!」

 

 アサシンの声にはっと意識を戻される。見ると彼女は定食を殆ど食べ終えているのに俺はまだ半分ほどのこっている。よりにもよってうどんを食べている時に思考を彷徨わせるんじゃなかった。

 

「とち狂ってる女の子はかわいい!」

 

「それもどうなの!?」

 

 もはや反射のように突っ込んでしまった。俺が突っ込まなきゃエミヤが突っ込んでた。ちょっと腰が椅子から浮いてたもん。

 

「チートなポンコツはかわいいの鉄則を知らないと申されますか。アサシンちゃんは宝くじで3億当たる程度の確率で不運を引き寄せてから悔しくって悔しくって今や他人の動向に未来予測の域ですよぅ。地味にチートですよチート。まあ隣のデザート泥棒(窃盗犯)のチートっぷりには叶いませんが」

 

「んまい」

 

「いけしゃあしゃあとこの女……! 新人いびりとはやりますね! というかほら私の鏡(マスター)、良妻賢母なケモノとかもぽんこつかわいいでしょ?」

 

「呼んだかワン?」

 

「呼んでないニャー」

 

「ム。それは失敬」

 

 どっから出たんだキャット。

 

「エミヤたすけて……」

 

 怒涛の勢いで止まらない演説に確かにまざまざと狂化を見る。エミヤに小声でSOSを送ってもそっと目を伏せられた。

 

「すまないマスター、私は女性には弱くてね」

 

 俺だって女性には強くないよ! というかサーヴァントとして召喚される女性がまず強すぎる。

 

「そ、それにしても、アサシンの真名は? あと、なんで俺のこと「私の鏡」って?」

 

 このままでは無限の猿定理の如く宇宙の真理についてまで語りそうだったのでどうにか話を変えようと試みる。というか同じ顔をした、生前同一人物だったはずのスーさんは助けるどころか食堂に置かれている色々作れるコーヒーマシンでカプチーノを作りに行ってしまった。こんなに見放されたこと今までない、およよ。

 

「――――」

 

「あれ、」

 

 いずれか返ってくるはずの返事はなく、一瞬目で追っていたスーさんから視線を戻してアサシンの方を見ると――

 

「私の呼称に見当がつかないならばいざ知らず、アナタは私の真名を知らないと?」

 

 無機質。

 彼女は無表情すら通り越した真顔で、双眸に――それこそ呆れだったらよかったのに――表情を乗せることなく、そう尋ねた。敵や味方という属性を持った立場ではなく、彼女はその瞬間、赤の他人になった。初めて会ったサーヴァント、例えばそういう感じに。

 期待だとか敬慕だとかいうものがなくなったというふうには感じなかった。興味が失われたのではない。現に彼女は俺に対して何も失っていない。まるで絵画の絵の具を根こそぎ削ぎ落としたようなキャンバス。

 無機物、ただそれが空気にさらされている。

 物珍しい電化製品を初めて見たように、俺はこれをどう扱えばいいのか分からない。分からないことを、まるでその無表情で責められているようにすら感じる。

 俺の焦り、躊躇、怯え、全てが彼女に見られている。見られている。見られている。そんなものは俺が分かっている!

 

「大変失礼致しました、マスター。アナタが私に対して持つ感情を取り違えたようです」

 

 私が貴方に対して持つ感情ではなく。俺がアサシンに対して持つ感情。それを取り違えた、と。

 彼女が慇懃な様子で謝罪を述べた直後、かたん、と彼女の前にカップが置かれた。そのカプチーノを特に何も言わず持ったアサシンの代わりに、それを置いたスーさんが口を開く。

 

「アサシンはマスターの経歴に感情を照らし合わせて自然体を取ったのですが、そもそも経歴を図り間違えていたようです」

 

「私はセイヴァー(アナタ)のレベルが高いので、てっきり絆も高いのかと思っていたのです」

 

「イベントの種火が余りながらも霊基再臨素材が足りないところに丁度私が来ただけです」

 

「キミたち、マスターにもう少し詳しい説明を」

 

 エミヤの声にスーさんは思案するように顎に手を添えた。

 

「アサシンは自らの起源からマスターの状態によって表面を変化させますが、これは狂化による思い込みであり思考回路の欠陥です。特に気にする必要はありません。彼女の中では何も変化していませんから」

 

「マスターがとても大切なのです」

 

「つまりマスターのためになろうとしすぎてマスターに関する事柄はすべてがとち狂っていますが、危機察知能力は霊基を見るに狂いないようなので安心して使ってください」

 

 すごく無表情に語るアサシンの姿に不安になるのだがどうやって接すればいんだ。するとスーさんはそんな俺の心を読んだように語る。

 

「スパルタクスと似たようなものです」

 

「では、常にマスターのためになるように思考が設定されていると。加えて彼女の場合その思考がすでに欠陥をもっているということかね」

 

「ううむ。ううむ……?」

 

 よく分かんないけどタメ口から敬語に変えたのは自然体ってことなら、俺も自然体でいればいいってことかな。謎が多すぎるというか、整理しきれていないのかもしれない。

 

「そう言えば、スーさんたちの真名が関わってくる、って話だったよね」

 

「はい。いずれは自然発生でイベントが起こり回収できる伏線ですが、早めに回収したければ私かアサシンの絆を上げてください。ちなみに私の場合レベル5までエミヤの2倍以上かかります」

 

「私がちょろいみたいな言い方はやめたまえ、平均だ!」

 

「ごちそうさまでした」

 

 スーさんとエミヤの軽口の応酬にアサシンはランチを全て平らげ食後の挨拶をする。その様子を見て俺も伸びに伸びたうどんを慌ててかきこんだ。

 

「そういえば、マスター」

 

「なに? スーさん」

 

 冷たい水を追加で注がれて、ありがたく受け取ってちびちび飲む。アサシンは食器の乗ったプレートを俺のと一緒に返却口まで運んでくれて、小さなことだけど、二人の人格に真面目さと心優しさを見る。

 孔明もそうだし、エミヤも、スーさんも、アサシンも、ほんとうは人の命を奪う戦いに本当は向いていないのだと思う。気骨がないというわけではない。出来る出来ないの話でもない。ただ、時代的背景、道徳、信念が、現代人にとって殺し合いとの相性を最悪にさせる。人殺しとの相性が良い現代人が居たとすれば、それはもはや人間ではなく、鬼や何れかの執行機関に成り果てた異形ではないだろうか。

 

「以前私の霊基再臨のために種火を溜めていると言って下さいましたが、よければアサシンに使ってはいただけませんか」

 

 他の星4、5のメンバーも霊基再臨を待たせているのだが、如何せん歯車とか頁とかはイベントでしか手に入らないし、逆鱗、心臓、爪とか都市伝説だしで、モニュメントだけ集めればいい存在はジャンヌと並んで稀有で、レベルさえ上がればスーさんの霊基再臨が出来そう、いま種火を溜めているって話をしたはずだ。

 レベルが上がれば上がるほど必要な種火の数は増えていくから、珍しいスキルが三つ目にあることも度々存在するケースだし、成長にストップがかかってる星4、5よりも、新しい星1~3がくれば優先的にそちらに種火を回すことも多い。

 

「ん、そうしようかな。レベル上限は無理だけど最終降臨は出来る数の種火ありそう」

 

「ありがとうございます。攻撃力は低くても、彼女の危機察知能力は本物ですから、狂気を許し、よく育ててやってください」

 

 優しい声で告げられたそれは、その実はっきりと、忠告のような響きをもっていた。預言めいた進言。過去の時点で未来の行動を諫める警告。それを噛み締めず取りこぼした時、もはや誰も責任を取り得るところにはいない。そういう予感(、、)がした。

 

「キミも大変なモノに好かれるな、マスター」

 

「女難の相が出てるエミヤに言われたかないよお」

 

 自分が担当するところ以外の勉強スケジュールの管理、ストレッサーの早期の排除、人間同士の、或いはサーヴァント同士の問題を俺の見えないところで解決しておく、そういうことを彼女は俺のためだけにやってくれている。たとえ人理の救済という大義があったとしても、その上で好意を以てして世話を焼いてくれているのは分かっている。

 

 好意そのものは親が子を愛するように、妻が夫に焦がれるように、子が親を慕うように、絶え間のない愛のように思う。しかしはっきりとその愛は彼女自身の手によってコントロールされている。時々、彼女の得体の知れない狂った熱情を、押し込まれた雁字搦めの統制を、忘れてしまいそうになる。麻痺ではない。忘れてしまいそうになるのだ。

 彼女はそれくらい、このカルデアで自然なものだった。それ自体が違和感を生み、ハッと気付く。その繰り返し。

 

 十年前に家を出た息子が家に帰ってきて一緒に暮らし始めた。そういう感じだろうか? いや、それよりも、夫の仕事について外国に移住したら、その数年後に息子も転勤で、海外で住み慣れた我が家に息子を迎え入れる、そういう感じだろうか。

 慣れ親しんでいるのにどこかがいびつで、違和感の詳細がはっきりしない。でも俺以外がみんな平気そうな顔をしている。だから漠然とした不安を抱く。スーさんは性質の悪い蜃気楼だ。その蜃気楼は、けれど俺に優しい。

 主体が、軸が分からないのだ。多分。座から存在をコピーされ、一側面を切り出して現れたはずの英霊。それなのに、どこが切り出されたか分からなくて不安になる。まるで俺が彼女を母親と定めて絶対的な庇護、関心、手間暇を無意識に求めているようで、それが苦しい。苦しくてたまらない。主体が分からなければ握りしめて安心することも出来ない。ずっと。そう、ずっとだ。

 それに彼女はきっと手に入れてよい存在ではない。母親でも、妻でも、娘でもないからだ。それ以上の存在でもそれ以下の存在でもない。これは俺の誠実な感性などというものに則ったわけではない。関係に名前がつかないから手に入れてはならないという美談ではない。そうして俺も、彼女に恋い焦がれているわけではないのだ。

 途方もない。存在そのものが。矛盾の塊などという生易しい表現では足り得ない。彼女について考えるだけで困惑せずにはいられない。帰結が再び矛盾を生む。ウロボロスの蛇のように終わりなく。

 勿論のこと支配欲、情欲、名誉欲、どれも似ても似つかない。俺が彼女に求めている? そう、そこから間違いだ。俺は俺自身に希っている。

 

 

『――逃避願望』

 

 

「……えっ?」

 

「マスター、如何なさいました?」

 

「なんでもないよ、アサシン」

 

 スーさんと入れ替わりで俺の隣に立ったアサシンに、へらり、と笑う。彼女の前に立つだけでありありと浮き出される不安が、彼女に伝わっていなければいいのだけれど。

 

 

 

 

 

 

CLASS:アサシン

マスター:藤丸立香

真名:■■■■

属性:混沌・善

 

パラメーター

筋力:E 耐久:E 敏捷:D 魔力:E 幸運:E 宝具:B

 

クラススキル

気配遮断(A): 自身のスター発生率をアップ

【アサシンのクラススキル。自身の気配を消す能力。暗殺行為ではなく危機管理の役割を持つ。】

 

狂化(E-):自身のBusterカードの性能を少しアップ。

【本来はバーサーカーのクラススキル。ステータスを向上させる代わりに、理性や思考能力を奪う。】

 

 

保有スキル

狂乱の直感(A+):スターを大量獲得。味方全体のクリティカル威力をアップ(3ターン)。(初期CT7)

【他者にとって最適な行動を瞬時に悟る能力。ランクA+にもなると、ほぼ未来予知の領域に達する。視覚・聴覚への妨害も大方無視できる。彼女の場合この能力は己への憎悪と等価である。】

 

心眼(偽)(B):自身に回避状態を付与(1ターン)。自身のクリティカル威力アップ(3ターン)。(初期CT8)

【直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。彼女が死亡する原因となった不運からくる、死を経験して芽生えた深い執着。】

 

矛盾の過ち(C):自身の強化状態を解除[デメリット]。自身にターゲット集中状態を付与(2ターン)。自身への攻撃時に高確率で呪いが発生する (1回)。(初期CT8)

【自滅を招く精神構造。成果のいかんに関わらず、後悔と憎悪が循環し続ける強さを求めるさもしさを表す。】

 

 

宝具:冠位指定・聖杯探索(グランド・オーダー) 敵全体の強化状態を解除。敵全体に強化無効状態を付与(1回)。

   種類_Arts

 

 

所有カード:Quickx2 Artsx2 Busterx1

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