人類愛のほか   作:中島何某

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 目が合った。
 ――私を嫌悪している。

 目が合った。
 ――私に少しの興味もない。

 目が合った。
 ――私を見下し、憐れんでいる。

 目が合った。
 ――けれど。

 目が合った。
 ――目が合ったからには、殺さなければならぬという意思がある。

 目が合った。
 ――私は殺される。

 目が合った。
 ――殺さなければならないから、殺すのだ。

 目が合った。
 ――殺すのはいつでもいい。いつでもいいならば、今でもいい。

 目があった。
 ――殺すのはどんな方法でもいい。惨たらしく殺しても、一瞬で殺しても。

 目が合った。
 ――アレに私はいつでも殺せて、どんな方法でもいい。

 目が合った。
 ――ならば、私は。

 目が合った。
 ――興味もなく、脆弱な私は。

 目が合った。
 ――その邪視。その呪い。その偶然。その無関心。

 目が合ったのだ! 偶然にも、冬木が時空の歪みに飲み込まれたその瞬間、時空の隙間から覗いた瞳と!
 なんて、なんて最悪の不幸だ。
 稀有な確率で、目が合った。たったそれだけで私は呪われたのだ。生きながらにして死んだのに等しい。喩えその直後冬木からカルデアにレイシフト出来たといっても、私の量子は呪いを帯び、何度肉体を再構成しようと要因は排除できない。
 呪いは日々大きくなった。呪いはいつか目に見えるようになった。
 死にたくない。まだ死ねない。あの日の所長の言葉を噛み締める。私はまだ人類を救ってない……!
 死にたくない、死ねない、死にたくない、死んでしまっては、死ねない、死ねない、死ねない。私はまだ人類を救ってない。死の運命を帯びた私の肉体は死の運命から逃れる術は今この時にないことを悟って死に触れひとつの能力を得た。或いは最悪の運命に出会ったことにより感覚は異常に研ぎ澄まされた。最早どちらが先か分からない肉体に授けられた感覚(能力)と運命。あからさまに正確な精度をもって危機を察する、未来予知にも似た直感を越えた超能力。
 時間も場所も人も、危険を、死の臭い察するこの能力は、いつも最も濃い死の臭いを嗅いでいた。いつもすぐ近くに死のかおりは在った。――私自身が噎せ返るほどに濃い死の臭いを帯びている。
 死にたくない。でも死んでしまう。でも死ねない。いつか、もう少し昔の話、漠然と死は救済だと思っていた。消滅こそ解放でなくてなんとする。死がすべての人間を全てのしがらみ、罪から許すのでなければ、生まれてきた人類こそ罪の証ではないか。
 だけれど、そんな生娘の自分本位な願いを嘲笑うように。私の死は、私だけの死ではなくなってしまった。レイシフト可能なマスターが居なければ、2016年が終わるその時、カルデアでさえも宇宙から消えるとレフ・ライノールは言っていた。
 ――嗚呼、この芳醇な死の臭いを四六時中嗅いでいると、気が狂いそうだ。
 そう、自分は死ねないのだ。自分のためにだって死にたくない。でも、もう死す運命を悟ったこの体でそんな我儘は言うまい。少なくとも、2016年のうちだけでも。人類のために生きて戦わなければ。1年間だけであれば、柄じゃないけど他人のためにという大義名分も耐えられよう。自分のためであるならば兎も角、大切な家族、大事な友人のためであるならば兎も角、見ず知らずの他者のために死ねないなどという戯れにも聞こえる重苦しい言葉を、本当に私は一年耐えられるのだろうか? 分からない。分からるはずもない。分かったところで誰が責任を取る。いいやなにを言っているんだ責任を取るのは死した私だ。死ねば死んだ後も責任を取らなければいけない。ああ、ああ、ああ! この肉体から臭い立つ死の香りを嗅いでいると頭がおかしくなりそうだ! いい加減にしてくれ! 責任の問題ではない! 責任すら取れると思った自分を恥ずべきだ! 私は死ねないのだ。私がつらくて苦しいからと言って、それは不幸で脆弱な出来損ないの己が悪い。その上己の不幸を70億の他人の命に差し響かせるなんて償えるはずもなく、だから死ねないだから立ち向かわなければだからだからだから――でも、こんなに死の臭いがすぐそこに在る!
 正気の淵と狂気の谷で体をぐらつかせながら臭い立つ死が刻限のあるものだと理解しながら恐怖と別離する。そんなことが可能だと言うのは無恥な愚昧か無知な善人だけではないか。狂えないのだから感情を切り離せるわけがないではないか。死に対してきちんと恐れおののくしかない生きてる私を見て。私の体を隅々まで見て。頭の天辺から爪先まで、既に凡そを呪いに浸されたこの体を。ドクターは執念だと評した。死の呪いを受けながらも、魂が先にどこかへ墜とされない、己を生という名の呪いで縛る姿を、執念だと。
 目が合った誰かのせいで息をすることすら“必死”で、死することを忌避するあまりに“必死”の己を己で呪う醜さ。この矛盾をやり過すために狂気に侵されれば楽だと言うのに、任務の完遂がそれを否定する。私が弱かったからだ。私に運がなかったからだ。私に要領が無かったからだ。いつもおんなじことばかりぶつぶつ呟いてはおんなじ帰結に至る。そういう醜さが私の限界だ。呪いは膨れ上がり死は着実に進行し私以外誰も人類を救える人は居なくて狂いそうで狂いそうで狂いそうで狂いそうで狂いそうで――――でも、狂えないし、死ねなくて。

「意識が回復する可能性が――」
「元々あの少年にはさほど外傷も――」
「凍結せず寝かして点滴を打っていたのが功を――」
「――ちゃんが契約しているのは二人――」
「幸い起源が――」

「――――それ、ほんと?」

「り、りつかちゃん……」

 ぱきゃ、と耳の裏で軽い音がした。
 なにかを踏んづけてしまったような軽快な破壊音に、もろくなって壊れやすそうな音を立てたソレがもう戻らないであろうことを察するのは容易であった。

「――ア、ハ」

 誰かの哄笑が耳を劈く。すぐに喉が痛くなって、笑っているのが私だって気付いた。だっておかしくってしかたなかった。








 ジリリリリ
   ガシャンッ
  じ……ジジ………ジ…

「――――ハッ、は、っ……はぁっ、はぁっ」





電子ドラック

 

 

「みんなお疲れ様ー!」

 

 狂の修練場を回り終え、ぼんち……いや歌舞伎……いや八連双晶集めに協力してくれたサーヴァントたちに声を掛ける。マシュとスーさんはバーサーカーに不利にならないからクリティカル落ちの心配が他より少なくて本当にありがたい。ジャンヌとかダビデを入れると最強の守りの布陣だ。孔明先生を入れると効率がより上がるうえ敵を足止め出来てかたくなるし、ゲオル先生もヘイトの稼ぎが上手いのに対し生存性はピカイチだ。

 

「マスター、最近少し防御に寄りすぎでは」

 

「これだけのサーヴァントが居て、毎回似たような構成では上手く活用出来てるとは言えんな」

 

「うっ」

 

 穏やかな微笑みと冷ややかな無表情が同時に俺に諫言を送る。その男女は魔術に関して俺の先生を買ってくれているサーヴァントだ。スーさんと孔明先生、冷たい物言いは俺のためであって決して沢山サーヴァントが居るから絆上げに時間がかかっているとかでは無い。無いったらない。

 

「此方の色男に戦略も教えて頂いていると聞きましたが、最近は深く考えずとも落ちないような指示と戦闘に長期化の傾向があるように感じます。なにかお困りごとですか?」

 

「ファック! なんだその呼び名は!?」

 

「女生徒が選ぶ時計塔で一番抱かれたい男の異名をお持ちと――」

 

「待ってなにそれ詳しく」

 

「彼の弟子になって王冠(グランド)階位を得なかった者はいない、などという話も昔聞いたことがあります」

 

「誰だそんな世迷い言をいった酔っぱらいは! 或いは創作と現実の区別もつかんジャンキーか!」

 

 穏やかに笑ったままのスーさんと真新しいネタにキレる様子の先生を見るに、普段交流がない事は明らかだ。そもそもスーさんは戦闘メンバーになる以外で殆ど実体化しないし、その中でも顔を会わせるメンツと言えば喧嘩っ早かったり因縁のある相手が居たりするサーヴァントが大体といったところだ。仲裁役をよく買っているらしい。

 

「しかしマスター、実際、何か気掛かりでも? 大きな失敗を恐れて保険を掛けているように見えるが」

 

 死ぬほど不機嫌そうな顔で(平常運転と言えば平常運転だ)仕切り直して先生はそう尋ねた。他の戦闘メンバーは話を聞く態勢になった二人と俺を見て気を使ってくれているのか少し離れた位置に居る。

 

「ん、そんな大したことじゃないんだけど……」

 

「大したことではないならば、逆に我々は歓迎してその問題に当たることができます」

 

 問題は小さな内から相談してくれ。俺以外にもよく言っているロマンの姿が思い浮かぶ。大きな問題は対処が難しくて時間もかかる。であれば小さな内から気にかかることを吐露するのは、我々のように後がない、閉鎖的な環境で生活する身としては義務に近いのだろう。

 でも、うーん。その、言葉にするのは稚拙で恥ずかしいなあ。

 

「夢見が悪い……ううん、悪いっていうか、」

 

 先生が眉を吊り上げるのを見て背筋が撓る。だから子供っぽくてあんまり言いたくなかったんだよぅ…。

 

「どんな夢かね?」

 

「あの、えーと」

 

 しかもこの夢、今更ながら言葉にすると変態っぽいんだった……!

 

「なんだねマスター」

 

「それは今朝遅刻した原因ですか?」

 

「ご、ごめん。目覚まし時計壊れちゃって」

 

 夢の内容を尋ねる先生と、今朝の遅刻の話題に言及するスーさんに思わず謝る。最近寝起きが悪かったのは本当だけど、今朝は早めに起きていたのだ。しかしそれを説明するのは言い訳がましい気がして、遅刻した際も謝罪だけで済ませてしまっている。

 俺の縮まった様子に彼女は殊更穏やかな声でいいえ、と首を振った。

 

「責めているわけではないのです。ただ、マスターの困りごとを解消できれば、と。夢の内容も、整理した方が話しやすいのであれば、ゆっくり待ちますとも」

 

 ねえ、と先生に同意を求めるようにスーさんが振り向くと、彼は唇をむっつり押し上げたまま俺を上から下まで眺めた。

 

「少なくとも戦術を考えるのを朝ではなく夜にしたら当面の問題は解決できるだろう。だがな、覚えておけ、マスター。夢というのは案外重要なものだ。もし我が身が夢の中で自由に動くようであったなら、その夢で死ぬことは精神の死に繋がり得るということを肝に銘じておくことだ」

 

「――自由に動きは、」

 

 する時もあれば、しない時も。

 

「そうでない、となれば。誰かの追体験でしょうか」

 

「――ふん、」

 

 顎をしゃくって煙草を銜えた先生は、数瞬火もつけずにソレを口ごと手で押さえた後、俺に向かって無表情のままこう言い放った。

 

「夢の内容について1200文字以上のレポートに纏めて3日以内に提出するように。その間わたしの他の課題は後回しにしておけ」

 

 そうして煙草に火をつけると、返事も聞かずマシュが用意してくれたサークルに向かって足早に去って行ってしまった。

 

「それにしても、マスターは目覚まし時計を愛用していらしたのですか? ベッドに備え付けられた時計にはアラーム機能がついていると思いましたが」

 

 先生のツンデレに言及することなく尋ねられて、この女性は寡黙なタイプに対し喋らせるのを目的にコミュニケーションの一環でからかうことはしても、他人を評価してからかうことはないのだなあと思い至る。喋りたくもないのにからかわれて喋らされる方からすればたまったもんではないんだろうが、多分それを聞いた第三者の評価材料を増やして高評価を下しやすい一面を引き摺りだしているのだろう。

 先生に関して言えば余計なお世話だと言いそうだけど、これが彼女の生前の生き方に由来するとすれば、摩擦が少ない生活の方が自分も暮らしやすいという判断もあるのではないだろうか。

 

「そうなんだけど、変な夢見てから寝起きが良くなくて。最近ベッドのと目覚まし時計で二重にアラームかけてたんだよね」

 

「なるほど、そうでしたか」

 

「ほんとは目覚ましの時間に起きてたんだけど。止める時に吹っ飛ばしちゃってネジが飛んでったみたいで。直してたら余計こんがらがっちゃったんだ」

 

 相談と言う程でもないけど、どうも1対1になると自分の失敗を吐露しやすい。と、いうよりマタ・ハリ然り、マリー然り、スカサハ師匠然り、女性のサーヴァントは反応こそ様々だが聞き上手、探り上手だ。男性ではクー・フーリンたちも失敗を笑い飛ばしてくれるから気負わずに話せるというものだ。

 

「目覚まし時計を直していて遅れたのですね」

 

「うん、まあ」

 

 へら、と笑って後頭部をかけば返される微笑み。いつかスーさんのことを乳母(JD)っぽい、などと評したが、それは誰をも評価し、己の利益より他者の信念や努力を認める公平な一面にあるように感じる。悪く言えば躾染みている。別の側面を切り取れば聖書・救世主同様絶対的に高潔な人であり、存在そのものが判断基準に成り得る。

 彼女には確かに誠実で、思慮深く、慈愛に満ちている。尊大にならず、臆病でもない。自我も暴走していない。母のようであり、俺を優先するという点では乳母のような在り方なのだろう。音に聞く覚者やダビデの子、今や誰も正式な発音を知らない存在など、彼らが一種突拍子もないお伽噺の存在に思えるように、俺は時々この人が、どうしてこの世に降り立っているのだろうと不思議でならない時がある。聖ジョージや聖マルタを指す二度の奇蹟の体現者としてではなく、彼女はピタリと型に嵌ったように、数多の誰かが想像する聖人の様相を成している。

 

「時計は直ったのですか?」

 

「えっ、うん?」

 

 つらつらと考え事をしていたせいで、語り掛けられた言葉を拾い損ねる。

 

「目覚まし時計です。今朝、修理していて遅れたのですよね」

 

「あー……魔改造しちゃったし、直んないかも」

 

 必要ないので眠らないというタイプのサーヴァントも居るし、起こしに来てもらうのも手かなあ、と考えているとスーさんは「では」と提案の一声を挙げた。

 

「レオナルドの他、エミヤか二コラ・テスラに修繕を頼んでみては如何でしょう」

 

「ダ・ヴィンチちゃんとエミヤはともかく、テスラ?」

 

 万能人にして絵の他に発明まで熟す技術部署のダ・ヴィンチちゃんは想像に容易く、エミヤに関しては魔術を習う初期段階でメディアさんに特別講師として呼ばれていたので想像がつく。少なくとも現代の魔術師は物事の核である中心を即座に読み取り、いち早く変化させるために構造を把握するのであって、エミヤのような特性を持たないと隅々まで把握するのは無駄に尽きると扱き下ろされていた。魔術師たる者一度は彼を扱き下ろしておかないと気が済まないと謂わんばかりに呆れたように扱き下ろされていた。

 しかし時計の修理と二コラ・テスラについては想像がつかない。雷電の天才は第四特異点ロンドンでマキリ・ゾォルケンによって召喚された敵対サーヴァントだったが、当時は狂化を受けており、敵であった時ですら人類の存続には肯定的だった。ならば縁も繋がろうというもので、アンデルセンなんか然り、カルデアに来てくれたサーヴァントの一人だ。

 

「二コラ・テスラは直観像記憶を持っていまして、5歳の時にはオリジナル水車を作ったそうです。把握能力という点では彼も優れているかと」

 

「直観像記憶?」

 

「カメラアイとも呼ばれる瞬間記憶能力ですね。一度本を見れば丸暗記でき、言語も堪能で八ヶ国語を操るそうです」

 

「……創作キャラ?」

 

 ぼくのかんがえたさいきょうきゃら、みたいな説明に聞き返せば「ご存知の通り実在の人物です」と苦笑された。

 

「そもそも交流って具体的になんだか知ってる? ……電気って認識であってる?」

 

「概ねは。詳しい説明はそれこそテスラに聞くのが正確とは思いますが」

 

「専門家に聞く前におおよそ教えてください……!」

 

 もはや胸倉掴みかかる勢いで頼み込む。偏見かもしれないけど、専門家って間違って伝わらないように事細かに教えてくれるから、逆にそのせいで素人は専門知識に圧倒されるイメージがある。或いは科学的で複雑なものを要所を省いて簡単に理解しようとするなんて虫のいい話なだけかもしれない。いやでも概要だけでも先に…! 俺文系なんです……! あっやめてマルクスやカントで殴らないで!

 

「簡略に説明すると誤解を招きかねないのですが、ええと、そうですね。消耗していない状態の話ですが、乾電池は電圧が一定、これが直流。交流は時間と共に電圧が変化します。コンセントなどの家庭用電気、電波などは此方にあたります」

 

「はえー」

 

 言っていること自体は分かる。しかし何故交流と直流を使い分かるのかを想像するのは少しばかり億劫だ。昔学校で習った時も正直なんとなくでしか覚えていなかったのが仇になったのだろうか。こんなことを考えていると、スーさんに作ってもらった教科書代わりのノートの、サーヴァントに関するページに後で子細を書きこまれそうな気がしてならない。

 

「テスラが自慢気に言ってたけど、交流ってなにがすごいの?」

 

「最大の利点は変圧が容易な点です。パワーを出すことも、無害な電流を作ることも出来たため、電流戦争とも呼ばれるエジソンとの敵対関係の際、数百万ボルトの放電をする共振変圧器の下で読書をするパフォーマンスを行ったりもしました」

 

「エジソンかあ、日本ではそっちのが有名だよね。彼も星の開拓者スキル持ってるのかな」

 

 二コラ・テスラを知らない日本人は数多く居れど、エジソンを知らない日本人はまずいないだろう。発明王として名高い彼ならば――と思ったのだがスーさんの何とも言えない表情を見て、あ、なんか根本から違うっぽいぞ、と察せざるをえなかった。

 

「エジソンはどちらかというと、発明の才よりは商才があったとも。他者の革新的発明を世に普及させる才能に富んでいましたから」

 

「じゃあ人属性でテスラとあんまり相性良くないね」

 

 実はまだいまいち天地人星属性を上手く脳内で振り分けられていないのだが、エジソンほど最近の人物で星属性でないとすれば天地属性ではないだろう。

 

「ええ、発明家やロンドンで会った碩学たちなど近代の存在は概ね人属性ですね。例外としてジキルとハイドは地属性になりますが」

 

「えっ、地属性!?」

 

「はい。フランもその枠に当て嵌まります」

 

 ヴィクター・フランケンシュタインの作り出した生命であるフランは原作小説でも「怪物」と呼ばれていたため想像はついたが、最近の人物だしすっかり人属性だと思っていたジキルとハイドも地属性だったとは。そうかあ……。

 

「英雄王ギルガメッシュも人理が破滅に追い込まれ、もはや一人の力ではどうにもならないという時に王として奮起すれば、天属性ではなく人属性になるというものでしょう」

 

「それって未来のこと? それともただの予想?」

 

「どう思いますか?」

 

「うっ……」

 

 完璧な笑い方はちょっとばかしダ・ヴィンチちゃんに似ている。ロマンといい俺といい、冴えない男は二の句を告げない状況に早変わりしてしまう。だけど、かの王様が、自分だけじゃどうにもならないと判断する状況は想像に絶する。既に世は終わりにも等しいけれど、そんな状況実際に起これば本当に「この世は終わり」なのだという嘆きさえ零れそうだ。または、属性は一部変化球にも思われるパターンがあるという彼女からの警告だろうか。

 

「ねえスーさん、天地人星の属性で一番該当人数が少ない属性ってどれだったりする?」

 

 変化球が多いなら一度全部覚えるに尽きる。テストじゃないんだから一夜漬けなんて概念はないのだ。多い所よりは少ない所から覚えていく方が性に合う、と尋ねれば、すぐに答えは返された。

 

「その四つでしたら間違いなく星属性です。現在召喚可能なサーヴァントは、二コラ・テスラ、スカサハ、ロムルス、ジャンヌ・ダルク、フランシス・ドレイク、モーツァルト、レオナルド・ダ・ヴィンチ、それから私、セイヴァーで全員です」

 

「8人って、ほんとに少ないね」

 

「困難を打ち破る象徴、或いは人類史の中で大きな希望を残した人物、または星そのものと間接的に接触のある人物を指す属性ですから、これから出会うサーヴァントに関して言っても、そうそう増えることもないでしょう」

 

「そっか、なら覚えやすい」

 

 一息ついてから、ふと疑問がよぎって首を傾げる。彼女の発言についてだ。「それから私、セイヴァー」という言葉は、違和感を覚えるに十分な構成の文章だ。素直に聞けば、肯定と共に、視認できる位置まで追いついたサークルの周りにたむろするメンバーを指さされ、少し急ごうと目配せされる。続きはカルデアでも聞ける話ではあるので、分かったと首肯した。

 

「アサシンは人属性です。困難を打ち破った経験がありませんから」

 

 速足になりつつもそう説明されて、辛辣さに苦笑する。スーさんの中では否定ではなく事実なのだろう。声色はいつもと変わりない。他のサーヴァントに対しては非難とも取られかねないこういう発言をその人物が居ないところで聞いたことがないので、恐らくお互いに遠慮がなかったりするのだろう。

 

「私はそもそも、星と相克する属性の敵対者と定義されておりますので」

 

「星と相克する属性……?」

 

「マスター! ちんたらしてないでちゃっちゃか帰りますよ!」

 

「はーい!」

 

 サークルで待っている一人のマルタにぴしゃりと言われ、少し距離があったので叫んで返す。速足から小走りでサークルに向かい、皆の元に行ってごめんと一言謝った。

 

「最近だらけていますよ、夜遅くまで起きていませんか?」

 

「ごめんな、マルタ。目覚まし時計修理してもらうつもりだから、そしたらもうちょいマシだと思うよ」

 

 ちょっと怒った顔でしかたないですね、とマルタが言った後に、ロマンが一言断ってからレイシフトを行う。擬似量子転移が終わり、内部の固定ベルトを外しコフィンから出れば、数時間前まで居た筈のカルデアの無機質な作りがやけに目についた。

 

「ではマスター、レポートを忘れないように」

 

「うん。今日はありがとう、先生」

 

 言って、孔明同様サーヴァントたちが各々歩いたり霊体化したりして去っていく中、一度霊体化して消えたはずのスーさんがぬっとすぐ隣に現れた。

 

「うわっ」

 

「マスター、諸葛孔明がお固くて苦手ですか?」

 

 驚く俺に反応せずひっそり囁かれ、うっと詰まる。いや、魔術を教えてくれるし、スキルはNPも増えるし、いい人だし、嫌いなはずがない。ただちょっと先生すぎてとっつきづらいだけで。ゲームに誘いたいけど切っ掛けがないだけで。いやサーヴァントの人数が多くて一人に時間が取りづらいっていう理由もあるんだけど。

 

「いっ、いや、そんなことは! ツンデレは世界を豊かにするって古事記にも書いてあったし」

 

「レベルももう少しですし、禁断の頁も無間の歯車も常時入手できるクエストが出現しましたから、彼の第三霊基再臨をしてみてはどうでしょう。第三スキルも優秀な上、良きにつけ悪しきにつけ、何か変わると思いますよ」

 

「……またスーさんの再臨遠ざかるけどいいの?」

 

 限定的な特異点や魔術王が細工した特異点で新たなサーヴァントと縁が結ばれるたび、スーさんの召喚術スキルもあってか結ばれた先からカルデアにみんな来てくれるため、彼女のためにと集め始めたピースやモニュメントだが、個数分死守し続けるというのも他に必要としているサーヴァントが居る手前中々心苦しい。レア度ごとに凡そ来た順で育成しているし、種火をもう少し集めればそのまま個数分残したモニュメントで霊基再臨が可能なのだけれど、とひっそり眉を顰めるとフォローの言葉が入る。

 

「そもそもこれだけサーヴァントが居ますと、ピースやモニュメントを複数要求するサーヴァントの育成が後回しになるのは致し方のないことではないですか」

 

「もしかして第三再臨、嫌だったり?」

 

 ふと疑問に思って尋ねると、実に感情の統制された笑みで「マスターが戦力と必要として下さるのに、果たして己の変質を許容できない者が居ましょうか」と返される。漢語で言えば(いや、そんなはずはない)みたいな反語表現だろうけど、強化にあまり乗り気ではないのだろうかと首を捻る。少なくともレベルが低ければ己の十全を出し切れないと嘆くサーヴァントは居ても、弱いままで居たいという声は未だかつて聞いたことがない。

 

「んん、まあ、考えてはみるね。先生の霊基再臨」

 

「はい。開幕にNPを半分溜められるというのは多くの礼装と相性がいいですから、是非ご検討下さい」

 

 戦略的なセールスポイントも追加したのでもう去ろうという彼女は、はっと思い出した顔をした。

 

「どうしたの?」

 

「マスター。もし、彼と仲良くなって一緒にゲームをする仲になっても、彼のプレイする大戦略を見ているだけならば兎も角、手を出してはいけません。Hearts of IronやCivilizationもダメですからね」

 

「な、なんで?」

 

「マスターの人生の時間が短くなるからです」

 

 あまりに真剣な瞳に、じり、と半歩後ずさりつつ、勢いで頷いてしまった。そのシヴィライゼーションとかハーツオブアイアンってのは、なにがスーさんをそこまで思い詰めさせるんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「見ろよライダー、ボクだってやれば出来るのさ! ……あれ?」

 

「うわあああああ!?スーさん!?変わるってこれのこと!?変わりすぎでは?!?」

 

「汎用性が高いといっても重用するにつけ過労死ラインを見極めねばなりませんよ」

 

「いやスキルのことじゃなくて!」

 

「待ってボクこれから本物の孔明レベルに働かされるのか!?」

 

 

 




テスラの人生追えば追う程異世界転生ものの主人公みたい
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